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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2008年6月 転機

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創作の現実

「アニメ部とかマジキモッ」


「現実見ろよキモオタ」


「アニオタとか存在がゴミ。マジ死ねよ」


「ぶはははは」


 アニメ制作部室前を通りがかった顔も知らぬ男子生徒2人がそんな会話をしているのを、僕は50メートル手前の廊下から聞いていた。正にいま、部室に向かっているところだ。


 旅行みたいなハッピーなイベントの後は、凶が待ち受けているということか。


「そんなこと、気にしなきゃいいんですよ」


 部室に入って僕が心情を吐露すると、最前列の教員席で茅ヶ崎海岸の線画をデジタル着色している神崎さんが淡々と言った。きょうから1週間、アニメ制作部は僕と神崎さんの2人で運営する。凛奈は僕らと入れ替わりで修学旅行中。湘南海岸学院はクラスが多いため、分割して旅に出る。


 僕は神崎さんの背後に立って着色を見学しながら言った。


「僕は豆腐メンタルなので、ちょっとしたことでも修復不能な傷を負うんです」


 そう、これはきっと平均的なホモサピエンスにとって、大した問題ではない。けれど僕にとっては耐え難い大きな問題だ。


「え、えぇ、わ、わかります、その気持ち。私も目の前で言われたら致命傷です」


「はぁ、あんなヤツらに見せなきゃいけなのか、大切な作品」


「部活紹介は強制参加ですからね」


 自分を嫌う存在を無視しようと心がけても、弱い僕らは現実に襲われる度、立ち直り難い傷を負う。最近の僕には何人もの味方がいるのに、それはそれ、これはこれと分けて考えてしまうから、敵の姿が頭から離れなくて、呼吸困難や頭痛に悩まされ、学校へ足が向かなくなる。朝起きたときから一日中、動悸や目眩がする。


 何もかも気にしないで生きてゆけたら、どれだけ楽だろう。


 一方、生存本能からか、攻撃されると手が進む場合もある。創作して、創作して、創作しまくって、居心地の良い場所へ逃げようとする、生存本能が。


 現在の僕は攻撃される側の立ち位置で、あいつらは歪んだ笑い声を上げのうのうと生きている。けれど僕は、そちら側に行こうとは思わないし、行けるような能もない。


 憎悪は募る一方で、一刻でも早く罰が当たれば良いのにと願っても、僕の見えるところでそういったことは簡単には起きない。


 いくつもの不条理を背負って、きらめくキャラクターの物語を死んだ魚の眼で描いてゆく。


 これが現状、僕にとって創作の現実だ。



 ◇◇◇



「お母さん! いま救急車呼んだからね!」


 真幸が思い悩んでいるころ、とある住宅の寝室での出来事。高熱に悶え、咳き込む母が目の前で倒れ、焦燥する娘。


 カーテンの閉じた薄暗い部屋に漂うは積年の孤独。


 これが娘の母にとって、新しい日々の幕開けだった。


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