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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
北海道修学旅行

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クマ牧場での邂逅

 友恵はシルバーのデジカメで写真を撮りまくり、美空は黒い一眼レフで撮影した後、スケッチを始めた。


 ここは登別のぼりべつのクマ牧場。僕ら湘南海岸学院と美空たち鎌倉清廉女学院とも自由行動の日ということで、アニメの制作関係者同士が北の試される大地で落ち合った。


 山の上にあるクマ牧場は絶景スポットとしても知られていて、僕らが宿泊する温泉街からここまではロープウェイで上がってきた。晴れていれば眼下にクッタラ湖、遠くに太平洋や青森県の下北しもきた半島などを見渡せるそうだ。きょうは霧がかかっているが、果てなく広がる霧の海もまた神秘的で、天の世界にいざなわれたような気分だ。それに魅了され、友恵や美空は景色を記録している。僕もケータイで写真を撮りまくった。


 果てなく、とは思ったものの、この雲海はどこまで続いているのだろうか。


「この霧の海は、どこまで続いているのでしょうね」


 雲海に見惚れていたからか、近寄ってくる気配を感じさせず、菖蒲沢さんが僕の横にそろり現れた。その瞳はどこでもない、雲の彼方のくうを儚げに据えている。三郎は先ほど知り合ったばかりの平沼ひらぬま穂純ほずみさんと喋っていて、残ったのは僕らだけ。


「僕も、同じことを考えていました。虚空にぽつり佇んで、虚無になるというか、いまこのときの自分はただ、この世に漂っているだけに過ぎないっていう、無力感と解放感も」


「よろしいのではないですか? ずっと大願成就に邁進まいしんし、休むときも心のどこかにそれがあるのでしょう?」


 菖蒲沢さんは、やさしく笑んで言った。焦燥する僕の心を宥めるように。


「はい、まぁ」


「わたくしもです。音楽の道を歩むと決めて、それに向かって精進し、挫折を味わい、辛酸を舐め、この広きくうのどの辺りまで、己の奏でるは響くであろうかなどとも考えもしました。それでも刹那に心が解き放たれ、思考や思念が身から虚脱いたしました。そういうときがあっても、良いのでしょう」


「ほんとうですね。何も言い返せません」


「ええ、広大な自然を前に人間など、ただ魂を委ねるしかできませんわ」


 付け焼刃ではない、菖蒲沢さんの知性。彼女と会話している僕はいま、心が浄化されている。


 この虚空でさえも味方につけるアニメを、僕はいつかつくってみたい。いまこのときが直近のアニメ制作に役立つかはわからないけれど、人生に無駄なことはない。いつか役立つときが来る。


 諸行無常の景色は、いまこの瞬間も変化している。上空を流れる雲、眼下に漂う霧。


 こういう環境で生まれ育つと、どういう人柄になるのだろう。もちろん十人十色だろうけれど、茅ヶ崎の人みたいに牧歌的で悠々とした面が騒がしい人にも大人しい人にもあるように、北海道にだって何かあるとは思う。函館、登別、札幌など、地域によっての差異は当然あるだろうけれど、総合的に見て一人のキャラクターに命を吹き込んでみよう。


 結局僕は、この虚空を漂っているときでさえも、創作に想いを巡らせていた。

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