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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
北海道修学旅行

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ルスツでジャムづくり

 そういえば、真幸や友恵ちゃん、凛奈ちゃんにも修学旅行の話はしていなかった。向こうからも特に話はなかった。北海道には梅雨がなく、6月は修学旅行に訪れる学生が多い。


 皆が寝静まった暗い旅館の一室。断崖絶壁の部屋から臨む景色は、岩礁に砕け散る波しぶき。


 私は光が漏れて他の子に干渉しないよう布団に潜り、ケータイを開いて旅行中に撮影した写真を見返していた。


 昨日の昼に撮影した茅ヶ崎駅。地元のバンド、サザンオールスターズの、なぜか『エロティカセブン』が脳内再生されていたのを覚えている。


 上野うえの駅に集合して、貸し切りの青い寝台客車に乗った。列車は夕陽を浴びながら埼玉県の大宮おおみや、栃木県の宇都宮うつのみやと、ときどき電車を盛大に寝過ごして降り立つ場所を過ぎると田園風景や森を抜け、普段は新幹線でしか通らない福島県の郡山こおりやま、宮城県の仙台せんだいと、徐々に北上ほくじょうしていった。岩手県の北上きたかみに到達するころにはすっかり夜が更けて、気付けば座って車窓を眺めていたベッドに横たわっていた。ここ函館はこだてに降り立ったのは、朝5時ころだった。


 キリッと冷えた北国の朝。朝市でカニやイクラを購入し、着払いで家に送りつけ、お店のおじさんに「どこから来たの?」と訊かれたので「神奈川の茅ヶ崎です」と答えると、「おお茅ヶ崎か! 親族が南口にあるカラオケボックスを経営してるんだよ!」と笑顔で答え、世間の狭さを感じたりした。


 それから赤レンガ倉庫群、函館山、五稜郭ごりょうかくを徒歩で周遊。ヨーロピアンで風光明媚な漁師町を満喫した。


 さて、この修学旅行、明日火曜日は留寿都ルスツのスキー場で行われる料理教室に行き、北海道産のイチゴを使用したジャムづくり体験をし、それを着払いで家に送り付け、登別に宿泊。以降は自由行動で、木曜日の19時を目処に札幌のビジネスホテルに集合する予定。金曜日の午後には飛行機で帰路に就く旅程。


 友恵ちゃんにメールをしてみたところ、湘南海岸学院も留寿都の体験学習が木曜に行われる以外は似たような旅程(札幌を拠点とした自由行動)となっているらしい。


 だからと言って何がということはないが、旅の途中、どこかで会うかもしれないし、会わないかもしれない。私たちの学校でよくある揉め事が発生した場合は離脱して、そちらへ逃げ込もうかと画策している。


 どうせ茅ヶ崎の家に帰ったら、出発前にお父さんから配送料を受け取っているにもかかわらず勝手に着払いにしたことをオニババに怒られる。いまのうちに楽しんでおこう。


 翌朝、函館の旅館から観光バスに乗って、車窓を眺めていた。通路側の席には大企業のご令嬢、菖蒲沢しょうぶさわ麗華れいかがいる。一人だけ補助席に座ればいいのに。


 海辺の街、函館を出ると程なく、牧草地帯に入った。驚いた、海が近い道南どうなんにはいかにも北海道らしい広い大地や牧草地帯は見られないと思ったのに、白い木の策の向こうには乳牛らしき白と黒のよくある模様の牛がわんさかいる。


 私が育った湘南地区は、海、里山、都市で構成されていて、果てが見えないほど広い大地はない。


 北海道だなぁ……。


 意外にも、ほかの生徒たちはおしゃべりに夢中で、この北海道独特の景色にあまり関心がないようだ。


 いつも嫌味を言ってくる菖蒲沢麗華だが、私が車窓をまじまじと眺めているのを邪魔しまいという意図か、いまは黙ってくれている。


 いろんな景色を見て、創作の材料にする。


 牧草地帯を抜けると、海辺の道路に出た。湘南の海岸線のようなリゾート感はなく、小さな塗炭の小屋や年季の入った民家がぽつぽつ建っている。小屋にはだいたい金融業者や質屋の看板、政治家のポスターが貼られている。


 留寿都のスキー場に到着した。ゲレンデの雪は溶け、芝が生い茂る緑の斜面になっている。


 私たちがここに来た目的はイチゴジャムづくり。マスク、エプロン着用、バンダナを縛って調理開始。


 調理室はよくある学校の家庭科室の間取りと変わらない。どうして北海道まで来てジャムづくりをするのか謎だ。


「わあ、すごい大きなイチゴ!」


 と、縦横5センチほどのイチゴに感動しているのは、中学からの友人で横浜の高級住宅地、山手やまてに住む平沼ひらぬま穂純ほずみ。中学時代は三つ編みに細い眼鏡というスタイルだったけれど、高校に上がってからは髪をショートにし、赤い下淵眼鏡をかけている。若々しいお洒落をする子だ。


 この修学旅行で私は基本的に穂純ちゃん、菖蒲沢麗華との3人で行動している。


「とても良質なイチゴですわね。このまま食べても十分美味しそう」


 物凄い量の上白糖と麺棒で軽く潰したイチゴを火のかかった鍋に入れ、ぐつぐつ煮詰める。おいしくなあれおいしくなあれ。


「ところで星川さん、清川さんのアニメ制作のほうは、進捗しんちょく大丈夫ですの?」


「ダメでしょう。あの清川真幸が物事を器用に運べるわけがありません」


「随分な物言いですわね。彼はとぼけているような雰囲気ではありますが、とても聡明な方ですわよ」


「ええ、それは私も承知しております」


「清川真幸くんって、この前私たちに絵を投げてきた人だよね。私も会ってみたいなあ」


 おたまで鍋をゆっくりかき回しながら、穂純ちゃんは傍観する私と麗華に言った。私たちとは違って良いお嫁さんになれそうだ。


 穂純ちゃんには前回、真幸たちが通う学校のプロモーションアニメの第二原画を手伝ってもらっているが、私が仲介役をしたため真幸とは会っていない。


「昨夜、市場で擦れ違った学校の人だから、旅行中に都合がつけば会ってみようか」


 ということで、ジャムづくりを終えクール便で茅ヶ崎の家に送った後、私は真幸にメールを送った。

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