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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
アニメ制作修羅場2

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潜在能力

 思い浮かんだことをそのまま絵にするのが苦手な真幸は、絵コンテを描く前にまず、さっき私があげたノートに文章を書き始めた。


 書き始めてから30分経って集中力が切れたのか、さっきから正面に座る私の胸の谷間をちらちら見ている。目を休めているのだろう。座り疲れた私が立ち上がると今度は腰や尻、脚に視線を感じた。いつものこと。


「うーん!」


 私が両手両脚を伸ばすと、真幸は座ったまま無言で両手を伸ばした。


 私は「真似したな」と思いながら無言で腰を下ろす途中、前に屈んだタイミングで再び胸元に視線を感じた。


 この清川真幸という頭おかしくてクソ気持ち悪い変態男、彼自身が思っている以上に優れた才能の持ち主だ。


 私は漫画家の仕事をする中で、何人ものクリエイターと出会ってきた。彼らはみなプロ、つまり創作でお金を貰っている人たちだ。けれど私が見る限り、会ってきた人と比べるに限っては、真幸のほうが感性は何十倍も優れている。クリエイターを含むほとんどの人が気にも留めない砂粒の一つから星のかけらまでを細やかに観察して言葉として表現する能力は、プロの私から見ても目を見張るものがある。


 私も真幸の感性については本人に何度も称賛したけど、家庭や幼稚園、学校で否定され続けて育った彼は、このプロでそれなりの実績を持つ私の言葉さえ半信半疑なよう。お世辞じゃないと何度も言っているのに、それでも百パーセントは信じてくれない。


 清川真幸は、数字を見るまでは納得しない。そういう男だ。


 本人は気付いていないかもだけど、真幸は純文学志向。ライトノベルの大賞よりも芥川あくたがわ賞や直木なおき賞のほうがまだ望みがある、そういう筆致。


 そんな真幸が、ポップな青春萌え系アニメという畑違いの作品に挑んでいる。本人も、そういうジャンルは不向きでありながら嫌いではない。


 多様なジャンルに触れて、それぞれを楽しんで大きくなってゆく。そんな少数派作家に、真幸はなるだろう。


「真幸」


「ん?」


 紙面に向いていた視線を上げた真幸はまた胸の谷間を見てきた。いまは目を見ろ。


「いい感じだね」


 言うと真幸はクスっと笑んで、それから少しの間、筆が軽快に踊っていた。

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