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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
アニメ制作修羅場2

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173/307

二原撒き

「ああああああ!! むっちゃーん!! むっちゃんむっちゃんむっちゅあああん!!」


 前方に餌をついばむムクドリの群れを見つけた友恵が、興奮気味にそこへ駆け寄った。


 ピピピピピピーッ!


 危険を察知して一目散に飛び立つムクドリの群れ。戦闘機のように、みな揃って右へ左へ飛んでゆく。


 無事『ぼくはまた、もどってくるよ』を完成させた帰り、茅ヶ崎公園の野球場を見下ろせる、小高い芝生を歩く、僕、友恵、美空、瑠璃、クソ澄香。


「逃げられたあああ!! むっちゃんに私の愛は届かないの!? 唯じゃなきゃだめなの!?」


「そりゃ、むっちゃんにとって唯一人の大切な人だから、唯なんだもん。仕方ないよ」


 言うまでもなく、友恵の襲撃から逃げたムクドリの中に、むっちゃんはいない。どっかで生まれた、ただのムクドリだ。


「おおおおおお!! オーマイガアアア!!」


 僕らは裏道を辿り、友恵の仕事部屋に向かっている。


 アニメ制作部で発表予定の作品の作業を進めるため、最近僕は部屋を共有させてもらっている。家だと邪魔が入るからだ。


 僕が第一原画(ラフ画)を描いて、凛奈と神崎こうざきさんに第二原画(清書)を描いてもらう。部員がその3人しかいないため、作画監督も凛奈と神崎さんが務める。


 ところがなんと、画の最終チェックをする総作画監督はこの僕、清川真幸だ。お絵描きは壊滅的に苦手だが、画を客観視できるのは僕だという、凛奈と神崎さんの判断。


 ということで、友恵の作業部屋におじゃまして作業させてもらったのだが……。


「だめだ、終わる気がしない」


 友恵は自らの連載原稿にかかり、僕らに背を向け机で作業中。


 美空、瑠璃、澄香は上ほうじ茶をすすりながら、のり付きせんべいをリスのようにポリポリしている。


「これはもう、二原にげんくしかないんじゃないかな」


 と瑠璃。


 撒く。何人かで分担するということ。アニメ制作は一人もしくは少人数のチームでつくると、否、大人数でつくっても途方もない手間と時間がかかるだろう。昨秋の文化祭で思い知った。ちゃんと寝てアニメをつくりたい。


 そこで、チーム外の人間に報酬を支払い、絵を描いてもらう。今回の場合は第二原画を描いてもらう。いわゆる『二原撒き』だ。


「あとは~、そうだなぁ~、清川くんは絵が絶望的だから、いっそお絵描き担当からは退いちゃったほうがいいんじゃないかな」


 グサッ! でも、


「はい、おっしゃる通りかと存じます」


 僕はボソッと、こうべを垂れた。


「このクソが最初から使えないのはわかってるけど、そうなると、一原いちげんは誰がやるの?」


 澄香が言った。クソは余計だが、確かに誰がやるのか。


 沈黙が流れる夜の部屋。真新しい蛍光灯がキラキラ。物理的視界良好先行き不明。


 絵さえ完成すれば良いわけではない。今回は歌って踊るアニメなので楽曲も必要。曲はできたが編曲もできていない。


 歌い手は、神崎さんと凛奈が第2演劇部、つまり瑠璃や澄香たちに頭を下げてもらった。僕も、金魚の糞のように二人の影に隠れてペコリした。


 部活のプロモーションまで残り半月。間に合う気がしない。


 あぁ、むっちゃん、むっちゃあああん……。


 本能的に現実逃避を始めた僕の魂は、ムクドリに変化へんげしつつある。だが僕のようなはぐれムクドリは、女の子に拾われることなく、群れにも馴染めずすぐ餌食になるのが関の山。


 絶望した! なんとなく期限までには完成させられるだろうと甘く見ていた自分たちに絶望した!


「あ……」


 美空が何か思い立ったように言った。

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