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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
ムクドリのえほん

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171/307

ぼくはまた、もどってくるよ 4

 思えばぼくは、どれくらいの季節をめぐっただろう。ずっといっしょだったからあまり意識しなかったけど、出会ったころの唯といまの唯は、ずいぶん変わった。大きくなって、大人になった。


 ぼくはおなかが肥えて、飛ぶのがだんだん億劫おっくうになってきた。からだの動きも、なんだかイマイチだ。思うように動かなくて、毛がパサパサしてきた。


 唯には最近、パートナーができたらしい。つがいだ。子孫を遺す相手だ。でもパートナーとは、いっしょに暮らしていない。それはまだ先の話なのだとか。


 ぼくらムクドリも、ほかの生きものも、求愛してすぐ交尾をするけど、不思議なもので、人間はすぐには子をもうけようとしないらしい。


 まぁいいや、子育ては大変。子どもに付きっきりになって、ぼくと過ごす時間がなくなっちゃうから、このままでいい。


「ただいまむっちゃん」


「ピピッ」


 おかえり、唯。


 暗い部屋が、パッと明るくなった。人間は、自分の巣の中なら自在に明るくも暗くもできる。


 ぼくも、人間のことをいろいろ覚えたな。


「むっちゃん、どうしよう、プロポーズされちゃった」


「ピピッ!」


 な、なんだって!? それじゃぼくと過ごす時間がなくなっちゃうよ!


 と、不安には駆られたけど、無事にパートナーを見つけて漫画家になった唯は、昔とは比べものにならないほど幸せそう。


 あのころはほんとうに、唯がいつ死んでしまうかとビクビクしてたよ。


「うぅ、どうしよう、うれしいけど彼、最近ネコを拾ったみたいで。むっちゃん食べられちゃう」


「ビーッ!! ビーッ!! ビーッ!!」


 なななななんだって!? ネコ!? なんであんな凶暴なのと暮らしてるのさ!?


 ネコ。それはときにカラスをも襲う、とてつもなく凶暴な生きもの。強さはカラスと同じくらいで、やったりやられたりの関係。


 そうか、人間はネコより強い。だからいっしょに暮らしても平気なんだ。


「そうだよね、怖いよね。ていうかほぼ、食べられちゃうよね」


「ビーッ!! ビーッ!!」


 そうだよ!! ぼくはネコがスズメを丸呑みにしてるところを何度も見てるよ!! たまにムクドリも食べられてるよ!!


 数日後。


「ネコは実家に預けるって! はーあ、良かった!」


「ピーッ! ピーッ!」


 良かった! ほんとうに良かった!


「といっても、物件探しとか資金とかいろいろあって結婚はまだけっこう先だから、しばらくはこのままの暮らしだよ」


「ピピッ」


 鳥かごから出してもらって、唯といっしょにお風呂に入った。ぼくが唯の家族の巣から外に出ないとわかってからは、お風呂に入って、からだをきれいにしてもらっている。おかげで病気もなく、健康に生きられている。たぶんぼくは、ムクドリの中ではとても長生きしている。


 お風呂を出てから、唯は漫画を描き始めた。描いた漫画は、ときどき来る女の人が持っていって、本にする。


 けどぼくには、唯がどんなお話を描いているのかわからない。漫画という、世界を想像して創造するものがあるという、漠然とした事実を知っているだけ。


 知りたいな、唯がどんな世界を描いているのか。


 ぼくの知っている世界はここ藤沢と、楓の里、それと、その間にある場所だけ。でも、世界はもっとずっと広いんだってことは、なんとなく知っている。ただ、ぼくらムクドリはそこへ行くと生きられない。だから行かない。危険な場所にはなるべく行かない。これが生き残るための基本だから。


 でも、知らない世界を見てみたい気持ちはある。


 唯の中には、どんな世界が広がっているのかな。


 よく唯の漫画を覗き見るけど、ぼくには何がなんだかわからないや。


 ただ、漫画を描いているときの唯はルンルンしていて、苦しいときも楽しそうだから、それをそばで見ているぼくも、とてもしあわせなんだ。


「さて、そろそろ寝ようか」


「ピピッ」


 きょうもぼくは、唯の枕元でいっしょに眠る。


 おやすみ、唯。またあした。

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