ぼくはまた、もどってくるよ 3
「むっちゃん、もうやだ、私、どうしたらいいの? お母さんに相談しても、いじめられるほうにも原因があるって言われるの。じゃあ、いじめられないようにするには、一緒になっていじめなきゃいけないの? そんなことまで周りに合わせなきゃいけないの?」
そうか、群れの仲間をいじめるように指示されたけど、唯はその子をかばったんだね。話してくれてありがとう。
「ピピッ、ピピピピッ」
唯は間違ってないよ。合わせなくていい。大切な仲間を守りたいのは、当たり前だよ。
「ピピピッ」
人間は群れていなくても天敵に食べられにくい生きものだから、その子といっしょに群れから離れるべきだ。とは言っても、人間でも群れから離れるのは怖いと思う。だけど、その群れに居続けるのは、唯とその子にとっていちばん危険なんだ。
それでも唯は、その後何日かは出かけて行った。でもそれからは、ずっと家にいるようになった。最後に出かけた日の唯は、目の下に黒い模様ができて、いまにも死んでしまいそうだった。
「私ね、通信制の高校にしたの。卒業まであと3ヶ月だったんだけどね」
「ピピッ、ピピッ」
唯の言葉の意味をぼくは理解できなかった。けれど、危ないところから逃げ出して、新しい場所を見つけたけど、心残りがある感じ。
「友だちもね、そこにしたんだ。唯ちゃんがそうするならって」
「ピピッ、ピピピピッ」
そっか、唯は、自分で道を選んだんだね。唯の仲間は、それに付いて来たんだ。
唯は僕をゲージから出した。そうそう、ぼくが入れられているこのハリガネの檻には、ゲージという名前があるみたい。唯がゲージって呼ぶから、覚えちゃった。
それからの唯は、少しずつだけど、生気を取り戻していった。
唯の悩みは尽きないみたいだけど、最近は、怖いとか、イヤだな、という悩みじゃなくて、どんな絵を描こうか、とか、どんなお話にしようかな、なんてことを言っている。
お絵描き、紙、鉛筆、ペン、インク、テレビ、アニメ、カレシ欲しい、アルバイト、ニート、キョウセイロウドウ、ミンジソショウ、ダンガイサイバン。
思えばぼくも、人間のいろんなことを覚えた。唯の言っていることが、だいたいわかるようになった。
唯は漫画を描いて、それと食べものを引き換えられるようにしたいみたい。ムクドリもカラスも、自分で食べものを取って食べるけど、人間は何かをする代わりに、誰かから食べものをもらう生きものなんだ。
食べものをつくって食べものをもらう、なんだか不思議な人間もいるみたい。そういう人たちが、唯みたいに食べもの以外のものをつくる人間を支えているみたい。
唯はいま、紙に絵を描いている。
がんばれ、唯。しばらく巣立つ気はないみたいだけど、お父さんとお母さんに食べものを分けてもらわなくても、自分で食べていけるようになる。
親はいついなくなるかわからない。唯が食べものをもらえなくなると、ぼくも食べられなくなるんだ。
ぼくは唯のヒモ。一生巣立たないぼくをやしなっておくれ。
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