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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
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アイディアが浮かぶ場所、宮ヶ瀬

 さて、このままドラネコを膝に乗せていてはいつ動けるかわからない。申し訳ないけれどドラネコの脇を持ち上げて無理矢理降ろし、真幸は立ち上がった。


「にーっ、にーっ」


 心地良く眠っていたところを無理矢理起こされ不満げに鳴く小さなドラネコは、真幸と私の後を付いてきている。


「ごめんね、首輪が付いてるから、飼い主さんはいるみたいだね。じゃあもう少し、いっしょにいようか」


 私はドラネコの頭を撫でて宥める。けれど雌ネコだからか、雄である真幸のほうが好きなようだ。視線が常に真幸を向いている。


「そうだ、そうしよう」


 真幸が何か閃いたようだ。


「何を?」


 と、私はしゃがんでドラネコを見下ろし撫でたまま、真幸に訊いた。


「主人公の男の子と女の子が会話に及ぶきっかけ。普通、見ず知らずの学校も異なる高校生の男女が道端で出逢って、そのまま家に上がり込むような仲になるとは考え難い。でも、ネコっていうアイテムがあれば、いま浮かんでいるキャラクターの性格上、それを成立させられる」


「なるほど」


「いやぁ、きょうは学校サボって来て良かったよ。ネコに出逢えただけでも大収穫だ」


「私のおかげだね」


「え、そう?」


「一人で来るの? ここ」


「来るといえば来る」


「そう」


 ドラネコに追い回されてすっかり紹介が後回しになっていたけれど、ここは神奈川県の北西部で県内唯一の村、清川村きよかわむらにある宮ヶ瀬(みやがせ)。冬はイルミネーションが綺麗で、日本一観光客が訪れるダムなのだとか。


 紅葉には少し早いと思ったけれど、全周を囲う山々は黄金に色づき、土産物店街のもみじは鮮やかな紅に染まっていた。山の澄んだ空気が全身に染み入り、哀愁を誘う。茅ヶ崎で感じる潮の香りや海の気配などは微塵もなく、さほど離れていないふるさとが恋しくなる、そんな場所。通学鞄に忍ばせたミルクティーはすっかり冷えていて、それでも一口含めばざわめく心を癒してくれる。


 宮ヶ瀬はいくつかの観光スポットが点在しているが、私がこのエリアを歩いたのは今回が初めて。小学1年生のころ、もう少し奥のエリアへお父さんに車で連れられた。ここからそこまでのバスはなく、車か自転車がないと遠いので今回は行かないでおく。


 なによりこのエリアが土産店や飲食店が充実していて最も栄えているし、見どころが多い。


 そして、そんな遠くまで歩いたら体力が持たない。


「前回は自転車で来たんだけど、この奥にも公園があるんだ」


「自転車? ロードバイクでも持ってるの?」


「3段変速のシティーサイクル」


「ほう、何時間かかったの? 茅ヶ崎からの距離は?」


「確か片道4時間くらいで、直線距離は30キロだから、道のりは40キロくらいだと思う」


 どうやら私は真幸を侮っていたようだ。普通の自転車でここまで来る体力があるとは。茅ヶ崎は海に面していて、ここは海なし県の山梨県に近い場所だぞ。最寄り駅は中央線の相模湖さがみこだろうか。八王子にも近い。茅ヶ崎から厚木まではほぼ平坦だけれど、そこから先は急な上り坂が続く。とても自転車で来るような場所ではない。


「あの、大丈夫だからね。きょうは奥までは行こうとは思ってないから」


表情かおに出てた?」


「出てはいないけど察した」


「ふぅ。ところで清川村に立つ清川真幸くん」


「ん?」


「私もつくってみたい映像作品のイメージが浮かんできたのだけれど」


 宮ヶ瀬の色づき澄んだ美しい景色と、藤沢のムクドリと、その他諸々を組み合わせて、なんとなく映像が浮かんできた。


「え、ほんと!? 気になる気になる!」

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