紅葉を見に行こうよう
マンションを出て私はとりあえず、東へ向かった。まもなく交差点に差しかかる。部活の朝練に向かうであろう中高生たちがそれぞれの学校へ歩を進める中、私はどこへ行こうか。
とりあえず、コンビニ脇の自販機で温かいミルクティーを買って、ゆっくり飲む。そういえば昔、紅茶も缶入りだったっけ。いまは小さなペットボトルだ。
トントン。
道路に背を向けて紅茶をすすっていると、背後から肩を叩かれた。職務質問だろうか。見ての通り私は鎌倉清廉女学院の生徒だ。コスプレではない。それに、すぐそこの駐在所にいるお巡りさんは私の顔など何度も見ているだろう。だがいいタイミングだ。いまの私は何をしでかすかわからない。左に煙草の自販機がある。着火した煙草を束ねて母と祖母の口に突っ込んでやろうかと瞬時に知恵が働いた。
私が右を向くと、棒が頬を圧迫した。人差し指だ。
「おはよう」
「うぉはぃよぅ」
頬を圧迫されたまま喋ったので上手く発音できなかった。指は真幸のだった。高校生にもなってこんな幼稚ないたずらをするとは、まったく困ったものだ。
「いい天気だね。こんな日は教室で授業なんて受けないで、紅葉を見に行きたい気分だよ」
「ふぅん」
私は軽く受け流した。
「行かない?」
「行こうよう」
ププッ、自分で言って噴き出しそうになった。
「じゃあ、学校に連絡しようか」
即断即決。私たちはそれぞれ学校に欠席の連絡を入れた。
私が「ぐふぉん、ぐふぉんぐふぉん、きょうは……とても……体調が優れず、お、お休みさせて、ください……ううぅ」と、迫真の演技で体調不良をアピールしたのに対し、真幸は「おはようございます。あ、校長、昨夜両親の喧嘩に巻き込まれて一睡もできず学校に行く気がしないのでお休みさせていただきます」と正直に告げていた。
「はい、そうです、取っ組み合いになって家の窓ガラスが散乱して、いまも割れずに残ったところに亀裂が入り続けて欠片がぽろぽろ落ちています」
なるほど、真幸もなかなか大変な人生を送っているようだ。
お読みいただき誠にありがとうございます。
昨年より隔週連載とさせていただいておりましたが、今回より毎週連載を再開いたします。




