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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
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156/307

美空のバードウォッチング@藤沢駅

 藤沢駅に降り立った私は、まずホーム上にある電車を模した売店に入って小さなペットボトル入りの冷たい緑茶を購入した。


 売店を出るとまもなく、反対方向の電車が到着した。熱海行きだ。有名な温泉地に向かう電車とはいえこの時間帯は通勤、通学客で混雑する普通の通勤電車。


 これに乗って熱海に行って、皆が収容所、あ、崇高で実用的な教養を得られる教室に詰め込まれて授業を受けている間、私は優雅に温泉にでも浸かっていたいものだ。


 その線路の隣には、銀色の車体下部にスカイブルーの帯を纏った小田急江ノ島線おだきゅうえのしませんの電車が停車中。すぐそこの片瀬江ノ島(かたせえのしま)と、東京都庁のある新宿しんじゅくを結ぶ民鉄路線。私もたまに利用する。


 遅刻上等でお茶を飲み、ほっとひと息。さて仕方ない、まだ横須賀線は運転を再開しないようなので、江ノ電に乗ろう。


 ここ藤沢は、湘南地区最大のマーケット規模を誇る街。茅ヶ崎市と平塚市の人口がそれぞれ約24万人、鎌倉市が約19万人に対し、藤沢市は約42万人。


 人通りが多く、朝は特に他の人と肩がぶつかりやすい。


 階段を上がって有人改札口で定期券の入場記録をリセットしてもらい、振替乗車票をもらった。コンコースには私と同じく江ノ電の駅に向かう人が多くいる。


 左前方の階段を下る人は、多くが小田急線かバスの利用者だろう。


 ビービーびぎゃびぎゃびゃーあ!! ビビビビビー!! ぽっぽっ。ちゅんちゅん、ちゅんちゅちゅん。ぽぴぽぴ、ぽぴぽぴぽぴっ。びきゃーあ!! ぎゃぎゃぎゃぎゃーあ!!


 駅舎を出て、百貨店と江ノ電の駅が併設されたビルに続くペデストリアンデッキに出ると、ビルの谷間の晴れ渡る空に、可愛らしい小鳥たちの歌声が響いていた。


 通路の端に寄り、立ち止まって鳥を眺める。


 空飛ぶイワシのごとく空を覆うほどに群れるムクドリを主体に、少数ながらハトやスズメほか、愛嬌のある鳥が、バスロータリーの真ん中に立つケヤキの木々に集まっている。


 朝からバードウォッチング。なんて優雅なのだろう。


 秋になると藤沢駅南口でよく見られるムクドリの群れは、朝より夕方のほうが出現しやすい。物凄い大群のため、迷惑に思う人もいれば、私のように呑気に眺めている人もいる。


 かわいいなぁ……。


 百貨店ビル内にある江ノ電の駅に入った。私を含む振替客もいて、普段より混雑していると思われる。2面1線のホームには4両編成の緑とクリーム色の電車が停車していたけれど、混雑しているので見送ることにした。


 乗れないこともないけれど、窮屈な思いをするくらいなら遅刻しても座って行ったほうが、私としては良い。のんびり行こう。ということで、学校に遅刻する可能性のある旨を携帯電話で伝え、次の電車はこの電車が出てから12分後。単線なので、これでも最大限の本数だ。


 目の前に停車している電車の中には、学生服の姿が目立つ。


 朝の江ノ電は、いわば学生の詰め合わせ。


 数種の学生服が一つの箱に凝縮されている。


 江ノ電沿線にはいくつかの学校がある。私が知る限りでは藤沢寄りから鵠沼くげぬま鎌倉高校前かまくらこうこうまえ七里ヶ浜(しちりがはま)、そして終点の鎌倉。鎌倉駅周辺には、私が通う鎌倉清廉女学院以外にもいくつかの学校があり、逗子ずし横須賀よこすかの学校に通う者も含めると相当な数だ。


 もちろん、社会人やそれ以外の人も、シラスのパックに紛れ込んだエビやタコくらいに少々混じっている。


 15分後、どこか切ない音楽が流れると、次の電車が少々遅れて到着した。ほぼ同じ形をした2両の編成を2つ連結した4両編成だが、藤沢寄りの2両はスタンダードな緑とクリーム色、鎌倉寄りの2両は青とクリーム色で、青い部分には黄色い線で紡がれたお洒落な模様が描かれている。ロイヤルミルクティーのパッケージに合いそうなデザインだ。


 反対側のドアから客が降りきると、こちら側のドアが開く。私は左斜め前、はじっこの席にちょこんと座った。ドスンと座るのはお行儀が悪い。そういう人は男女問わず苦手。かくいう私もたまにバランスを崩して尻餅をついてしまうけれど。


 電車はまもなく発車した。


 さて、やはりイヤな予感は当たってしまうだろうか。次の石上いしがみ駅を出て、まもなく鵠沼くげぬま。運命の駅だ。運命の扉もとい、電車のドアが開いた。


「あら、ごきげんよう、星川さん」


 当たってしまった。


「ごきげんよう」


 いつも通りの作り笑顔で返した。ネコがいるなら被りたい。


 キサマには、席は譲らぬ是が非でも。

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