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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
ここから読んでも問題ない章

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アニメ制作部

 放課後、アニメ制作部に所属している僕は、北側校舎(A棟)3階東端にある部室に出向いた。平時はコンピューター室として使用しており、PC、プリンター、その他機器類が配置されている。


 ドアのセンサー横に手をかざし、部室に入ると、いつもの二人がいた。


「こんにちは」


「どうも~」


「お、おつ、おつかれさまでふ……」


 僕が挨拶をすると、平時は教員が使用する最前列の席に1年生のミニマムなツインテール、咲見さきみ凛奈りんなと、2年生、密編み眼鏡の、こちらもミニマムな副部長、神崎こうざき芽吹めぶきが固まってPCのモニターを見ていた。


 他に3年生の部長、上矢部かみやべとおるがいるが、先日開催された文化祭を境に、あまり部活に顔を出さなくなった。


 受験生であるのと、文化祭で発表した上矢部のシナリオを僕が少しばかりいじって、それが観客にウケてしまったのが面白くなかった、という理由も考えられる。


 故に僕は、罪悪感と成功体験の間で心がもやもやしている。


 けれど僕は、きょうに限って機嫌が良い。先ほど友恵にキスされた感触が、まだ頬に残っている。自分はなんて動物的で単純な生きものなのだろうと、つくづく思う。


 僕も二人に混じって画面を覗く。


「おお、できてる」


「昨晩がんばっちゃったからね」


「あ、新しい、い、命が……」


 画面には、来年の部活動紹介で流すアニメのキャラクターが3人描かれている。まだ着色はされていないラフ画の状態。


 3人とも女の子で、歌って踊る。今後、キャラクターが増減する可能性がある。作画枚数、楽曲制作など、描く側とすればイヤな予感しかしない作品。


 美少女モノをやりたいと言ったのは神崎さんで、凛奈はそれに賛同。


 ではどのような内容にしようかと議論になったとき、なんとなく僕が「音楽はどうだろう」と言ってしまった。


 そう、すべては僕の責任だ。


 ただ萌え萌えブヒブヒするだけの作品にだってできる。いまからでも引き返せる。


 けれどそれを、美少女アニメに偏見のある者を多く含むであろう大衆に訴えるとなると、部の存続が怪しくなる。


 ならば本格的な文学にとも一瞬思ったが、それだと偏見とは異なる方向で観客を厳選してしまう。


 けれど音楽ならば、曲調次第で最大限の人数を楽しませられる。という結論に至った。


 当然、楽曲制作には手間がかかる。作詞、作曲、編曲、演奏、歌唱。


 これができてようやく、アニメーション制作に取りかかれる。


 やろうと思えば詩と曲ができていればなんとかならないこともないだろうけれど、極力避けたい。


 では楽曲は、誰がつくるのか。


 僕だ。


 僕は壊滅的に絵が下手。しかし小学生時代にエレクトーンを習っていたからか、音感は良い。


 音楽の授業が始まる前の休み時間、ちょっと音楽が得意な目立つ生徒が音楽室のオルガンを演奏して周囲から称賛されているのを「へっ、この程度か」と、離れたところから独りで嘲笑している。それが僕だ。


 そこを友恵に見つかると、とても寒い目で見られる。


「脳ある鷹は爪を隠すんだよ」


 と僕が言うと、友恵は


「爪隠してもチ〇コ剥き出されてるじゃん」


 と返された。


 適度に陽光の差し込む昼下がりの教室で気持ち良く居眠りしている僕のチャックを開けるのは他ならぬ友恵じゃないか。普通なら一発退学だぞ。


 ということで、僕が楽曲をつくらねば後が詰まる。


 つい先日に文化祭が終わったばかりなのに、早くも修羅場だ。


 もちろん部活外の仲間でやっているピクチャードラマの制作もある。マルチタスクだ。


「この子たちは、どんなキャラクターなの?」


 凛奈に訊ねた。


「うーんと、このセンターのショートヘアの子は明るくて活発で、右に立ってる子は真面目、左はおっとり系?」


 キャラクターを一人ひとり指差して説明してくれたが、まだ明確には定まっていないようだ。


「そうなんだ」


 でも大丈夫。キャラクターは物語を綴ってゆくうちに定まってゆく場合が多々ある。今回は楽曲を制作しながらキャラクターの人格を定めてゆこう。

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