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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
アニメ制作修羅場

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143/307

指を咥えて見てなさい、その泥で汚れた指を!

「ど、ドラゴンだ、ドラゴンが来たぞー」


 舗装された道路などない、陳腐な木造家屋が建ち並ぶ古びた街。街を囲う山の向こうから、突如真っ赤なドラゴンが現れた。その大きさは、百メートルはくだらない。


 悲鳴や奇声を上げ逃げ惑う住人たち。ドラゴンは容赦なく口から火を噴射して、街や人々を丸焦げにしてゆく。


「このままでは、街が、みんなが、やられてしまう。僕が、僕がドラゴンを倒さなきゃ」


 鬼気迫る状況下、棒読みの台詞。少年はたまたま近くにあった鍛冶屋から咄嗟に大きな剣を借り、メインストリートのど真ん中に立ち、逃げる人々の流れに逆らってドラゴンへと駆けてゆく。


 僕、清川真幸は思った。


 これ、つくっているときは何も考える余裕がなかったけれど、住人からすれば避難の邪魔だよね。そういう細かいことは気にしなくていいのかな。


「うおおおおおお!!」


 十分な助走をとり勢いよくジャンプして、ドラゴンに剣を振りかざす少年。


 キーン! キン! キン! キイイインッ!


「な、なんだって、ドラゴンのボディーがこんなに硬いなんて!」


 火を噴くドラゴンのアイアンボディーに、少年は成す術なし。剣は刃こぼれして、もはや刃物というよりは鈍器と成り果てていた。


 絶体絶命の大ピンチ。さぁどうする、棒読みの少年。


 ドラゴンが少年に向かって火を噴こうとしたそのとき___。


「そこまでよ!」


 金髪の女騎士が馬に跨って登場。ロングヘアで、出るところは出ている。このキャラクター、凛奈がだいぶ作画修正をして仕上げた重労働の結晶体だったりする。


「キ、キミは……」


 恐怖で地べたに尻が吸い付き、動けなくなった少年が問うた。


「名乗るほどの者でもないわ」


 なっ……! なんだこれは!


 このたった一言の台詞に、僕は胸を撃たれた。


 上手い、ヒロイン役の人、演技が上手い。なんだこの人、こんな人が、この学校の生徒にいるのか?


「そ、そうか、わかった。僕も加勢するよ」


 自分だけへこたれてはいられない。自身のプライドが、少年の尻を地べたから引き離そうとするが。


「あなたはそこで指を咥えて見ていなさい! その泥で汚れた指を!」


 すごいすごい! この台詞は僕が考えたのだけれど、こんなに上手に演じてくれるなんて! 気になる! この人が気になる! 直接会ってお礼を言いたい!


「は、はい!」


 先ほどまでドラゴンに怯えた少年は女騎士の頼もしさにすっかり安心し、彼女の言葉に興奮してニヤニヤし始めた。


 馬から降りて剣を振りかざす女騎士の揺れる乳房と、中の見えそうなスカート。


 僕はちゃんとしたメタルの鎧を装着させたかったのだけれど、上矢部のアイディアで肩とへそを露出した軽装となった。実際の戦でこんな恰好をしていたら即死だろうけれど、これはファンタジーアニメ。凛奈の整った作画が、ちゃんとスケベ心をくすぐる仕上がりにさせている。


 女騎士の健闘によりドラゴンは退治され、街は平和を取り戻した。


 やがて少年と女騎士は結婚し、新たな暮らしが始まった。


「こら、寝てばっかりいないで少しは働きなさい!」


「もっと叱って! もっともっと!」


「働けよ! 働けやコラ! おい! オラオラオラオラァ!!」


 この台詞の演技は声優さんにフィットしたのか、他の台詞と比べ際立っていきいきしている。プライベートで蹴りを入れたい相手でもいるのだろうか。


「もっと、もっと!」


「はぁ……」


 少年はすっかりダメ亭主と成り果て、女騎士妻が洗濯ものをベランダに運ぶ足元でゴロゴロ。生計は女騎士の賞金に頼りきり。少年もたまに討伐へ出かけるが、クソの役にも立たない。


 そんな二人のハッピーライフは、これからも続いてゆくのであった。めでたしめでたし。


 ここで物語は完結。


 この二人、どうして結婚したのだろう。上矢部の考えることはよくわからない僕。破局は時間の問題だろう。


 とりあえず、お客さんが笑ってくれたから作品としては、上映前に思っていた以上に良かったのだと思う。上矢部、神崎ペアはシビアなファンタジーとして見せたかったのかもしれないし、そう受け取ったお客さんもいるかもしれない。受け取りかたは人それぞれだ。ちなみに僕はファンタジーっぽいコメディーに見えた。

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