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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
アニメ制作修羅場

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132/307

儚い人生の貴重な時間が削がれてゆく

 夏休み明けから1週間。ようやく線画が上がったということで、僕と凛奈は部室で彩色作業の続きを始めた。


「なんだこれ、色がはみ出ちゃうじゃん」


 神崎さんの上げた線画の線が一部途切れていて、そこにPCソフトであらかじめ指定された緑の彩色したら、輪郭の外まで緑になってしまった。


「うわ、しかも全体的に輪郭がぼやけてる。しょうがない、私が修正しとくよ」


 上矢部さんと神崎さんがいない二人きりの部室では、色々と言いたい放題。尻拭いとは大変なものだ。


 アニメーションは15分を予定しているが、5分に短縮しようか検討中。


 もし5分になれば作画したシーン、つまり現在やっている作業の3分の2は無駄になる。一方で予定通り15分やるとしたら、下手すると徹夜になる。いや、それでも仕上がらない可能性も十二分に考えられる。とかく作画修正が多すぎる。




 僕にだってやること、やりたいことがあるのに……。




 儚い人生の貴重な時間が、よくわからない、情熱を傾けられないことでどんどん削がれてゆく。


 おかしいな、自分が望んでこの部に入ったはずなのに、活動に面白味を感じない。


 だがアニメーションというコンテンツ自体の魅力はどうだろう。


 たとえば取りかかる作品が世界に名を馳せる巨匠のあの作品だったり、無名な作家のものでも自分にとって面白かったら、大変でもイヤイヤではなく楽しく取り組めるのではないか。


 要するに、先輩たちの作風が僕の肌に合っていない。そこが大きなネックなのだ。


 22時過ぎ、疲れきった僕は2段ベッドの上段でうつ伏せになり『自殺』の続きを読み返していた。


「にーやん『自殺』、ほんとに好きだねー」


 妹の灯里あかりが、今宵もひょっこり顔を覗かせた。


「好きだよー、こういう作品に携わりたい」


「いまの部活ではどんなのやってるの?」


「なんだかよくわかんない」


「うわー、闇が深そう」


「アニメって一口に言っても色々あるからね」


 そう、プロのアニメ作家になったら、好みでない作品にも携わるだろう。それがイヤで独立する作家もいる。独立しても食べてゆけるようになるには当然、実力が必要だ。


「ふーん、ま、頑張れば?」


「うーん、まぁ、うん」


 煮えきらない返事をして僕は読書に戻った。灯里も読書をしている。少女漫画の月刊誌だ。友恵もこの雑誌で連載していたので、灯里も『自殺』の内容は知っている。


 ただ『自殺』の内容はどちらかといえば児童の保護者と自殺を考えている本人向けなので、灯里に理解しる内容かはわからない。


 ひょっとしたら灯里も、という可能性がないとは断言できないけれど。

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