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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
校長先生のお話

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明日尽きるかもしれない命でも

「よくいる校長のように長話をしてしまったね。これが僕の青春とその後」


 確かに、この校長にしては長話だ。小中学校の校長と同じくらい長話だった。


 校長が話している間、陽が少しだけ西へ逸れたのが見た目でわかったけれど、変わらず空は青く、野球部やサッカー部の練習はまだまだ終わりそうにない。


「僭越ながら、学生時代の校長と僕は似ているような気がしました」


「そうだね。いまでもまあまあ人見知りだけど、ヤンキーとか派手な人とも恐れず会話できるようになったのは、彼女のおかげだよ」


「なんとなく、その感覚はわかります。僕も派手なヤツは苦手なんですけど、友恵はどうにか大丈夫なので」


「どうにか? 今更? 私が怖いの? カネとチ〇コ出せ」


「金の玉だけならどうにか」


「よし、オッケー」


「ははは、二人は本当にいいコンビだ。昔を思い出すよ」


「あの、この流れだと私は大学生で……」


 友恵は自らの身を案じた。


 確かに、校長の轍を辿るとすれば、友恵の余命は5年、僕はなんだかんだで偉くなってお金持ちだ。45歳の僕は、札束の海で溺れているかもしれない。


「それはどうだろうなぁ。ただ一つ僕が言えるのは、命がいつ尽きるかわからないから、毎日を楽しく、幸せを実感しながら生きられるように、いまのうちから準備しておくと良い、ということくらいだよ。夏子を亡くした後もたくさんの人とお別れをしたけど、どんなに活発だった人でも信じられないくらい、本当に静かになってしまう。『虫の息』という言葉の意味を、本当に知る。そうなったとき悔いのないように、少しずつでも準備をしておくんだ。南野さんも清川くんも、そういうことには長けていそうだけどね」


「そうだなぁ、私はまだまだ描きたい漫画がたくさんあって、それをやり切って一生を終えたいなって思ってます」


 にひっとはにかみ、友恵は言った。


「僕はまず、プロのアニメ作家になる準備をしなきゃ」


「それは今だって、しているだろう?」


「そうですけど、思いのほか上手く進まないというか、障害物が多いようなで」


「さすがだね。優秀な人間ほど壁が立ちはだかるものさ」


「その壁を乗り越えるには、睡眠時間を削らなきゃいけなかったり」


「それも問題だね。僕も教員の資格を取るために、仕事帰りが遅くても、翌朝早くても徹夜で勉強したけど、あのときは生きた心地がしなかった。恋人がいないから、溜まったものもスッキリ出せなかったしね」


「や、やっぱり彼女がいたほうがいいんですか?」


「そりゃそうさ。夏子と交際していたときとその後では、頭の冴えかたが全然違ったよ。彼女がいなければ大学受験のランクを落としたと断言できる。でも、独りぼっちでスッキリしないという障害も、弱った人の心情を知るうえでは大事だなって、とても勉強になったよ」


「そういうものですか」


 友恵のおもちゃにされた僕は、校長の言うことをなんとなく理解できた。


 想像しながら友恵の健康的な脚や胸に目を遣ると、あそこが元気になってきた。真面目な話の最中なのに、僕はなんてヤツなんだ。


「そうだよ。そういう厄介なことも含めて、人生には何一つムダがない。僕のように一度は興味のない職に就いても、その企業や仕事の性質は自分に向いているとかいないとか自己分析ができるし、創作活動をするならば、業界の知識も得られる。明日尽きるかもしれない命でも、回り道や休憩をしたっていい。生き急いで無茶をしたらそれこそ、命を縮めてしまうから」


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