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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2006年8月

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13/307

メロンパンは皮が命!!

にいやん、最近朝早いね。雨なのにサイクリング?」


 朝6時30分。キッチンでコップに注いだオレンジジュースをゴクゴク飲んでいたら、いつも9時過ぎに起床する小学5年生の妹、灯里あかりがはだけたシャツのまま2段ベッドの下段から湧いてきた。僕と灯里は広めの子ども部屋を共有している。他にきょうだいはおらず、四人家族だ。


「いや、きょうは散歩」


「そう。雨なのにご苦労なこった」と、灯里はオレンジジュースを飲み再びベッドに埋没した。


 深夜1時に帰った商社勤めの母は先ほど出勤し、父の姿を最後に見た日はいつやら。我が清川家の主は母で、父は婿養子むこようし。酒好きの父は40歳のころ企業をリストラされ、以後は職を転々とし、現在50歳。


 母の話によると若かりしころは好青年、イケメンの部類に入っていたという彼の見てくれはすっかり変わり果て、たまに帰れば廃人の身なりで物を投げるなど暴力の連続。


 最初の転職後、数ヶ月間在籍した企業では酔った勢いで同僚を駅のホームから線路に突き落とし、複雑骨折させてしまったらしい。もちろんそこは翌日に懲戒解雇された。


 後日、母が仕事を休み菓子折りを持参し被害者宅へ謝罪に出掛けたときの惨めな表情と背中は生涯忘れ得ないだろう。


 アイドルオタクの母は面食いで、尚且つ優しかった父にコロッと騙された。というか、さすがに結婚後10年以上、高校時代からの同級生で交際期間を含めれば24年連れ添った仲なのに、こんな急転直下の未来が待ち受けているとは予測できなかったのだろう。


 結果として僕と灯里は家庭が徐々に崩れてゆくさまを目の当たりにして育ち、やがて父は追放され家族のピースが欠ける瞬間に立ち会うだろう。初恋に堕ちた瞬間とは相反し、極めて重たい気分だ。


 家族の不仲は子どもにとってはすごくつらいが、父は僕の反面教師なのだとプラスに捉えるよう心掛けている。


 ワイドショーを見ながら薄暗いリビングでチョコチップメロンパンを頬張る。星川さんが付近でインコを見かけたというサン〇ビーチで購入したメーカー品で、皮がサクサクで香りはさわやか。この風味が界隈かいわいの少年たちに大好評だ。メロンパンは皮が命!!


 食後、そのインコちゃんを飼い主のもとへ帰すべく、僕は一枚のビラを持って出かけた。住宅街や鉄砲道の歩道を行く人々を観察しつつ、まずはビラの掲出許可を得るべく駐在所へ向かう。雨の日は人間観察をするには打って付け。


 傘の持ち方ひとつで行き交う人々の気配り能力をおおよそ推し量れる。わざわざ自己中心的な持ち方をしているひとに声はかけないが、危険なので他者に配慮した持ち方を心掛けてほしい。


「おはようございまーす」


 家を出発して5分後、駐在所に到着した僕は恐る恐るそのアルミサッシのガラス扉をカラカラと開けた。


「はい、おはようございます!」


 地域で評判の気さくな駐在員さんは、今朝も元気だ。


「あの、サン〇ビーチの近くに行方不明のインコがいるらしくて、その捜索協力を求むポスターを周辺の電柱に貼らせていただきたいのですが」


「あ、君も!? さっきも女の子がインコの絵が描かれたビラを持って来てね。もしかしてお友だち?」


 その言葉にピンときた。お友だちに成れているかは定かでないが___。


「はい、おそらく」


 便宜上べんぎじょう肯定こうていしておく。


 自由研究その他で忙しいであろう星川さんも、時間を割いてインコ捜索に協力しているのか。彼女は変わり者だが、悪人ではなさそうだ。

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