42℃のプロポーズ
「夏子、結婚しよう」
「え……」
ことが済んだあと、僕は夏子にプロポーズした。夜の隙間風が火照ったからだを気休め程度に冷ましてくれる。
高熱を出している夏子はハァハァと呼吸を整え、表情は変わらなかった。喜んだり、迷惑に思ったり、そんな余裕はないだろう。
「まだ指輪は用意できないけど、頑張ってできるようにするから」
「うん、ありがとう、ありがとう、うれしい。すごくうれしい」
それでも顔がほころんだのは、本当に嬉しくて、体調不良とは無関係に起こったものだと、僕は勝手に解釈した。夏子の瞳は、涙で潤んでいた。
服を着た僕らは手をつなぎ、一枚の布団に身を寄せ合った。
「結婚したら、子どもは何人欲しい?」
オレンジの電球がほんのり照らす静かな夜。コトンコトンと、遠くで列車の通過する音が聞こえる。
「5人くらいかな?」
「えー? じゃあ頑張らなきゃ」
にひひと嬉しそうな夏子。
「体力はあるでしょ?」
「うん、それしか取り柄ない」
「そうだね」
「ひどい」
「僕は働くから、夏子は家にいて欲しい」
「拘束プレイ?」
「専業主婦。誰かが家にいてくれないと、不安なんだ。夏子なら強盗が来てもやっつけられそうだし」
「ケンカは負けない」
「だから、警備代は僕が払う。これからは女性も外に出て活躍する時代になってくるだろうけど、こういう働き方もアリなんじゃない?」
「だね。ケンカもスキルだ」
「そう。だから僕は、君の能力を買う」
「ねぇそれ、私を警備員だと思ってない?」
「最愛の妻であり、警備員でもある」
「ぶはははは、もう妻なんだ」
「もうすぐ妻になる恋人」
「そうだね」
しかしそれは、叶わなかった。
目覚めると朝になっていて、レースのカーテン越しに朝陽が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえていた。壁掛け時計6時半を指していた。
夏子が僕の手を握っていたので寝たまま横を向くと、眠たそうにうっすら目を開けて、微笑んでいた。涙が浮かんでいた。
「やっと起きた」
「おはよう、具合はどう?」
「最高だよ。でも、ちょっと眠い」
「そっか、おやすみ」
「おやすみ。ありがとね」
それが夏子の、最期の言葉だった。
お読みいただき誠にありがとうございます。
先週はお休みしてしまい大変恐縮です。




