このままずっと
うああ、今回の風邪はしんどいな。
普段難しいことなんか考えない私が就職のことで悩み過ぎて頭がパンクしたんだ。からだが拒否反応を起こしてる。
それで3日も寝込んでる。
すごいなぁ、波定は日頃から難しいこと考えまくって、そんな中で勉強して、私のイジメも含めて色んなことを乗り越えたから、今いい大学に行けてるんだ。
私も波定に勉強を教えてもらったおかげでそこそこいい大学には行けた。
でも、イジメなんてくだらないことをしてないで、その時間に勉強したり、波定とか友だちと仲良く遊んでリフレッシュしてたら、頭も心も軽くなって、波定と同じ大学に進んで、就職したい会社とか、将来やりたいことも見つけられたんだろうなってよく思う。これはもう、限りなく確信に近い感じで。
ほんっと、くだらないし最低なことしてきたんだな、私。
こうしてイジメを後悔するのは、もう何度目のことか数えきれない。波定にも本当に悪いことをした。
今回の風邪もいつも通り家にお医者さんを呼んで注射を打ってもらったけど、良くならない。
人生のすごく大事なときに出した熱が下がらない。
これはきっと、イジメの罰が当たったんだ。
波定が許してくれても、神様は許してくれない。
そりゃそうだ、悪いヤツがのうのうと生きて何の報いもなかったら、イジメとか犯罪が横行して世界がぶっ壊れる。
「あううう……」
苦しい。本当に苦しい。熱が昨日より2℃上がって41℃。
死にそう、冗談抜きで本当に死にそう。
「大丈夫?」
私が悶えて転げ回る布団の脇に、波定は朝9時から夕方4時の今までずっといてくれている。
彼が用意してくれた氷袋を額に当てると、精神的にはちょっと楽になる。
20分おきにそれを取り替えてくれて、家の氷が尽きて氷屋の塚田まで買いに走ってくれた。
もう本当にやさしすぎて、彼が出て行っているときだけ、私は声を出して泣いている。親は仕事でいない。
「大丈夫じゃない」
「からだ拭く? 冷たいタオルで」
「恥ずかしい」
「今さら何言ってるの?」
「汗だくだから」
「体臭くらいもう何度も嗅いでるよ。いまでも臭ってるし」
「一言多いよ」
一言発するだけでも喉に激痛が走る。相手が波定じゃなかったら頷くのもしんどい。
「ごめん」
「うん。じゃあ、せっかくだから、お風呂入りたい。頭もべっとりしてて気持ち悪いから」
「熱出てるのにいいの?」
「うん、かえって入ったほうがいいらしいよ。でも、湯舟はきついからシャワーだけでいい」
「わかった。じゃあ入ろうか」
頭がガンガンして意識が朦朧とする中、波定の肩を借りてどうにか風呂場に辿り着き、衣類を脱がせてもらった。波定は脱がないで、そのまま狭い浴室に入った。三助さんだ。
1分間、シャワーの冷たい水を流してお湯になる。湯気が舞って、床や壁面のタイルも温まってくる。
シャンプーをしてくれる波定の手はごつごつしてるけど、心が繊細だからか指使いが丁寧で、ちっちゃいとき親父に洗ってもらったときとの感触とはまるで違う。
「痒いところ、ない?」
「てっぺん」
申し出ると、波定は丁寧にそこをマッサージしてくれた。気持ちいい。
このままずっと、洗ってもらいたい。
そんな願いもむなしく、シャンプーが流されて、コンディショナーを万遍なく塗って、また流して、最後に首から足の先まで丁寧に洗ってもらった。
きっと私が言えば、彼はいつまでだって洗ってくれる。
けどそれはいくら病人でも申し訳ない。
「波定も洗ってあげる」
だから今度は、私が彼を洗いたい。
「無理しないでいいよ」
その口調は穏やかで、やさしかった。
病気のとき、人のやさしさはいつもの何倍も胸に沁みる。
それだけで病気が治っちゃいそうなくらい。
「無理じゃない。私がそうしたいの。しないと死んじゃう」
「洒落にならないよ」
「ならないからさっさと服脱いできて」
半ば強引に持ち込んで、今度は私が波定を洗う。
でも、怠さで手は思うように動かなくて、その間何度も「本当に無理しないでね」と止められた。
それでも私は強引に洗い続けた。
「おっきくなってる」
それを見つけたとき、思わず笑みがこぼれた。
「そりゃあ、からだが密着してるんだから」
からだに力が入らなくて、私は波定の背に身体を預けて洗っていた。
「いいよ」
「いやいや、さすがに41℃もあるのに。僕なんか37℃台でもできなくなるのに」
「うん、私もさすがに動けないから、布団に寝かせてあとは好きにして」
「でも……」
「した後って、体調良くなるじゃん」
「確かに」
それに、同じ症状の風邪を引いた者同士だから、ふれあっても心配ない。たぶん。




