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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
校長先生のお話

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なつかしき時代の茅ヶ崎

 鉄砲道を東に、互いの家のある方向へ相合傘をしながらゆっくり歩いているうちに雨が上がって、天気はくもりになった。


「傘、閉じようか」


 波定のその言葉は、少し名残惜しかった。


「そうだね」


 鉄砲道と一中通りが交わる交差点の一角にあるタバコ屋兼駄菓子屋でバニラのアイスバーを買った。


 その場でアルミの包みを外し、ぺろぺろ舐める。どうしてかこの安っぽいアイスが、私はとても好きだ。


 私の好物はアイス類全般。小学校高学年から食べてないけど、紙芝居を見に行ったときに語り手のおじいさんから買うアイスキャンディー、これまたご無沙汰になっている、すぐそこの脇道を入ったところにある氷屋、塚田つかだのかき氷。


 かき氷といえば氷の上にシロップをかけるのが主流だけど、塚田のかき氷は先にシロップを入れて、その上に氷を盛る。まずは氷そのものの味を感じて、それからかき混ぜる。そうすると甘さがしつこくなくなる。


「ラーメンを食べてからのアイスだなんて、きょうはとても贅沢をしているな」


「いいじゃん。ケチケチしてると運気下がるよ!」


「でも、財産は限られてるし」


「そりゃそうだけどさ。じゃあ私が無駄遣いしたかしてないかの見極めかたを教えてあげる!」


「そんな方法があるのかい?」


 とろけて木のスティックまで滴り落ちてきたアイスの表面をぺろりと舐めて、私はとっておきの秘密を教える。


「いい? 一生役立つからよく聞いて」


「夏子がそんな大層な知識を保有しているのかい?」


「してるよ失礼な。スティック折られたいの?」


 私は波定の股間を一瞥して言った。


「いいえ。ごめんなさい。どうか無知な僕に知識をお授けください」


「よろしい、では教えて進ぜよう。無駄遣いするとね、胸とか頭がモヤモヤするんだよ。胸なんかもうほんとに猫じゃらしを食べたときみたいにかゆくなる」


「猫じゃらし食べたんだ」


「ちっちゃいときに一回だけね。あれはさすがに危険すぎると思って、もう二度と食べないと心に誓った」


「そうなんだ。僕も今後のために覚えておこう、猫じゃらしの危険性」


「そっちじゃないっつーの!」


 ベシっと頭を叩いてやろうと思ったけど、アイスを食べている最中でスティックが喉に刺さったら大変だから今回はしないであげた。


「あぁそうか、無駄遣いか否かの見分けかただったね」


「そうそう。それで、今回はどうだった?」


 正直、無駄遣いだと言われたら悲しい。きょういっしょにいた時間まで無駄だと言われるようで。


「うん、いい使いかただったと思うよ。ラーメンもアイスも美味しかった」


 波定はアイスを食べ終えた。私もあと一口。


 素直に微笑む彼の横顔に、ほんのりじわじわと愛しさが込み上げて、胸と子宮が疼く。


 でもきょうはラーメンを食べたから、そういうことはしない。誘われても断る。


 私もアイスを食べ終えて、二人で再び歩き出した。


「あ、虹が出てる!」


 雲が晴れ、東の大空にかかる七色のアーチ。


「ほんとだ、雨上がりのご褒美だね」


「うん、なんかしんどいことがあっても乗り越えられそうな気がしてきた!」


「ん? 何かあるのかい?」


「まぁほら、もうそろそろ考えなきゃいけないことが、色々あるじゃん?」

 お読みいただき誠にありがとうございます。


 今回登場の駄菓子屋は木造からコンクリートに建て替えられ、後に真幸や美空が待合せたり缶入りナタデココを買ったりするコンビニとなりました。そのコンビニも現在はなく、歯科医院になっています。


 塚田のかき氷ももうありませんが、唯一ラーメン屋だけは残っています。シンガーソングライターの桑田佳祐さんも好きなお店で、私もときどき行く、ノスタルジックなお店です。

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