私がオバサンになるころには
受験に失敗した私は第2志望の大学へ進み、彼氏の波定とは別々の進学先になってしまった。
あぁもう、もっと私の頭が良ければ……。
それでも波定との交際は続いている。
私と波定はいま、雄三通りにある狭いラーメン屋のカウンター席で二人揃って味噌ラーメンを黙々と啜っている。パンチの効いたスープがコシの強い麺によく絡む。
客は私たちしかいないけど、このラーメン屋、食べながらおしゃべりする人は少ない。ラーメンを思う存分味わいたいから喋ろうとも思わない。
ラジオと雨音、黙々とラーメンどんぶりを洗う店主。
目まぐるしく変わる時代と暮らしの中で、この店は子どものころから変わらない。
ラーメンなんてそう滅多に食べられるものじゃないけど、アルバイトを掛け持ちしたら月1回くらいは食べられるようになった。
私がオバサンになるころには、毎日食べられるくらいお金持ちになれてるといいな。
季節は6月、きょうは雨。
街のあちこちに紫陽花が咲き乱れ、その葉の上をカタツムリがニョキニョキ這っている。
湿っぽくてイヤな季節だと思ってたけど、波定と付き合い始めてからはこんな季節も少しくらいなら悪くないと思うようになった。
お読みいただき誠にありがとうございます。
今回はお話が短いため、近日中に臨時更新を予定しております。




