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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
校長先生のお話

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120/307

めちゃくちゃ尻に敷かれた

「うーん! 遊んだ遊んだ! これからボウリングでもやる?」


「もう無理だよ、体力の限界」


 海を見渡すホテルの屋上プールで遊ぶこと3時間。僕も夏子もこんがり日焼けした。これは今後しばらく肌がヒリヒリして大変だ。


 水遊びはとても体力を消耗するもので、全身がぐったり重たい。


 このホテルの別館にはボウリング場があるが、とてもそのようなことをできる余力はない。


 夏子の体力を、僕にも少し分けて欲しい。よくそんなことを思う。


 空が紅に染まり始めるころ、プールの客は少しずつ引き上げて行き、やんちゃな男子学生は自宅へ、大人のカップルは螺旋階段を囲うように設置された斬新なホテルの客室で熱いお茶を飲み、プールでの冷えを癒すだろう。


 お金のない僕らは富士に沈む夕陽のまばゆい光と潮風を浴びながら、濡れた身や水着を少しばかり乾かす。


 眼下には3年前まで過ごした第一中学校。俯瞰して見ると、どこか郷愁が込み上げてくる。不思議なものだ、中学校の脇は卒業後も何度も通っているというのに。


「茅ヶ崎はいい街だね」


 夏子の濡れていた髪が徐々に乾き、彼女の耳や頬をさらさら掠めている。


 それを見た僕の鼓動が少し高鳴り、うなじや胸、尻につい目が行ってあそこがぴくぴく元気になるのを理性で抑える。


「そうかな。東京からの観光客はだいたい鎌倉か藤沢の江ノ島止まりで、茅ヶ崎までは来ないじゃないか」


 ついでに言えば茅ヶ崎を通過して箱根や伊豆に行く人も多い。


 神奈川県中央の沿岸部に位置する湘南の代表的な観光地といえば、鎌倉と、隣町藤沢の江ノ島。


 鎌倉は言わずと知れた古都。江ノ島は、まるで浅瀬に浮かぶ鯨のような島の形状が人を惹き付けるのか、はたまた所どころにある断崖絶壁からの景色が良いのか何なのか、理由はよくわからないけれど多くの人で賑わっている。


 対して茅ヶ崎と言えば、大金持ちが別荘を建てたり、病で苦しむ人が療養の地として利用する、陰と陽でいえば陰の街。


 陰でありながらも夏子のような底なしに明るい人が多く、僕みたいな内気な者はそういう輩によく振り回される。


「そりゃ、まぁね。鎌倉とか江ノ島は派手なレジャースポットで、茅ヶ崎はのんびりした癒しの街だから。すごいものっていえばこのホテルくらいしかないけど、都会より時間がゆっくり流れてる気がする」


「そうなのかな」


 僕は都会にはあまり行かないから感覚がわからない。


「そうだよ、治安だっていいし」


「僕の中では夏子みたいなのが治安を乱している印象が強いけど」


「私はもう乱してないし、反省しました。中学のときは好きな人に一年間も口利いてもらえなかったからさ」


「そうなんだ」


「お前のことだろ!」


 ベシっと、ネコみたいに丸めた手で頭をどつかれた。


「いたい」


 ぎゅっとげんこつでどつかれていたら、たんこぶができただろう。


「自分のことだってわかってるのに他人事みたいな言いかたするからじゃん」


 フグのように頬を膨らませる夏子を可愛いと思いつつ、右手がげんこつになっているのに気付いた。


「こんなのがいっぱいいるから茅ヶ崎の治安は……」


「なんか言った?」


 げんこつを振り上げる夏子。


 こういうところはいじめっ子だったころから変わっていない。


「いえ、なんでもありません……」


 ホテルを出た僕らは家族が留守の夏子の家でいっしょに入浴し、その後、暗い部屋の布団の上でめちゃくちゃ尻に敷かれた。


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