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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
校長先生のお話

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イジメられた相手に告白された僕

 彼女は僕にとって、初めての恋人だった。


「あの、ね、実は私、あんたのこと、好き、なの」


 決して忘れ得ない、中3の1学期、終業式の日。屋上に呼び出され、告白された。


 当時はまだ松の木が低くて、海がもっとよく見えた。きらきらしていて、本当に青春らしい一幕だった。


 だが僕は戸惑った。なんていったって、僕、松永まつなが波定なみさだは彼女、鶴沢つるさわ夏子なつこにいじめられていたのだ。


 大人しくて男らしくない、ウジウジしてる、気持ち悪いなどの罵倒。


 一度きりだが、教室の机、教科書や筆箱を入れるラックにはゴキブリの死骸を仕込まれた。


 おかげで他のクラスメイトからもからかわれ、ゴキブリ野郎、不潔にしておくからゴキブリに入られるんだと散々罵られた。


 入浴は毎日欠かさず、もちろん頭やからだだって毎日洗っている。手だって小まめに洗っている。用を足した後、石鹸を使わずに水で軽く洗っているだけの君たちのほうがよほど不潔じゃないか。


 なのに僕は、夏子が仕込んだゴキブリのせいで汚物扱い。交流のなかった上級生からもからかわれた。


 それだけじゃない。休み時間は校舎の隅で、気持ち悪い、気色悪い、死ね、ほか何を言われたか一つひとつ思い出せないほどたくさんの言葉の暴力を受けた。掃除当番の押し付けも常態化していた。


 僕は夏子との接触を避けるため、何度か学校を休んだ。


 ストレスで腹を下し、始業時間の8時半に間に合わない時間までトイレに篭っていた日もしばしばあった。その日も学校を休んだ。


 死にたい。この眠りが最期であればいいのにと祈った午前3時を何度繰り返しただろうか。


 死の淵まで追い詰めておいて、実は好きだから付き合ってほしいだと?


 ふざけるな、なんて酷い冗談だ。


 これで僕が承諾したら、嘘の告白をしたらオッケーされた、馬鹿なヤツなどと周囲に言いふらして更にいじめをエスカレートさせるに違いない。


「いや、です」


 口籠ったが、僕の気持ちは伝わっただろう。


「本当に、本当に好きなの! いままでのことは本当にごめんなさい! なんていうか、普通に接したいのに素直になれなくて、いじわるばっかりして、酷いことしたって思ってる。だからもう、そういうことは、やめる。本当に、すみませんでした」


 捲し立てた彼女は、その場で土下座した。継ぎ目に苔生こけむす、臭うコンクリートに。


 そこまでして、そこまでして、僕をはずかしめたいか?


 なんという執念しゅうねんだろう。たった一人の気に喰わぬ者を貶めるために、土下座までするとは。


 その心意気を、公共の福祉への貢献とか、良い方向へ活かせばいいのに。


 中学生ながらに、僕はそんなことを思った。

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