パンツも露出して開脚してよ
トビが弧を描く空を仰ぎ、校長が話を始めた。彼は始業式や終業式の挨拶を簡潔に済ませると生徒から評判だけれど、今回は少し違った。
校長と込み入った会話をする機会など滅多になく、僕らはきっといま、貴重な時間を過ごしている。
つまり僕らは、普段胸の内を明かしたり、小難しい話や説教もしない校長に、正面から向き合って会話する相手に選ばれた、ということか。だとしたら光栄だ。
「正直、思うよ。入学式、終業式の日は特にね。それで休み明けの始業式、やはりいなくなってしまったかって。だが、仕方ないといえば仕方ない。僕は本校だけでも2千人以上と常に関わっている。
人と関わるということは、その数だけの別れがあるということだ。悲しいけれどそれは宿命で、どう足掻いても変えられない。その覚悟を抱いて、僕は本校の長になった。
これは余談だけどね、学校以外でも色んな人の死を見てきた。今後君たちが大人になって社会に出れば、イヤでも多くの人との関わりが生まれる。そしてその中には、やはり若くして亡くなられる方もいらっしゃる。そうして段々と感覚が麻痺してきて、別れに慣れてしまったんだよ、僕はね。
けれども、明日は我が身、という懸念はどうしても付き纏って、他人の死には慣れたのに、いざそれが自分に降りかかると思うと怖いものだよ。痛みや苦しみ、徳のなさ、不安は尽きない」
神妙な面持ちで己を蔑む校長に、僕は人間らしさ、生物らしさを感じた。
他方友恵は伏し目がちに、切なさを滲ませている。なびく髪やスカートが、僕ら男より感情を豊かに語っている。
普段は卑猥なことしか言わない女の子だけれど、他者の感情に人一倍敏感で、繊細。
僕が一を感じれば、彼女は百を感じていると、勝手にそう思っている。
「あとね、実は僕、恋人を亡くしているんだ。さっき言った湘南ガールね」
校長が打ち明けた途端、伏し目がちだった友恵は上目遣いで彼を見た。無論、女性的なあざとい動作ではなく、相手に関心を示すものだ。
それは僕も同じで、校長を真っ直ぐ見つめている。
「君たちは、僕から目を逸らさないんだね。ふうん、面白い。変わり者だ」
「少なくとも友恵は校長の前で股を開くくらいには変わってますね」
なお僕自身も変質者の自覚はある。
「股くらい誰の前でも開くし!」
「開かないだろ普通!」
「じゃあ15組あたりの女子を見てごらん」
「あいつらもどうかしてるんだよ!」
「あれが女の実態だよ。真幸だってわかってるでしょ?」
コミケ帰り、茅ヶ崎駅での美空の病み芝居を思い出した。女子校にはどこから生えたのかわからない毛が散らかっているというあの話。
「うん、そうだね、じゃあパンツも露出して開脚してよ」
「そっ、それは、だめ……」
座ったままきゅっと両手でスカートを押さえ股間を隠す友恵。恥ずかしがるその表情を見たくて、僕は友恵をからかった。
「ていうか真幸、ちゃんと校長の話聞こうよ」
「うん、そう、だね。失礼いたしました」
真面目な話題の最中で猥談は不謹慎だったと、僕は己の愚行を省みた。




