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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2007年8月

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サザンビーチちがさき花火大会

 梅雨が明け、平塚の七夕まつりや茅ヶ崎の浜降祭(朝方、神輿を担いで海に入る奇祭。夜中に社を出発し、数発花火が上がるので住民は眠れない夜になったり起きてしまったりする)が終わり、少しずつ日が短くなってきた8月最初の土曜日。


 きょうはサザンビーチちがさき花火大会。


 自身が焼肉になってしまいそうな昼が過ぎ、海風が火照ったからだを気休め程度に冷やしてくれる夕方。私は真幸、友恵ちゃん、三郎さん(未だに彼をどう呼べば良いかわからない)とサザンビーチに来ていた。


 ビーチにはまだ陽が暮れていないのに多くの見物客が押し寄せ、砂浜に乗り入れる満員の臨時バスからは汗で汗を洗った人々が鉄砲水の如く流れ出てきた。


 砂浜に乗り入れる路線バスって珍しいな。私は呑気にそんなことを思っていた。


「あっつい、裸になりたい」


「なれば? 花火のノリでずっこんばっこんされまくっちゃうかもよ」


「誰でもいいわけじゃないからね」


「ふぅん」


 最近、真幸と友恵ちゃんの親密度が上がったようなので付き合っているのかと真幸に訊ねたところ、どうもそうではないらしい。


 もしや真幸の突起物が退化して中性化したのだろうか。


 それは困った。昨夏、箱根で私なんぞの貧相なからだに反応したあの貴重な突起物がなくなったとしたら、それすなわち私の女性的価値が下がったに等しいような気がする。


 誰かが言った。貧乳はステータスと。


 しかし、大は小を兼ねるともいう。


 大きいと肩が凝るらしいので、せめて友恵ちゃんくらいのサイズがあれば……。


 そうそう、きょうの私と友恵ちゃんは浴衣を着ている。草履ぞうりは歩きにくく、やけに胸元が涼しくて変な感じだ。


 茅ヶ崎だから市の方針に則ってアロハシャツのほうが動きやすい気もしたけれど、友恵ちゃんには似合っても私には似合わない。


 余計なことを考えているうちに日が暮れて、パンパン! と小さな花火が2発上がった。花火が始まる合図だ。


 会場は異様な熱気に包まれ、うひょーい! うほーい! うほうほ! 奇声を上げる人が目立つ。まるで野生動物。ペンライトを持って歩く人の姿が目立ち始めた。


「ひゃっほーい! 始まるね!」


 友恵ちゃんも奇声を上げた……。


 さて、気を取り直して花火を見よう。


 まとまっているようであまりまとまっていない私たちは、各々好き勝手に屋台で欲しいものを入手。


 私は宇治金時のかき氷、真幸はブルーハワイと焼きそば、友恵ちゃんはいちご練乳のかき氷とたこ焼き、三郎さんは牛肉の串焼き、焼き鳥、ペットボトル入りジンジャーエール。心は女性のようだけれど真幸より男らしいチョイス。


 サザンビーチの砂浜はあまりにも人が多いので、少し東へ移動した。この辺りはあまり混雑していない。


 ヒューウウウウウウ、ドゥオーン!


 夜の穏やかな波が打ち寄せる砂浜に立ち、私たちは西の海上から上がる花火を鑑賞。


 打ち上がって弾ける度に胸をドンと突かれ、中に溜まっていた淀みが押し出されるよう。


 周囲では子どもを中心に「たーまやー」と歓喜の声が上がる。


 弾けた花火は白い煙となり、海風がそれを北へと押し流してゆく。


 相変わらず蒸し暑いけれど、浴衣の隙間に入り込む風は涼やかで心地良い。


「たーまやー!」


 ん? 背後からアニメ声の歓声が聞こえた。アニメ『みずいも』のみずきというキャラクター(CV:長沼真央)にそっくりな声だ。


「真央ちゃん来たんだ!」


 友恵ちゃんが振り返って言った。私も振り返ったらちょうど江ノ島シーキャンドルから放たれる回転する光が顔面を直撃。地味に眩しい。


「真央ちゃんってだあれお姉ちゃん? 私はみずきだよ?」


「ビール片手に言われても」


 真幸が的確なツッコミを入れた。


 背後から現れたのは人気声優の長沼真央さん。しかし茅ヶ崎市内では普通のお姉さん。私たちの友人でもある。


 会いに行ける有名人というよりは、街でバッタリ会う有名人。


 今回も特に約束はしていないけれど、私たちのいる場所にひょっこり現れた。


 仕事帰りという長沼さんだけれど、ちゃっかり浴衣を着ている(彼女も胸が小さい。しかしセクシー。大人の魅力だ)。左手にはどこかで購入したであろうビールが入った透明プラスチックコップ。


 花火を見ながら、友恵ちゃんと長沼さんはキャーキャー、ほか三人は口は開かず、その代わり目を見開き、幻想的な夏の夜のきらめきに心を奪われていた。


 そういえば、花火大会に来たのは何年ぶりだろう。


 もう何年間もベランダから見ていたから、水面を横滑りして噴水のように弾けるネタ花火の存在など、今の今まですっかり忘れていた。


 横には仲間がいて、ともに瞳を輝かせている。


 これは、真幸と出逢ったからできたことだな。彼と出逢ったから、友恵ちゃん、三郎さん、長沼さんにも出逢えた。


 ピクチャードラマもただいま制作途中。


 これもまた、絵本しか作っていなかった私だけでは踏み入れなかったであろう領域。


 さて、楽しい時間はあっという間。大スターマインが天高く咲き乱れ始めた。フィナーレだ。


「わあ! すごい! すごいよお兄ちゃん!」


 ビール片手に妹ボイスの長沼さん。


「うん、すごい」


 素直にはしゃげない真幸。でも心は躍動しているはず。彼はそういう人。


 やがてすべての花火が打ち上がり、煙が流されてゆく。


 しかしサザンビーチ花火大会は、これで終わりではない。


 先ほどまでいたサザンビーチの砂浜に、突如無数の光が連なった。


 それはやがてこちらの浜でも、ここより東の浜でも。


「あーりがとー!」


 友恵ちゃんがケータイのライトを点灯させ、花火の打ち上がっていた方角へ叫んだ。


 続いて長沼さんや、周囲の観客たちも。


 私、真幸、三郎さんもケータイのライトを点灯。


 そう、これは船上で花火を打ち上げた花火師や、玉を作った職人、玉の製作に必要な資金を提供した法人や個人への感謝の儀式。


 これがあって、サザンビーチ花火大会は完結する。


 心からの「ありがとう」が、茅ヶ崎の浜辺いっぱいに満ちてゆく。


 私、この街で育って良かったな。


 お下品だし距離感無視でグイグイ近寄ってくるし奇怪な人が多い茅ヶ崎で、そう思える瞬間。


 また来年も、このメンバーで来れたらいいな。

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