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嘘つきの電話

作者: 天原ユエ

あなたは、きっと、騙される。

 その悪夢は、一本の電話から始まった。

たった一本の電話が終わりの始まりを告げ、たった一本の電話が始まりの終わりを知らせた。


 四月二十二日、七時二十八分。目覚まし時計のアラームが鳴る前に目が覚めた私は、携帯電話を片手に息を整えていた。

 高鳴る心臓を胸の上からおさえつけ、喉の調子を整えながらその時を待つ。

 時計が七時半をさし、アラームが鳴った瞬間に電話をかける。震える指で一つ一つ番号を入力していく。


《おはよーございます!先輩、朝ですよー!》


 私の愛しの、桜ノ宮薫先輩。クイズ研究会の会長を務める知識人。この学校の入学試験

に首席で合格した秀才。

 大好きな先輩を毎朝のモーニングコールで起こす。それが私、網島真琴の日課。

 これが、私の日常の始まり。あの時私を助けてくれてからずっと続いている、私と先輩の関係。

 それが、たった一本の、あの電話のせいで崩れ去ってしまうなんて、この時の私は思いもしなかった。


 先輩と一緒のバスに乗り、隣の席に座る。一番後ろの座席の左端。ここが私と先輩の定位置。先に奥に座って待っている先輩の右隣に座り、眠ったふりをして先輩の肩に寄りかかって、窓の外の景色を見ている先輩の横顔を横目でこっそり見つめる。今日も凛々しくて素敵。この時間帯は通勤通学でとても混雑するけど、このバス停まではまだ座る余地があって、そこは空いていることが多い。学校は終点だから、それまでは先輩の隣に座っていられる。つまりは先輩を独占できる、私の至福の時間。


「犯人、まだ捕まってないんでしょ?」

「怖ーい」


 しばらくバスに揺られていると、他の客の迷惑も考えられないような馬鹿丸出しの声量で女二人が噂話をしているのが聞こえる。

 彼女たちが話しているのは、二年前から世間をにぎわせている爆弾魔のことだ。自称“嘘つき小僧”は、エイプリルフールになると決まって爆弾を送り、その場にいた人間にクイズを出題する。正解できなかったら爆破、という命懸けのゲームを強要するのだ。

 これまでに四件発生して、四人全員が爆弾の犠牲になっている。

 二年前の四月一日に起きた一件目は学校からほど近いパチンコ店で、客としてパチンコに勤しんでいた無職の男性。

 二件目は去年、この付近のある民家で、その家主である独身女性が。

 三件目、とある政党に所属している議員の事務所とその政党子飼いの学生団体本部で、その議員と団体の団長。

 それぞれの現場の場所こそ近いものの、同時多発的に起きた三件目をのぞき犠牲者や現場に一貫性がなく、捜査は難航しているらしい。遺留品――特に爆弾の残骸――はインターネットで注文すれば誰でも容易に入手可能なものばかりで、犯人逮捕の決定的な証拠は未だに見つかっていない。

 コメンテーターや専門家が、やれ「現政権に不満を持つ者の仕業に違いない」だの、「社会に不満を持つ若者の凶行」などといかにもといった顔で分析しているが、どうもこじつけがましく的外れだ。

 この手の愉快犯に一般人の常識や思考回路なんて通用しない。そもそも、人の心なんて簡単に分かるものじゃない。だからこそ事件を未然に防ぐことは困難を極め、犠牲者が出てしまった後、そこから出る証拠をもとに捜査し、犯人を逮捕するほかなく、結局は後手に回るしかないのが現状なのだから。

 問題なのは、一般人の中にも“嘘つき小僧”を支持する人が出始めたということだ。

 一件目のパチンコ店で犠牲になったのは生活保護を受けていながら、尚もあしげく通っていたギャンブルジャンキー。

 二件目の犠牲者は待機児童を保育園に入れられなかったとしてデモを扇動したにもかかわらず、実際は結婚どころか妊娠すらしたことも無く、飼い犬の飼育代ならまだしも遊ぶ金欲しさに心にもないことをブログに書き連ねた経歴詐称塗れの女。

 三件目に至っては売国奴とも揶揄された元首相と、(馬鹿丸だしの)若者代表として祭り上げられ、自分の意見を通すためなら公共の迷惑など意にも介さない傀儡。

 自分たちこそが正しいと喚き散らし、論破されると論点をずらしてうやむやにして逆恨みするような、人に迷惑をかけているという自覚すらない、真っ当な感性を持っている人からすれば寧ろいなくなってほしいと思う者たちばかりだった。

 手段はどうであれ、その願いを実行に移したことは人々の関心を集め、日頃の鬱憤を代わりに晴らしてくれたと言わんばかりに、ネットではカルト的な人気を集め、ファンサイトまで作成されている始末だ。

 最近では模倣犯もでてきたのか、今年のエイプリルフールは特に大騒ぎだった。ただ、模倣犯とは言ってもただの冷やかし程度で、実際に爆破を行ったのは本物ただ一人だけだったのは不幸中の幸い、なのだろうか。

 それでも、人と言うのは飽きっぽいもので、二週間もたてば噂話に少しだけ話題に上がる程度で、四月の頭にはあれほど連日ワイドショーで取り沙汰されていたのが嘘のようだ。そもそも“嘘つき小僧”なる爆弾魔は存在しないのではないかなどとも思えてくる。


「あのパチンコ店、とうとう取り壊されたのか……」

「……仕方ありませんよ。あの事件以来客足が途絶えちゃったんですから」

「良いことだ。これで少しは馬鹿どもも目覚めてくれればいいが……」


 ここで言う馬鹿どもとは、先輩曰く「馬鹿御用達全自動搾取マシーン」で有り金全部融かす社会不適合者のことで、胴元が肥えるために浪費された金が全て市場に回れば景気は良くなるはずであり、それをしない彼らは日本経済を疲弊させる害悪、らしい。

 現に先輩はバスに乗りながらこのパチンコ店と、開店前から列をなし並んでいる客たちを目にした瞬間眉間にしわが寄り、舌打ちを連発する。貧乏ゆすりが激しくなり、歯ぎしりも大きくなる。経営者には悪いけど、先輩を苛立たせるものなんてこの世には存在しちゃいけないから、無くなって清々したと思っている。

 ちなみに後から聞いた話によると、近くを歩いている時看板に頭をぶつけた記憶がよみがえったとか。そう言う粘着質な部分も先輩らしいと言えば先輩らしいし、そんなことで私は先輩のことを嫌いになったりしない。


「“嘘つき小僧”……、ぜひとも会って話してみたいもんだ」

「冗談ですよね?」

「……アンタには関係のないことだろ?」


 バスが終点に到着し、私たちは下車して授業へ向かう。

 ――折しも今日というこの日、先輩の冗談ともとれるこの願いが叶うことになってしまった。先輩が次のターゲットとなるという、最悪の形で。


「なぁ真琴。これ、何だと思う?」

「……しいて言うなら、イースターエッグ、ですかね?」


 部員数二名のクイズ研究会の部室、そのテーブルの上に“それ”は鎮座していた。殆どの生徒が帰途に就くか部活に勤しんでおり、いつもより早く授業が終わった先輩も、夕暮れ時に部室でゆっくり過ごそうとソファーに寝転がっていた。“それ”を目にしたとき、思わず二度見してしまった先輩の表情は忘れられない。いつもクールな先輩の、点になった目が見れるなんて思わなかった。初めて見る先輩の一面に私の心は踊り、それ以外の異常な光景なんて気にもならなかった。部室の隣、演劇部の倉庫として使われている部屋の前でセリフの練習をしている部員たちの喧騒も耳に入らない。

 “それ”は卵の形をしていた。一抱えもあるほどの巨大な、という言葉が文頭につくが。底が平たいので自立できており、表面は色とりどりの絵具で華々しい模様が描かれている。

中央にはギザギザに分割線が入っていて、卵を割るように蓋を開けることができる。

 それはまさしくイースターエッグ。キリストの誕生を祝う、墓とそこから抜け出すことによって復活する命の象徴。

 その隣に置いてある携帯電話からガブリエル・フォーレのレクイエム第一章がバイブレーションを伴って流れている。

 先輩は戸惑うことなくそれに手を伸ばし、通話を始めた。


「もしもし?この携帯電話の持ち主かい?」

≪そうダネ。でもいいンダ。ソレはキミにあゲる≫

「……随分と機械的な声だな。変声機でも使ってるのか?」

≪ゴ名答。ついでに自己紹介でもしておこうカ?ボクは“嘘つき小僧”サ。さて、ボクとゲームをしてもらうよ?桜ノ宮薫さン?≫

「へぇ、アンタが。ってことはコレもアンタの贈り物かい?」

≪その通リ。ま、開けてミナって。大丈夫大丈夫、開けタ途端にボーン!なんてツマラナイことシないかラ≫

「じゃ、お言葉に甘えて……」

「えっ?!ちょっと桜ノ宮先輩、それ開けるんですか?こんな不審物警察に任せましょうよ!」


 先輩はお構いなしにイースターエッグを開けた。通話状態の携帯電話を手放さず、左手だけで。


≪気に入ってくれたカナ?ボクの特製『イースターエッグ』ハ?≫

「……復活祭も四月馬鹿もとっくに終わったイベントなんだが?」


 その中にあったのは、赤と青二本のコード。刻一刻とカウントダウンを刻むデジタル数字。アンテナの様な黒い棒。ビニールでくるまれた箱型の粘土のような固形物には『C4』の二文字。

 素人目に見ても爆弾を連想する中身を前にしてもなお、先輩は特にこれと言って驚くこともなく冗談半分に返す。


≪確かにボクは嘘つきだけど、エイプリルフールにしか爆破しないなんてボクは一言も言ってないじゃないカ。それに、東方教会はまだ今年の復活祭を迎えちゃいないヨ≫

「文句の返しようがないな。……いや、誕生祭祝いに鎮魂歌はどうなんだよ」


 未だ先輩はその余裕を崩してはいない。動じていないともとれるが、事態を楽観視しているようにも見えてしまう。


≪……イマイチ信じてないみたいだネ≫

「ただの模倣犯、冷やかしって可能性もある。アンタが本気なら、その証拠を見せてもらいたいものだね」

≪……そこから、二宮金次郎の像が見えるカイ?≫

「あぁ、『座って勉強している二宮尊徳像』がな。まったくもって忌々しい」

≪キミはあの像が嫌イなんダロ?≫

「声の大きい馬鹿どもが物の本質を知らずに喚き散らして、極一部の意見を全体の総意とはき違えて調子づいた結果があのザマだ。あれを見るたびにそれを思い出して虫唾が走る」

≪じゃぁ、あれには消えてなくなってほしいと思っているワケダ≫

「是非ともね。視界に入らなくなればどれほど清々することか」


 先輩はソファーから腰を上げると窓を開けて、『座って勉強している二宮尊徳像』を見ている。

 数秒後、そこから火柱と黒煙が上がり、少しの拍を置いて爆音が部室に響き、先輩の髪が大きくなびく。像があった台座には焦げ跡以外残っていない。爆風によって吹き飛んだいくつかの残骸が台座の周囲に落ちて砕けていく。


≪どウ?気に入ってくれたカナ?≫

「あぁ、いくらか気が晴れた。が、完全にとはいかなかったようだな」

≪そっちに割いた分で勘弁してくれヨ。デモンストレイションで全力を出し尽くすわけにもいかないダロウ?≫

「もっともな意見だ。アンタとは本当に気が合うね。こんな出会い方じゃなかったらきっといい友達になれただろうに」

「言ってる場合ですか桜ノ宮先輩!」


 私は嘘つき小僧に嫉妬している。私を差し置いて先輩に気に入られるなんてズルい。……なんて、そんなこと考えてる場合じゃないんだけど。


≪サテ、証拠をお見せしたところで本題ダ。タイマーを見たマエ≫


 赤く光るそれが告げるカウントダウンは、残された時間が三十秒も無いことを示していた。


≪死にたくなけれバそのアンテナを握ることダ。ただし、一度握ってから離すとその瞬間ドカンだから、気を付けテね≫

「……っ!」


 ここで初めて先輩の顔に焦りが見える。仮に今すぐ逃げ出したとしても間に合わない。かと言ってアンテナを握ってしまえばもうゲームを降りることは出来ない。これまで四人を殺してきたゲームに勝たなければならない。

 アンテナへと延びる手は震えていて、しかも驚くぐらい緩慢な動きだった。恐れや躊躇と言った感情が理性を押しつぶしている。

 そんな先輩を見て私は――。


「真琴っ、お前何掴んでるんだ!?聞こえてたのかよ?!離したら爆発するんだぞ?!」

「……桜ノ宮先輩にだけ命をかけさせるわけにはいきませんから。桜ノ宮先輩を見捨てて自分だけ助かろうだなんて、したくありませんし、できません」

「……馬鹿だな。大馬鹿だ」

「桜ノ宮先輩ほどじゃありませんよ」

≪――茶番は終わったカナ?≫

「あぁ悪いな、待たせたかい?」

≪マァいいサ。され、じゃぁゲームのルールを説明シヨウ。一回しか言わないから、よォく聞くことダ。でないト、お嬢さんもろとも吹き飛ぶことにナル≫


 先輩の喉が動き、生唾を呑み込む音が聞こえる。極度の緊張状態。これから行われる説明に全神経を集中させる姿を私は固唾を呑んで見守る。胸の高鳴りを抑え、呼吸を整え、乾く唇を舌で湿らせ、昂る気持ちを落ち着かせる。


≪ゲームと言ってモルールは簡単。今から三十分後、そのカウントダウンがゼロになるまでにその爆弾ヲ解除すればイイ。解除出来たラ君の勝チ、出来なかったらボクの勝チ。そしてこれから解除するためのヒントを教えてアゲル。メモの準備は出来たカナ?≫

「……いや、いい。一度聞けば丸暗記できるからな」

≪そう?じゃぁ、いくヨ?……ボクは嘘つきダ。どれだけ正直に話そうとしてモ、必ず一つ、話の中で嘘をツク。それを念頭に置いてクレ≫


 これから始まる、先輩と嘘つき小僧の対決。不謹慎なことだけど、私は口から心臓が飛び出てしまいそうなほど心が躍りそうだ。先輩の真剣な表情はいつ見ても最高で、三年前の今日、車に轢かれそうになったのを先輩に助けてもらったとき以上にときめいている。


≪爆弾は大キク三種類のパーツに分類できる。爆薬と、起爆装置と、電源ダ。電源から一定時間、一定の電圧が供給されると起爆装置が作動し、爆薬が爆発するってワケ。ダカラ、爆弾を解体するには、源か起爆装置を機能させなくすればイイ。大ざっぱに言えば、電源と起爆装置をつないでいるコードをすべて切断してしまえばそれでおしまいってワケさ。爆弾を作るものにとっては、いかに電源と起爆装置を守るかが重要デ、その為に色々とトラップを仕掛けるってワケ。水銀スイッチや感光センサーなんかが代表的ダネ。マァ実際の解体は液体窒素ですべてカタが付くンだけド。でも素人である君たちにソンナ小難しい細工や専門知識がないと解けないような仕掛けは荷が重いダロウ?液体窒素もオイソレと使えルものじゃないシね。だから、極限まで簡単にしておいてアゲたんだ。それがその赤と青の二本のコードってワケ。爆弾解体と言えばコレ、みたいなテンプレを用意してアゲタんだから、感謝してよ?≫

「もはや古典の域だな……」


 先輩がボソリとこぼす。あるハードボイルド映画のクライマックスシーンを発端に、様々な小説やマンガやアニメやドラマや映画における爆弾処理の演出の定番となり、使い古されたシチュエーション。このような構造である必要が微塵もないのに、脅迫の方法や犯人との駆け引きに引っ張り出せるようになってしまった、独り歩きした図式。


≪赤と青、どちらかのコードを切れば助カル。カウントダウンがゼロになっても爆発はしなイ。選択を間違えればキミは血の海へ沈むことにナル。赤は暖色、青は寒色だから、人間の心理及ビ電子工学の原則としては赤を「ホットエンド」、青を「コールドエンド」として、コールドエンドを断てばセーフと言う回路構造にすることが多いらしいヨ?でもボクは赤が好きダナぁ。ボクのラッキーカラー、運命の色は赤なんだケド、キミはどう思ウ?映画の中じゃ「青を切れ」って犯人に言われて赤を切った。ドラマでもあったネ。あれは犯人の心を読んだと思わせておいての神頼ミだったケド。でもボクとしては「赤い糸を切りたくなかった」っていうノもロマンチックでイイナぁ。キミはドッチ?リアリスト?それともロマンチスト?最後に一つダケ言っておくネ?キミの今日のラッキーカラーは青ダヨ。じゃ、頑張っテ。三十分後にマタ電話スルヨ≫


 通話が終わった。先輩は目を閉じて、ヒントを反芻している。


「アイツのラッキーカラーは赤、俺のラッキーカラーは青……」

「赤を切られるのがラッキーなのか、残されるのがラッキーなのか……。青を残すのがラッキーなのか、切るのがラッキーなのか……、ですね」

「アイツは自分から自身を嘘つきだと言った。必ず一つ、話の中に嘘をつくと。それは裏を返せばその嘘以外はすべて真実だということ……」

「それが嘘だったらどうするんですか?」

「いや、それは無い」

「根拠は何です?」

「アイツはゲームを楽しんでいる。そんな奴が、ゲームの前提として成り立たないような条件を作るわけがない。こういうタイプの人間はな、絶対に解けない問題は出してこないんだ。解答者が間違えたり、答えられないのを見て、「こんな簡単な問題も解けなかったのかお前は」と言いたいんだよ。冷静であれば簡単に解けるような、そんなギリギリの問題を出して、答えが分からず焦って、答え合わせの時に悔しがる解答者を見ながら面白がる。そう言うタイプだ。だからこそ、究極の二択クイズで迫ってきたうえにヒントまで与えてきたんだ。優越感に浸るためにな。……真琴、鋏か何か、持ってないか?」

「え?あ、あぁ、そうですね。コードを切るには必要ですからね……。えっ、と……、その……、鋏はありませんけど、爪切りが……、あるにはあるんですけど……、その……」

「歯切れが悪いな。ひょっとして、そのスカートのポケットの中、とかか?」

「……その通りです」

「で、今は両手でアンテナを掴んでいて離すことは出来ない。取り出すためには両手が開いている俺がまさぐるしかない、と」

「説明しないでくださいよぅ……」

「仕方ないな、ちょっと我慢してくれ」


 先輩は立ち上がって――、何をする気なんですか?!


「えっ、そんな!だ、駄目ですよ桜ノ宮先輩!」

「安心しろ真琴。ちょっとここから離れるだけだ。ラジオペンチをとってくる」


 ……勘違いをした自分が情けなくて恥ずかしい。先輩は部室の道具箱から目的の物を取り出すと、それをテーブルの上に置いた。先輩の趣味で使われるそれは、コードを切るにはうってつけだった。私としたことが失念していただなんて。思わせぶりなセリフを言う先輩がいけないんだ。

 その途中で先輩と目が合ってビックリしてしまったのは口が裂けても言えない。


「桜ノ宮先輩はもうどちらを切るか、もう決めたんですか?」

「……そうだな。これから俺のするべきことはもう決まったよ。ただ、踏ん切りがつくギリギリまで待ちたい。この選択が命を懸けるに値するかどうか、じっくり検討したい」

「……解りました。桜ノ宮先輩の思うままにして下さい。どの道、この手じゃそれは持てませんから」


 先輩は再びソファーに腰かけて、じっくりと爆弾を見つめていた。カウントダウンはゼロに迫りつつある。しきりに呟いては頭を振る動作を繰り返している。声は聴きとることが出来ず、唇の動きもここからでは読み取れず、先輩が何を迷っているのか、私には理解できなかった。

 刻一刻と時間が迫ってくる。三十秒前になって、ようやく先輩はラジオペンチを掴み、頭上に掲げる。そしてゆっくりコードに近づいけていく。


 5、4、3、2、1、0……。


 ……何も起きない。


「ふー……。どうやら、俺の選択は正しかったようだな……」


 先輩はソファーにもたれかかると、完全に脱力したように背もたれに頭を乗せ、天井を仰ぐ。その手に握られていたラジオペンチはするりと抜け落ち、カツンという音を立てる。

 赤のコードも青のコードもまだ繋がっている。


先輩はどちらのコードも切っていなかった。


「桜ノ宮先輩……!これって……!?」

「しっ、電話だ。予告通り、アイツから、だな」


 再び部室に響くレクイエム。そのパイプオルガンの音は、聞きようによっては、先輩の勝利を祝うファンファーレのようにも思える。

 電話をとる先輩の顔は、弛緩したものから一気に元の凛々しい表情に戻った。まるでこれからが本番と言わんばかりに。


≪解除オメデトウ。……正直に言って、キミには解かれるンじゃないかと思っていたんだケド、その予感は的中してしまったようだネ≫

「御褒めに預かり……と、言いたいところだが、冷静に考えてみれば、誰だってすぐに解ける問題だ。あまり達成感がないし、それが命懸けと来ればなおさらだ。あまりうれしくないね」

≪ふぅン?じゃァどうして解けたのか教えてクレヨ。何故“何もしない”という選択ができたのかヲ≫

「まずアンタが起こしてきた四つの事件、これがどうにも引っかかったんだ」

≪どう引っかかっタっていうのカナ?≫

「確率の問題だ。アンタの出した問題が分かろうが分かるまいが、赤と青のどちらかのコードを切れば助かるのなら、その確率は二分の一。四人が挑戦して、全員が失敗する確率は二分の一の四乗で十六分の一。あり得なくもない確率だが、やっぱり少し不自然だろ?」

≪確かにそうダ。デモそれだけじゃ辿り着けないんじゃなイ?≫

「選択問題のはずなのに、確率以上に極端に正答率が低いのは、思わず選んでしまいそうな偽の選択肢か、意図的に隠された選択肢かのどっちかが存在している場合だけなんだよ」

≪それが、“どちらも切らない”と言う選択肢ダッタと。マダ根拠としては弱くナイ?≫

「まぁそう焦るなよ。アンタのヒントを検証してみたんだ。アンタは話の何処かに一つだけ嘘をつく。それが正しければ、その嘘以外はすべて真実ってことになる」

≪まぁ、そうダネ≫

「つまり、どれが嘘なのかを考えるために、どれが正しいかを検証するってことですね?」

「そういう事だ。最初の爆弾の構造に関する話は紛れもない事実だろう。多少のことなら俺も知っているし、ヒントにもならない些末な場面でアンタが嘘をつくとは思えない。アンタが嘘をつくとすればそれは、爆弾の解除の方法、具体的な答えに関する部分だ。でなきゃクイズやゲームにする意味が無い」

≪それデ?≫

「話の後半、アンタが嘘をつくタイミングとしては最適な色の話題。嘘の可能性が高いのは“アンタが好きな色は赤”か“俺のラッキーカラーは青”だ。通常ならどっちかが嘘でどっちかが真実。その前の話題からアンタが赤色に強い思い入れを持っているのはよく分かった。“どれか一つ”の定義があいまいだが、赤がアンタの好きな色じゃないなら、後の話題と矛盾するわけだ」

「そうですね。赤い糸の話題にしろ、ラッキーカラーの話題にしろ、どれかが嘘ならそれに付随して他の話題も嘘になってしまいます」

「ここまで考えれば俺のラッキーカラーが青でない、という結論になる。だが、ラッキーカラーが分かったところで、それを切るべきなのか、残すべきなのかが解らないままだ。つまり、“俺のラッキーカラーが青”が嘘であったと仮定してもこのクイズには答えがない。結局は運任せになってしまうってわけさ」

≪興味深いロジックダ。考え方は理解できるケド、随分と推量が多いネ?≫

「まぁ、証拠がないのは認めよう。アンタの性格に依存している部分が大きいからな。だが、アンタのヒントの中にも引っかかる部分があったんだよ」

「むしろそっちの方が重要なんじゃ……」

≪それは、何処カナ?≫

「赤と青のコード、どちらかのコードを切れば助かる。カウントダウンがゼロになっても爆発しない。アンタはそう言った。普通ならこの文脈は、“どちらかのコードを切ればカウントダウンがゼロになっても爆発しない”と捉えることが出来るが、それならわざわざ二つの文に区切って言うことはない」

≪言い方が不自然だったことは認めようカ≫

「つまり、そんな言い方をするってことは、どちらかが嘘である可能性が高いからってことでいいんですか?」

「そういう事だ。“カウントダウンがゼロになっても爆発しない”が嘘だとすれば、カウントダウンがゼロになったら爆発ということになり、わざわざ嘘をついてまで隠すことでもない。時限爆弾はそう言うものだからな。だからアンタの嘘は“どちらかのコードを切れば助かる”になる。つまり、“どちらのコードを切っても助からない”ってことだ。ここまで考えることが出来たら話は早い。“カウントダウンがゼロになっても爆発しない”は事実ということになるわけだから、この爆弾の解除方法は“カウントダウンがゼロになるまで赤と青両方のコードをどちらも切断しない”となる」

「ということは、ラッキーカラーは残すべき色だったってことですね」

「青は残す、だが赤も残す。嘘は言っていなかったが真実でもなかったわけさ」

≪……大正解ダ。流石ダネ。桜ノ宮薫≫

「届けられた不審物、謎の電話、予告通りの爆発、爆弾の解体、切るべきコードは赤か青。あまりにもテンプレートな展開のせいで錯覚していたんだ。どちらかのコードを切れば爆弾は無効化できる。裏を返せば、必ずどちらかのコードは切らなければならない、とな」

≪……今回はボクの負けっていう事にしておいてアゲルよ。それじゃ、マタネ≫

「――ちょっと待ちな。こちとらアンタのゲームに付き合ってやったんだ。これからは俺のゲームに付き合ってもらう」

「えぇっ?!」


 先輩は突然何を言い出すの?!せっかく命拾いしたっていうのにまだ続けるつもりなの?!

……ダメダメ、落ち着かないと。冷静になれ、私。


≪ヘェ?どんな?≫

「アンタと同じゲームを、俺がアンタに仕掛ける。それで俺がアンタの居場所を突き止められたら俺の勝ち、出来なかったらアンタの勝ちでいいぜ」

「ちょ、ちょっ――んん?!」

「真琴、少し静かにしていてくれ……、な?」

「むぅ……」

≪ヒヒ……、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!イイね!気に入っタ!受けて立ってあげようじゃないカ!ボクが勝ったら無線でそれを爆破してアゲルネ!≫

「じゃぁ俺が勝ったら素直に自首するんだな」

≪オッケー!……でも同じゲームと言ったって、ボクは何をすればいいんダイ?解体するべき爆弾は手元にないんだけド?≫

「俺が一人で勝手に喋るだけさ。アンタは黙って聞いてくれればいい」

≪ふゥン?まぁ、好きに話しナヨ≫

「じゃぁ行くぜ?俺は嘘つきだ。どれだけ正直に話そうとしても、必ず一つ、話のどこかで嘘をつく」

≪ク……、ヒヒっ!≫


 嘘つき小僧の言い方そっくりに話し始めた先輩。私は言いようのない不安を隠しきれないでいた。


「俺はアンタの正体に大方の察しがついている。そいつは俺がよく知っている人間だ」

≪へぇ、犯人は意外なあの人ダッタ!ってヤツかナ?≫

「俺がそれに気づいたのは、恥ずかしながらついさっき、そう、アンタが電話してきた時さ」

≪ボクガ?≫

「正確に言えば、二宮尊徳像が爆破されたとき、だな」

≪と言うト?≫

「電話の相手に、目の前の爆弾が本物だと証明する一番手っ取り早い方法は、そいつの目の前で別の爆弾を起爆させること。たいていの人間がすぐに思いつくし、爆破予告をする本物の爆弾魔はほぼ全員が同じ手法をとるだろうな。だがアンタはそれを逆手に取った。アンタの本命は、最初のデモンストレーションだったんだ。本当に爆破したかったものをデモンストレーションとして爆破することで、本当の狙いから目を背けさせたかったんだろ?」

≪どうしてそう思うんだイ?≫

「最初の事件はパチンコ店。デモンストレーションで爆破されたのはその看板だった。二つ目の事件では被害者の女性が飼っていた犬の犬小屋、三件目と四件目は犠牲になった議員の選挙カー。そして今回の二宮尊徳像。一見すべて関連性が全くないように見えるが、実はそうじゃない。全部が全部、俺が消えてほしいと願ってやまないモノだったんだよ。それも結構な頻度で口に出していたぐらいな」


 パチンコ店の看板は先輩が頭をぶつけ、先輩の家の近所でよく吠えていた犬は先輩の集中を妨害していたし、選挙カーも同様だ。そして二宮金次郎の像もまた先輩を不快にしていた。先輩にとって、消えてしかるべき存在。


≪……随分と自分本位の考え方ダネ。ただの偶然とは思わなかったのカイ?≫

「偶然が重なっていいのは多くて三つまでだよ。四つ目となると流石におかしいと思うさ。少なくとも、アンタは俺と同じ感性を持っているんじゃないか、ぐらいはな」

≪仮にそうだったとシテ、それでボクの正体が解るトデモ?≫

「大分迫ることは出来るんじゃないか?アンタは俺のフルネームを知っていた。俺が名乗る前からな。つまりアンタは俺のことをよく知ってる人物ってことになる」

≪キミのことはよぉく調べたカラね。デモ、名前を知っているからと言って誰かを犯人扱いできるのカナ?≫

「アンタが爆弾をこの部屋に持ち込むことが出来たってことは、アンタはこの学校の生徒である可能性が高い。最近は不審者が多いからな。学外の人間の出入りはチェックが厳しいんだ。だから不審物を持ち込むことは難しい。だがこの学校の生徒なら別だ。こんな大きな荷物を持って来ていたとしても、部活に使う道具か何かだと思ってくれる。二宮尊徳像に近づくことも容易だしな。この学校の生徒なら、俺のことを調べることも容易だろう。でもな、俺はこれでも結構世間体は気にするタイプなんだよ。不満に思っていることをこぼすのは毎朝乗っているバスの中ぐらいだ。満員のバス内なら乗客の会話やアナウンスやエンジン音に紛れ込ませることができるからな。それ以外では一切口にしたことはない。つまりアンタの正体は、毎朝俺がバスに乗ってから学校に到着するまでの間、俺の独り言が聞こえる範囲にいる人間、ってことになる」


 私は背筋が凍るような思いで先輩の話を聞いていた。唇や喉が一気に水気をなくし、手の震えが止まらない。何か言葉に出さないといけないとわかっているのに、言葉が出ない。


「バスの席には指定席なんてものはないから確実じゃないが、いつも同じ席に座る乗客は多い。お気に入りの場所ってやつさ。実際俺がそうだしな。そこが開いてなきゃ別の場所に座る。それが普通だ。……だがどんな時でも一個人の隣に座るって言うのは変じゃないか?」


 私は心臓を鷲掴みにされたように固まった。それ以上先輩の声を聴いちゃいけない。


「――アンタは、“いつも俺の隣に座ってくる女”、だろ?」


 ――辿り着いてしまった。先輩は、導き出してはいけない答えを導き出してしまった。


「嘘つき“小僧”とはよく言ったもんだ。アンタはとんだ嘘つきだよ」

≪……チョット推理が強引スギナイ?≫

「ま、推理の材料が乏しいのは認めるよ。でもな、アンタが犯人だとすると色々と説明がつく。二宮尊徳像を爆破する前のアンタのセリフ、俺があの像が嫌いだということを以前から知っているような口ぶりだった。もちろんこれもバスの中でしか愚痴っていない」


 そう言えば、先輩の悪態は何時だってバスの中だった。あの時は私しか知らない先輩の顔と思って気にも留めなかったし、むしろ嬉しかったのに。それが私を追い詰めるなんて。


「それに真琴がアンテナを掴んだ時、アンタは真琴のことをお嬢さんと呼んだ。普通“マコト”という名前を聞けば、多少声が高くても男だと思うだろ?それでもアンタが真琴のことを女だと思えたのは、真琴がスカートをはいているから。それをこの部屋に仕掛けた監視カメラで確認しているから。ラジオペンチを探している時ついでに見つけたこのカメラで俺たちを観察していたんだな。電話のタイミングもこれで図っていたわけだ」


 再び先輩と“画面越し”に目が合う。あの時のあれは、やっぱり偶然じゃなかった。


「桜ノ宮先輩、じゃぁ爪切りをとらなかったのは……?」

「監視カメラの死角が解らなかったからな。嘘つき小僧にそんな姿見せたくないって思ったんだよ」

「桜ノ宮先輩……!」


 いつも先輩に付きまとっている“京橋”真琴が、画面の向こうで何かほざいている。ふざけるな。そこに本来立っているべきなのは私のはずだったんだ。

 起爆スイッチに手が伸びそうになるけれど、何とか耐える。そうだ。あの女を始末するのはいいけど、今はダメだ。先輩が巻き込まれてしまう。大丈夫。先輩はきっと優しいから、今まで頑張ってきた私のことを褒めてくれるはず。先輩の邪魔者はみんなみんなこの世から消してきた。今はあの女に騙されてちょっと冷静さを欠いているだけ。

 だって本当はあの女にこの爆弾を解体させる予定だったんだから。いつもならこの女が先に部室に入って、すかさず私が電話をかけてゲームを始めれば、きっとあの女も始末できたはずなのに。死を前に醜く泣き叫ぶあの女に愛想をつかして、裏切られて傷ついた先輩を私が慰めれば、晴れて私が先輩の隣に立てたはずなのに。

 今日に限って先輩が先に部室につくだなんて。おかげで先輩の願いを思わぬ形でかなえてしまうことになってしまうなんて。先輩だけは殺したくないからついヒントを口走りすぎてしまって。結果追いつめられてしまっている。どれもこれも全部あの女の所為だ。私たちの愛を横からしゃしゃり出て奪い去ったあの女が!


≪……それで、ボクの場所はわかったのかい?≫

「いくらこの学校の生徒とはいえ、クイズ研究会のメンバーではないアンタが、こんな大荷物を部室に運び入れるのを誰かに見られたら怪しいと思われかねない。つまり、誰にも見られないタイミングでこの爆弾と監視カメラを設置しなきゃいけないわけだ。それが出来るとすれば、この部室の近くに必要なものを置いておき、タイミングを見計らって随時設置していくぐらいだろう。監視カメラもこのタイプじゃそんなに遠くに無線は飛ばせないはずだから、アンタはこの部室の近くで俺たちを見張ってるってことだ。で、丁度おあつらえ向きに、隣に演劇部の倉庫として使われている空き部屋があってな。誰も寄り付かないし荷物を揃えても部員なら怪しいと思われない。断言する。アンタはそこにいる」

≪……凄いですね先輩。流石です≫


 私の完敗。この後に私は自首して逮捕される。それが先輩との約束だから。そして裁判の間に先輩は私の手の届かないところに行ってしまう。私たちの愛を裂いたあの女に一矢も報いることが出来ないまま、先輩が連れ去られてしまう。

 ……それでも、私は先輩のことを……。


≪ねぇ、先輩。一つ聞いていい?先輩が私に付いた嘘って何なんですか?≫

「……俺がついた嘘は、“アンタが俺のよく知ってる人間”だ」

≪え……?≫

「アンタは一方的に俺のことを知っているんだろうが、俺はアンタのことをよく知らない。毎朝俺に電話かけてくるのもアンタだろ?所謂ストーカーだな?」

≪な、何言ってるんですか先輩……?笑えない冗談はやめてください……≫

「気づかなかったのか?俺はアンタの事を一度たりとも名前で呼んだことなんてない。何でか解るか?」


 駄目。これ以上聞いたら私は絶対に後悔してしまう。自分で自分を抑えきれなくなってしまう。私が完全に壊れきってしまう。


「――俺はアンタの名前を知らないからさ」


 今、たった今、私の中で何かが音を立てて崩れ去った。衝動的に起爆スイッチに手が伸びる。もう止められない。聞きたくない。嘘。こんなの夢に決まってる。先輩が私のこと、ボクのことを知らないだなんて。


「やめときな」


 でもそれさえ、いつの間にか私の後ろに立っていた先輩の腕によって阻まれた。


「よっぽど追い詰められたと見える。気づかなかったのか?俺がアンタの居場所について話している間に部室から出てこの部屋に向かっていることに」


 監視カメラの映像には、先輩の姿は映っていない。憎たらしいあの女も見当たらず、爆弾処理班が解体を終えている光景しか見えない。近くには紙切れが落ちている。あの時、先輩があの女を黙らせたとき、こっそり渡したんだろう。先輩のことだから、爆弾を解除出来たあの段階からアンテナから手を離しても爆発しないことも気づいていて、あの女に携帯で連絡させるよう仕向けたんだ。画質が荒いから細かいことまでは把握しきれなかった。


「チェックメイトだ。今ならまだ間に合うかもしれないぜ?警察にいって、自首するんだ」

「……先輩、最後に一つだけ、私の願い事、聞いてくれませんか?」

「……言ってみろ」

「私の事、愛してるって、そう言ってください」

「……悪い。嘘はつきたくないし、つけないから、その願いはかなえられないな」




――これはワルイユメ。たった一本の電話で終わった私の初恋。たった一本の電話で始まった私の悪夢。





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― 新着の感想 ―
[良い点] うーん、やられた!騙される快感を存分に味わいました。読み終わった後もう一度読み返したくなりますね。こういうの書ける人の頭の中って一体どうなっているのでしょうか。すごいです。
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