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英雄薬 メイヘム

作者: 塚卜

度成長期を向かえたある国では、貧富の格差があまりに拡がったため、凶悪犯罪が横行していた。

国の首相は事態を危惧し、警備隊を強化したが火に油とばかりに凶悪犯罪は勢いに拍車がかかり、鎮圧の目処は立たかった。ならばと、今度は犯罪者組織のアジトへスパイを送り、内部崩壊を試みたが、実のところ国から送ったスパイの正体は二重スパイだと判明し、犯罪者組織に国の機密事項などを漏洩されてしまい、大打撃を食らってしまった。ならばと、首相は側近の大臣に、この国で一番優秀な科学者を連れて来いと命じたのだった。

「あなたが科学者のヒイロ博士か?」

「はい、僕が科学者のヒイロです。ところで首相、科学者の僕に何用でございますか?」

「この国で厭に流行になってる凶悪犯罪の横行をあなたに解決してもらいたいんだ。国の武力、技術力を行使してもヤツらを止める事は出来なかった。そこで、優秀な科学者であるヒイロ博士の知恵をお借りしたい」

「はい、いいでしょう。国のためならば、解決いたしましょう」

「そうか、それは良かった」

「ただ、5年ほどの猶予をください。手立て無くして撲滅は不可能です」

「5年程度の猶予、我が国の被害に比べれば容易いさ。選りすぐりの警備員をあなたの研究所に派遣するので

気兼ねする事なく、あなたは実験に勤しむと良い」

「ありがとうございます。では、5年後また会いましょう」


そうして5年が経つと、博士は約束通り首相の下に現れた。


「ヒイロ博士、実験は成功したかね」

博士が入ってくるなり、首相の興奮さめやらぬ声が出迎える。

「はい、無事成功しました」

博士はそう言って、手に持っていた小瓶を首相に渡した。

「むむむ、この小さい小瓶はなんだ?」

「その小瓶の中にはメイヘムと呼ばれる有毒ガスが入っています」

「これが実験の成功の証と言う事か。しかし、どの様にこの有毒ガスを扱えばいいのかわしには分からんな」

「ええ、そのために科学者の私がいるんです」

博士は咳払いをすると、自身の研究のあらましを語りだした。

「僕は、この5年間の大半を、人間の死体の重量について調べていました。その結果、人間の死体は生前の体重より、微量ながら重くなったり軽くなったりする重量の変化を見つけました。これに着目した私は、次に重量の変化が起こった、死体の規則性について調べました」

固唾を呑んで聞き入る首相に対して、博士は抑揚ない語り口を止めない。

「重量の軽い死体の大半には規則性は見つからなかったものの、重量の重い死体の全ては生前に犯罪を犯した者だったのです」

「ということは、重量の軽い死体は・・・?」

「ええ、犯罪を犯す事なく一生を終えた者だと規則性が見つからない事から推測出来ます。では何故、死んだのにも関わらず死体には重量の概念が付き纏うのか、私は不思議に思ったのです。そこである人物が僕に協力してくれて、この謎を解決してくれました。」


言い終えた科学者の後ろから人影が現れた。


「彼女が僕の協力者です。どうか危害を加えなさらぬよう頼みます」

「霊媒師のイタ子と申します。ここからは科学者のヒイロ博士では立場上、説明が困難だと思うので、私の口から説明を致します」

「うむ、続けてくれ」

「霊媒師の世界において、人間は死ぬと軽くなる事は誰でも知っている常識です。しかし、重くなるのは霊媒師である私も初耳で、初めは皆目検討がつきませんでした。そこで改めて死体が軽くなる原理を紐解いて見れば重くなる原因も見えると算段を踏み、遂に原因を究明出来ました」

博士と同様の抑揚のない語り口が続く。

「人間は死期が訪れれば自身の内にある魂が抜け、死を迎えます。これが死体を軽くする原理なのです。

これは人間の原理なので、国籍、年齢、性別を問いません。無論、犯罪者もこの原理に当てはまります。

では何故、犯罪者の死体だけが重いのか?答えは単純です。人を殺したからなのです。

急に訪れる死に対しては、誰しもが後悔、怨念の類の念をとばします。

その念が死を迎えようとしている被害者の魂に原動力を送り、加害者の体へ乗り移るのです。

乗り移った先の魂が消え去っても、死者の魂が消え去る事はありえません。

既に生き場を失っている”死者の魂”なのですから」

霊媒師が説明終えると、博士はメイヘムが入った小瓶を指さした。

「その小瓶には彼女との協力の末に私が作った、質量の多い魂を身体から離脱、端的に言えば犯罪者のみを殺害する有毒ガス、メイヘムが詰まってます。メイヘムを使用すればこの国の犯罪撲滅が可能でしょう」

博士の話しを聞くや否や、首相は歓喜の声を上げた。

「でかしたぞ、ヒイロ博士。それと霊媒師イタ子。そうと決まれば今すぐにでも着手するとしよう」

そそくさと部屋を後にする首相を横目に、ヒイロとイタ子はお互いの功績を称え合った。


それから月日が経ち、この国にも平和の兆しが見え始めた時、人々を驚かせる号外ニュースが飛び込んだ。

国の平和に貢献した天才科学者こと、ヒイロ博士の突然の死を告げる訃報が・・・。

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