サーカスのライアン
あるところにライアンという大きなオスライオンがいました。
立派なたてがみ、大きな口にその強さ。彼はいつだってサーカスの人気者でした。彼が一言ガオーと吠えるだけで、大人も子ども大喜び。
ライアンは何も怖がりません。自分より大きな曲芸のクマだって、目のくらむような高さのブランコだって、一度も怖いと思った事はありません。
そんな彼にも唯一怖い物がありました。それは火の輪くぐり。ライアンは火だけは、どうしても怖いのです。
今日もライアンは火の輪くぐりの練習をします。だけど火は怖い。ライアンは考えます。
「そうだ、バケツの水で火を消せばいいんだ」
すぐにバケツに水を汲みます。だけど水は全然たまりません。不思議に思い中を見ると、なんとバケツの底には大きな穴。どうやらリスにかじられたようです。
これではバケツは使えない。ライアンは考えます。
「そうだ、川の水で消せばいいんだ」
すぐに火の輪を川に持っていきます。ぼちゃんと音を立て、輪っかはあっという間に流れていきます。火は消えたけれど、これでは輪をくぐることはできません。これもだめだ。
ライアンは考えます。
「物体の燃焼はつまるところ酸化、つまり酸素が無ければいいんだ」
それからライアンは特訓の日々。血反吐を吐くような地獄でした。
そしていよいよ、半年にも及ぶプログラムも終わり、今日がその日です。
「three ,two, one, booster ignition, and lift off of the Space Shuttle Ryan!」
徐々に強くのしかかる重力とともに高鳴るライアンの鼓動。ドックン、ドックン、ドックン。まさにそれは本能の鼓動
気が付くとライアンの脚は渋谷へと向いていた。否、今ここにいるのはライアンでは無い。ライアンa.k.aサバンナの王だ。
弱肉強食? 馬鹿言ってんなよ全て俺の朝食
インパラガゼルサバンナの住人 みんなが食べるいばんなよ蹂躙
だけど連れてこられたよサーカス だから全てあつめたよフォーカス
ここでも俺に怖いもんはねえ だからこそ問うwhy no money?
絶対的捕食者の荒々しいリリックにオーディエンスは湧きあがる。その一体感が彼を包み込む。ああ、仲間との友情、ここ(ソウル)に刻まれた熱さこそが、本当の炎だったんだ。
なーんだ、熱く燃えたぎる輪は、ここにあったんだ。
もう彼には火の輪は必要ありませんでしたとさ……