生きていたんだな。
能力を使い切ったリナの手から、白い輝きが消えてその場に倒れそうになったが、判人がその背中を支えた。
「世話の焼ける奴だよ、お前は。」
文句を言いながらも、判人の顔には今までの様な嫌悪感は無かった。
「・・・けど、助かったぜ。ありがとうな。」
腕の中で、寝息を立てるリナにそっと礼を言うと判人は少しだけ照れたが、顔を上げて真剣な表情になる。
「生きていたんだな、レイノス。」
深い傷を負い、死んでしまったと思われていたレイノスが実は生きており、彼は、
「はい。」
と小さく答える。すると、周りからも疑問に思っていた者が次々と声を上げる。
「びっくりしたぜ、レイノス。」
「傷の方は大丈夫なのか?」
「本当に、生きているんだよな。」
そんな中、判人はリナをおんぶして歩き出しながら、
「自分の命を囮にするなんて、随分危険な賭けをするじゃねぇか。・・・そこまでして、リナを覚醒させる必要があったのか?そもそも、お前は・・・」
レイノスが急に口を挟んだ。
「リナさんが『心の能力者』である事は、ある人から知りました。僕がこの大会に参加した理由は、リナさんを『心の能力者』として覚醒させるという依頼を受けたからです。」
「その情報をくれたっていう人は、一体。」
源さんが問うと、レイノスは語尾を濁らせた。
「それは、言えません。何故なら。」
理由を言おうとした時、
「まぁ、良いじゃねえか。レイノスの言う通り、リナは見事に覚醒した訳だし、そんな事とやかく言ってるより、さっさと終わらせようぜ?この大会。」
「判人君。」
しかし、次の部屋への扉が開いていない。すると、後ろからのっそりと起き上がるグモリス。
「グモモ、モモ、残念だったな。その扉は、俺様が諦めるまで、開かねぇのさ。」
「グモリス、お前。」
「グモモモモ、さぁ始めようぜぇ。楽しいバトルを、もう一度よぉ!!」
「くっ。」
全員が身構えた瞬間、グモリスの前に黒い煙が降り注ぎ、足先から徐々に人の形を成していく。
「いけませんねぇ~、諦めの悪い男というのは~。決着はすでに着いたというのに。」
「煙乃介、何しにきやがった!!返答によってはてめぇも。」
「・・・言ったはずですよ?決着は着いたのだと。グモリス・ロプラー、あなたの負けです。早く扉を開け・・・」
言い終わらないうちにグモリスが武器を煙乃介と名乗る男に向けようとしたが、彼は煙のように体を散らし、グモリスの後ろで再び形を成す。
「聞く耳を、立ててはくれないようですね。それでは・・・。」
煙乃介が右手をグモリスの頭に乗せる。
「俺を殺すのか、煙乃介。そんな事してみろ、あの方が何を思うか。」
「それが、最後の言葉ですか・・・。まったく、残念です。」
「!?」
「さようなら、グモリス。」
別れの言葉の後に、煙乃介は「ナイトメア」と呟くと、突如グモリスは黒い煙に包まれ、最後には跡形もなく消えてしまった。
立ち去ろうとする煙乃介に判人が声を掛けた。
「煙乃介、と言ったか?」
「雲切煙乃介と申します。以後、お見知りおきを。」
「お前は、自分の仲間を殺すのか?」
「判人。」
隣の源さんが焦ったような声を上げたが、判人は表情を変えない。
「どうなんだ?」
煙乃介は背中をこちらに向けたまま、
「確かにグモリスは我々の仲間でした。ですが・・・。」
くるっと体をこちらに向け、
「仲間に拳を向けるような人は、もはや仲間ではない。そうでしょう?」
「・・・・・」
判人は少しの間、黙っていたが、
「その通りかもしれないな、・・・・だけどな、だからと言っていきなり仲間を殺したりはしない!!俺は、一度でも仲間と認めた奴を最後まで信じてるからな。」
「判人、君。」
レイノスが感心したような声で言うのに対し、煙乃介はつまらなそうな声で、
「それが、あなたの信念というものですか。覚えておきますよ。」
煙乃介は指を鳴らすと煙と共に姿を消し、次のステージへの扉が開いた。
高城連乃助です。今話は初めてリナが全く喋らない回となりました。そして、文章と文章の間に隙間が無く、少々読み辛いかもしれませんが、最後まで読んで頂けると嬉しいです。