私は諦めない。
何も言えず、ただ茫然とその場に座り続けるリナの首をグモリスは掴み、そのまま後ろの壁に押し付けた。
「グモモモモ痛てぇか?苦しいか?グーモモモモ。」
時折、笑い声を交えながら、リナの首を少しずつ締めていく。
「てめぇの失敗を二つ教えてやるよ。一つは判人に関わった事、もう一つは、俺様に出会ってしまったことだぁ。」
「うぅ・・・・あぁ。」
体を捩り、何とか抵抗するリナに、
「諦めろ、てめぇみたいなひ弱な奴が何をしたって無駄だ。」
リナの意識が少しずつ薄れ始める。
私、死んじゃうのかな?このまま・・・・何も出来ないまま。
最後まで、誰かに頼るしか・・・。
ごめんね、皆。ごめんね、判人。ごめん・・・ね。
そんな時だった。遠くから誰かが叫んでいる。
「最後まで諦めちゃだめだよ、お姉ちゃん!!」
判人?レイノスさん?・・・違う、あの声は・・・そうだ、私は。
「最後まで、私は、諦め、ない。」
苦し紛れにグモリスの手首を掴んでいたリナの手が突然、白く輝きだした。
「グモ?・・・!?」
パッと手を話し、間合いを取るグモリス。
「これは・・・・。」
モニターを見ていた黒葉圭語が思わず立ち上がり、満面の笑みを浮かべる。
「ふふふ、これは、すばらしい。」
「あれは、まさか。」
アイナにも思い当たる節があった。今、リナに起こっている現象こそ、
「そう、これが『心の能力』としての覚醒の瞬間、ふふふ、美しい。そして、今、あの場所にいる人の中で、恐らく彼女に勝てる人はいないだろうね。」
若干、狼狽えていたグモリスだが、
「グモモモモ、『心の能力』だか何だか知らねえが、弱者は弱者に変わりねぇ!」
レイノスの時の様な、ロケットダッシュをするグモリスに判人が呟いた。
「・・・馬鹿が。」
「今度こそ、終わりだぁ!・・・・!?」
一瞬何が起こったのか、グモリスを含めて判人達にも分からなかった。
「グモァ!」
右肩を切り込みが入り、傷口を抑えながらグモリスは息を荒くしながらリナを見て、
(グモモ・・・・、何なんだこいつは。さっきとはまるで別人みてぇじゃねぇか。)
今度は逆にリナがグモリスに向かっていき、完全に攻守が逆転している。
(心の能力・・・・、これほどとは。)
モニターを見ている黒葉圭語は顎に手をやりながらニヤニヤしている。
「アイナさん。」
後ろから声がして、アイナが首だけを向けるとユウジが走ってくる。
「遅い!一体何をしていたの?」
「すいません、来るまでに少々手間取ってしまって。・・・あれは!」
ユウジは黒葉圭語、ではなくモニターに映るリナの姿に驚きの声を上げる。
「あれは、『心の能力』。」
「えぇ、そうよ。あの子覚醒したんだわ。でも、そろそろ・・・。」
アイナの心配が的中し、リナは突然その場に片膝を着くのを見て、黒葉圭語が説明をする。
「心の能力はスポーツ等でいういわばゾーン状態にあり、彼女は今、おそらく考えているより先に体が反応しているんだ。しかし、タイムリミットは必ず存在し、さらにその反動も大きいんだよ。」
グモリスは再び笑顔を取り戻す。
「グモモモモ、焦ったぜ。だがな、今度こそ、終わりだぁ!」
武器を握り直しリナに向かって振り下ろそうとした時、
「・・・・そうはさせねぇよ。」
背後から、声がして恐る恐るグモリスが振り向く前に、
「終わりは、お前だよ。」
判人の一撃がグモリスを切り裂き、
「グモォア、判人、何故・・・だぁ。」
ドシャっという音と共に、グモリスがその場に倒れた。