腰が抜け、ちゃった。
「いーやー。」
部屋の中を叫びながら走り回るリナの後ろから巨大ナメクジモンスター『ヌメピロース』が追掛けている状態を、他のメンバーがぼうっと見ている。
「何だか、なぁ。」
「何だか、ねぇ。」
リナ自体は必死ななのだが、傍から見ているとただの追いかけっこにしか見えず、痺れを切らせた判人が、
「しょうがねぇな。」
と言いながら、腰のナイフを抜き、タイミングを見計らってヌメピロースに向かって投げる。
「ピ、ギィアアー。」
と奇声を上げて、その場で動かなくなった後に、判人はスタスタとヌメピロースに近づき刺さったナイフを抜き取った。
「逃げる暇があるなら、さっさと弱点である額にナイフとかを刺せば良かったのによ。」
部屋の端っこで小さくなるリナの背中越しに判人は言い、別のナイフをホルスターに入れたまま、リナの隣に置く。
「今度からは、自分でやれよな。」
「・・・が、頑張る。」
と気持ちを引き締めようとしたリナだったのだが、
「きゃああああ。」
(第三ステージ 百蜂)
「そいつは逃げる奴を追う習性があるんだよー、戦えー。」
棒読みで鼓舞する判人に、リナは反論するが、
「戦いたくても、数が多すぎよ~。」
もはや、ただの言い訳にしか聞こえない。
「そろそろ、ワシの出番かのう。」
大きな袋を肩に背負った色白の大男が一歩前に出る。
「そうだな、それが良いだろうな。おい、リナ、こっちに来~い。」
言われるがままにリナは判人の方へ走り、大男とすれ違うと、大男は袋の口を大きく開く、すると、袋の中へ風と共に百匹の蜂が次々と吸い込まれていき、最後の一匹が入るのを確認すると、その口を閉めて。
「仕事、完了!!」
低く良い声で大男がこのステージの終了を宣言する。
「相変わらず、すごい迫力だな源さん。」
「これが、ワシの能力『清掃袋』だからな。さて、大丈夫かい、お嬢さん。」
大きな手を借りて、リナは立ち上がろうとしたが、直ぐに座り込んでしまった。
「あはは、こ、腰が抜け、ちゃった。」
「・・・・はぁ。」
今日、何度目か分からないため息をついてから、判人はリナの隣で背中を向けて膝をついた。
「はら、乗れよ。」
「い、良い・・・の?」
「良いから、さっさと乗れ。」
判人の背中におぶられるリナの姿を見て、「若いって良いね。」であるとか様々なヤジが飛んでいるのをモニター越しに見ている者がいた。
「ふふふ、若いって良いね、本当に。」
「随分と楽しそうね。」
「楽しいですよ、とってもね。君はそうは思わないかな?日方アイナ君。」
回転椅子を回し、男はアイナに笑顔で問いかけ、さらに、
「久しぶりだね、前より少し綺麗になったんじゃないかな?」
褒められた事は嬉しくもあるが、アイナは苦笑いで答える。
「人を褒めることよりも、自分の身の安全を考えた方が良いんじゃない?今度こそ捕まえてやるわ、黒葉圭語!!」
名前を呼ばれて、黒葉圭語はニッと白い歯を見せる。
「そんな事より、一緒に判人君達の次の闘いを見ようじゃないか。何故なら次の相手は・・・、君も知っている『人』だからね。」
(知っている・・・人、まさか。いや、それよりも今はあいつを。・・・!?)
黒葉圭語に近づこうとしたが、アイナのあしはその場から一歩も動こうとしない。
「いけませんねぇ~。テレビを見る時は、部屋を明るくして、離れて見るのが決まりですよぉ~?」
突如アイナの後ろに、ふわぁ~っと空気のように男が現れる。
(し、しまった。こいつは・・・)
そして、男の右手がアイナの顔に触れた。