ただの気まぐれだよ。
「あー、どうしよう。」
トレジャーハンター・ホームズの奥のカウンター席で、リナは一人考え込んでいた。
「振られちゃったのね、判人君に。」
くすくすと笑いながらフィーナがジュースを出してくれる。
「言わないでください・・・。悲しくなっちゃいますから。」
ついに顔を机に付けて、リナはため息をつくと、後ろから声がする。
「相変わらず、な~にやってんだか。」
有無を言わさず、隣に座る判人は何かをほしそうに手を出してきた。
「な、何よ、その手は。」
「決まってんだろう、一緒に大会出てやるからさっさと紙を渡せ。」
「・・・・はい。」
参加用紙をわたすと、判人は自分の名前をさっと書きあげて、再びリナに返し、リナも自分の名前を書きながら彼に問う。
「どうして出てくれる気になったの?」
すると、頬杖をつきながら、
「別に、ただの気まぐれだよ。」
というのは嘘であり、本当の理由は遡ること一時間程前にあった。
リナが怒りながら帰った後に、判人の部屋を訪れた男女が二人。
「早急にお話ししたい事があります。」
「まぁ、とりあえず入れよ。ユウジも一緒に。」
「失礼します。」
二人を招き入れて茶を出してから、判人が先に口を開いた。
「《ガーディアン》が俺に何の用だ?そのバッジを付けてるってことは、そういう事なんだろう?アイナ。」
すると、胸ポケットに丸い『G』の文字を剣でクロスさせたバッジをつけた女の子は静かに答える。
「はい、そういう事です。ユウジ、例の物を出して。」
女の子隣に座る男の子は、持ってきたカバンの中から一枚の紙を取り出した。それは、先程リナを断った参加用紙だった。
(・・・ったく、どいつもこいつも。)
と心の中で呟きながら判人は、
「これに出ろっていう話ならお断りだ。チョイス・ドア・カーニバルの面倒くささはアイナも知っているだろう?」
今回開かれる大会『チョイス・ドア・カーニバル』は、いくつかある扉の中から一つを選び、その扉の向こうで待つ強敵を倒しながらゴールを目指すもの。しかし、ゴールまでの道のりは長く「トレジャーハンター界のRPG」とも呼ばれている。
「でもまぁ、お前の事だから余程の理由があるんだろうから、一応話は聞いてやるよ。」
「はい、実はこの大会にブラック・リーフが関わっている可能性があるのです。」
「何だと、やつらは確かお前らに全員捕まえたはずだろう?」
「だから、あくまでも可能性があるという話です。ですが先日、本部の方にある情報が入りました。それは、牢獄城から主犯格、黒葉圭語が脱獄したと。」
ファルメスタでの悪質なトレジャーハンターを収容しておくために設けられた牢獄城は、アイナこと日方アイナとユウジこと暗色ユウジが所属する集団が取締りを含め、管理をしていた。特に警戒を必要とされたのは黒葉圭語を筆頭とする戦闘集団だった。彼らは、お宝探しよりも戦うことを好み、体のどこかに所属を示す*の形をした黒色の葉の入れ墨をしている。
「堕ちたものだな、《ガーディアン》も。」
お茶を飲みながらにいう判人の言葉にアイナ達はただじっと床を向いて聞いているのを見て、彼はすっと立ち上がって棚から一枚の封筒を持ってきた。
「こいつを俺の所に二度と持ってこないって約束するなら、協力してやる。」
それは以前、判人に対して本部から送られた《ガーディアン》への入団届だった。
「分かりました。ご協力、感謝します。それでは、これで。」
即座に入団届を受け取るとアイナは席を立ち、ユウジモ軽く頭を下げてから慌てて後を追い、判人の家から数メートル離れた時、ユウジが心配そうな声で尋ねる。
「本当に、良いのでしょうか?団長には何と説明を・・・。」
アイナは前を向きながらに淡々という。
「しかたないでしょう。今の私たちにはあの人の力が必要なんだから。団長のほうには私から言っておくから心配しないで。」
「・・・分かりました。」
一方で、判人は窓から外を見ながらに思った。
(今でも、お前の気持ちは俺には分からないよ、欽矢。)
そして、その手には《ガーディアン》のバッジが握られていた。
高城連乃助です。少しずつ本文が長くなっていることに少々気がかりを感じながら書いています。読者の皆様にご迷惑をかけてしまいますが、最後まで読んで頂けると幸いです。