空と海の傷心愛言葉
今回は彼らがまだ、意識し「あって」いない頃。
しかも初の海視点。
前の話より、大体2,3年前だと思っていただければいいです。
俺は絶賛片思い中、男に。
そいつは、いつも俺と一緒に居る。言い方を変えれば、ただ引っ付いてくる。それだけの関係だ。
今日も。あいつの家は少し遠いのに、「遊びに行くから。」それだけ告げて帰られた。
そのそっけない態度に、怒ってはいない。むしろ嬉しかった。ささやくように言う彼はかっこいいし、毎日のように少し遠い俺の家に来てくれるのも嬉しい。
だからこそ悲しい。
きっと思いを告げたら嫌われる。彼と離れてしまう。
それが嫌だから、苦しくても彼と居れるだけで、それだけで良かった。
ピンポーン ピンポーン
呼び鈴がなる。いきなりのことで驚き、少し肩をビクつかせた。
玄関で待ってたことがバレないように、少し時間を置いてドアを開ける。
「おじゃましま~す。」
機械のように空が言う。それもそのはず。幼い頃から何度も来ているからだ。
空が俺の部屋のある二階へ向かったのを確認して、俺も菓子類とジュースを持って空を追う。ドアを開けると空が定位置である窓から離れた所に、ベットを背にして座っている。
「なぁ、海。暇。」
「知ってる、毎日聞いてる。」
こいつは毎日俺ん家に来ては「暇」と言う。
俺的には来てくれるだけで嬉しいが、空はどんなことを思って毎日のように俺ん家に来ているのだろう。いつか来なくなってしまうのではないか、そんな不安がある。
「お前はなにすんの?」
「いつも通り。」
そう告げると、俺も定位置の空の右に座りベットに、背を預け読書を始める。
いっつもこんな感じだ。空がたまに話しかけてきて、俺が読書しつつそれに答える。全く、空はこれの何が楽しいのか。
「あのさ、ずっと気になってたんだけど、」
「なに?」
「何でそんな長ったらしい本読んでんの?」
「それ、前も聞かれた。」
これで三回目になる。
「そういえば、そうだったな。」
少し笑って空が言う。
俺が本を読んでいる本当の理由は、俺の好きな空の手が、いつも視界に入るからだ。空の手は大きくって、少しゴツゴツしている。俺の小さくて軟らかい手とは大違いだ。
でも本当のことを言えるわけも無く、「この本、好きだから。」ただそれだけだ、そう言ってある。
でも、空は俺のことを何でも知っている。だから本当のことじゃないなんて、見透かされているかもしれない。
何故、空は俺のことが何でも分かる。なんて思うかというと、空は俺以外の人とは基本喋らないから、俺しか見ていない。それが嬉しくて仕方ないが、もう少しまともな人間関係を築いて欲しいとも思う時もある。
でも、もし空に俺以外の友人が出来たら、俺は受け入れられるだろうか。いや、きっと独占欲が許さないだろう。
もう空が家に来て一時間弱。あれ以降会話が無い。流石に俺からも話しかけたほうがいいのかな?そう思い声をかける。
「なぁ、空。」
「なに?海から声かけてくるなんて珍しい。」
「いや、特に用じゃないんだけど…。そのさ、空は毎日のように俺の家に来て楽しい?」
思い切って聞いてみた。会話が無いのが辛いってのもあったけど、それより、俺も空のことを知りたかった。
「迷惑だった?」
「ううん。そんなことないけどさ、いっつもほとんど何もせずに帰るから。」
空の質問に対し、むしろ嬉しい。なんて言えず、少しそっけなくなってしまった。
「あー、そうだな。なんで、って言われても。…まぁ、海が隣に居ると安心するし、それだけでなんか楽しいし。だってさ、海は家族みたいなもんじゃん。だから、逆に居ないと変な感じ。」
「あー、そう。」
照れ隠しに味気ない返事をしてしまう。
そんな風に思っててくれてて嬉しいし、ずっと一緒にいたい。でもそれを伝えるなんて、恥ずかしくて出来ない。
もし俺が、恥ずかしいなんて思わなかったら、言えたのだろう。でも俺は情けないことに、こんなんだ。悔しすぎて仕方ない。
「なんだよ、それ。人がせっかく良いこと言ってんのによ。」
「そうだな。」
またそっけなく返す。俺がこんな態度でいられるのは空だけだ。
次は空から質問をされる。
「お前は、俺と居てどう思ってんの?」
顔が少し火照るのが分かる。だって、こんなん言われたら恥ずかしいじゃないか。
どう答えよう。本当のことが言いたくて仕方ない。
…少しだけなら、伝えてもいいのかな?
「お、俺は、嬉しいよ。ずっと一緒に…いたい。」
自分の鼓動が、聞こえるくらいに大きな音を上げている。かろうじて顔は本へと伏せられていて見えなくなっているが、視界の端には俺の好きな空の手が映っている。
その手が、俺の頭を茶化すように撫でた。驚きのあまり、少し声が出てしまう。
そして、その手の主が、終始笑いながら言う。
「なんだよ、そんな照れて。お前らしくないっていうか、らしいっていうか。なんか、かわいいな。」
心臓が大きく跳ねる。
なんで、こんなに近くに居て、触れ合ってまでいるのに、伝えてはいけない気持ちがあるのだろう。いっそのこと、苦しみから解放されたい。こいつと居ると、時折そう思う。
でも、伝えたら終わり。そんなこと重々分かっている。
俺は「うるせぇ。」と呟き、意識しないように精一杯努力をする。
空は優しい。だからこそ、希望が見えてしまう。「こいつなら、分かってくれるかもしれない。」そう思わずにはいられないほどに。
でも、そうじゃなかったら。俺には深く傷が残るだけ。
もし俺が、真実を告げたとして、返ってくるのは「愛の言葉」か。それとも「心を傷つける言葉」なのか。
当分答えは分からないだろう。
だって、「好き」だなんて、今の俺は伝られる勇気なんて無いし、恥ずかしい。
だから苦しむしかない。
そして、いつか、限界がきたら話そう。空は優しい。受け入れなくとも一緒にいてくれる。
だって、今もこうして隣に居る。
終わりました。
私にとって、一度に書くには長すぎる文です;
今回は、初!海支店です!
海の内心デレ率は、表の海と真逆ですねw
そして、今回は仲の良さと、信頼
それが伝わればと思っております。
愛している。
だからこそ辛い。
でも、嬉しい。
そして、いつも隣にいてくれてありがとう。