信頼 の 定義
零はうっと呻いた。脇腹をナイフが貫通して、生々しく赤褐色に染まっている。
そして痛みがじわ~っと広がっていく。ナイフのグリップを持っていたのはマキルエだった!
零はマキルエを蹴飛ばし、痛そうにナイフを抜いた。
息はかなり荒く、殺気立っていた。そしてマキルエのを睨みつけ、1歩ずつ歩み寄る。
あまりの迫力に太一でさえ近づけない。
しかし信二が汗を大量に流しながら口を開いた。
「ははは、零!お前は仲間に裏切られた。認めろよ!貴様はマキルエに裏切られたんだよぉぉ!」
零は眉間にしわを寄せ、信二にオーラを放つ。
しかし信二は1歩も下がらない。
「ここにマキルエが来て、俺たちに捕まったとき、一か八かでマキルエに聞いてみたんだ」
修也が悠を助けに前に走りだした丁度その頃だった。
零は2つ同時に事を見れるわけがなく、スキがあった。
その時にほんの小声で信二はマキルエに囁いた。
「マキルエ自身本当は自由に自分らしく生きていきたいだろ?せっかくの高校生活だ。楽しまないか?だったらマキルエを縛ってる零の奴を倒そうよ。協力してさぁ」
マキルエは目つきが一瞬だが、荒くなった。しかしそれよりも優しい目の方が強かった。
マキルエは中学2年のころからの零との付き合いで、零帝国の中では1番零と親しい。
しかし、実力こそ差はあり、マキルエ自身周りに比べたら十分喧嘩は強いんだが、零は喧嘩を求めていた。
出会った時から1年くらいはちょっと悪いイタズラ程度でじゃれていたが、零の親父の事を知り、マキルエの立場が苦しくなった。喧嘩の事で何度も張り合った。
信頼は築いていたが、零の性格がきつくなったのは事実らしい。
元に戻ってほしい。そしてまたふざけたい。
マキルエは零を殺すことじゃなく、目覚めさせる事として賛同した。
これも修也からの作戦で、マキルエを味方につけたいということだった。後は信二のアフレコ。
こうしてマキルエは平然と席に戻り、零を目覚めさせるつもりだったが、ナイフを使うとは思っていなかった。あれがやり方なんだろうが、零はおそらく切れてしまった。
マキルエが脇腹を抑える零に言った。
「俺は前みたいな零と接したい。なんかくさいけど俺は主従関係じゃなくて仲間として過ごしたいん だ。わがままだけど思い出してくれよ。中2の頃を!」
零は俯いたと思うと、咄嗟にマキルエに燕返しを喰らわした。ナイフはマキルエの心臓部分に刺さった。即死のはずが、なんという生命力か、息をしている。零は目を見開いた。
「零、分かった。俺がわがままをちょっと言いすぎた。悪かったよ。零、俺は最後に昔を思い出した 。だからお前も頼むから1度は思い出して・・・見ろ・・よ・・・・・」
マキルエはとうとう力尽きた。零はオールバーックの髪を両手で荒く掻き、髪をボサボサにして
立ち止った。信二は言った。
「お前は、今まで一緒にふざけ合ってた仲間を、信じてくれた仲間を自らの手で殺した!ナイフを刺したのはお前を目覚めさせるためだったんだよ!」
零はますます息が荒くなっている。顔は真赤だ。
すると太一が香織を突きとばしてマキルエの元に駆け寄った。
「マキ!マキ!なんでだ・・・そんなんで死ぬ野郎じゃないだろ!ふざけんなぁ!・・・零、どうして仲間を裏切ったんだ?教えてくれよ」
太一が零に詰め寄ると、零の間合いに入った太一を素早く上手投げをしてねじ伏せて、体に跨った。そして太一の顔面を何回も何回も殴る。太一は何かしゃべろうとしてるが、聞きとれない。
およそ3分間。ずっと太一の顔面を殴り続けていた零は立ち上がった。太一は動かなかった。
顔の形は半分崩れかかっている。骨は砕かれているだろう。
「これで忌々しいやつは消えた。後はお前らだけだ。愚民どもに命なんかやらねぇよ。それと、信二おまえ、調子のってんじゃねえぞ。殺した後体の形が分からなくなるほど殴ってやる」
冷静で驚異的なオーラを放つ零の姿はもうなかった。
自棄になって、あれではただの落ちこぼれだ。
途端タイミングよく修也が体を起こした。まだ状況が把握していない。
修也はまず零に目がいった。髪はボサボサだし、顔は真赤だし一体何があったんだ?
誰か死んだのか?
「信二、悪い意識とんでた。今どんな状況だ?」
すると零が言った。
「修也、安心しろ。信二は今から俺が殺してやるから状況はそれで分かるだろ?」
信二は完全に怯んでしまっている。修也は風馬を呼んだ。
風馬はまだ痛みがあるのか、体を引きずってきた。
「信二の奴が言ってることは凄くカッコよかった。でもそれが零を怒らせて今だ。
マキルエはこっちの味方になって零に傷を与えたけど、零自身が殺して、太一も信用できないのか殺しちまった。奴は大事な物を失った」
修也は状況を把握した。マキルエに礼を言いたかった。
「お前ら何か勘違いしてないか?この2人が死んだところで何が変わる?お前らの勝算はどこまであ るんだ?」
確かに零が孤立したとはいえその肉体的強さは変わりないはずだ。零を倒す方法までは考えていなかった。修也は頭を抱え込む。
「俺を倒すことが目的だったようだがやはり爪が甘かったな。俺を床に寝かせてみろよ」
零は嘲笑ってクラスメイト全員を見下していた。誰もが悔しい。
その瞬間修也は前を向きなおした。零は1人。残りのクラスメイトは全員後ろにいる。
仲間を失った零・・・
―勝てる!今の零なら隙がある!




