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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの歩き方
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魔法使いの歩き方(3)

 イーチ国北東部はマジクト国に隣接した土地であり、幾つかの街道とその道に接する様に宿場町が存在している。

 その一つ、モノビーブという町が面白い場所であるとの話を聞いていたクルトは、当面の目的地をそこに決めて歩いていた。

「どうして何ヶ所かある宿場町で、その町を選んだんだ?」

 クルトがモノビーブを目指すと決めた時点で、イリスはどうしてその町を目指すのかがわかっていない様だった。一応、旅で訪れる町の中では有名な部類に入る場所なのだが。

「温泉があるんですよ。その町。それも大陸でも有数の。旅行客がその疲れを癒すために立ち寄るって有名で、暫く逗留するなら丁度良いでしょ?」

 温泉と言えば、宿とセットで存在する場所だ。旅人がフラリとやってきて、長期滞在したとしても違和感が無いというのも好都合である。

「まあ……確かに。旅をするのならば、駄賃くらいやると預かっていることだし、宿代も問題無いが」

 クルトがイーチ国に出掛けると決めた時点で、スガルから金銭面の援助がされていた。アシュルから離れて欲しいと考えている対象が、自ら離れると言っているのだ。是非とも後押ししたかったのだろう。

「実は僕も温泉って初めてなんですよ。あれって、お風呂が外にあるんでしたっけ?」

「そんな馬鹿な。外で裸にでもなると言うのか? そもそも、あれは温かい湧水の様な物で、水さえ引っ張る機構があれば、普通の風呂の同じようにだな」

 急に饒舌になるイリス。案外これで、温泉が楽しみになっているのかもしれない。

「まあ、なんにせよ、つい最近までは死ぬほど忙しかったんです。ゆっくり休む良い機会になるかもしれない」

 アシュルから離れていろと言われたのなら、それを利用して休暇も良いだろう。暫く、何も考えずくつろぐ日々が続くと思えば、モノビーブを目指すのが楽しみになるのはクルトにもわかる。

 ただ、その期待はすぐに裏切られることになるわけだが、



 といっても、モノビーブの町自体はクルトの期待を裏切ることは無かった。

 町に入ってから見た立ち並ぶ家々は、宿か土産物屋が殆どで、その風景がどこかクルトの心を弾ませる物だ。あえて異国情緒溢れる作りをしているのだろう。建物の様式は、マジクト国とイーチ国二つの文化を練り混ぜた様な物である。

 風景の隙間には温泉からの湯気が見えて、ここが特殊な場所であることを視界からでも理解させてくれた。

 さて、クルト達は町に着いてから、すぐに宿をとった。旅宿『柴犬亭』という見た目が小奇麗な宿である。勿論、宿には温泉が存在しており、クルトは温泉に浸かるなどをして、それなりに高価な宿で数日を過ごしていた。まあ、この町の宿はどれほどみすぼらしくても、温泉が存在しているそうだが。

「タダで入れる公共浴場まであるって言うんだから、当たり前と言えば当たり前かもだけどね」

 本日のクルトは『柴犬亭』の一室で愛用の杖を弄っている。借りた部屋はクルトとイリスで一つずつ。それぞれマジクト国風の部屋とイーチ国風の部屋であり、クルトは慣れ親しんだ方が良いとマジクト国風の部屋に泊まっている。

「うん? あ、この緑光石、思った以上に擦り減ってる。交換には良い機会だったかもね」

 杖の先端に、ナイツの兄より譲ってもらった疑似ルビーを付ける作業を続けるクルト。前までそこに付いていたのは、光源として便利な緑光石であったが、今はクルトが取り外していた。

 疑似ルビーには魔力の増幅と魔法の調整を助ける効果があり、光を放つだけの緑光石より利便性が高いと考えたのだ。

「光源なら自前の魔力でなんとかなるしね」

 それ以外に石を交換した理由があるとすれば、これがナイツの形見の様にも思えたからだろうか。

 ふと透き通る赤い石を透して向こう側を見てみる。光が屈折して視界が歪む。赤色の歪みから見る景色は、どこか新鮮さを感じさせるものだ。もっとも、この町自体がクルトにとっては見慣れぬ場所であろう。

 一旦、クルトは疑似ルビーから目を離した。しかし、どうしてだか視界は歪んだままだった。

「あれ」

 突然の変化に戸惑うクルト。ただ、変化の理由はすぐにわかった。クルトの目が、何時の間にか涙で濡れていたのである。

「なんだこれ……なんでいまさら」

 涙とは悲しい時に流す物だろう。確かにクルトは悲しい体験をしたが、それは今では無いはずである。涙を流すのなら、もっと前に流すべきだった。だと言うのに、クルトの涙は、なんでもなこの瞬間にこそ流れたのだ。

(ああ……そうか……僕にとって、ナイツの死を受け入れる瞬間はここだったんだ)

 やることをやり終わり、休息の時期になって、初めてクルトの心の奥に留まっていた物が溢れたのだろう。この涙は、きっとその証である。

(なら、流れるだけ流せば良い。今まで溜めていた分なんだからさ)

 クルトは涙を拭わなかった。この涙を流し切った後、漸くクルトの戦いは終わるのだ。



 涙が途切れるくらいに時間が経ったクルトの部屋。ベッドに座りながら呆けていたクルトだったが、暫くして次の行動に移ることにした。

 涙を流し切ったのなら、後は宿でくつろぐのみである。そしてこの宿ですることと言えば一つだ。

「よし、温泉にでも入ろう。気分転換には丁度良い」

 あえて口にして、自分の心境を変えようとするクルト。何時までも悲しんでいられないのが人間と言うものだ。

 クルトはベッドから立ち上がり、部屋から出ようとしたところで、出るべき扉の向こうから、ノックの音が聞こえて来た。

「はい。入ってますよ。イリスさんですか?」

 クルトの部屋を訪ねてくる人間と言えば、イリスくらいしかいないだろうと思って声を掛けるものの、帰って来た声は女性でなく男性の声だった。

「クルト・カーナの部屋で良いか?」

 その声には聴き覚えがある様な気がしているが、どうにもクルトは思い出せなかった。

「どなたでしょうか?」

 扉越しに相手を探るクルト。聴き覚えがあるからと言って、容易く開けてしまうのは危険であろう。もしかしたら暴漢かもしれないのだ。

「アレクと言う名前を覚えて居るか? ヒレイ様の護衛をしている傭兵の」

「アレク? アレク………ああ、思い出しました。思い出しましたよ」

 クルトは扉の先にいる人物を思い出すと、漸く扉を開けることにした。声の主こそが、クルトが思い出したアレクその人だったからだ。

 姓の無い一般人である男だが、大貴族ヒレイの護衛を務めるということで、ある種特別な存在だ。戦いの腕だって立つだろうし、小間使いと言えども、貴族から直接の命令で動く私兵の様な仕事をしている。会ったことはこれまで数度しか無かったのだが、クルトの後援者と言えるヒレイに信頼されている人物ということで、記憶の片隅には残っていた。

 彼がやってきたということは、ヒレイの指示が何かだろうか。

「どうぞ、入って下さい。何の様かは知りませんが」

「ああ、悪いな」

 クルトが部屋の扉を開けると、アレクが少しだけ辞儀をした後、足を踏み入れて来た。

「ヒレイさんの指示か何かで来たんですか? どうしてこの場所が」

 部屋に入って来たアレクを奥へと案内しながら、クルトは相手の目的を探る。

「目的はその通り。場所がわかったのは、俺自身の努力だ。イーチ国に出向いたという話を聞いて追ってバジの町に行けば、既に去った後。じゃあ次にどこへ向かったのかと聞きまわれば、どうやらマジクト国側。国境付近の町にいるんじゃないかと方々を探して、今日、漸くお前を見つけたわけさ」

 それなりの苦労があったとアレクが話す。実際、クルトがモノビーブで逗留しているということは、イリス以外には知らないことであり、よくもまあ数日で探し当てられたものだ。

「随分と疲れてるんじゃないですが? 好きな場所に座って下さい」

 クルトは部屋の中へ案内したアレクに、幾つかある椅子を指して話す。アレクが遠慮なく机近くの椅子に座るのを見て、クルトはその反対側にある椅子に座った。

「それで、散々苦労したそうですが、僕にいったい何の様なんですか」

 机を挟んでアレクの正面に向かいながら、クルトは会話を続けた。

「ああ、ちょっとな。ところで、確かお前の旅には騎士団員の一人が同行しているそうだが、今はいないのか?」

 きょろきょろと部屋を見渡すアレク。

「一応、相手は女性ですよ? 同室なわけないじゃないですか」

「なんだって? その騎士団員は女なのか! もしかしてそれなりに美人だったりするんじゃないだろうな」

 どうして騎士団員が女性という点に食い付くのだろうか。しかも鼻息が荒い。

「どちらかと言えば綺麗な方なんじゃないですか? けど、近寄りがたいというか、強気な感じの性格で、見た目の得を打ち消していると思いますけど」

 まあ、不細工ではないのは確かだ。思うに男社会の王立騎士団で働く様な人物にしては、意外な風貌だろう。見た目と騎士団員としての実力に関係性があるわけではないのであるが。

「いや、美人なら良いんだ。そうかあ、話すのが楽しみだな。さっそく連れてきてくれ」

「連れてきてって、なんでまた」

 何故か話が本題に入らず、さらに先延ばしにしようとするアレク。クルトはこの人物について良く知らないが、こうも回りくどい相手だっただろうか。

「話をする時に美人がいれば、会話も弾むってもんだろ」

「そういう話、本人を前にして言わないでくださいね。結構怖いですから」

 クルトはイリスの対応に慣れているものの、もし見ず知らずの一般人が見れば、イリスという女性は威圧的な印象を持つだろう。そしてそれは事実である。話すことは固いし上から目線だし、すぐに怒鳴る女なのだから。

「騎士団員ってことは腕も立つんだろうな。一度手合せして見たいもんだ」

 イリスが美人であると聞いた時と同じ表情で、相手の強さを喜ばしいと話すアレク。クルトには理解できない人種である。イリスはどうなのだろうか。

「それで呼んで来たら、ちゃんと訪ねてきた理由を話してくれるんですよね?」

「お? ああ、大丈夫、大丈夫。話さないなんてことはないからな。お前さんとそのイリスって女性に大きく関わる話で―――」

 そこまで話してアレクは一旦言葉を溜める。重要なことを話すぞという合図に見える。

「多分、マジクト国全体にも関わって来る話だからな」

 事態は思った以上に重大だと、アレクはその言葉で語っていた。



「で、この男はいったい何者だ。私はこんな男を知らんぞ。不審者か?」

 クルトがイリスの借りている部屋に彼女を呼びに行った時、彼女は丁度宿の温泉から帰って来たばかりであり、部屋でくつろいでいる最中だった。

 どういう状況かと言えば、部屋で一息吐くはずのところで、クルトが余計な仕事を持ってきたのだ。つまり彼女は不機嫌だ。

 現在はクルトの部屋までやってきて、呼び出した張本人であるアレクを睨んでいる。勿論、苛立ちを少しも隠しはしていない。

「この人はアレクさん。ヒレイ・マヨサさんの部下だそうです」

 イリスはアレクについてまったく知らないため、クルトが説明することになる。もっとも、クルトだってアレクのことを良く知るわけではない。

「ほうヒレイ殿の………」

 値踏みする様にアレクを見るイリス。機嫌はまだまだ直らぬ様子だ。

「想像していた以上に美しいお嬢さんだ。俺はアレクと言う、傭兵と護衛を生業にしている男だ。よろしく頼む」

「要するにヒレイ殿子飼いの使い走りと言う話だろう。何故、私がお前の様な男とよろしくしなければならないんだ」

 イリスはアレクを随分と嫌っている様子。アレクの軟派な雰囲気が気に入らないのだろう。そうでなくても、彼女は人に厳しく当たるタイプだ。

「いやいや。お互い、戦う技術を買われて仕事をする人間だ。親しくできる点は確かに存在すると思うがね」

 諦めずにアプローチするアレク。このしつこさは見習うべきなのだろうか?

「私はまったくそう思わんな。尽くしている対象が違う。私は国でお前は金だ」

「給料はそっちだって貰っているんじゃないかい? まあ、傭兵風情が何言っても説得力が無いか。なら、仕事の話だ。そっちは聞く気はあるだろう?」

 イリスとの仲を向上させることは諦めたらしい。話はやっと本題に入る。

「マジクト国にも関わる話だと言うことだが、ヒレイ殿がどうしてそれを私達に伝える」

「無関係じゃあ無いからさ。マジクト国の重要事項に、アンタ達が関わっていて、ヒレイ様は早急にその事情を伝える必要があると、俺を寄越したってわけだ」

 クルト達が国の何かに関わっているのだとしたら、それは支援団に関することだろうかとクルトは予想する。

 マジクト国を離れているのはそのためであり、今回の件も支援団が関わっているのかもしれない。

「何か、僕らは大きな失敗でもしましたか?」

「さてねえ。俺が聞いているのは、貴族議会の状勢が大きく変化した件についてだ」

「貴族議会が?」

 クルトはその言葉に反応してしまう。良い印象が無いのだ。その決定は一国民であるクルトには絶対で、理不尽であろうから。

「最近、貴族議会は揉めに揉めている状況にあるが、それがどうしてだかは、説明する必要は無いな?」

「リブクイン国でのことだな」

 直ぐに答えるイリス。現在、貴族議会は、リブクイン国とそこへ送った支援団の話題で持ちきりだろう。

 一応、支援団のマジクト国帰還の議決を出したものの、それが本当に正しかったのかという話題が持ち上がっているのだ。これは、支援団がリブクイン国で半端に活躍してしまったせいである。

 一度は支援団に参加している国民を無為に使っているという批判の中にあった貴族達が、今になって息を吹き返しているのだ。

「知っての通り、俺の雇い主は支援団をマジクト国まで帰還させた側だ。支援団が再評価されるという事態は、少々不味い」

「僕らにとってもそれはちょっと………。また支援団を結成してリブクインに向かうことになるのは困ります」

 これがアレクの伝えたかったアシュルの状況なのだろうか。しかし、それはクルトだって知っている物だった。今さら聞かされたところで、どうしようもない。

「まあ、その可能性は低いだろうな。ヒレイ様とスガル様が、支援団の再結成を狙う貴族達の動きを封じようとしている。問題はだな、その動きを封じるための策についてなんだ」

 つまりヒレイとスガルが余計なことをしようとしているために、クルトに害が及んでしまっている状況ということだろうか。

「支援団再結成派の貴族を叩き潰してもするのか」

 過激なことを口にするイリス。確かに手っ取り早い話なのだろうが、無茶な話でもある。

「そんなことすりゃあ、貴族の大半を敵にまわすぞ。大貴族や王族が上から押さえつければ、直接関係の無い奴らまで反発するだろうからな。それに、支援団再結成派なんて言える程に、まだ一部貴族達はまとまっていない。要するに、今の内に手を打っておけば、全体的な妥協で問題を終わらせることだって可能ってことだ」

 動きが早いということは、事前の策を幾つか用意できるということだ。そして政治にとって理想的な結果と言うのは、全員が平等に損をしつつ妥協した物であり、それには事前の手回しが必要になってくる。

「支援団の存在について揉めている状況で、どうにか妥協点を探るとしたら、支援団自体は廃しておいて、代わりに別の物を用意するって感じになるでしょか」

 クルトは自分なりに予想する。貴族達が揉めるのは、その多くが面子の問題だ。失敗をしたから、お前の意見はすべて無しだと言われれば、強く反発するのが貴族なのである。

 だから相手の面子を立てる形で物事を進めさえすれば、ある程度の妥協が可能になる。

 今回の場合は、支援団結成を賛成した側には、代わりの何かを作るから、支援団を帰還させた側が進める支援団の廃止に納得してくれという話が持ち上がるはずだ。

「とりあえずとして、再びリブクインに国民を送るという事態は避けたいのが、うちの雇い主やスガル様の意向だ」

「なら、支援団の代わりになる何かは、リブクインへ人員を送らせる様な機構では無いわけですね?」

 それならばまず一安心だ。クルトが再びリブクインの戦場へ向かうことは無いだろう。

「リブクインに兵を送れないのなら、支援団の代わりとは言えないのじゃあないか?」

 誰もが思いつく疑問をイリスが口にする。支援団を結成した貴族達は、他国を助けるという建前のもとに動いたのであり、最終的にリブクインの支援が不可能になるのであれば、貴族達の面子はやはり潰れる。

「お嬢さんの疑問はごもっとも。ただ、あくまで建前だけを見た場合だな」

 お嬢さんという単語を聞いて、露骨に不機嫌な顔をするイリス。それを余所にアレクは話を進めていく。

「要するに、支援団がマジクト国の利益に貢献したという結果さえあれば、支援団の結成に賛成した貴族達の面子は保たれるんだよ」

 元々、支援団に対する批判は、その存在が一切国益に帰依しないという物だった。名誉や正義感だけでは国は成り立たぬのだ。なんらかの見返りの無い決断は、労力を無駄にする愚行でしかない。

「つまり支援団がマジクト国にとって重要な存在だったと、後付けでも良いからそういう意義を見つけ出せれば、賛成派の貴族を黙らせることができると」

「話が早くて助かるねえ。政治家でも目指したらどうだ?」

 クルトは御免こうむると言いたいところであるが、目下のところ、目指すべき道に一つには、そういう選択肢があったりする。現実に可能であるかどうかは別として。

「茶化すのは置いといて、貴族議会はいったいどういう結論を出したのかを早く話してください。それを伝えるためにここまで来たんでしょう?」

「そう言うなって。苦労した分、話を勿体ぶらせたいだろう? まあ、言うだけ言わせて貰えれば、支援団が行ったとある作戦が評価されて、その作戦を非常時の際には何時でも実行できる様な組織を作ることに、貴族達が同意したってことだ」

「とある作戦?」

 イリスが訝しむ表情を浮かべる。支援団はリブクイン国では生き残ることに必死で、それほどに評価できるような作戦を行う余裕は無かった様に思える。

「確かお嬢さんが報告書で書いた内容が議会の参考資料で回っていたらしいぞ。魔法使いの機能的な運用方法について……だったか」

 アレクの言葉でクルトは思い出した。支援団を生き残らせるための最後の作戦。敵地に騎士団員と魔法使いが侵入し、敵の重要拠点を焼き払うというものだった。イリスの書いた報告書とは、その作戦の概要を書いた物だろう。

「あれは、魔法使いが前線に立つという状況が珍しかったため、一応書いた物に過ぎない。魔法使いが、無駄な人材では無かったという理由づけ用に手心を加えた部分があるにはあるが………」

 イリスはマジクト国に戻ってから、リブクイン国での出来事を書いた資料を一通り作ったらしく、アレクが話しているものも、その中の一部分であると言う。

「魔法使いが前線の戦いに参加し、そこである程度の成果を上げた。ヒレイ様やスガル様はそこを強調し、今回の支援団派遣は、魔法使いが実際にどれ程の戦力になるかという物の実演になった点で、得る物があったと話を進めたわけさ」

 実際は、魔法使いだからそれ程の活躍をしたというわけではない。フィルゴ帝国側にある程度の隙があって、そこをクルト達が突いたに過ぎないのだ。

「……まあ、魔法があの作戦に役立ったというのは事実だ。絶対に必須だったわけでも無いだろうが、作戦の円滑な進行を促したのは、お前自身が一番理解しているんじゃないか?」

 どうしてだか、イリスはクルトのことを評価している様だった。リブクインでの戦いは、魔法が実際に役に立ったと彼女は考えているのだろうか。

「それなりに通る説明がなければ、スガル様やヒレイ様もこんな話はしないさ。兎にも角にも、支援団の意義は、戦闘行動において、魔法が優位に働くことを実践した存在であるという事で落ち着いた」

「腑にはまだ落ちませんけど、理解はしました。それで、どうして急いで僕らに会いに来た理由になるんです?」

 支援団は魔法がどう活躍するかを見る実験的団体ということで落ち着いたのなら、もうそれで良いでは無いか。そこにクルト達がどう関わって来るのか。

「話がもう少し先へ進展したってことさ。支援団は魔法に関する成果を持ってきたということになった。じゃあ、その成果をどう活かすのか。貴族議会は思った以上に進展……というか、俺の雇い主が進展させたわけだが、かなり大きな決定がされることになった」

「その決定に、僕らが関わって来ると? 確か、ある組織が作られるという話でしたか」

「そうだ。貴族議会が下した決定。それは、王立騎士団を構成する人員の一部に専属で魔法使いを雇用するというものだった」

 国の威信を負って戦う王立騎士団の中に、魔法使い専門の部署ができる。アレクはそう話していた。



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