魔法使いの歩き方(2)
ナイツの葬儀と支援団帰還祝いが終わった後に、クルトはイーチ国へ旅立つことになった。
その旅にイリスが同行することになったのは、彼女もアシュルから暫く距離を置く必要があるのと、もう一つ。クルトの監視がその役目だろうと、クルト自身は考えていた。
(本人はそれに気づいていないっていうのはどうなんだろうか。まあ、僕に変な人間が近づかない様にする護衛の意味もあるのかな)
クルトが一応、リブクイン国支援団を活躍させてしまった人間のため、支援団を結成した貴族達から利用される可能性がある。また、本人がそういう貴族に接触する事態も想定されるから、王立騎士団員でクルトと似た立場にあるイリスを、クルトの旅に同行させたのだろう。
どちらにせよ、クルトにとっては余計な世話であった。ただ、次期王や大貴族からの命令に従わぬわけにも行かず、結局はマジクト国を出ることになる。
「うん。もう少しでバジに着く。まだナイツの両親に会った時の言葉を考えていないのに」
「なんだか彼女との婚約を両親に知らせに行く男みたいなことを言うな、お前」
見渡す限りの荒野の中で、地図を見ながら話すクルトを、イリスが横目で見てくる。クルトなりに真剣な悩みであるのだが、傍から聞いていると馬鹿らしいことで悩んでいる様に思われているのだろうか。
「しかし、こんな荒れた土地でそれほど大きな町があるとは思えんな。死んだナイツは、小さな町出身者なのか?」
「それなりに人口がいる町だって聞いていましたけど………。本人も、結構大きい商人一家の次男坊だって言ってましたし」
ただ、話半分にしか聞いていなかったので、正しい情報かどうかはわからない。そもそも、クルト自身の記憶も曖昧だった。
ナイツと話すことと言えば、その殆どが大学内での出来事や魔法研究に関わる物であり、自分達の身内の話はあまりしていなかったのだ。
「商人の家で、しかも兄がいるのか。なら家を飛び出して他国で一旗揚げようという気持ちはわからなくないな」
「ほぼ勘当同然で飛び出したらしいですけどね。家に行って、うちにはそんな息子いませんなんて言われたらどうしよう………」
旅自体が無駄足になる可能性は考えていなかった。もし、ナイツとその実家が完全な絶縁状態であったのなら、いったい何のためにイーチ国に来たのかわからなくなる。
「その心配は無いだろう」
「なんでわかるんです?」
「家族の縁なんてものは、勘当程度で無くならんからだ。だからこそ、死を伝えることが辛い」
厄介なのは、彼の死を伝えるということその一点のみであり、他を心配するのは杞憂ということか。確かにそれは、クルトにとって一番の問題だった。
「けど、やるって決めた以上、止めるわけにはいきませんよね」
これは最後のけじめだ。ナイツのためと言うより、クルト自身がリブクインでの戦いから続く物事に決着をつけるつもりで、イーチ国に来たのだ。
「おや、見えてきたみたいだな」
イリスが顔を上げて荒野の先を見る。その視線の先には、障害物の少ない荒野の中で人工物を感じさせる凹凸の陰があった。
「あれがバジの町ですか。まだ距離はあるんでしょうけど、ああやって目的地が見えれば、漸くって感じがしますね」
マジクト国から数日掛かった陸路の旅の終着点。あの町に、ナイツの家族がいるのだろう。
イーチ国は、内陸部が痩せた土地で、海に面した沿岸部の町が栄えている。主な産業は漁業と農業。フォース大陸の食料庫を自称するその国家は、確かにフォース大陸の他国家に食糧を輸出できるほどの生産力を持った国だ。
自国で食料を生産し、他国へ輸出するという構造を持つ以上、他国への窓口となる卸屋も多く存在する。ある意味で商業が盛んなのだ。
そんな商人の一族出身者がナイツである。もっとも、クルトはバジの町の商人が他国への輸出を主な産業にしているとは考えていない。
「バジの町の地理関係上、他国へと言うより、もっとも発展している西側沿岸部の町からの産出物を、東南端にあるムーロ港までを運ぶ形で、その利益を得ているんでしょうね。丁度それらを繋ぐ道の中間に位置する町ですから」
クルト達はバジの町の入口で、この町がどういう場所であるかと言うことを確認していた。
「利益を得るために町ができたのか。町が利益を得るためにこういう構造を作ったのかは、卵が先かひよこが先かの話ですけど、まあこの町の商人は、イーチ国の風土から生まれるべくして生まれたと言うことです」
イーチ国に卸屋が多いということは、中間で物資を取りまとめて販売するといった考えが存在するということだ。
物資を港まで運ぶ過程で、それらの運搬と仕分けを生業にしている商人こそが、バジの町の商人なのである。
「なんで発展した西側から東の港まで運ぶ必要があるんだ。港なら西側にもあるだろうに。もしかして無いのか?」
イリスは話を続けるクルトを退屈そうに見ながら、とりあえずの質問をする。
「理由は二つあります。まず一つめは、西側の発展した町というのが、農業と漁業によって発展しているということ」
指を二本立てて、その一つを曲げるクルト。
「ふーん。農業と漁業で発展していると、港が作れないのか」
「作れますよ。そもそもなんのための漁業ですか。港が無ければ漁なんてできないでしょうに。問題は、そういう専門性の高い職業は、自分達を守るためにより専業化しようとするんです。そして専業化した集団は、自分達に害をもたらす集団を排除しようとする。イーチ国の場合、農業と漁業以外の産業がそれですね」
「あー、うー、要するになんだ」
まったく理解した様子の無いイリス。そんな彼女を見るものの、クルトはしぶとく説明を続けた。
「つまりですね、農業と漁業を生業にする者にとって、商業を生業にする人達も等しく邪魔者なんだってことです。せっかく作った生産物を自分達から安く買い上げ、余所に高く売る奴は敵だって発想ですね」
「だが、そもそも売れなければ商売になるまい」
「そこらの妥協点が、自分達の町から離れた場所に商業の入口を作るってことだったそうです。西側からある程度距離をとった場所に港があるのはそのためでしょうね。さらに漁業関係者が港のキャパを輸送船に使うなと煩かったそうで、現在輸送船の製造規制を決めた法律まであり、陸路で運ぶしかない。内陸のバジがそこそこに発展したのは、これら排他的な集団のおかげかもしれませんね」
「で、あと一つの理由は?」
せっかく熱く説明を続けているというのに、イリスはすぐに流してしまう。
「あと一つは、北東側にマジクト国があると言うことです」
「イーチ国の問題だと言うのに、マジクト国が出てくるのか」
「バジの南側にあるムーロ港は、マジクト国の商船を受け入れるために出来た様なものなんですよ。さっきも言った通り、イーチ国にある輸送船は数に限りがありますからね。主に海外へ食料を運ぶのはマジクト国の仕事」
イーチ国の卸業者はマジクト国からの商船に生産物を売りつけることで利益を得て、マジクト国側も、儲け元の輸送品を得ることができるのだ。こういう関係上、イーチ国とマジクト国はかなり良好な関係であると言える。二つの国の境を越える上で、一応関所はあるのだが、ほぼ素通りに近かったりするのだ。
「そうして、マジクト国に生産物を卸す業者の多くが、西側とムーロ港をつなぐ中間点に位置するバジの商人を頼っている。ムーロ港の卸業者は西側と直接交渉せず、バジの商人から生産物をまとめて受け取っている形ですね」
生産物が動けば、その距離の分だけ間に入る商人が増える。イーチ国の商売とはそういうものである。その分、生産物の値はそれなりに上がってしまうのだが、品質はある程度保たれており、信頼度は高い。他国にイーチ国の生産物が受け入れられているのもそのためだ。
ナイツの実家もそういうイーチ国特有の商人なのだろう。ナイツがマジクト国の魔法大学を目指そうと考えたのは、そういう商人の家にあって、比較的マジクト国と繋がりがあったかもしれぬとクルトは考えていた。
「まあ、わかったような、わからなかったような話だが、それらが予想できて、友人の両親へ訃報を届けることに何か役立つのか?」
率直に聞かれてクルトも戸惑う。今まで長々と話した内容は、クルトの趣向に近い話であって、実際、イーチ国に来た目的とはあまり関係ない。
「そ、そうですね………。商人の家だから、あまり客を粗雑に扱わないのでは………」
「実の息子の死を告げに来た奴を、粗雑に扱わないものか?」
それはもうわからない。ただ、既にバジの町中まで来た以上、引き返す理由は存在しないのだった。
バジの町中で、ナイツの実家はすぐに見つかった。次男坊が出奔した商人家というのは珍しいらしく、人に聞けばすぐに場所を特定できてしまう。さらにその商人家がそれなりに栄えた家であるというのも、早く見つけられた一因だろう。
卸屋『ヒエン』そんな屋号を描いた看板を軒先に吊るした家が、ナイツの実家であった。
「………そうですか。あいつが家を出た時、碌な死にかたをしないんじゃないかと心配したもんですがね」
クルト達が真っ先にナイツの死を伝えた相手。それは彼の両親でなく、彼の兄、キースだった。
既に若旦那と呼ばれる様な、ほぼ店を継いだ状態となっているこの男性は、クルトが尋ねた時は店の番をしており、一番早くクルトが持ってきた情報を知ることとなったのである。
現在、クルト達は彼に店の奥から住居部分に当たる場所へと案内され、その一室にて彼と話をしていた。部屋は靴を脱いで上がるイーチ国にありがちな座敷部屋だ。クルト達とキースは机を挟んで、床に座りながら話す。
「その、ナイツとは、大学で友人関係でした。だからこの度の件に関しては伝えることに心苦しいところが―――」
「ああ、いえ。そう格式ばらずに。あいつもこうやって死んでからでも気を使ってくれる友人が居て、幸せだったと思います」
優しい笑みを浮かべるキース。しかし、そこに少しだけクルトは違和感を覚えた。
「失礼かと思うのですが、あまりショックを受けていらっしゃらない様に………」
本当に失礼な話だとクルト自身思う。ただ、身内が死ぬということは、もっと衝撃を受ける出来事なのではというのが、クルトの常識だった。
「そうかもしれませんね。あいつは、大学へ入学することは出来たのでしょう? つまり夢を叶えたわけだ。一方で僕はまだこの店にいて、あいつが逃げた店を継ごうとしている。どうにも複雑な気分が先行して、あいつ自身のことを考えられないのかもしれません」
唐突に、キースの口から彼の感情を吐露される。それも今日尋ねて来た人間に対してだ。いったいこれはどういうことか。考えなくてもわかる。一見、弟の死という事実に平然としている様でいて、その実、心の均衡が少しばかり崩れてしまっているのだろう。
「ナイツはナイツで、実家に対して負い目がある様でした。馬鹿みたいな夢を持って、実家を勘当されたのは当たり前だと」
ナイツがその死の間際に呟いた言葉だ。実家に反発して家を飛び出した少年が、最後には自身の方が間違いだったと認めたのである。本人とそれを聞いた親族は、どう思っていたのだろうか。クルトにはわからない。
「………あいつが家を飛び出さなければ、家を継いでいたのはナイツの方だったかもしれません」
そのキースの言葉にクルトは疑問を覚えたが、イリスも同様だったらしく、閉じていた口を開いた。
「うん? 兄はあなたの方でしょう?」
イリスの疑問は単純明快で、家を継ぐ役目は兄の方であり、兄が存命しているというのに、弟の方が家を継ぐはずだったというのはおかしいというものである。
「実際はそうかもしれませんが、商人の家というのは才覚が物を言う世界なのです。生まれ持った才能のある方が家を盛り立てることができる。弟にはそれがあったのでしょうね。少なくとも両親はそう考えていた」
「だから、家を飛び出す時には喧嘩になった」
キースの言葉から、クルトが大凡の事情を推測する。家を継ぐはずのナイツが、どうして勘当までされて、魔法大学に来たのかを。
「良くわかりますね。確かに弟は才能がありましたが、本人に熱意が無かった。弟にとっては、兄の私がいたから、そもそも家を継ぐ気などさらさら無かったのでしょう。一方で、自身の才能は大事にしたいと、そう考えた」
家の事情とはどこも複雑だ。兄より弟を優遇しようとした両親に、それに反発し、なお、その才能を活かそうとした弟。では、兄であるキースはどう考えているのだろう。
「もしかして、ナイツを憎んでいたりするのでしょうか?」
もしそうであるならば悲しい話だ。せめて肉親にはナイツの死を悲しんで欲しいとクルトは考えているから。
「憎いと思う気持ちはゼロではありません。ただ、どうあってもあいつは私の弟なんですよ。あれで、私には良く懐いていた。家を出るという話を真っ先にあいつが話したのは私です。その時、私はあいつが魔法大学へ行くことに賛成しました。夢を持つことは……良いことだと」
それがどういう感情から出た物なのかどうかは、本人にだってわからないだろう。憎い弟を家から追い出せる良い機会だと考えたのかもしれぬし、心に希望を抱く弟の応援をしたかったのかもしれない。
ただ一つクルトが思ったのだ、キースと言う男性がナイツの死を悲しんでいるのだろうということだった。
彼の内心は良くわからない。ただ、キースは話の途中で涙を流していたのだ。
(本当でも作り物でも、涙を流すのはナイツの死を悲しもうとしてくれている証拠だ)
クルトは漸く、世界にナイツの死が認められたという気分になった。それはクルト自身の心にも影響を与える。クルトは、自身の心のどこかに淀んでいた物が、違う場所へと落ちた様な気分になった。
「そうだ。弟の死を伝えてくれたあなた方に渡したい物がある。少し待っていてください」
キースは自分の涙を拭ってから、その場を立ち上がり、部屋を出る。
「………両親とは話さなくても良いのか?」
キースが部屋を出たのを確認したイリスは、クルトに尋ねてきた。
「さっき、揃ってちょっと出かけてるって話を聞きましたよね? その間にキースさんと話しているんじゃないですか」
クルトは、ナイツの家族全員に彼の死を伝えるつもりだった。何度も心苦しい思いをするだろうが、それは仕様が無い。
「そうか……ああやって泣かれるのを見るのは、心が堪えるな」
イリスはイリスなりに重い心情であったらしい。ただ、死を伝えた後に罵られるよりはマシだろうとクルトは考える。
不幸な話を持ち込んだ相手に対して、怒りの声を上げる権利くらい遺族は持ち合わせているだろうから。
「すみません。お待たせしました」
イリスと話をしている間に、キースが部屋に戻ってきた。手には、そこに収まる小さな木箱が握られている。
「それが私達に渡したい物でしょうか?」
イリスがナイツに尋ねる。木箱に入っている物なのだろうが、中身がわからないせいで好奇心がくすぐられたのだろう。
「どちらかと言えば、ナイツと同級生だったクルト君に渡す物になるでしょうか」
キースは再び定位置に座ると、木箱の蓋を開けた。
中には一つ、赤い宝石が入っている。小さな木箱に入るくらいの大きさであるが、それでも宝石としては十分に大きい。本物であればであるが。
「これは……擬似ルビーですね」
クルトは赤い宝石を見て呟く。授業で一度見たことのある宝石だった。ルビーに近い輝きと硬度を持つそれであるが、ある種の特別な技能を持つ魔法使いが、長時間掛けて鉱物から生成したものらしく、ルビーよりは希少性が低い。ただ、それでもキースが持ってきた物程の大きさとなれば、かなり高価になるだろう。
用途については様々である。装飾品としての輝きはルビーより若干劣るらしいが、それでもルビーの代替え品として使われているし、何より、宝石の多くは魔力に変換できたり、魔法を増幅できたりする効果を持っている。キースがクルトに渡したいと言うことは、そういった魔法に関わる物品として擬似ルビーを渡すということであった。
「こんな高い物を……いただけません」
本当は喉から手が出るほど欲しいわけだが、友人の死を伝えに来た家であっては、その手を引っ込めることに躊躇は無い。
「元々は、ナイツに渡すつもりの物でした。いつか、あいつが家にもう一度顔を出した時、兄である私くらいは、歓迎してやろうと思って…いたのですが………」
キースは再び流れようとした涙を手で拭う。
(なんだ。複雑な家庭だと思ったけど、どこにでもいる様な兄弟じゃないか)
弟は兄を慕い、兄は弟を構う。そうして片方の死を純粋に悲しむのだ。そこに偽りは無いとクルトは思いたかった。
「君があいつの友人なのだとしたら、代わりに貰ってくれませんか? 墓にでも入れたら、勿体の無いことをするなと化けて出てきそうだ」
キースは木箱ごと擬似ルビーをクルトへ差し出すと、そのまま微笑んだ。まだ、目には涙を浮かべたままであるが。
「……そういうことでしたら、これは受け取って置きます」
今度は断らず、クルトは擬似ルビー入りの木箱を手に取った。宝石というものは、大きさに関わらず重い物なのだろうか。ズシリとした感触が手に伝わってくる。
(多分これは、ナイツの死を悲しむ感情の重さなんだろう)
なんとなく、そう思うことにしたクルト。実際には現実的な理由があるのだろうが、こういう場でくらい、感傷に酔っても良いではないか。
「おや、どうやら両親が帰ってきたみたいですね」
店の戸が開く音がして、キースが呟く。扉の開け方から誰であるかわかるというのが家族というものなのかもしれない。
その後、クルトは帰ってきたナイツの両親に、再び訃報を届けることとなった。父親は怒り、母親は悲しむ。そんな当たり前の光景を、クルトはイーチ国で眺めることになったのである。
用事が終われば、そのままマジクト国へ帰国することを考えるクルト。ナイツの家族から、家に泊まっていけば良いと言われたものの、どうにもそういう気分にはなれなかった。ここには、ナイツが生きていた頃の足跡が残っている様に思えたのだ。彼の死を考えることは、どうしても、クルトにとっては苦痛であった。
「しかし、暫くアシュルから離れる様に言われた手前、すぐ帰国すると言うのはどうなのだ?」
バジの町を出たクルト達であるが、暫く歩いた後にイリスから尋ねられる。彼女の話は事務的なことばかりなので、感傷的な気分の今は、少しばかりであるが有り難い。
「そうですね。まだイーチ国とマジクト国の間には幾つか宿場町があるでしょうから、そこに泊まるのも良いし、すぐにアシュルへ戻らず実家にでも帰るってのも別に構いません」
「実家はアシュルにある。帰れない」
イリスが無感情に話す。
「………じゃあ、マジクト国への帰り道で、どこか逗留できる場所でも探しましょうか」
困った子どもを見る様な感情で、クルトは今後についてを決めていく。
よく考えてみれば女性の二人きりの旅だというのに、色気の無い雰囲気だ。どうしてこうなってしまったのか。
「言わせてもらうが、仕事以外で他国へ出向くこと自体が初めてなんだ。何か良い案を考えろと言われても困るぞ」
「一応、僕の付添いって言う任務のはずだったと思いますけど」
「ふっ」
なんで鼻で笑われることになるのだろうか。納得がまったくできない。
「まあ良いですけどね。マジクト国とイーチ国の国境付近には、旅行客や旅商人達のための宿町があるでしょうから、そこで色々と時間を潰しましょう」
旅慣れた客が集まる町であるならば、面白い物や目の肥やしになる様な物があるかもしれない。せっかくイーチ国に来たのだから、暗い仕事をするだけでなく、楽しみながら様々な場所を歩くことも大事だ。
クルトは一旦気分を変えて、イーチ国で観光を始めることにした。どうせアシュルには暫く戻れないのだ。大学でも勉強も随分遅れているだろうが、仕方のないことだとクルトは半ば諦めていた。
ただ、事態はすぐに動き出すことになる。アシュルでは大きな変化が起こっているからだ。しかし、そのことをクルトが知るのは、もう暫く後になるだろう。




