魔法使いの戦い方(4)
クルト達はサンポ大森林を抜けてハマツへと出る。途中、何度か敵兵に遭遇し掛けたものの、イリスがそれを早く察知して、身を隠しながら進むことができた。
「一応、僕らは無事任務を達成できたってことですよね」
ハマツの町へと入る門の前で、クルト達は入門の許可が出るのを待っている。現在も町は厳戒態勢と言った状況であり、支援団であるはずのクルト達も、町への立ち入りには、念入りな検査を必要としている。
「とりあえずはホユニ司令官に報告だ。ハマツの状勢や、他の仲間がどうなっていかも知りたい」
ハマツに到着したばかりであるため、何の確認もしていないクルト達。別々に帰還する予定だったため、ハイマウントを奇襲した仲間の無事もわからないままだ。
「ハマツの状勢ですか………フィルゴ帝国とはどうなったんでしょうね。少なくとも、北方の帝国軍とは一戦しているはずなんですよ」
そもそもハイマウントへの奇襲自体、フィルゴ帝国本軍を足止めして、その隙に北方の帝国軍を攻めるために行ったものだった。
クルト達がハイマウントへ奇襲を行い、一応の成果を収めた以上、ハマツ側にもなんらかの結果が残っているはずである。
「ハマツの町自体が無事な以上、帝国本軍の方はなんとかなったのだろう。だから、こうやって、町の入口で時間を掛けて検査をする余裕があるわけだ」
ハマツが危機的状況にあるのであれば、そもそも検査などせず、近づく怪しい人間は撃退されていたに違いない。そうでないとするのならば、現状、ハマツは無事であると見るべきだった。
「なら、やっぱり気になるのは他の仲間がどうなったかですよね。僕らも危うく敵兵と遭遇なんて事態が何度かありましたし………」
「今更心配しても、どうにもならんさ。既に結果が出た後だろうしな」
イリスと話を続けているうちに、クルト達がハマツへと入る許可が出た。本人確認が終了したのだろう。
「町へ入った後は、すぐに司令官室にとの言伝を承っております」
衛兵の一人はそう話す。どうやら、そこで任務の成否や結果を知ることができそうだった。
「現在、ハイマウントへと出向いた支援団全員の無事を確認していますわ」
司令官室にて、ホユニ司令官から真っ先に伝えられた情報を聞き、漸くクルトは一時の安心を得ることができた。
どうやら、ハマツへの帰還はクルトとイリスがもっとも遅かった様である。森の中で少し作業をしたので、他より遅れることとなったのだろう。
「安心しましたよ。良かった。みんな無事で。今度は大丈夫だったんだ………」
クルトは本音を漏らす。自分が考えた作戦なのだ。自分が無事だとしても、他がどうなのか知らないままというのは、とても不安だった。
「ところで、我々が行った奇襲については、こちらに何がしかの影響はでたのですか?」
イリスがホユニ司令官に尋ねる。味方の無事が確認できたのなら、次は自分達の作戦が十分に機能したのかどうかが気になってくるというものだ。
「ええ。斥候からフィルゴ帝国本軍がハマツへ迫っているとの報告が入った時は、どうしようかと思いましたけれど、ハマツへ攻め込む前に、急にその進行を止めて撤退しましたの。あなた方が上手くやったのだと確信しましたわ」
恐らく、帝国本軍はハイマウントの混乱を聞きつけて、これを治めるために撤退したのだろう。ハマツを無理に攻めて、自分達の陣地を失えば元も子もないと判断したに違いない。奇襲がそれ一回だけで、既にクルト達が退却した後だとも知らないで。
(フィルゴ帝国は、むしろそのままハマツへと攻め入るのが正解だったよね。ハイマウントの被害は既に取り返せないんだから、北方の軍とハマツを挟撃し手に入れることで、被った不利益を取り戻すべきだったんだ)
ただし、クルトがそう言えるのは、ハマツ側の事情を知っているからである。フィルゴ帝国軍からしてみれば、ハマツを攻めようと侵攻した途端、基地を奇襲されたという事実があるのみであり、慎重に行動しようとする気持ちはわかる。
「では、北方のフィルゴ帝国軍はその隙に?」
「既にヴァイズが直接指揮を取り、撃退済みですわ。現在は散り散りになったであろう残党の警戒を行っている最中ですの」
秘書官のヴァイズがいないのはそのためか。煩型が居なくなって助かると言えば助かる。
「破壊工作の結果については、一度支援団の方々と話し合って情報をまとめてから、文章で提出する様にとの言付けですから、そちらはよろしくお願いしますわ」
ヴァイズ自身はこの場にいないと言うのに、さらに仕事を押し付けられてしまった。つくづくクルト達とは相性の悪い相手である様だ。
「他に何かをする様にとは言われていないんですか?」
厄介事を頼まれてはたまらぬと、クルトはホユニ司令官に確認する。
「いえ? 他には特に」
「そうですか」
それは良かったと胸を撫で下ろすクルト。支援団ハマツ残留組に関しては、今回の任務で全員が疲労困憊という状況になっていてもおかしくは無い。厄介事を押し付けられて、それをどうにかできる余力は無いだろう。
「それと………これはあなた方にとっては朗報と言えるかもしれませんわね」
「朗報ですか? いったいどんな」
「北方のフィルゴ帝国軍を撃退したことで、スリーアイランド港で止まっていた物資や伝令がハマツへ一斉に届いたのですけれど、その中に、マジクト国からあなた方支援団宛の命令文章がありましたの。スリーアイランド港の支援団に関しては、既にその命令に従っているそうですわ」
「命令………まさかそれは!」
イリスが前のめりになり声を上げる。自分達にとって朗報で、さらにそれが支援団への命令に関することであるならば、それは決まっている。
「………支援団の帰国命令ですね?」
クルトの発言にホユニ司令官は頷いた。
「あら、知っていらっしゃったのかしら? 戦争が終わる前に本国に撤退と言うのは肩身が狭くなるでしょうから、内密にとの話だったのですけれど」
「期待していたことが当たったってだけですから。それでも、申しわけないですけど、有り難い話です」
本当に喜ばしい話だ。これで、漸くクルトは自身の役目を全うできたのだから。
「帰国については、任務の報告書を提出後、スリーアイランド港へ続く道の安全を確認でき次第ということになりますわ。帰国の際には、正式に司令官として礼をさせていただきますけれど、今ここでも、個人的にお礼をさせてください。ありがとうこざいます」
「いえ、そんな。頭を下げるなどと」
ホユニ司令官が頭を下げるのを見て、イリスは慌てている。目上の人物に、感謝されるということに慣れていないのだろう。それはクルトも同様だ。
「感謝される程のことをしたのかどうかは、今後の話になると思います。だから、その言葉は後に取っておいてください」
クルトも笑ってホユニ司令官に顔を上げさせる。本意からの笑顔はかなり久しぶりかもしれない。
「そうですわね。戦争はまだ終わったわけではありません。この戦いがわたくし達の勝利で終わった後まで、皆様方への感謝は取っておくことにしますわ」
大言を吐くホユニ司令官。これくらい図太いことを言う彼女を、お飾りの司令官などとはもう言えぬだろう。
「それでは、一旦退室させていただきます。ここでのことを他の仲間にも早く伝えたいので。皆は支援団の待機室に?」
「ええ。そこに集まる様に伝えています」
イリスがホユニ司令官に確認をしてから、クルト達は司令官室を去った。
支援団の待機室まで戻ったクルトとイリスは、そこでさっそく皆の健在な姿を確認した後、司令官室で話した内容について伝えた。
「そうか。これで、この国での戦いも終わりか………」
深い息を吐くヘリスラー教師。彼は支援団ハマツ残留組の責任者だ。それだけ重い気分が続いていたのだろう。
「漸くマジクト国へ帰れるね。なんだかとても長かった気がする」
「実際、一月は長いわよ。もうすぐそれも終わりと思えば、まだ我慢できるけど」
魔法使いのケンとマホも喜んでいた。騎士団員側はさすがに表情にはしないものの、やはりどこか安堵している風だった。
「本国から帰国の命令と言うことは、議会は支援団を今後どう扱っていくつもりなんだろうね」
これで仕事が終わりということになれば、世間話程度もしたくなるのだろう。騎士団員のナビィは、マジクト国ではどの様な状況になっているかを話題にした。
「そりゃあ解散じゃねえの? リブクインへの支援を目的にした団体なわけだしな」
こう言った話には普段参加しないはずのオチヤが答える。彼も彼でどこか気が抜けてしまっているのかもしれない。
「普段通りに戻るってことですか………そうですよね。そっちの方が良い」
ケンが頷く。これまでがこれまでだっただけに、平穏無事という状況が、とても魅力的に思えているのだろう。
「………何もかも元通りにはならない。それだけは……覚えて置け」
浮かれ気味の魔法使い達に冷や水を掛ける様に話すメッズ。寡黙であるはずの彼が話す時。それは重要な話をする時だ。
「そうさなあ。確かに元には戻らんか。こういう経験をしてしまった以上、良かれ悪かれ何がしかの影響がある。特に……死んでしまった人間は」
ヘリスラー教師はナイツについての話題を口にする。皆、あえて触れない様にしていた話であるが、マジクト国へ帰国するというのなら、その事実を認めない訳にはいかない。
彼は、支援団内で唯一の犠牲者と言えるのだから。
「お墓………国に帰ったら作ってあげるべきなんでしょうか」
ポツリとケンが呟く。真っ先に考えることと言えば、そういう身近な話だろう。
「今回の仕事は国の命令によるものです。それに関わる死者となれば、国の共同墓地や記念碑にその名が刻まれることになるでしょう」
騎士団員のガイが説明するものの、なんだか事務的な話にしか聞こえず、クルトは少し嫌な気分になった。
「あ、でも彼、確かカガ国出身者らしいわよ。マジクト国でお墓を作っても良いものなのかしら………」
ナイツの出身地を知っていたらしいマホが答える。ナイツの立場にこの場でもっとも詳しいのはクルトなので、一応、話しておくべきなのだろうか。
「あいつ、実家からは勘当同然で出て来たって話していました。だから、マジクト国の墓に入れるというのは問題無いとは思います。けど………」
ナイツのことを話していると、どうしてだか頭がくらくらとしてくる。考えない様にしてきたことか、一気に動き出したからだろうか。
「実家に何も伝えんというのはいかんだろうなあ。どうしたものか」
既にもう大学教師の顔になっているヘリスラー教師。彼が支援団のまとめ役として動いていた以上、生徒の生死について、親に話さないわけにもいかないと考えているのだろうか。
「一度………僕が彼の実家があるカガ国へ……言って見ようと思うんです」
「そうしてくれると助かるが。辛い役になるぞ?」
クルトがナイツの死を彼の両親に伝えるということだ。息子を亡くした人間に、クルトはどう接すれば良いのかを知らない。だが、それでも自分がやらなければと思ってしまう。
「大丈夫です。やらせてください。多分、この戦争で、最後に僕がやらないと……いけないことが…それ…で―――」
急に視界が暗くなった。体が酷く怠い。何かあったのかとクルトは混乱するも、その思考すら遠くなっていく。
「お、おい。大丈夫か? クルト! おい、クルト!」
周囲の人間が駆け寄ってくるのが薄らと見えたものの、すぐにその姿も見えなくなり、クルトは深い眠りに落ちたのだった。
「医者によれば、過労によるものらしい。丸一日も眠れば回復するだろうと言う話だが」
急に倒れたクルトを、支援団待機室の隅に運んだイリス。その後、医者に見せたところ、寝息をたてながら眠るクルトを見て、疲労が一気に出た結果だろうと診断された。
クルトを安静にさせた後は、当然、待機室では彼の話で持ちきりになった。
「彼は確か14か15くらいの年齢だからなあ。それが友人を無くし、それでも支援団を生き残らせる作戦を考えてと、まあ重荷だ。マジクトへの帰国が決まって心が緩んだところに、疲労がドッと押し寄せたのだろう」
生徒のことを心配してか、ヘリスラーがクルトについて慮る。どうにも帰国した後も、死んだ友人について色々と考えそうで、イリスも少しだが心配になっていた。
「確か友人の死を家族に知らせるなどと言っていたが、本気か? そういう仕事は、それこそ国の仕事だろうに」
倒れるくらいに精神が疲労しているのであれば、暫くは養生していた方が良いとイリスは考える。
「疲れて眠ってるんなら大丈夫な証拠じゃねえの。起きて回復した後は、好きにさせれば良いんだ」
相変わらず荒々しい考えを話すオチヤ。だが、正論でもある。結局、精神の問題は本人がどうにかするしかない。そしてクルト自身が何かしらの行動をしようとしている以上、外野があれこれと言うもおかしな話である。
「まあ、自分で様々なことを背負い込むことができるくらいに、彼は面白い人間です」
どうやらガイはクルトをある程度評価している様だ。彼のどこに評価すべきところがあるのかは疑問であるが。
「面白いって、冗談はあんまり言わなさそうな印象よ?」
魔法使いのマホは、ガイの言葉をそのまま受け取ったらしい。確かにそういう意味での面白さは無さそうな奴である。捻くれた考え方をする生意気な小僧というのが、イリスが持つクルトの印象だった。
「そう言うことでは無くてですね。彼は……魔法使いとしての才はあるのですか?」
上手く伝えられず、困ったという表情をするガイ。いったい何を言いたいのか。
「才能かね? どうだったか……うちの教室に属している生徒では無いから断定はできんが、そう優れた方では無いな。いや、能力が無いというわけでは無く、言って見れば普通の生徒だ」
教師のヘリスラーの評価である。こと魔法の才能と言う話であるならば、その専門分野を教える者の言うことは、ある程度信用できるだろう。
「あ、でも。普通って言う評価は変じゃないですか? 大学では、変な奴で有名でしたし」
大学生徒のケンが答える。クルトと言う少年は、大学内でそんなに名前の通った人間だったのだろうか。
「変わった魔法使いなのは確かよね。所属してる教室がオーゼ教師だし、大学外に良く出たり生徒組合に入ったり」
それらの意味は良くわからぬものの、大学という社会にとって、クルトはおかしな行動をとる人間ではあったらしい。
「ふむ。つまり、彼は魔法の才はそれ程優れてはいないものの、それを覆す応用力を持っていたということですか」
「待て、どうしてそういうことになる。意味がわからん」
クルトが特別優れた才能の無い魔法使いであるということだけはイリスにもわかったが、後は変人であるという印象しか持たなかった。
「実際、ヘリスラー氏は彼のことをそれなりに評価しているではないですか?」
「私かね? 評価と言うか、彼は行動的だからな。味方になってくれるのなら心強いタイプだとは思っているよ」
「それは何故?」
「まあ、言ったことはそれなりに現実化させてしまう人間だからかなあ」
何でもできる人間と言うわけでは無く、発言に責任を持っているということだろう。できもしないことは、できるだけ話さない男なのだ。屁理屈をこねて、どうとでもしてしまう詐欺師に近いともイリスは考えているが。
「今回の作戦にしてみてもそうです。一見無茶な物に見えましたが、結果的には上手く行きました。マジクト国からの帰還命令も出て、我々支援団としての仕事も達成できた。さらにリブクイン側にも貢献できている。まだどちらかと言えば子どもと言える年齢の人間がやったことですよ?」
確かにそれは評価できることかもしれない。友人一人を無くしながら、なお前に進もうとした。その結果なのだろうか。
「本人の努力が実った形と言うわけか」
そういう結論をイリスは出した。しかしガイは首を振る。
「違います。さっきも言った通り、応用力があるのです。自分自身に特別な力が無い。しかしやりたいことがある。であれば、どうにか周囲の環境を利用して達成してしまおう。そういう考え方ができる人間だと言うことです。クルトと言う少年は」
「………そう言えば、ハイマウントでも、その場その場で自分の行動を工夫していた様な」
イリスは、魔法を使ってフィルゴ帝国軍を翻弄しようとしていたクルトを思い出す。ハイマウントから無事逃げ延びることができたのは、すべて彼のおかげと言うわけでは無いだろうが、ある程度の貢献があったのは確かである。
「こう言うのは差別的な発言かもしれませんが、魔法使いにしては珍しいタイプであると思うのですよ。物事に応用力があると言うことは、自らが使う魔法それそのものを客観視しているとも言えます。研究者としてはどうなのでしょうね?」
「まあ、向いているのではないかな。研究対象を客観視できるのは良い素質の一つではある」
ただ、魔法研究自体がまだ黎明期あるためか、細かな資質が大きく研究の進行に関わって来るのかどうかはわからないらしい。
「………状況の客観視と応用は、騎士の資質だ」
黙っていたメッズがとんでも無いことを言い出した。
「騎士の資質!? あいつがか? それは有り得ん話だ」
あの生意気で減らず口の奴が騎士だなどと、考えたくも無い。
「そうかい? 確か最初の哨戒任務の時は、上手く魔法を使って援護して貰った覚えがあるけどね」
クルトの資質を否定するイリスに、ナビィが反対の言葉を入れる。
「あれが最初じゃあない。それより前に、別の場所で敵兵と遭遇したことがあって、その時は大変だった」
敵兵を自らの手で殺し、それに激しいショックを受ける。そんな当たり前の反応をする少年なのだ。決して、血生臭い世界への才能があるわけではないはず。
「おや、そうなのかい? まあ、だったら納得するね。あれで初めての戦闘行動だったのなら、それは才能云々どころの話では無いから」
確かにナビィとの哨戒任務時は、それなりにクルトは行動できていた。だがそれも、本人が一度目の経験から、何度も考え抜いた結果の行動だった。
(そう言う意味では才能はあったのかもしれん………。経験を、どうにか次の機会に活かすという点に関してだが)
しかし、そんな才能はどんな世界でも役に立つものであって、戦いだけが取り柄に成るということではないはずだ。
「まあ、ちょっとした興味での話ですから、そうあれこれと口にすることではないかもしれませんね」
この話題を始めたはずのガイが、話を終わらせようとする。
「そう言うんなら、なんで面白いだとか素質がどうとか話したんだよ。何か思うところもあったんじゃねえの?」
オチヤの言う通り、ガイが彼らしくない話をしているのは確かだ。魔法使いの少年の素質や才能がどうだと言う話をするタイプの人間では無い。
「我々の仕事にも関わって来るかなと思っての話ですよ。メッズの言う通り、クルトという少年は、王立騎士団員としての素質はあるのかとか」
「無いだろう。まず試験を通ることが無理だな」
ガイの言葉を、イリスはすぐに否定する。
騎士団員の試験は厳しい。体力面にしてもそうであるし、そもそもあの捻くれた性格を見た試験官が、合格判定を出すとも思えない。イリスなら確実に不合格の判を押す。
「そうですね。短い付き合いですが、一団員としての資質は残念ながらないかと」
ガイが同意してくる。であれば、尚更クルトの騎士団員としての素質などと言う話をしたのか、さらに謎である。
「まあ、性格的に、我々の上司に似た部分がありますから、そっちの資質があるのかなと思っただけですよ。ちょっとした世間話です。どうにも、私自身気が抜けているのかもしれない」
長い緊張が続いた後の暇な時間。そんな時につい漏らしてしまった話だとガイはまとめる。他の皆もそれには特に気にした風では無く、また別の話題に移っていく。皆、暇なのだ。世間話でもしなければ落ち着かない。
ただ、どうしてだかイリスは、ガイの言葉のある部分が気に掛かっていた。
(我々の上司に似ているか………確かにな)
上司とは、騎士団員内部の上司もそうだろうが、さらに上、王族も含めての物だろう。捻くれた考えを持ち、状況に応じて様々な対処をしていく人種。いわゆる政治をする様な人間としての才能は、ほんの少しだがあの少年に感じる。
(初対面の時にあの少年が気に入らなかったのも、そのせいかな?)
ふとそう思うイリス。そういう人種には騎士団員として苦労をさせられ続けているので、そう感じたのかもしれない。
ただ、やはり笑い話である。少年は少年であり、マジクト国へ帰れば、また大学の学生としての人生を歩むのだろうから。




