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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの戦い方
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魔法使いの戦い方(1)

 マジクト国貴族議会。マジクト国を統治する王族や貴族達やその代理人が集まる場所。この場所に人が集まる時とは、即ち、国家の重要事項を決定する時である。

 議会の招集権は王にあり、ここ最近は常に議会が開かれていた。内容は、リブクイン国で発生している戦争についてだ。

 予想より長期間に及んでいる戦争だが、本来、マジクト国は当事者でなく、いずれの対処は考えなければならないが、まだそれ程重要視する様なことでは無かったはずだった。

 だが、議会が王立騎士団員と魔法大学の生徒達を派遣したことで、戦争に大きく関わることとなった。

 それが短期間で、尚且つ支援団がなんらかの利益を生んでいるのであればまだ良かったのだが、どうにもそうでは無い。

 なんの利益も生まず、自国の貴重な人材を無駄に消耗させている。現在開かれている議会の目的とは、その責任を誰がとるのかと言う物が主要だった。

 その様な集まりであるからか、自然と立場が責任を追及する側と逃れようとする側に分かれることとなる。

 そんな、責任を追及する側の一人。マジクト国王の第一継承権者スガル・マジクトは、あくびが出そうになるのを我慢することに必死であった。

(リブクインへと派遣された者達には申し訳ないが、同じような場面を何度も見せつけられては、飽きもする)

 欠伸を噛みしめた後、心中でそんな言い訳をするスガル。スガルが見る議会は、常に喧々囂々と罵り合いが続いていた。

「王家直属の騎士団員を動かしておいて、このザマはなんだ!」

 スガルとは別の責任追及者側である貴族が叫ぶ。確かリブクイン国への派遣が決定した際に、反対の立場をとっていた者だ。今は支援団が上手く機能せず、戦争が長期化しているのを利用して、自分の発言権を強めようとしているのだろう。

「派遣の際は、王家に許可を得ている。騎士団員の派遣は王家も同意のことだったと理解しているが?」

 意見を返すのは、マジクト魔法大学の大学長ファイム・プリューニだ。現在、支援団に関わる責任の殆どが、彼に向けられている。

 ただ、特に責任感を覚えている風では無く、飄々としていた。その姿には、スガルも少々怒りを覚えるものの、薄々、それが虚勢であることがわかってきたので、スガルは何も言わなかった。

(片方は、支援団派遣に反対したことで一度失った権力を、これ幸いと取り戻そうとする側。もう一方は、なんとか再び状況が変化するのに期待する側、と言ったところだろうなあ)

 罵り合う双方の内心を推測する。どちらが有利かと言えば、一見、後者が口達者に見えるものの、どう考えても前者が有利だった。

 というか大学長はこの後に及んで、責任追及から逃れるために、状況の変化を期待して、そのための時間稼ぎを続けているのである。

 勿論、そんな願いが叶う程に世の中は甘くは無い。権力者達がうごめく貴族議会なら特にだ。

(だが追及する側も、自分達の発言力をより強くしようとして、もう少しこの議会を続けたいと考えている。だから、すぐに議会を終わらせたく無いわけだ)

 両者とも、議会自体は続けようとしている。だから議会が終わらず続く。しかも似た様なやり取りばかりが。今後の展開についても、スガルは憶えてしまっている。

「責任は自分達に無いと言うつもりか。未だリブクインの地で戦う大学生徒達にはどう申し開きをするつもりだ!」

 責任追及側は、さらに威勢よく叫ぶ。だが、大学長は厚顔無恥にもこんなことを言うわけだ。

「リブクインへと派遣した大学生徒達は、みな志願者だった! それこそ我々がどうこうできるものでは無いだろう! 利益を生んでいないというのなら、それは現地に赴いた者達にこそ文句を言うべきだな。当初の予定では、彼らは彼の地で活躍し、マジクト国の名声をこのうえなく高めているはずなのだから!」

 と、ここで議会全体から怒りの声が上がる。

(確か昨日もこんなことを話していなかったか? それとも既視感か。いずれにせよ、そろそろ本当に飽きはじめた。そろそろ機か)

 権力者同士のやりとりと言うのも、庶民がどう思うかわからぬが、必要なことだとスガルは考えている。一見無駄で不毛な物に見えたとしても、こういった手続きを踏むことで、致命的な結果をもたらさない様にできるのだ。

 ただ、それにも限度がある。必要なことだとしても、やり過ぎれば、本当に時間の浪費でしか無くなってしまう。

 そして国家規模の決定をする貴族議会では、時間の浪費は国力の低下を意味するのだ。

(次期王としては、それを看過するわけにはいかんだろうなあ。支援団に送り込んだ者達も心配であるし)

 現在、マジクト国には支援団に何がしかの被害が出たと言う情報は入っていない。ただ、情報とは遅れてやって来る物だ。リブクインとマジクトの距離もあるため、現状はどうなっているかわからない。

 早く議会を終わらせるべきだ。それも、支援団を呼び戻す決定をした後に。

(あの爺さんもそう考えている頃合いだろうから………おう、きたきた)

 スガルの後方に、人影がやってきた。スガルがいる場所は、貴族達の座る議席からは少し高い場所にあり、議会を一望できる展覧席と言う名前が付いている。

 そして展覧席の裏側には、議会からの王族専用出口が存在していた。人影がきたのもそこからだろう。

 ここから入ってくる者は、王族を除けば、その王族に何がしかの用がある人物しかいない。

 振り向くスガルの目に映ったのは、大貴族のヒレイ・マヨサ。ではなく、その秘書と護衛を務めているアレクと言う男だった。

「失礼しますスガル様。わたくし、ヒレイ・リッド・マヨサの代理人として来ましたアレクと申します」

 何度か会ったことがあるから知っている。とは言わない。こういういちいち礼儀を入れて話すというのも、無駄に見えて必要な形式の一つだ。

「うむ。良く来てくれた。ヒレイ老の代理ということは、支援団についてか」

「はい。議会の半数には、支援団の解散に賛成する様、既に根回しを行っています。後は明確な決議さえ行えれば、支援団の帰還は可能かと」

「その役が俺と言うわけか。ヒレイ老には礼を言っておいてくれ。苦労をかけて済まないと。後、損な役割を押し付けられたことで貸し借りは無しだともな」

 笑うスガルとアレク。苦笑いに近いのは、双方共に、面倒なことをしている自覚があるからだろう。

 スガル、ヒレイ共に、実際の意思はどうであれ、支援団の結成には消極的賛成の立場を装っていた。議会の決定に反対することは、それだけで自身の権力に悪い影響を与えるからだ。

 だと言うのに、今回はその支援団の解散を提案するのだ。言って見れば恥知らずな言動なのである。ヒレイは多数の貴族を解散派とするために、下げにくくなっている頭を下げて回ったのだろうし、スガルは今から支援団解散の決議を提案することで、状況が不利になったことで意見を変えた、不義理な王族として謗られる可能性がある。

 両者が両者とも、泥を被ることになる。だからなんだと言う話であるが、良い気はしない。

(ま、いちいちそれを気にして、さらに議会の長引かせる様なことはしないがな)

 決断と行動は早く。権力を持つと忘れがちになるが、それこそが自らの立ち位置を盤石にするのだ。

「それと、議会が終わった後は、例の話をと伝える様に言われております。私には何のことやらさっぱりですが」

「ああ。俺にはわかる。了解したと伝えておいてくれ」

 話が終わった後、スガルは立ち上がり、展覧席から議会を見渡す。

 スガルは議会に王の代理として出席しており、その言動は、議会全体が意識を向ける物の一つであった。

 王には議会をどうこうできる権力があり、その一言一句が議会すべてに影響を与える。視線が集まらぬわけが無い。

「諸君! 討議の最中に悪いが、ここで私、スガル・マジクトから提案がある! 支援団の今後についてだ!」

 スガルは議会全体に聞こえる程の大声で叫ぶ。元々、声が響く様に設計された建物であるため、貴族達はまるで議会そのものが震えた様な印象を受けたことだろう。

(俺の仕事と言えば、こういう大声を出す程度の物だろうなあ。ますます、支援団の奴らに負い目を感じてしまうよ。特にあの魔法使いの小僧なんぞ、無茶な命令をしたからなあ)

 外面には一切出さないが、これでもスガルは小心者なところがある。王家の勤めとして、他人に非道な命令をしておきながら、後になってそれを後悔するのだ。

(できれば、生き残れよ。その方が俺の罪悪感も薄まる)

 スガルは、異国の地で戦っているであろう、魔法使いの少年を思い浮かべていた。



 クルト・カーナ。今はそんな名前だったか。ハマツに用意されている兵士達の休憩所。多くの兵士が集まり、怪我の苦痛に喘ぐその部屋の隅。そこにあるベッドの一つで仰向けになり、天井を見つめるクルトは、まず自分の名前の確認をしていた。

 何故、そんなことをしているのかと言えば、今は何もする気が起きず、そしてどうしても考えてしまう物事から、必死に逃げようとしていたからだ。

 友人が死んだ。その現実を受け入れたくないクルトは、仕事に専念しようとして、ハマツに帰還した後、すぐにハイマウントで偵察して得た情報を、支援団やホユニ司令官に伝えた。

 報告をすると、誰もが同行したナイツはどうしたのかと聞いてくる。フィルゴ帝国兵に襲われた傷によって行動不能となり、その体もサンポ大森林に置いてきた。クルトがそう返すと、みな沈黙した。

 その沈黙が、クルトにとってはなによりの苦痛であった。沈黙は思考する時間を与える。そして考えることはナイツのことだった。

 ナイツはどうして死んだのか。自分の責任か。そうでないのか。彼は生きるべきじゃあなかったのか。そんな彼を自分は見捨ててしまった。

 そんなことばかり考えるクルトは、他人から見れば、どうしようも無く疲労している様に見えたのだろう。

 報告を終えた後は、すぐに休む様に伝えられた。ハイマウントで手に入れた情報の検証は、とりあえず休息をとってからだとホユニ司令官から命令される。

 実際、酷い姿だった。長い強行軍で泥にまみれ、友の血にもまみれている。顔色はもっと悪い。蒼白の中に、目の隈のどす黒さが混じる。体を洗い、服を着替え、ベッドに倒れ込む頃には、クルト自身、意識は殆ど無かった。

「それ自体は、幸運なことだったのかもしれないけどね………」

 自嘲する様に呟くクルト。意識さえ無ければ現実を認めなくて良い。だが、体力が戻り、目が覚めた今では、否応無く、現実と相対しなければならない。

(ナイツは………死んだ。サンポの森で、敵兵に受けた傷が原因で)

 悲しく、だと言うのに涙が出ない。どうしてだか乾いているのだ。これが戦場の空気だとでも言うのだろうか。

「………はは。僕には何もできなかったよ」

 涙は出ぬと言うのに、笑いは零れる。自分を蔑む笑いだ。どんなに知恵を働かせ、自ら行動したとしても、ナイツを助けることはできなかった。

 むしろ、クルトがナイツに助けられた。敵兵の攻撃から庇われ、追手から逃れられ、早急にハマツへと帰還できたのは、ナイツのおかげだ。自分はそんな彼を死なせてしまった。なんと恥知らずで力の無い人間だろうか。誰もこいつを笑わないのだとしたら、自分で笑ってやる。

「けど……何もしない訳にもいかないか………」

 このまま自分を笑い続けたい気分だったが、そうもいかない。ナイツが死に、自身が生き残ったのならば、やらなければならないことがある。

「クルト。起きていたのか」

 クルトがある決意をした頃、休憩所にイリスが入って来た。随分と驚いた表情をしている。ずっと眠ったままだとも思っていたのだろうか。

「うん。なんとか起きれたよ。死んじゃあいない」

 死んでなる物かとも思う。ここで自分が死ねば、それこそ友人の命に意味が無くなってしまう。彼はクルトを庇って死んだのだ。

「……悪い冗談だ。もう一人の魔法使いは、お前の言う通り………」

 言葉が淀むイリス。確かに話しにくいことだ。

「うん。もう手遅れの状態でね。何にもできなかった………」

 クルトはとっくに認めている。彼を死なせたのは、自分の責任だ。

「だが、お前はしっかりと任務を果たしただろう。その魔法使いだって」

「何を言われたって、ナイツが死んだことは変わりないんです。だから………」

 彼が死んだことを無為にしたくない。偵察任務は、ナイツとクルト二人の仕事だった。自分が生き残った以上、その結果を最大限に活かすことがナイツへの償いだとクルトは決意していた。

「待て、何かを始める気か? もう少し休んだ方が………」

「もう動けるくらいには回復しました。そして、動ける様になったのなら、戦うんですよ。そう決めたんです」

 心配をするイリスには悪いが、クルトは次に何をすれば良いのかを考え始めている。友人が死んだと言うのに、薄情な奴と思われるだろうか? それでも構わない。クルトはクルトなりのやりかたで、ナイツの弔いを続けるのだ。



「それで、いったいどうすると言うのだね? フィルゴ帝国本軍はハマツへ侵攻しようとしているかもしれない。一方で長期戦を望んでいるかもしれない。早急に対処をしなければならないかもしれない。そのどれもが曖昧で、我々はどうしろと?」

 ハマツの司令官室にて、ヘリスラーは司令官の秘書であるヴァイズに質問責めにされていた。

 内容は生徒達が集めたフィルゴ帝国本軍の情報についてだ。直接ハイマウントにまで出向いて集めた情報である。有益で無いはずが無い。しかもその過程で、大学生徒の一人が亡くなっているのだ。

 それをこうまで馬鹿にされては、さすがの自分でも我慢はできない。

「そうは言いますがな。あなたの言う通り、しっかりとした確証が無いのだとしても、その曖昧さはあなた自身の目で見ていないから程度の物でしかない。私なら、命がけの偵察任務を遂行した者の情報は、無条件で信じます」

「はっ。他国の人間が命をかけただと? たかが一人死んだだけではないか。今日まで、リブクインの国民にどれだけの犠牲が出たのか知らぬわけでもいるまい!」

 ヴァイズの方も激情にかられて、口汚い言葉が幾つか飛び出す。売り言葉に買い言葉でヘリスラーが叫びだす前に、ヴァイズを制したのはホユニ司令官だった。

「言い過ぎです、ヴァイズ! 命令に従った者を信用せず、尚且つその過程で出た犠牲をたかがなどと」

 支援団のまとめ役をヘリスラーがする以上、この場にいる3人で話し合う機会はそれなりにあったが、最近のホユニ司令官は、良くヴァイズの言葉に口出しをする。それまでは、あまり強い発言をせず、ヴァイズの言うことを反復する程度だったのだが。

(何かあったのだろうか?)

 印象の変化を訝しむものの、今は生徒が集めた情報が、蔑ろにされかねない状況をなんとかしたかった。

 ヴァイズという男は、クルト達が偵察によって集めた情報に価値を見出さず、早急にハマツ北方のフィルゴ帝国軍を、問答無用で叩くべきだと提案しているのだ。

「いくら司令官の言葉であっても、今回ばかりは従えませんな。そもそも、もっと早くに北方へ展開している敵軍を攻めておけば、フィルゴ帝国本軍が出兵準備をしているという情報に惑わされずに済んだのです。それを無理に留めて、現在の状況になってしまったのは、あなたの責任だ!」

 ヴァイズは矛先をホユニ司令官に向ける。最終的にハマツがどう動くのかは、彼女に決定権がある。ヘリスラーと話し合うより、彼女を説得するのが先決だと考えているのだろう。

「フィルゴ帝国本軍が出兵準備をしているという情報は信用するのですな? でしたら、他の情報も信じるべきです!」

 このままヴァイズ目論見通りに進むなら、支援団はスリーアイランド港への帰還を命じられる。そしてそれは、支援団単独でハマツ北部のフィルゴ帝国軍と戦わなければならないことを意味していた。

「だからそれ自体が信用できぬと言っているのだ! 本当か嘘かもわからぬ情報に、我々は躍らされているのだぞ! もっと早く手を打てば、この様な事態にはならなかったはず!」

「この様な事態と言うのは、絶好のチャンスを指してのことなんですかね?」

 突然、司令官室に3人以外の声が響いた。声の主は、司令官室の扉を開いた先に立っている。

 クルト・カーナ。ある意味では、現在の話題の当事者と言える人物だった。



 休憩所から出たクルトは、すぐに司令官室へと向かった。イリスはそれを止めようとしていたが、それを振り払って進む。

 恐らく、自分が持ち帰った情報は、まだそれほど重要視されていないだろうから、急ぐ必要があったのだ。

 当事者である自分が最低限のことしか伝えていない。聞き手側に疑り深い者がいれば、偵察情報を活かして貰えないかもしれない。

 そうして案の定、司令室ではヘリスラー教師と秘書官のヴァイズが口論が始まっていた。

 このままではいけない。ナイツが命を賭けて得た情報は、最大限に活かして見せるとクルトは考えている。

「突然なんだ。見張りの兵は何をしている」

 クルトの姿を見て、露骨に機嫌を悪くするヴァイズ。彼にしてみれば、クルトは自身や司令官を惑わせて、無駄な時間を使わせた人間に見えるのだろう。

「まだ偵察任務で伝えていないことがあると話したら、すぐに通してくれましたよ。顔を覚えていてくれて助かりました」

 もう少し遅ければ、ヴァイズが無理矢理、自身の案をホユニ司令官に通したかもしれない。早く動いて良かったとクルトは胸を撫で下ろす。

「その様子を見ると、偵察任務の疲れは取れた様だな。ならば聞くが、その疲れや道中での犠牲とやらは、無駄だったのではないかね? 結局、もっと早く北方のフィルゴ軍と戦っておけば良かったというのは事実なのだから」

 ナイツを侮辱するかの様な口ぶりだが、あからさまな挑発である。ここでクルトが怒りだせば、それを嘲笑して、クルトが持ち帰った情報に価値なしの判断をつけるつもりなのだろう。

 そうはいかない。

「いえ、さっきも口にした通り、無駄どころか、絶好の機会をこちらで察知することができたんです。それがわかりませんか?」

 挑発を挑発で返す。持ち帰った情報は有益な物で、それがわからないのは無能の証だと暗に伝えたわけだ。

「おいおいクルト。行き成りやってきて、何を言っているのだ。それに、体は本当にもう良いのか」

 司令官室へ入るなりヴァイズと話し合いを始めたクルトを見て、ヘリスラー教師は驚いている様子。クルトの身を案じての発言だが、それを受け入れるつもりはクルトには無い。

「体は大丈夫です。それに今は、せっかくの機会を逃そうとする人間に、どういうことかを教えてあげる必要があるでしょう?」

 あくまで言葉はヴァイズへの挑発を続ける。相手は怒り出すだろうか。そうであれば、自分のペースに巻き込め易くなるのだが。

「は、はは。では貴様には、ハマツを挟撃されるかもしれないと言う状況を好機に変える何かがあるとでも?」

 まだ怒りには届かなかったらしい。やり難い相手であるが、それでも話を続ける。

「そもそも、挟撃されるという情報を先んじて手に入れられたことが好機なんです。向こうは、まだこちらが自分達の出兵に気が付いていないと思っている。ハマツにフィルゴ帝国兵が近づくまで、この町は何時も通りの警戒を続けるだけだろうと予想しているわけです」

「それはそうでしょうけれど、こちらが準備できることと言えば、防備を固めることだけですわ。それとも、何か別の策がおありに?」

 ホユニ司令官が、クルトの話に乗って来た。これまでハマツが強硬策を取らなかったのは、彼女がそれに反対していたからだろう。ならば、クルトが考える策の味方になってくれるかもしれぬ。

「勿論あります。フィルゴ帝国本軍がハマツへと向かっているのなら、肝心の彼らの基地であるハイマウントの町は、防備が薄くなっているはず。そして本軍が大人数である以上、その行軍は遅くなっています。少人数なら、森を抜け、ハマツに敵が到着する前に、ハイマウントへと辿り着ける」

「クルト。まさか君は―――」

 ヘリスラー教師はクルトの考えに気が付いた様だ。そして、その策に抵抗を感じている。だが、クルトは言葉を止めない。

「これより支援団は、フィルゴ帝国本拠地、ハイマウントの町へ奇襲を仕掛けます。当初提案していた通り、それによって、フィルゴ帝国本軍の足止めを実行できる。異論はありますか?」

 ナイツが生きた証。偵察任務の情報を最大限に活かす。そうして考え出したことこそ、この作戦であった。


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