魔法使いの失い方(4)
家々が立ち並ぶ町中。かつては活気に溢れていただろうその町も、今では人気が無くなり、住む者がいなくなった建物は、ただ朽ちるのを待つだけとなっていた。
町の名前はハイマウント。元はリブクイン有数の大都市であり、現在はフィルゴ帝国によって占領され、その拠点として使われている場所だ。
ただ、現在の使用者側であるフィルゴ帝国は、この町を十分に活用することができていない。するつもりも無いのだろう。基地として改造した屋舎以外は、捨て置かれ、整備などされぬままに放置されている。
そんな家の一件に、本来なら存在しないはずの人影が二つ。クルトとナイツがいた。
「まさか町中まで偵察に向かうなんて、思ってもみなかったよ」
元々はハイマウントの町に近い林で偵察を続けるつもりであったが、ナイツの意見により、町の中まで偵察範囲を伸ばすことになった。
「森では敵兵をあんまり見かけなかっただろ? だから、町中でも中心部に近づかなければ見つかる心配は無いかなと思ってな。町にさえ入れば、森よりむしろ隠れる場所が多い」
廃墟となった家がまさしくクルト達の隠れ家となっていた。人が住まなくなってから久しく、埃まみれの家だったが、土で汚れたり毒虫に注意しなければならない森よりも大分マシな場所だ。
「じっくりと偵察ができるのは良いことだよね。しかも敵の様子を詳しく知ることもできる」
さすがに町中となると、すぐ近くを敵兵が通る。家に隠れているとは言え、かなり危機感を覚える状況だが、逆に間近で敵兵を観察できるという利点もあった。
「一、二日はここで偵察を続けようぜ。食料の余裕だってあるんだろう?」
「偵察に数日掛ける予定だからね。あまり時間を掛け過ぎると、逃げたんじゃないかと疑われるし、向こうの状勢も変化するだろうから、長居はできないけど、それくらいなら大丈夫だと思う」
むしろ、ここまで敵地に食い込むことができたのだから、少しは時間を掛けた方が有益だとクルトは考える。
「まず、ここまででわかった情報を整理しよう」
町に入ってから、役に立ちそうな情報を既に幾つか得られている。危険な行為だったが、見返りも多かったのだ。
「フィルゴ帝国が基地として使っている場所の規模から、敵兵の数は3千から4千くらいだろうって予想だったか?」
敵兵が基地として使っている家や土地は、遠くから見ても良くわかった。さすがにそういった場所は小奇麗に整備されているからだ。
「まあね。もしかしたらもうちょっと多いかもしれないけど、それくらい。一国を侵略するための数なら、ちょっと心許ないね」
良くそれだけの数で戦争を吹っ掛けることができたものだとクルトは思う。戦死者がでる前なら、さらに大人数だったのだろうが、それでも少ない。
海を越えてやって来るならこれが限界なのだろうか。ただ、リブクイン国の一部を切り取ることには成功している。
「今回の侵攻は、あくまでリブクイン国の一部に自国の拠点を作るためだったのかもな。そうして後から援軍を呼ぶと」
ナイツの予想が正解だろう。離れた場所に大規模な軍隊を行軍させようとするならば、二つの地点を結ぶ場所を作ることが必要となる。
そして動員できる数が増えれば、そこで漸く他国への侵略を実行できるのだ。
「なら、やっぱりフィルゴ帝国側の狙いは長期戦だね。そもそも現状では無理矢理攻め入る理由が無い」
「じゃあ、それをハマツに伝えれば、俺達が敵兵に突っ込む様な命令は撤回される可能性がある?」
「それはどうだろうね。フィルゴ帝国側だって、隙を見せれば付け入るつもりだろうさ。というより、長期戦の予定ではあるけど、ハマツに侵攻できるのならそうしようと考えているのかもしれない」
ハマツはリブクイン北方への出入り口だ。そこを占領できれば、リブクイン側の行動を抑制できるだろうから、さらなる長期間の戦いが可能となる。
「やっぱり、ハマツを挟撃できる状態は良くないってことか」
「ハマツ北方に現れたフィルゴ帝国軍は、早急に排除する必要はあるだろうね」
だからクルト達も偵察任務をしている。北方のフィルゴ帝国軍を排除している間、どうにかしてこの町にいる本軍を足止めするために。
「けれど、フィルゴ帝国側だって下手に攻勢に出れば、大きな隙を見せることになるだろう?」
「確かにそうだね。うん………。そうだ。ねえ、ナイツ。この町に来てから見た敵兵の様子はどうだった?」
良い案が浮かんだかもしれない。クルトはそう思った。
「敵兵の様子か………苛立っている奴が多いかな? まあ顔の表情や動きを見て、そうなんじゃないかと思っただけだけどな」
その感想も正解だろう。クルトが考えるフィルゴ帝国の状況と、ナイツが感じた印象は合致している。
「もしかしたら、フィルゴ帝国側は揉めているのかもしれない。これはチャンスだよ」
「揉めているってなんでだ? 食料の備蓄が少なくなってきているとか、厭戦ムードが広がっているとかか?」
その二つはあるにはあるだろうが、現在、孤立無援状態のフィルゴ帝国だからこそ、それを押さえつけられていると考える。ここは異大陸であり、士気を下げる様な行動は、すぐに自分の首を絞めると直感でわかるからだ。
「籠城状態のフィルゴ帝国にとって、揉める要因と言えば、籠城を解くか解かないかの問題だよ」
「ふん? 長期戦のために町へ籠るのは必要不可欠だろう?」
「だけど、ハマツを挟撃できる状況を作り出せてる。ハマツを狙うのか、それともただのブラフとして使うのか。少数でも森を抜けた先に一軍を作り出せたという幸運が、逆に混乱を呼び込んでいるんじゃないかな?」
中途半端な戦果は、中途半端な利益と不利益をもたらしたと言うことだ。
「敵に森を抜けられたのは僕らのミスだけど、思いも寄らないところから利が生まれたかもしれない」
敵側にも隙ができた。それは非常に都合が良いことだった。
「本当にそうかはわからないけどな」
クルトの考えは、まだ予想と印象から考え出した物に過ぎない。ナイツはそれを注意する。
「だから偵察を続けるんだ。僕らの予想を裏付けるためにね」
まず敵兵の様子を詳しく観察する必要があるだろう。そして、もう幾つかクルトは調べたいことがあった。
「敵兵の備蓄物資っていうのは、どういう場所に保存しているものなんだろうね」
「奇襲でもする気か? そりゃあ敵国の領土で戦う以上、それらの物資は重要視されているだろうから、こっちが攻めれば効果的かもしれないが、その分、守りだって厳重になっているぞ?」
「となると、あのフィルゴ帝国が基地として改良した家々の、中心地近くに倉庫があるのかもね」
ナイツは危険だと言うが、備蓄物資を奪うというのは、フィルゴ帝国の生命線を絶てるということであり、魅力的に思う。
「その辺りも含めて偵察すれば良いさ。まあ、俺は反対だけどな」
襲おうとすれば、どうしても被害は避けられない。その被害を避けようとして、搦め手を考えているのだから、反対されるのはわかっている。
「もう少し色々と考える必要があるのかな? でも、それはこれから得られる情報次第だ」
敵と直接戦うのは抵抗感があるが、頭で考えることは面白いと感じるクルト。どちらにせよ、敵に危害を加えることに違いは無く、善悪の問題でも無いのだろう。これは自身の適正かもしれない。そんなことをクルトは思っていた。
ハイマウントに直接潜入して、フィルゴ帝国を偵察するという強行から2日程経った。再びハマツに帰還するまでの時間を考えれば、そろそろ撤退した方が良いのではと考えていた頃、町に変化が起こった。
「町の北東部に兵士たちが集まっている。何かあったのか?」
障害物だらけの町中であるため、一度潜入してしまえば、かなりの広範囲を気付かれず見てまわれる。
そんな状況だからか、ナイツは町のあちこちを定期的に偵察していた。そんな彼が得た情報にクルトは驚く。
「もしかしたら、ハマツへ出兵が決定したのかもしれない………」
町に籠ったままでいようとする側と、ハマツに攻め入ろうとする側。後者の意見が勝ったのだろう。
「ハマツを挟撃できるチャンスとか言うアレか。どうする? 今度は集まっている兵士達を調べてみるか?」
もし本当にハマツへと出兵しようとしているのなら、それを確認する必要があるとナイツは話す。
「いや、逆に今が町を脱出するチャンスだ。敵兵の警戒も薄くなっているだろうし、本当にハマツへ攻め入るつもりなら、すぐにでもその情報をハマツへ伝えないと」
不確かな情報だとしても、敵兵がハマツにやってくるかもという情報は、迅速に伝える必要がある。情報の確かさを調べている内に、手遅れになる可能性もあるのだ。
二日間で既に幾つか、必要と思える情報は手に入っている。これ以上望むのは欲張りというものだろう。
「すぐに町を出るのか? 脱出ルートは幾つか決めてあったが、どれにする?」
「多少見つかる危険があっても、早くハマツに帰れる方が良いね。当然、危ないんだけど、大丈夫?」
「まあ、幸運を祈るさ」
行動方針を決めたクルト達は、敵兵が周囲にいないことを確認して、隠れ家にしていた建物を出た。
さらに町を出るまでには、敵兵と出会うことも無く、無事に脱出することができた。これはナイツの言う通り幸運だったのだろうか。
(フィルゴ帝国が本当にハマツへ出兵するつもりなんだとしたら、その動きを先んじて知れたってことになる。リブクイン側にとっては、逆襲できるチャンスでもあるんだ。良いことなんだけど………)
どうにも状況が上手く行き過ぎている。そこに不安を感じてしまうクルト。気のせいでしか無いその感情は、近いうちに幸運の帳尻合わせがくるだろうという予感めいたものをクルトに与えていた。
その予感はすぐに当たった。それに気が付いたのは、ハマツへ帰るために再びサンポ大森林へ足を踏み入れた、そのすぐ後だ。
「……ナイツ」
共に森林内部を歩く友人は気が付いているのだろうかと、話し掛けるクルト。
「ああ……こういう勘ってのは、確かに身につく物なんだな」
ナイツが言っているのは、騎士団員が話していた人の気配とやらについてだろう。例え目で見えなくても、人がどこにいるかを感じ取ることができる。
クルトはそれを信じたわけでは無いが、自分達の後方に、何者かが付いて来ているというのは感じていた。
具体的には自分達が立てていないはずの音が聞こえてくるのだ。枝を折る音や微かに聞こえる服の衣擦れ。何度も森林内部の哨戒を続けるうちに、感覚が鋭敏になっているのかもしれない。
「気のせい……だったら良いんだけどさ」
「俺達二人が同じような勘違いをしているってことか? 有り得ないだろ」
ならば、確かにクルト達を尾行している者がいると言うことだ。誰であるかとは尋ねない。
可能性で言うのならそれ一つしか無いのだから。
「フィルゴ帝国兵につけられているのか………。どうする?」
「自分達の勢力範囲が逃げようとしている人間。普通なら早急に捕まえて、狙いを聞き出すくらいはすると思う。けど、それをしないのはどういうことだろうね」
フィルゴ帝国兵はクルト達がその存在に気が付くまで、何もせずにいるのだ。必ず狙いがあるはず。
「俺達がどういう目的でいるのか、探りを入れているのかもな」
「それと……もしかしたら他に味方がいるかもと警戒している可能性もある」
どちらにせよ、このまま歩き続ければ何時かは尾行を止めて襲ってくるだろう。
「このまま走って逃げるのはどうだろうか」
「訓練を積んだ兵士に、体力で勝てる自信はある? ちなみに僕はこれまでの偵察任務で、それなりに疲労してる」
「逃げるってのは無しかあ。となると、戦うしかないよな。勝てる自信の方もあんまり無いんだが………」
不安そうなナイツ。これまで、敵兵と直接戦うのは騎士団員の仕事だった。魔法使いはその補佐の様な役割であり、戦いの経験はあまり無いと言わざるを得ない。どうしようかと考えるものの、答えは既に決まっていた。
「敵は僕らが魔法使いだとは思っていない。なら、魔法による攻撃が有効かもしれない」
かすかな希望に縋り付く様な気分だった。敵兵に勝る物があるとすれば、魔法しかない。もし、魔法によって敵を倒せないとなれば、クルト達は敗北するだろう。その時点で、自らの命も諦めた方が良さそうだ。
勿論、クルトは生きたいと願っている。例え敵を殺してでもだ。
「魔法を使うのは、相手の位置を確認してから。それまでは、魔法を使えると知られない様にする。どう?」
「どうと言われても、尾行されているのはわかるが、場所までは特定できてないだろう。お前こそどうするんだ」
現状では敵兵が有利である。相手はこちらの位置を正確に把握して、尾行しているのだから。
「こうするんだよ………。そこにいるのは分かってる! 出てきて顔を見せたらどうだ!」
敵兵に聞こえる様、大きな声で叫ぶ。そして、後ろを振り向いた。敵兵の姿は無い。姿を現すことも無い。
「お、おい。そんなことをしたら、こっちが尾行に気付いているのがバレて―――」
「すぐに伏せる!」
文句を言うナイツの頭を抑え込み、姿勢を低くさせる。そのすぐ後に、頭上を何かが通り過ぎた。それはクルト達のすぐそばの地面へと突き刺さる。短い矢であった。クロスボウか何かで撃ったのだろう。
「見た?」
「当たり前だ! 当たったらどうするつもりだ!」
泣き顔に近い表情をするナイツ。クルトの無茶に文句がある様子だが、それを言っても状況が変わるわけでは無いから何も言えない。そんな顔だ。
「敵兵の位置を探るには、騎士団員みたいに気配でってわけにはいかない。だから、相手から先に攻撃してもらうしかなかったんだよ」
クルトは危険だが立ち上がり、矢が飛んできた方向を見る。大凡の位置さえわかれば、後は集中力の問題だ。森は薄暗いものの、太陽の光は届いている。敵がこちらの場所を狙って矢を放てたのであれば、こちらも敵の場所を狙えるのは道理であるはず。
そんな屁理屈に頼りながらも、睨みつける様に目へと力を込めるクルト。
そしてこれもやはり幸運だろうか。クルトの視線の先に、動く人影を見つけた。
「そこだ!」
躊躇は無い。奇襲は精度より早さだ。人殺しに慣れたくは無いが、慣れる慣れないより前に、自分の命を守らなければならない。
撃つのは雷の魔法。狙撃ならばこの魔法が一番だとこれまでの経験で理解している。速さ、命中率、飛距離。それらのすべての信頼性が高い。そんな魔法が、狙った場所へ光線を走らせ、人影が見えた辺りで弾ける。
(当たった!?)
雷の残光が去った後、人影は無くなっていた。倒れたのか、躱されてどこかへと隠れられたのか。
確認するより早く、ナイツに体を引っ張られた。
「おい、危ないぞ!」
今度はナイツがクルトを地面へと伏せさせる。再び矢が頭上を飛び交う。魔法は当たらなかったのだろうか。
「奇襲は不成功だね………」
「まだ何人かいるんだ。尾行していた敵兵は一人じゃあ無い」
伏せたままだったナイツだが、別の場所にいる敵兵を見つけたらしい。
「敵兵を見つけられたのは幸運だと思ったけど、複数人いるのなら、そのうちの一人を見つけられる可能性は、それ相応に高かったってわけなのかなあ。よっと」
無駄口を叩きながら、クルトは近くの木まで這いずって進む。敵兵の攻撃を避けるためには、障害物に隠れる必要がある。
「2方向から矢が飛んできた。少なくとも後二人はいるってことだな」
ナイツも同じく地面を這う。すぐ近くの木に辿り着くだけでも、体中が泥だらけになった。
「とりあえず、僕の一撃は敵一人を倒せたとしよう。そうでないと、もう絶望的だ」
安全圏らしい場所へ避難した後は、次の策を考える。戦力に劣るクルト達が、まだ何人かいるかもしれない敵兵を、どうにか倒さなければならないのだ。
「で、一人倒せたとするとしたら、どうなるんだ」
「魔法を脅威と思わせただろうから、敵が慎重になる。向こうにも飛び道具がある以上、近づかず、弓矢での牽制を続けるかも」
それはクルト達にとっても有利に働く。距離が開いた状態でこそ、魔法の優位性が強くなるのだから。
「じゃあその隙に逃げるか? 敵の数によっては、時間を稼いだ後に囲まれる心配があるだろう?」
「後ろから矢で刺されるのは御免だなあ。けど、逃げるフリをするのは有りかもしれない」
「どういうことだ?」
「隠れる敵兵をおびき出せるかもしれないってこと。ナイツ、前に風を発生させる魔法を使ったことがあるよね?」
「あ、ああ。正確には魔法で力場を発生させて、それで大気を押すことで、風に似た効果を発生させるという―――」
「説明は良いから。だいたい敵がいるだろうあっちの方向へ、できるだけ広範囲に魔法を使って、うわっ危ない」
クルトは隠れた木から杖だけを出して、方向をナイツへ示す。その少しの的に矢が掠めたのは驚いた。
「使った後はどうするんだ?」
「君だけが全速力で、あっちの木まで逃げる。当然、敵は僕らが自分達を撒こうとしていると考えて、追おうとするから、その隙を狙って、僕がもう一度魔法で狙う」
逃げたフリをして、実は待機していた側が奇襲を狙う。以前、騎士団員と共に襲撃者を撃退した時の方法を使わせて貰うことにした。
「背を向けて逃げる俺は、とても危険な気がするんだが」
「だからまず、風の魔法で牽制を行うんじゃないか。突然、森の中で風が吹けば、弓で標的を狙うのは難しいんじゃない?」
まあ、危険度は下がるものの、矢で狙われることに変わり無いが。
「ほ、本当に大丈夫なんだろうな」
「大丈夫な状況なんて、今、この場であると思う?」
ここで木の陰に隠れていたとしても、やはり危険なままだ。
「ああ、くそ。絶対に敵を仕留めろよ!」
ナイツはそう叫び、魔力を発生させ、魔法により力場を発生させた。力場をその場の空気を押して、風圧となる。魔力による調整の結果、風圧は方向性を持たされ、矢が飛んできた方向へとその圧力を進ませた。
強烈な風は、森の木々にぶつかり、枝が揺れ、木の葉が舞う。細い木なら折れそうな程の強い風だ。
「早く走って!」
風は恐らくだが、敵兵の弓矢を牽制できるはずだ。クルトが声を掛けると、ナイツは違う木の陰へと走り出す。
(さて、上手く動いてくれよ!)
その場に留まったクルトは、ナイツが逃げる方向とは反対側を見る。数秒後、その方向から人影が飛び出すのを見た。
(一つ、二つ。二人だけ! これならやれる!)
クルトは片方の人影に杖を向けて、再び雷の魔法を放った。今度はそれがしっかりと命中したのを確認する。あと一人。
もう一人の敵兵は、弓矢を放ってきたものの、それはクルトを逸れて後方へと飛んだのみである。
ナイツが発生させた風が原因で、しっかりと狙えなかったのかもしれない。クルトはその敵兵に杖を向け直し、さらに一撃。
今日、3本目の光線が森を走り、木々の隙間を縫って、最後の敵兵から命を奪う。気が付けば、3人の敵兵を倒したという結果だけが残った。
「や、やった」
漸く安堵の声を上げるクルト。しかし、それが致命的な隙となったことに、クルトは数瞬後に気が付いた。
敵兵が近くにいた。それもすぐ近く。今にも手が届きそうな場所に立っていた。
(もう一人いた!? 隠れてた!? なんで気が付かなかったんだ!?)
敵兵の姿を見た瞬間、クルトの頭は混乱の極致に追いやられる。クルト達を尾行していた敵兵は、3人では無く全員で4人。3人が距離をとって尾行をする中、その3人をおとりとして、もう一人が可能な限り接敵する。
敵側もその様な奇襲を狙っていたことに気が付いたのは、間近にいる敵兵が手に持った剣をクルトに振り下ろした時だった。
(ああ、ここで僕の命は失われるのか………)
銀色に煌めくその刃を見たクルトは、それが自分の人生に終わりを与える物だと、一瞬の直感で理解する。
ただし早いのは思考のみであり、肝心の体は動かず、クルトはただ目蓋を閉じるだけが精一杯であった。




