魔法使いの失い方(2)
ハマツに戻り、イリスを医者に預けた後、クルトはホユニ司令官に今回の哨戒の報告を行うことにした。
本当は人心地つきたい気分であったのだが、イリスができない以上、哨戒任務の報告をできる人間がクルト一人しかいないのだから仕様が無い。
「まあ、また敵兵を見つけたけど取り逃がしましたって報告しかできないんだけどさ」
司令官室に近づく毎に、心が重くなるのを感じる。現状ではあまり益の無い情報に思えたからだ。
リブクイン側は、森を素通りさせた敵兵に具体的な対処をしたという話をクルトは聞いていない。もしかたら自分達の報告は、リブクイン側にしっかりと伝わっていないのではないかとすら思えてくる。
(やる気も無くなるよねえ。まあ、今回は別件で話しておきたいことがあるから、ちゃんと向かうけども)
ホユニ司令官に会える機会というのも、こういう報告の時にしか無い。それ以外の用事で会おうと思えば、ヘリスラー教師を通すしか無いのだ。
(ただし、今度話すこともリブクイン側に通らないとなると、もう僕にはどうしようも無いよね)
結果、リブクイン側にそれ相応の被害が出たとしても、クルトの責任では無い。そう考える。
(さて、向こうはどう対応してくるかな?)
そうこうしている内に司令官室の前まで辿り着く。見張りの兵士が立つ扉の先には待機室があり、さらにその先が司令官の執務室である。
「支援団のクルトです。司令官に哨戒任務の結果報告に参りました」
「そうですか。丁度良いところですね。通って下さい」
兵士は既にクルトの顔を覚えているのだろう。特別な確認も無く通してしまう。しかし少し疑問が残る応対だった。
(丁度良い? 何が?)
考えても仕方ないことなので、そのまま司令官室へと入る。すぐに執務室のドアをノックすると、中から声が聞こえて来た。
「来たな。入れ」
男の声が聞こえて来た。勿論、ホユニ司令官は女性であり、彼女の声では無いことは明らかだ。
「失礼します」
誰だろうと疑問に思うものの、許可を得たのでクルトは扉を開けた。
「ふん。一応、確認しておくが、マジクトから来た支援団とやらの構成員だな?」
入って早々にそんなことを尋ねられた。聞いてきたのは、恐らく入室の許可を発した声の主だろう。
執務室中央にある大きな机の横に立った、目つきの鋭い男。髪の毛に何本か混じる白髪を見れば、それなりに苦労もしているのだろうと感じさせる。
机には何時も通り、ホユニ司令官が座っていた。ただ、今回はどこか肩身を狭そうにしている。
「そうですけど………あなたは?」
司令官本人で無い以上、あまりあれこれと話す訳にもいかない。部屋内にいるということは、それなりの立場の人間であることはわかるのだが。
「私はホユニ司令官の秘書を務める、ヴァイズと言う者だ。リブクイン北部方面軍の全指揮を務めるホユニ司令官の補佐をしている」
つまり、自分こそがこのハマツですべての頂点だと言うことだろうか。リブクインの社会を知れば、この秘書こそが、実務を取り仕切っているとはわかる。
「よ、よろしくお願いします」
とうとう現れたかと心を引き締める。何度かホユニ司令官と会う内に、わかったことが一つある。
「クルト……だったかしら? 今後、森林哨戒任務の報告がある場合は、彼も同席することになったのだけれど、良いですわね?」
ホユニ司令官が話す。わかったこと。それは、彼女がやはり飾りでしか無いということだ。
報告を繰り返している内に、自分が行う報告について、彼女は特に意見を述べないのだ。まるでただ報告を聞くことだけが仕事かの様に。
恐らく、クルト達が去った後、この秘書にすべての情報を伝えていたのだろう。
「ええ。そちらが良いのでしたら、支援団にとっては特に問題はありません」
頷くクルト。実務を取り仕切る人間に直接伝えた方が話は手っ取り早いはずだ。
「ならば聞かせて貰うが、今回の哨戒任務。何が問題は無かったか?」
「問題と言われれば、それはもう沢山ありましたよ。フィルゴ帝国兵と遭遇し、さらに同行していた者が怪我を負いました」
ヴァイズがリブクイン側の指揮をとっているのなら、森林哨戒任務へ増員を寄越さないというのも彼の指示によるものだろう。嫌味の一つでも言いたくなる。
「敵兵と遭遇したのだな? 何時? どれくらいの規模で」
しかし嫌味をそれとして受け取って貰えない。どうにも、少し焦っている様だ。
「………発見したのは今日の昼頃ですね。人数は全員を確認したわけではありませんが、6人はいたかと」
「そうか……これまでも、何度か敵兵を発見しているのだな?」
「はい。迎撃するだけの戦力が無いので、発見報告だけを行っていましたが」
「………なるほど」
ヴァイズは複雑な表情をする。どういう感情が籠っているのかと言えば、自分の失態と誰かと責めたい気持ちが入り混じった物だろうか。
別にクルトは相手の表情を見て、そんなことが分かる訳では無い。ただ、なんとなく、相手が考えていることがわかったのだ。
(嫌な予感。当たったよ。報告するのが少し遅かったかな?)
ただ、また相手に伝えていない以上、こちらに手札がある状況だ。これをどう使うか。
「フィルゴ帝国兵について、何かあったんですか?」
「……別に、どうということは無い。現状では、君達に関係の無いことだ」
相手は自身の意図を隠そうとする。良い傾向だ。話を始める切っ掛けになるのだから。
「それ、当ててみましょうか」
「何?」
「例えばですね、森を抜けたフィルゴ帝国兵の集団が見つかったとか。しかも、まだ相手は何もせず、戦力を整えているとか」
「ど、どうしてそれを!」
自分からバラす様な言葉を発したのは、ヴァイズでは無かった。ホユニ司令官である。相手に隠し事があるのであれば、ホユニ司令官から聞き出すのが良さそうだ。
手練手管に慣れていない人間からは情報が聞き出しやすい。一応のトップである以上、ヴァイズが知っていて彼女が知らないというのも少ないだろうし。
「敵兵の動きが妙だったので、その動きに理由を無理矢理つけたら、そういう結論になりましてね」
サンポ大森林を何度も突破しようとするフィルゴ帝国兵。偵察や探索が主な任務で無ければ、いったいどの様な意図があるのか。そう考えた時、もっとも先に思い浮かんだのは侵攻であった。
というより、偵察も探索も侵攻のために行う物であるのだ。前者二つが、支援団の機能不全によって達成できている以上、次にそれが来るのは当然のことと言える。
とは言っても、まさか全軍を率いてという物でも無いだろう。侵攻する人員を小分けにして集める。そうして、ハマツより北方へ、まとまった人数を送り込むのだ。
「既に困った状況になるくらいの人数が集まっているんじゃないですか? 数十人。百に届く可能性も―――」
「150はいるそうだ。君らは本当に敵兵を素通りさせ続けたわけだ」
嫌味を口にするヴァイズ。森林哨戒任務は支援団の勤めである以上、確かにそれだけの人数の侵攻を許した支援団には、それ相応の責任があるだろう。
「何度も増員の要請はしたはずですけど。まさか、耳に届かなかったとは言いませんよね?」
ただ、責任というのは組織図の上側に向かう物だ。つまり、その頂点に立っているだろうホユニ司令官とその秘書であるヴァイズにも当然責任はある。
「確かに要請を聞き、検討はしましたが………」
不安そうなホユニ司令官が、ヴァイズを見る。増員の決定権はヴァイズにあったのだろう。であれば、増員の不許可を決定したのもヴァイズだ。
「ああ。聞いた。確かに聞いたとものさ。しかし、君達支援団に増員を送るという行為がどういう意味を持つかはわからないのかね?」
「支援団はマジクト国の組織で、そこにリブクインから増員を送れば、指示系統やら力関係がややこしくなるから無理なんでしょう? ただ、それは手間が増える程度のことですし、そもそも人員不足が問題になる様な任務に、支援団をつけなければ良いじゃないですか」
「それは……まあ、その通りだが」
「こうなることが予想できなかった。そういうことでしょう? それはお互いの責任です」
フィルゴ帝国にしてやられた。結局はそんな結論に辿り着くのだ。ではクルト達はどうすれば良いのか。その答え自体は簡単である。
「起こってしまったことには、どうにか対処しなきゃならない。そう、ハマツより北側に陣取られたということは、僕ら支援団にとっては逃げ道であるスリーアイランド港への道を塞がれたことになりますし、あなた達にとってはハマツがフィルゴ帝国から挟撃を受けるかもしれないという危機的状況にあると言えます」
だから考える必要があるのだ。変化した状況に対して、どう行動するのかを。
「………理解力はある様子だ。しかし、言うだけなら誰だってできる。対策を立てることができなければ、何の意味も無い言葉だ」
乗って来た。クルトは内心でほくそ笑んだ。他国から来た組織の、しかもその一人でしか無いクルトに、このハマツでもっとも実務力がある人物が、意見を聞いてきたのである。この機を逃すものか。
「危機的状況にあるのは僕らだけじゃあありません。ハマツ北側に陣取ったフィルゴ帝国軍ですが、これもハマツとスリーアイランド港に挟まれた形になっていますよね? 彼らもまた、この二点からの挟撃の可能性に怯えている」
「それで? ハマツが北側のフィルゴ帝国軍の討伐に出兵したとして、ハマツの戦力が減る以上、今度はフィルゴ帝国本軍に怯えることになるが」
フィルゴ帝国の本命は、あくまでハマツを落とすことだろう。ハマツに滞在する兵士達の数が減れば、それはそれでフィルゴ帝国にとって好都合となる。
「なら、フィルゴ帝国本軍に兵を出させなければ良い。そうは思いませんか? ホユニ司令官」
「わ、わたくしですか?」
突然、話を振られて驚くホユニ司令官。すっかり自分は蚊帳の外だと思っていたらしい。まったくもって頼もしい話だ。クルトにとって見れば、混乱してくれればそれだけ話の主軸を握れるのだから、歓迎すべき態度だった。
「そうですわね。それができれば一番なのだろうけれど。無理じゃないかしら? だってその、そうするには、こちらから兵士を送る必要があるし、それができれば苦労はしないでしょう?」
事実の認識は正常の様だ。彼女だって飾りと言えども、ハマツの全軍を預かる身であるのだ、それなりの能力はあるのだろうとクルトは考える。
「ちょっと待て、君らは森林哨戒任務についていて、さらにフィルゴ帝国本軍の足止めを提案しているということは………」
「その通りです。僕らがフィルゴ帝国本軍を足止めしましょうかと、そういう意見を述べているんですよ」
今、この状況で、できる限りのことをしよう。そういう考えの結果、クルトが至った結論はそれであった。
クルトが提案したこととは、ハマツが北側のフィルゴ帝国軍を撃退する間、南方より来るフィルゴ帝国軍を、支援団がどうにかして足止めするというものであった。
一見、無謀とも思える策である。支援団の数は少数も少数で、実働できる人員の数はさらに少ない。それが、勢いを失ったとは言え、一国と戦えるだけの力を持ったフィルゴ帝国を足止めするなど、不可能にすら思える。
そして実は、クルト自身もそう考えていた。
「困りましたよねえ。大見得切ったとは言え、どうすべきかまったく思いつきませんよ」
「思いつきませんよ。では無いだろう! まるっきり無謀な作戦だぞ! どうするつもりだ!」
支援団ハマツ残留組が集まる広間にて、イリスに怒鳴られるクルト。ちなみに彼女の傷はそれ程深刻な物では無かったらしく、腕についた傷を縫った程度で治療は終わった。
ただ、その手で剣を再び握るのは、数日は無理だとのこと。
「イリス殿の言う通りだ。提案自体も君の独断だろう? 少しは相談してくれても良かったのではないかね?」
今度ばかりはヘリスラー教師もクルトの味方には成ってくれない様子。まあ、当たり前だろう。それだけ、クルトが行ったことは勝手なことだったのだから。
「まあ待ってください。もしかしたら、彼も意図があってのことかもしれません。独断専行を責めるのも、それを聞いてからでも遅く無いのでは?」
騎士団員のガイ・ウォーカーが、とりあえずクルトを庇う。ただ、その目にはもし意味の無い物だった場合は、それなりの制裁を受けて貰うという意思が感じられた。
「とりあえず、今回の提案を行った真意を説明させてください。僕がどうして無謀な作戦を提案したのか」
「相も変わらず頭を動かした結果ってことだな?」
クルトの言動を良く知るナイツは、クルトが何か目的があって行動していることを、既に確信している様子。
持つべきものは友人である。こういう針のむしろの様な場所では、少しでも理解者がいてくれると、心中が楽になる。
「まずフィルゴ帝国兵がハマツの北側に陣取っていると聞いて、一番厄介だと思ったことは、僕らが責任を取らされる可能性でした」
「責任? 何も俺達は、命令に背く様なことをした覚えは無いぜ?」
騎士団員のオチヤが眉を少し釣り上げる。騎士団員として、指示された任務は行ったという自負があるのだろう。
「そうですね。サンポ大森林の哨戒任務について、僕らはできる限りのことをしてきたと思います。けれど、結果として、フィルゴ帝国兵は森を抜け、一軍をハマツを抜けた先に作ることに成功しました。つまり、僕らにとって負い目ができたわけですね」
どの様な事情があれ、止めるべきフィルゴ帝国兵を止められなかった。これは支援団を不利にする一因である。
「負い目かい? さて、その負い目だが、それを返上するために、フィルゴ帝国本陣へ赴くとは言うつもりじゃあ無いだろうね?」
斬りつけられた腕の調子が良くなってきたらしいナビィだが、上機嫌と言った風では無い。彼もまた、クルトの行動を責める立場なのだろう。
「もちろん、僕にはそんな名誉だとかを重要視する感性はありません。どちらかと言えば、どうにかして生き延びたいという意地汚い考えが行動の方針です。今回の場合、支援団に出来た負い目を利用して、僕らにスリーアイランド港へ向かわせられることこそ、危険だと考えたんです」
「スリーアイランド港だと? ハマツからスリーアイランド港へ向かう道の途中には、森を抜けて集まったフィルゴ帝国兵がいるんだろう!?」
驚くイリスであるが、他の支援団員の内、数人は状況を理解したと言った風に頷いている。
その内の一人である騎士団員のメッズが、珍しく口を開いた。
「………捨て駒にさせられる……ということか」
「ええ。まったくもって厄介な状況でしょう?」
「ええっと……何がどうして、私達が捨て駒にさせられるのかしら」
イリスと同様に、クルトの話が理解できないらしい大学生徒のマホ。
「呼び水だよ。実を言えば、ハマツ北側のフィルゴ帝国軍を撃退する方法として、ハマツとスリーアイランド港二点からの挟撃以外に、もっと手っ取り早い方法があるんだ」
そして、クルトがホユニ司令官とヴァイズに挟撃を提案しなかった場合、その手っ取り早い方法をリブクインは行っていただろうとクルトは予想していた。
「スリーアイランド港からの兵力だけでハマツ北側のフィルゴ帝国軍を撃退する。考えれば、普通は一番早く思いつくことだよね」
ハマツの兵を動かせば、フィルゴ帝国本軍に狙われるが、スリーアイランド港は別に敵兵に囲まれてはいない以上、ハマツ北側のフィルゴ帝国軍だけを集中して叩くことができる。
「確かにそっちの方が危険は無さそうに思えるけど……違うのかい?」
魔法使いのケンが聞いて来る。実は哨戒任務の過程で怪我を負ったのだが、話を聞く程度のことはできる。
「リブクインにとってはだね。スリーアイランド港には兵がいるけど、その指揮はハマツ側が取っている。それが分断された状況だから、中々動いてくれない。合図が無ければ」
「合図って………何なのかな?」
まだケンは分からないらしい。そんな生徒に講義をするのはヘリスラー教師だった。
「戦いの合図は戦いそのものだな。ハマツの兵力を多く動かせない状況であるならば、少数、犠牲になっても良い者をハマツから送り、戦わせ、それを合図にスリーアイランド港からの兵を投入させる」
結果、送った少数の人員は、命を落とす危険性があるものの、スリーアイランド港からの出兵は、ハマツ側でコントロールできると言うわけだ。
正直、リブクインにとってはこの方法を取った方がフィルゴ帝国軍を撃退できる可能性が高いかもしれない。
ただ、支援団にとってはまったくの論外の戦法であった。
「支援団が、犠牲になる兵力にさせられるとでも言うのか!? 他国からの戦力をそんな使い方で損耗させるなど、考えられん」
まだ納得できないらしいイリス。そんなに大声を上げると、怪我が悪化すると思うのだが。
「勿論、死に向かえなんて言わないでしょうね。どうせ、ハマツは敵兵に囲まれた危険な状況だから、帰国命令を出すとかなんとか言うつもりなんですよ。帰国するためにはスリーアイランド港へ向かう必要がありますし。さらに、そこでさっき言った負い目の話にも繋がります」
任務に失敗したのだから、一度国へ帰れとも言われるかもしれない。
その道程にはフィルゴ帝国軍が存在するのだ。戦いは避けられないだろう。もしかしたら、そのままスリーアイランド港まで逃げ切るかもしれないが、そうなればハマツからスリーアイランド港まで情報が伝達するので、リブクイン側にとっては良い事である。
ただ、どう足掻いても支援団の犠牲は避けられなくなる。
「つまり支援団がそういう使われ方をする前に、別の提案をして回避したということなのか。けど、それって、危険な状況を先回しにしたって程度のことじゃないか?」
ナイツが現在、もっとも問題になっていることを指摘してくる。
「そう。僕がしたのは危険の先回し。すぐにでもスリーアイランド港までの行軍を命令させられそうだったから、司令官達にあれこれ話をして、どうにかしたって程度のことなんだよね。だから困ってる」
近いうちに、支援団が危険な任務につくことは確定しているのだ。頭を悩ませているものの、解決策は思い浮かばない。
「クルト君。君の判断はそれなりに正しい物だと思いますよ。すぐ先の危険と、もう少し先の危険では、危険の度合いが同じだとしても、後者を選ぶべきだ。時間さえあれば、状況が変わるかもしれませんからね」
ガイからは一定の評価を得られたらしい。ただ、支援団の危機が去っていない以上、喜べる状況では無かった。
「稼いだ時間でどうするかかよ。悩む話だぜ」
頭脳労働は得意で無さそうなオチヤ。弱音を吐くものの、諦めるつもりも無さそうだ。
「とりあえず一つの案として、さらに危険を先延ばしにするという物があります」
次の策として用意していたことをクルトは意見する。
「ほう。聞かせて貰おうか」
ヘリスラー教師がクルトを見る。他の支援団員も同様だ。いつの間にか、クルトは支援団の中心に立っていた。
「フィルゴ帝国軍を足止めするには、準備が必要だとホユニ司令官には伝えています。具体的には、敵軍の情報が欲しいと」
「ハマツが持っている情報なら、俺達も滞在中に得ているだろう? それ以上の物が欲しいのなら……そうか、今度はこちらから偵察するんだね?」
ナビィが笑う。その表情は、良く考えたものだとクルトを褒めている様だった。
「ですね。これまでは森を抜けようとするフィルゴ帝国兵の発見が主体でしたけど、今度は僕達が森を抜けて、フィルゴ帝国の偵察を行います。隠密行動ですから、人数は一人か二人で。往復には数日掛かるでしょうから、その間、残りの支援団員はじっくり休めることになる。その間に英気を養うも、次の策を考えるのも良いでしょう。とにかく、また危険な状況を先延ばしに出来るというわけです」
そうして、現状を作り出した責任を取って、自分が偵察人員の一人となろう。クルトはそう考える。
これが、クルトができる精一杯のことであった。




