魔法使いの失い方(1)
リブクインの状勢はリブクイン国側がやや有利。それは誰もが理解している状況だった。リブクインは攻めの一手には欠けるものの、まだその戦力には余裕があり、一方でフィルゴ帝国は一時の勢いを完全に逸し、今は孤立した土地で兵力を温存するということしかできていない様子だった。
ただ、問題が無いのかと言われれば山積みである。未だ状況は膠着状態であるし、フィルゴ帝国がこのままの状態を維持できる準備を進めるのであれば、戦争はさらに長期間続くことになる。
フィルゴ帝国本国からの援軍も心配の種だ。リブクイン国にいる兵力だけが全兵力でも無いだろうし、フィルゴ帝国からの補給船も定期的にリブクイン国への侵攻しているらしい。リブクイン国はそれを迎撃することに必死である。フィルゴ帝国に十分な補給が行き渡れば、また戦力を取り戻して攻めてくるかもしれないのだ。
結局、危機的状況なのは変わらない。人々の心は荒れるし、兵士の士気は下がり、国の治安も低下する。
似た様な状況はマジクト国支援団でも起こっている。人造馬の輸送に関しては、肝心の人造馬自体に不調が出始めているし、支援団参加者の内ではマジクト国に帰りたいと言い始めている人間もいる。
そんな問題だらけの日々が続く。気が付けば、支援団がリブクインへやってきてから、一か月は経とうとしていた。
問題は多種あるが、ハマツ残留組の問題はかなり深刻だった。どういうものかと言えば、とにかく人が足りないのだ。
「ケンさんがまた倒れたんですか? ええっと、代わりにマホさんが出て貰うわけには………え? これで連続3回目になる? 間に一回休みを挟むんだから連続じゃないです。文句を言わないでください」
恐らく、現状でもっとも忙しいのはクルトだった。ハマツの支援団用の大広間にて、クルトは残留組が行う森林哨戒任務の管理じみた仕事を担っている。
何組かに分けて交代で森林哨戒を行おうという取り決めだったのだが、それで回らなくなった。負傷者が出始めたのだ。
負傷の原因は幾つかあるものの、根本的なものは、フィルゴ帝国兵の森林への侵入が、予想より多くなっているというものだった。
「なあ、クルト。次の哨戒に俺が行くのは良いんだが、ペアになる騎士団員の人がガイさんってのはどうにかならないか? 俺、あの人と話が合わなくてさ」
こんな文句を言ってくる奴さえいる。誰かと言えば、まあナイツだ。
「状況わかってる? 今、動けない騎士団員が二人もいるんだよ? ナビィさんとメッズさん。片方は受けた傷の完治がまだまだだし、もう片方は黙って仕事を続けた後、ぶっ倒れて一日眠りっぱなし。まあ、文句が無いから5連続程哨戒任務を任せた僕が悪いんだけどさ!」
一度目の哨戒の時点で、騎士団員のナビィが負傷した。その傷自体は深刻なものでも無かったのだが、大丈夫だからと何度も仕事を続ける内に、怪我が悪化して、再び医者の世話になっている。
その穴埋めで人員を動かしている内に、さらに敵兵との遭遇の機会が多くなり、当初の予定通りには行かないことが目に見えて分かり始めて来た。
もう少し機能的な人員の配置を。そんなことを提案したヘリスラー教師は、それを管理する役に、なんとクルトを指定した。
「君は人を見る目が優れているだろう」
そんな言葉で、クルトがその役をすることになった。勿論、クルトの哨戒任務が免除になるわけではない。普段の哨戒に付け加えて、残留組の人員運用を行うことになったのである。
「次の哨戒が終われば、また僕が出なきゃ行けないんだよ! ちょっと仮眠する時間くらい作らせてくれたらどうなのさ!」
ここ最近、クルトには十分に眠った記憶が無い。兎にも角にも忙しい。フィルゴ帝国兵が森林侵攻に力を入れ始めているのは分かっているのだから、リブクイン側から人員を回せないのだろうかと意見してみたものの、いまのところ、増員の気配は無かった。
「それこそ俺に言われてもなあ……。わかったガイさんを呼びに行ってくる」
広間の片隅で仮眠をとっているガイを起こしに向かうナイツ。
「これ以上忙しくなる様なら、輸送任務についている支援団の中からでも増員を頼んだらどうだ?」
意外なことに、イリスがクルトの補佐をしてくれている。現状、負傷も無く、ペアを維持できているというのが大きな理由だろう。裏の目的が合致しているというのもあるが、どうにも最近はそれを忘れがちになる。
目の前の仕事を行うことに必死なのだ。
「こっちへ荷物を運んできた時に、それとなく話を聞いてみたんですけど、どうにも向こう側の人員運用もいっぱいいっぱいらしいです。士気が最近になって落ち続けているとか」
「やっていることは港とハマツの間で往復を続けるだけだからなあ。それが一か月休み無く。そろそろ多方面に限界が出始める頃か………」
マジクト国ではどの様な情報が回っているかはわからないが、現状、支援団のリブクイン参戦は時機早々であったと言わざるを得ない。
長期間に渡る戦争、しかも他国同士という物に対して、正義感以外の意味を見いだせなくなってきているのだ。
人間なんて熱意を持って行動を続けることは不可能なので、もうどうして自分達がこの国に来ていたのかと悩み始める者も出ている。
まだ仕事ができるという人間もいるにはいるのだが。
「………おい、俺はもう大丈夫だ。次の哨戒にでるぞ………」
「メッズさんはまだ眠っててください。後で嫌でも働かせますので」
働ける人間程、自分自身の心配をせず、無茶をするので、それを程々にさせなければならないという余計な仕事を生み出す。
ふらふらと広間に用意した休憩用のベッドに戻るメッズの背中を見て、溜息を吐きたくなるクルト。
「この調子じゃあ、一週間も持ちませんよ。万全の状態で森林哨戒ができなくなります。そんな状況で敵兵と遭遇すれば………」
支援団内部では、幸運にもまだ死者は出ていない。だが、それが正真正銘運によるものであるのは、クルト自身が一番理解していた。
「ヘリスラー師がホユニ司令官へ陳情に向かっている。何人かこっちに兵士を回して貰えないかという物だが、それ次第だな」
イリスの言葉に合わせる様に、広間へとヘリスラー教師が帰ってくる。少しだけ期待を込めた視線をクルトは向けるものの、肩を落とし、首を振るヘリスラー教師を見れば、その期待は裏切られたのだろうと話もせずに分かってしまった。
「駄目だったよ。どの部隊からも、森林哨戒に人員を割くことは出来ないそうだ」
まだまだ運に頼らなければならない状況が続く。
「いくら前線が忙しくても、増員できないっていうのは怪しい話に思えますよね」
十何度目かの森林哨戒任務。クルトとイリスは再びサンポ大森林内部を歩いていた。哨戒役も、4人2組では既に無くなっており、1組ずつが交代で哨戒をするという形に変更していた。
とにかく人手不足なのだ。
「確かにな。もう何度も敵兵と遭遇している以上、森林を踏破しようとしている意図は明らかだ。だというのに防衛を強化しないのは変と言えば変だな」
クルトの疑問にイリスも頷く。支援団ハマツ残留組は、森林内部で敵兵との交戦、発見を繰り返しており、疲弊の理由はそのせいだった。
「リブクイン側は森林を抜けられても別の良いと考えてるんでしょうか?」
「どうだろうなあ。攻めにくい土地に籠られるより、向こうが攻めて来たところを叩きたいと考える人間もいるにはいるだろうが、危険な賭けでもある」
「だから僕らみたいなのを配置して、敵の動きだけでも知ろうとしている?」
「ありそうな話だ。となると、私達がとっている方針、交戦はできるだけ避けて、発見、観察、報告のみを重視するという奴は、正解だったかもしれんな」
人員を十分に用意できていない以上、クルト達はフィルゴ帝国兵を発見すれば、できるだけ隠れ、逃げて、ハマツに報告するという方針をとっていた。敵と戦う事になれば、その労力は多大なものであるし、労力自体を失う可能性も高い。だから、あくまで森林を抜けようとする敵兵の発見と報告だけを行う様になっていた。一度の哨戒任務につく人員を減らしているのは、人が少ない方が隠密行動をとりやすいというのもある。
つまり、敵兵自体は素通りさせている状況だ。
「まあ、何にしたって、支援団自体に限界が来ているんですけどね………」
森林哨戒を始めたクルトとイリスであるが、両者とも疲労が溜まっている。森は歩くだけでも体力を奪う上、敵兵に発見されない様に隠れて進むというのは気力も使う。さらにハマツに帰れば、ややこしい人員管理をしなければならず、十分な休息をとれない。
遅かれ早かれ、支援団の機能が麻痺するであろうことは目に見えてわかる。
「思うに、ひと月も支援団がリブクインに滞在するとは、決定した貴族議会も予想していなかったのではないか?」
「じゃあどうしてまだ帰国命令が出ないんですか。予想から外れたら、軌道修正をするのが普通でしょうに」
「面子の問題だ。一度決めたことをすぐに覆す程、面の皮が厚い貴族が少ないってことだろうな。まあ、そういううだうだとした足踏みを続ければ続ける程に、支援団の派遣に反対だった権力者側に、付入る隙を与えることになるんだろうが………」
「ヒレイさんとスガル様が裏でどうにかしてくれる可能性が?」
もしマジクト国内で反戦論が強くなって行けば、それだけ支援団を快く思っていない人間にとって有利になる。リブクイン国へ支援団を送ることに反対だったヒレイとスガルもそうだろう。
「可能性はある。しかし、裏工作というのは時間が掛かる物だ」
「………つまり、今の状態をまだ続ける必要があるってことですか。支援団に被害を出さず、あと暫くの間、この国で時間を稼ぐ」
何か方法は無いだろうか。今こそ自分の頭を使う時だ。
「そういう小難しいのは苦手だ。貴様はどうだ? 屁理屈は得意だろう?」
「否定はしませんよ………。そうですね。やっぱり問題は、フィルゴ帝国兵が森林に侵入しようとしていることなんですよ。そうでなければ、森林哨戒任務は危険性が少なくて丁度良い任務なんです。適当にやってるだけで、安全に時間を潰せる」
特に成果もあげられず、ただこの国で過ごす。それができれば、何時かはマジクト国への帰還命令が出るだろう。クルトの理想はそれだ。
「なんだそれは。前提条件を変えれば、いくらでも良い状況を想定できるだろうが、まったく意味が無いぞ」
「理想の状況を想定するのは大事ですよ。とりあえず目指す物が見えれば、後は現実を理想に近づけるだけ」
自身のやらなければならないことを、見つけやすくなる。
「ほう。なら、その楽をして戦争に参加し続けるという理想を、どうやって現実にする?」
「理想はあくまでみんな無事にマジクト国に帰ることですよ? そのために今やる仕事を楽にする。まあ、何か思いついたわけでも無いんですが………」
「なんだ。役に立たない奴め」
酷いことを言う人だ。だが、何も案が浮かばなければ役に立たないことは事実だった。
「情報が足りないんですよ。味方側も敵側も知らないことばかりで………。付け入る隙はあると思うんだけどなあ」
リブクイン国、フィルゴ帝国、両者共に疲弊していることには変わりない。ならば、そこをクルトがどうにかできる可能性は無いのか。
「ううーん。危険かもしれませんけど―――」
「まて………近くに誰かいるぞ」
クルトが自分の意見を話す前に、イリスが小声で注意をする。森林内部を歩くのは、クルト達の様な哨戒任務を担っている人間くらいだ。そうでなければフィルゴ帝国兵。
「急いで隠れましょう」
フィルゴ帝国兵と遭遇すれば、向こうがこちらを発見する前に隠れて逃げろというのが現在の方針である。
戦う余裕などない。恐らく森を抜けて来たフィルゴ帝国側もそうだろうが、クルト達だってそれなりに疲労している。戦うことになれば、被害は回避できないと考える。
「とりあえずその場に伏せろ。そうすれば中々に見つからんもんだ」
「走って逃げるという案はありませんか?」
「気付くのが遅かった。かなり近くにいる」
疲れのせいで、相手の気配を察知する勘が鈍ったらしい。それにしたって、クルトが気付けないことに気付いている様な気もするが。
とにかくこういう状況ではイリスの判断が一番だ。クルトはできるだけ姿勢を低くする。
「どの方向にいるとか分かりますか?」
「ほら、あっちだ。目でも見えるだろう」
イリスが指差す方を見ると、木々や枝の隙間に動く影がある。獣で無く人間で、しかも集団だ。
「ひとつ、ふたつ………見えるだけでも5,6人はいますね。隠れて正解だった。向こうに見つかっていれば、こっちはひとたまりもありませんよ」
「戦いの素人でも無いだろうしな。しかし、あれだけの人数に気が付かなかったとは………。くそ、これは失態だぞ」
悔しげな顔するイリスだが、そこまでの失敗では無いとクルトは思う。まだ敵に見つかってはいないのだから。
「少し……考えていることがあります」
敵との距離はまだある。小声での話なら、敵兵に聞こえることは無いだろうと、クルトは会話を続けることにした。
その方が緊張感も薄まって良さそうだ。
「なんだ?」
「これまで、何度も僕らはフィルゴ帝国兵とこの森で遭遇しましたが、相手の狙いは何でしょうか?」
「それはだから、森を抜けた先の偵察と、進軍する場合は森林内部の道を調査する必要があるからだろう」
既に話したことだ。兵士をわざわざこんな大森林に侵入させるのなら、そういう理由があるだろう。
「僕もそう思っていたんですが、ちょっとやり過ぎだとは思いません? 僕らは既に、発見したフィルゴ帝国兵を何度も見逃しています。リブクイン側に発見報告はしていますけど、兵士の増員とかは無しです」
「偵察も調査も、できる機会はいくらでもあった。だからそれを何度も繰り返す必要性が感じられないと?」
「もしくは、既に別の目的があって、行動の指針はそれに変わっているとか」
敵は森を抜けて何をしようとしているのか。現状、ハマツより北側に、フィルゴ帝国兵による被害は殆ど出ていない。
森を無事に通り過ぎた敵兵はどうしているのか。偵察を終えた後は、そのまま大人しく自分達の基地に戻っているのだろうか。
「……もしかすると―――」
「やばい」
「そうですね。危険なことになっているのかも………」
「そうじゃない! 敵に気付かれた! 逃げるぞ!」
イリスは立ち上がり、身を翻して走り出す。クルトもそれを追う。
「ちょ、ちょっと! 結構離れてましたよね! どうしてそれで気付かれるんです!」
「小声でも話していた以上、何らかの音が向こうに届いていたんだろう。それを察知されたのかもしれん!」
向こうにも獣染みた感性を持つ人間がいるのだろうか。まだ敵兵とは距離がある。全力で走れば、逃げ切れる可能性は高いものの、不安になってくる。
「本当だ……こっちに向かってくる」
走りつつも後方を振り返り、確認するクルト。敵兵は明らかにクルト達の方へと走って来ている。
「いいからとにかく前を向いて走れ! 振り返っていると、それだけ逃げるのが遅れる!」
イリスに注意されるものの、彼女は全力で走っていない様子。クルトが走る速度に合わせているのだろう。彼女が本気で走れば、クルトなどとうに置き去りにされているはずだ。
クルトは黙って走り続ける。当然、走れば走る程に体が重くなり、不安定な地面に足を取られそうになる。しかし、止まってしまえば自分の命が無いかもしれないと思えば、どうしてだか不思議と前に進める物だ。まるで体の方が生を求めるかの様に、疲労を忘れて動き続けられる。
前へ前へ。イリスの背中が見えている以上、それを追えば、森の中で迷うことは無いだろう。
走り続ければ思考も無くなる。ただ足を前に出す装置になったかの様な気分さえしてきた。自分はどこまでも走り続けられる。敵兵から逃げるのも容易い。そんな自信さえ湧いてきた。
「あ」
それらすべては幻想である。命の危機にさらされた脳が、ただこの場を逃げ延びるために、思考を最適化した結果に過ぎない。
現実にはほんの少しだけ、疲労を忘れて走れるようになっただけで、周囲の環境は変わっていない。
即ち、不安定な地面はそのままであり、それに足を取られて転ぶ可能性は、いくらでもあった。
「しまっ―――」
枝にひっかかり足がもつれる。肉体はまだ走ろうとした結果、バランスを崩し、体が前のめりに倒れようとする。
「この!」
声はクルトの物では無い。いつの間にか隣に立っていたイリスだ。彼女は声を張り上げると、クルトの服の襟を掴むと、転がろうとするクルトの体を無理矢理引き上げた。
「ぐえっ」
蛙をひき潰した様な声が、クルトの口から洩れ出る。実際、一瞬息が出来なくなり、呼吸困難に陥りかけた。
ただ、地面に転がることは無くなり、元の立った姿勢に戻ることができた。
「転がっている暇なんて無いぞ! ある程度距離は開いただろうが、まだ敵は―――」
イリスの言葉が途中で止まる。何かあったのだろうか。
「イリスさん?」
「いや、なんでも無い。とにかく早く走れ」
何故か少し姿勢を変えて、イリスが話す。違和感を感じるものの、クルトは彼女に従い、再び走り出した。
それから数分後、漸くクルト達は敵兵を撒けた様で、ハマツへの帰路につくことになった。
「な、なんとか逃げ切りましたね」
「………そうだな。悪いが、荷物を取ってくれないか? 片腕だけだと、どうにも難しい」
そろそろハマツ方面に近づく森の中。イリスは自分の背負う荷物を、クルトの方に向けてくる。
「片腕だけって、何か……ちょっと! 右腕に矢が!」
イリスの右腕には、細い矢が深く刺さっていた。傷口からは血が滲んでおり、服を赤く染めていた。
「ああ、さっき、運悪く相手の撃った矢に当たった。普通なら当たらぬ距離だったんだろうが………いや、足に当たらなかっただけ運が良かったのか」
「は、早く手当しないと!」
「だから荷物を取ってくれと頼んでいるんだが。矢を抜いて止血する必要がある」
なんでも無い風に話すイリス。ただ、少し顔色が悪くなっていた。
「手当は僕がします。それくらいならできますから」
クルトは緊急用の治療道具を取り出す。といっても、包帯と消毒液とペンチ程度のものだ。
「痛みますから、我慢してくださいね」
クルトはペンチでイリスの腕に刺さった矢を引き抜く。
「ぐっ」
その痛みに顔を引き攣らせるイリスであるが、なんとか耐えていた。傷口から血があふれ出すものの、消毒液を傷口にかけて、包帯を巻く。これの作業もかなり痛みを伴うものだろうが、今度はうめき声も出さなかった。
「腕……大丈夫ですか?」
「とりあえずの処置はこれで良い。ハマツに戻れば、それなりの治療も受けられるだろうし………。ただ、戦闘は無理だろうな」
一応、腕は動かせるくらいの怪我だったらしいが、剣を握って振るうのは無茶だろう。支援団の戦力が、またこれで失われたわけだ。
「ハマツへはもうすぐです。疲れてるでしょうけど、歩きましょう」
緊急の手当ても早々に、再び動き出すクルト達。ここはまだ危険な場所だ。敵兵もいるだろうし、森の中には危険な動物だっている。
怪我を負った人間が長時間居て良い場所では無かった。
「………これからどうする? より、支援団の活動が難しくなってくるぞ」
「とりあえず、敵の狙いが薄々読めて来たんで、それを司令官あたりに伝えないと。もしその話が通れば、状況自体は変わるはずです」
クルトが考えるフィルゴ帝国の狙い。それはリブクイン国にとって良い物では無い。なんとか対処をしなければならないと普通なら考えるだろうが、他国の人間の言葉が通るかどうか。それが問題だった。
「状況が変わるか………良くも悪くも無いな」
「いえ、少なくとも良い方向に変わることはありませんよ」
リブクイン国での戦争はさらに混迷を極める。それは、この戦争に参加している支援団にとっても同様のことと言えた。




