魔法使いの参戦方(3)
マジクト国アシュルを出発した軍艦は、リブクイン国スリーアイランド港に辿り着いた。リブクイン国領土の北東にあるその港は、他国から海路を用いてリブクイン国に入国する際の、代表的な入口となっている場所だそうだ。
船からその港に降り立った魔法使い達と王立騎士団員。両者を合わせてマジクト支援団と呼ぶことになったその団体は、現在、港にてリブクインの兵士達に点検を受けていた。
「申しわけありませんが、荷物を点検させていただきます。この杖は?」
リブクインの兵士が荷物を探るのをクルトは見やる。かなり大雑把な手際であるが、まあ目をつぶろう。優秀な兵士であるならば、きっと敵と戦うべく前線に向かっているだろうから。
「普通の杖です。材質も見ての通りの木材。あ、先端の石は魔力を通せば光りますから、普通じゃあないか」
兵士もこれが仕事だろうから邪魔はしない。そもそも、こういう点検が行われるのは事前の取り決め通りである。
マジクト国は事前に支援団がやってくるという情報を持った使節をリブクインに送っており、その際、やってくる支援団がリブクインを攻撃するものでないのかどうか調べたうえで、入港の許可を得ていた。
つまりこの兵士達の点検は、リブクインとマジクトが互いに約束を守ったという証明であるのだ。向こうはやらないわけにはいかないし、こちらも断ることはできない。
「他に特別なものは……これらは食料の類ですか?」
布で包まれた携帯食をこちらに見せてくる兵士。
「ええ。船に乗せている分とは別に、個人毎に2,3日は野宿可能な程度の装備はしておく様にとの話でしたから」
マジクト国支援団はあくまでマジクト国の力によって動く。リブクイン側に食糧や物資を要求するというのは好ましくない。だから今まで乗って来た船に乗った分と個人の手荷物だけで暫く過ごさなければならない。
だからこそ、リブクイン側も荷物検査を厳重に行っているのである。魔法使い達の中には、そんな点検に戸惑っている者もいるが、同行している王立騎士団の団員達は慣れた様子である。点検役のリブクイン兵と世間話程度の情報交換を行っている者すらいた。
そんな王立騎士団員の中に、クルトが知っている人間が一人存在する。彼女もまたリブクイン兵から荷物検査を受けていた。一般的な女性なら嫌がるであろう荒い扱いがされていても、眉一つ動かさないのはさすがと言うべきか。
(単なる鉄面皮とも言えるけどね)
そんなことを考えながら女性騎士を見る。名前はイリス・ウォーカー。猪突猛進の性質を持つ、騎士団の中でも新米騎士に位置する女性。
そんな相手をクルトは見ていたが、どうやら相手もその視線に気が付いた様子。顔をこちらに向けてウインクをしてきた。
(鳥肌が立つね。慣れないことなんてすべきじゃあないんだよ)
彼女のウインクに寒気を感じるクルト。勿論、堅物の彼女がクルトに愛想を使ったのではない。
あれは事前に取り決めていたサインである。この後、二人きりで会おうという物。字面だけ見れば色気のある話なのだが。
リブクイン兵の点検が終わり、とりあえずスリーアイランド港の兵舎に泊まることになった支援団。
一日はここで泊まり、今後の方針をリブクイン側と共同で決める予定である。ただそれを行うまではまだ時間があり、その隙に人目を忍んで兵舎を抜け出すクルト。
外はもう日暮れ時。兵舎からの照り返しであたりは真っ赤だ。
「とりあえず、兵舎近くにいると思うんだけど………」
辺りを見渡すクルト。探し相手はイリスだ。案の定、兵舎玄関近くに立っているイリスを見つける。
顔を合わせると、イリスは首を振ってついてこいとのポーズをとった。
ある程度距離を空けつつ、周囲に人気の無い兵舎裏まで歩き続ける。漸く止まったイリスを見て、クルトは彼女に近づく。
「ここなら大丈夫そうですね」
「……周囲に人の気配はない。私達が話しているところを見られることはないだろうな」
足を揺すりながら話すイリス。随分と苛ついている様子だ。
「で、だ。お前、どうするつもりだ?」
途端、そんなことを聞いて来るイリス。
「勿論、支援団の足止めができるのならするし、前線で戦うことになっても、直接の戦闘行為を避ける様に色々と考えるつもりです。イリスさんもそのために支援団に参加しているんでしょう?」
支援団に参加した王立騎士団員の一人であるイリスは、スガルとヒレイがクルトの助力となる様に送り込んだ人間だった。
支援団の内、魔法使い側はクルトが騎士団員側はイリスが、スガル達の命によって動いているということである。
「ここには仕事で来ているんだ。ウォーカー113と呼べ」
クルトの答えに眉をひそめるイリス。どうやら呼び方が気に食わなかったらしい。
「嫌ですよ覚えにくい。とっさの時にどう呼べば良いか迷ったらどうするんですか」
ウォーカーとは騎士団員に与えられる職名を兼ねた姓だ。騎士団員が複数人支援団に参加している以上、ウォーカーという姓の物が多くいるということである。
姓の後の数字で個人を判断するそうだが、こっちとしては非常に面倒くさい話である。だからイリスと名前で呼ぶことにクルトは決めた。
「まったく。どうして私がこんなことを」
クルトと同様に、イリスが支援団に参加したのは本意でないらしい。
「宮仕えしてるんですから、それなりの理不尽には耐えるべきでしょうに。僕なんて、本来関係も無いっていうのにこんな場所にいる」
「貴様こそ自業自得だろう! どうせ余計なことばかりに顔を突っ込んで、不必要な繋がりを作ってしまったに違いない」
怒鳴るイリス。つい耳を塞ぐが、その内容は反論できぬものだ。自分の感情や欲望に従った結果、ヒレイやスガルといった者達と出会ってしまったのだから。
「わかりました。わかりましたよ。お互いの失態を罵り合うのはやめましょう。二人きりで会ったってことは、今後の方針を決めるってことなんですから」
スガル達の命令で支援団に参加しているということは、リブクイン国を支援するという本来の目的以外に、別の目的を持っているということだ。
クルトとイリスは、むしろ支援団を上手く機能させず、戦争へ本格的に参加させない様に動かなければならない。
「この国に来た以上、敵国との小競り合いは覚悟すべきだ。それがどういう形になるかについてはまだ未定だな」
「その敵国っていうのはどういう相手なんでしたっけ?」
「異大陸の国家。向こうの自称では確かナイライン大陸のフィルゴ帝国という名前らしいが………」
イリスはリブクイン兵にこの国の状況を大まかに聞いていたらしい。そこに限ってはさすが騎士団員である。
「帝国っていうのは、複数の国を支配しているって感じの国体でしたっけ?」
「ああ。ナイライン大陸。フォース大陸の西側に存在するらしいその大陸の大半を支配地域にしていて、次にフォース大陸に目を付けたということだろうな」
他者を支配して力を蓄える類の国家は、明確な敵がいなくなれば途端に弱小化する。大陸内の別国家という分かりやすい敵がいなくなれば、次は別の大陸に目を向けるというのは有り得るかもしれない。
「聞く限りではとんでもなく強そうな国なんですけど、勝てる見込みはあるんですかね?」
「現在、リブクイン国に攻めてきている戦力だけを見れば、なんとか対処可能かもしれないという戦力比らしい。その分、リブクインの兵士達は士気がそこそこに高い。今のままなら勝てる戦いだからな。大方、フィルゴ帝国の方も本格的な戦いにするのか、小競り合いのまま続けるのか迷っているのだろうさ。海を隔てた戦争なんて、向こうも初めてだろうからな」
少なくともフォース大陸にとって異大陸からの侵攻というのは歴史が始まって以来のことだろう。互いが慣れぬ状況が続いており、事態の膠着はそこに原因があるだろうと予測できる。
「それにしても、向こうは別大陸の国家だっていうのに、リブクイン兵は良くそんな詳しい情報を知ってますね? 世間話程度でそれだけ話ができたってことは、リブクイン側はもっと詳しい情報を知っているってことでしょう?」
イリスが話すフィルゴ帝国の情報は、港での点検の際に聞き出した程度の物だろう。だというのに、既にクルト達はフィルゴ帝国の概要をある程度知ることができている。
「………ここからは私の予測になるが、戦争が始まる前から、リブクインはフィルゴ帝国との交流があったはずだ」
「本当ですか?」
聞き返すクルトだが、クルト自身、それは有り得ることだと思えた。国と国とが出会い、いきなり戦い合うという状況は中々無い。まず互いの交渉があり、そこから別の状況が発生するのである。戦争はあくまでそれらの結果の一つでしかない。
「別の大陸もそうだが、自分達の領土から離れた場所を攻め込む場合、何が必要になると思う?」
「大量の物資とかですかね。兵士達が領土以外の場所でそれらを調達できるのなら別ですが」
イリスは戦争時の戦略の様な物を話しているのだろうが、クルトにとっては専門外の話だ。
「大凡正解だ。もっと具体的には、逗留する基地が必要だ。そこに食糧や戦備品を持ち込み、そこを背景に敵を攻める。この基地は運用する兵士数が多ければ多いほど、比例して規模も大きくする必要がある。長くリブクインと戦争をしているということは、フィルゴ帝国は一国とやり合える程度の兵力を、リブクインに逗留できるくらいの基地を作っていると見るべきだ」
それだけの兵士数と基地となれば、それは一種の町だろう。そんな物がリブクイン国内にあるということか。
「そういう基地を作るとなると、時間と物が結構必要ですよね………まさか」
「そうだ。それらの幾らかはリブクイン側が用意しているはずだ。自国でそんなものが作られるのを、黙っているはずがない」
「有り得るんですか? 敵国が自国領土内に基地をつくるのを黙っているなんて」
自分の体内に毒を仕込む様な物だ。そんなことをする理由が無い。
「例えばフィルゴ帝国と交流して、その戦力を利用し、フォース大陸の他国を脅すことが、リブクインの考えていたことだったとすれば?」
「本当はフィルゴ帝国と同盟を組むつもりだったってことですか?」
恐ろしい話だった。フォース大陸は現在、四つの国家によって安定しているが、そこに別大陸の戦力を利用する国が現れれば、そのバランステーブルは脆く崩れ去るだろう。
「この予測が本当であれば、他三国がリブクインの支援に消極的だった理由に合点がいく。リブクインは他国を攻めるために呼び込んだ戦力に、内側から食い破られかけているということだからな。多少の痛手を被って貰わなければ示しがつかない」
そしてそんな状況で、親切にも支援団を送ることにしたマジクト国は馬鹿者ということか。
「ヒレイさん達が反対するわけだ。僕らを勝たせる様に表立って行動すればするほど、自分達の愚かさを証明する事態にもなる。あれ、じゃあ大学長達はどうして」
「若手貴族達にとっては、国に汚名が着せられようとも、自分達の権益を伸ばす方が有益だと考えたのかもしれない。そこらは良くしらないが」
マジクト国内で、強い権力者と弱い権力者が対立しているのだろう。強い権力者側は国の威信を守ろうとし、弱い権力者はそんなことより自分達が強い権力者になることを望む。
「上の考えがいろいろあるってのは、とっくに知ってることですから、あまり深く考えないで置きましょう。それより、リブクイン国への支援が、それほど意義のあることじゃあないってことが重要ですよ。支援団に参加している人間は、自分達の正義感からリブクインにやってきた人が多いはず。今の話を聞かせれば―――」
「止めて置いた方が良い。さっきも言った通り、ここまで来てしまえば、一度はフィルゴ帝国の兵達とやり合う必要が出てくる。その時、今の話を聞かされた支援団はどうなる?」
想像してみる。確固たる正義も無く、自分達の国に住む者達からも、全員から応援されているわけではない。
士気なんて無いに等しい。そこで敵と戦えるのか。
「一度限りの小競り合いで、全滅の可能性だってある。支援団がフィルゴ帝国と接触するまでは、少なくとも余計なことを話すべきじゃあない」
ならば黙って成り行きに任せるしかないのか。いや、それはできない。クルト個人が危険な目に遭いたくないというのもあるが、支援団の安全確保は王族や貴族からの命令でもあるのだ。
なにもせずにいれば命令に反したとみなされ、なんらかの罰が与えられるかもしれない。
「一度戦いさえすれば、支援団の役割を果たしたことになりますかね? その後に戦いの意義が薄いことを伝えれば、そのまま帰国できるかも」
「詳しいことは私だってわからないが、一度戦争に参加してしまえば、抜け出すのは難しいのではないか? そもそも撤退も進軍も、上の命令で行うものであるし」
支援団の上部は、支援団を作る決定をした貴族議会である。議会が支援団をリブクインから撤退させる決議をしない限り、支援団はリブクインを支援し続けなければならない。
「あー。なんだか無理臭い話になってきましたよ。結局、戦う戦わないの決定権は僕らには無いわけで、でもどうにか支援団を戦火から遠ざけないといけない。矛盾してません?」
「そもそも我々に命令をしてきている方々が、議会の意思に反しているんだ。どうもできまい」
イリスは既に諦めたといった風に語っている。スガル達からの命令を遂行することはできないと判断しているのだろう。
確かに政治的な決定は終了しており、それを一個人の力でなんとかするのは不可能に思える。
「時間を稼ぐというのはどうでしょう。リブクイン国での滞在期間が伸びれば、否でも厭戦気分になりますし、スガル様やヒレイさんが本当に支援団に損害を出したくないのなら、その間に議会で撤退の決議を実行してくれるかも」
「良い案に思えるが、この国に長く滞在するということは、それだけ敵国と戦い続ける必要があるんだぞ?」
長く戦い続けて疲弊し、損害を出してしまえばそれまでだ。人の命は取り返しがつかない。
「この港は前線から遠い以上、とりあえず前線まで移動しなければならないわけですよね? その間になんとか足止めというか………そうだ。支援団の目的は、敵と直接戦うことだけなんですか?」
「一応、議会の決議では、リブクインに対する全面的な支援という曖昧なものだったな。現場にある程度の裁量権を与える目的だろう」
「なら、例えば炊き出しだったり、物資の搬入だったりも支援の内に入ると………。今回、魔法大学側は人造馬という魔法道具を持ち出しています。魔力で動かす馬ですね。それを使って前線に物資を届ける役になれば、直接の戦闘行為は少なくなるんじゃないですか?」
「そうだな………移動させる物資を出来るだけ多くすれば、移動の際に時間が掛る。我々にとっては嬉しい事態になるだろう。よし、騎士団側に掛け合ってみる。貴様は―――」
「はい。僕も魔法大学側の中心人物と話してみます。多分、こっちは通ると思いますよ。なにせ代表者が人造馬を作った教室の教師ですから。それを活かす状況ができるのなら、その人は賛成するはずです」
お互いの方針をとりあえず決めたクルトとイリス。同時に兵舎へと帰るのはまずいので、とりあえずクルトはしらばくこの場所へ待機することになった。
そうして日が完全に落ちた頃を見計らって、クルトは兵舎へと帰った。真っ先に向かったのは、ヘリスラー教師がいるであろう会議室だ。
会議室には騎士団員側の代表ワイズ・チーフと魔法使い側の代表ヘリスラー教師。そして支援団全体を指揮する立場にいる貴族ガルナ・キール・ウォレストが常にいた。
皆が皆、ワイズとヘリスラー教師は壮年の男性であり、ガルナ氏は金髪の美形だ。会議をしているところを見れば、見た目はしっかりとしたものになっているだろう。内実がどうであるかは、クルトに伺い知ることはできないが。
この国に来てすぐに始まったリブクイン側の代表者との会議、支援団の行動方針についてがまだ続いているが、好都合なことにクルトが来た時は小休憩の時間帯だった。
クルトは会議室の扉前に立つ衛兵にヘリスラー教師を呼び出す様に頼み、すぐに許可が出た。
会議室から出てきたヘリスラー教師は呼び出したのがクルトだと知って、何か納得した様な表情を見せる。
「君か。先ほど、騎士団側から我々魔法大学が持ち込んだ人造馬を使わせてくれないかという打診があったが、その件かね?」
どうやら騎士団側はイリスの主張が通ったらしい。良いことなのであるが、一方でクルトが騎士団側と繋がりがあるかもしれないと、ヘリスラー教師にバレてしまったかもしれない。
「港から前線に向かうなら、現地で必要な物資をついで運べないかと思いまして、あの人造馬が役に立つんじゃないかと考えたんですけど。そうですか、騎士団側からもそういう意見が。人造馬について、騎士団側も知ってたんですかね?」
イリスとの繋がりについては正直に言わず、クルトはあくまで自分だけで考えた意見だと話す。
「騎士団、魔法大学共に、持ち込んだ荷物についての資料は交換してある。その中には人造馬についても含まれているが、それを騎士団側が逐一確認していたかと聞かれれば、どうだろうな」
「………」
ヘリスラー教師は疑いの眼差しをクルトへ向ける。だが、クルトはこの提案が通ると確信していた。
人造馬がヘリスラー教室の製作物であるというのも理由の一つであるが、もっと根本的な部分。ヘリスラー教師は、支援団を戦火から遠ざけようとするクルト達と似たような意見を持っていると考えていたからだ。
「まあいいだろう。持ち込んだ人造馬に何もさせずというのは無駄が多い。持ち込める物資は持ち込んで置くべきだろうな」
「それじゃあ僕の意見は」
「採用だ。騎士団側からの提案に賛成する形になるだろうからな。支援団全体としての指針の一つにはなるだろう。なるほど、物資の搬入か。危なく無さそうで良い仕事だな」
リブクインの兵士に聞かれれば怒鳴られそうな感想を述べるヘリスラー教師。ただ、クルトも同じ意見である。
戦火から遠い仕事を続ければ、支援団に被害を出さずに済むかもしれない。そんな淡い期待を抱いていた。
「………ただな」
「何ですか?」
「現在リブクイン側が、魔法使い達の火力を活かせないかと打診してきている。人造馬を動かすだけで魔法使いが仕事をしたと言えるのかどうかだな」
難しい顔をするヘリスラー教師。リブクイン側の要求をすべて飲んでしまえば、魔法使い達はその魔法を使って、人を殺める仕事に就くかもしれない。そういうことをヘリスラー教師は話している。
「実際、その要求は通りそうなんですか?」
「事前に議会から送った使節が調子の良いことを言ったらしい。勿論、こちらとしてはその通りのことをするつもりは無い。しかし、支援団は既にリブクインの土地を踏んでしまっている」
リブクイン側は、事前の約束があったからこそ領内に他国の戦力を持ち込ませたのだから、約束を反故にするなと言ってきているのだろう。
「じゃあ本当に魔法使い達はこの土地で戦うことになるんですか?」
「戦いならもう始まっているさ。どう戦うかの話し合いを今している最中でね」
「そんなのは詭弁に聞こえますよ」
「自分でもそう思うが、貴族のガルナ氏が魔法使いを戦力として使うことにある程度の理解を示している」
支援団の指揮をする貴族となれば、恐らく魔法大学の大学長派だろう。議会で魔法大学の参戦に同意した若手貴族のはずだ。ならば、魔法使いが戦力として使われることに異議を申し立てるはずがない。
「どうにもならないんですか?」
「だからなんとか譲歩を持ち込めないかと考えているが、どうにも怪しいな。少なくとも少人数の魔法使いは、前線に留まって戦うことになるかもしれん。誠意は流した血で見せろというのが会議の主題だった」
騎士団側ですら直接戦闘は止むを得ないという立場らしい。つまり、戦いを極力避けるという意見を持っているのはヘリスラー教師だけということか。
「もしそうなった場合は、戦う魔法使いはどう選ぶつもりで?」
「当然、個人の希望によるものだろうが、それで集まらなければ、強制になる」
そこまで話したところで小休憩が終わったらしい。ヘリスラー教師は会議室へ呼び戻された。
一人会議室前に残ったクルトは、重大な決断を迫られる。
(僕は、どうすれば良い? どう行動すれば、被害を最小に抑えられる?)
クルトが今考えていること。それは、自分が戦う魔法使いに志願するかどうかであった。




