魔法使いの参戦方(2)
「魔法大学がリブクイン国の戦争に参加することは、既に決定事項となっていると考えて良い。ただ、参戦によって貴重な魔法使い達の多くが失われてしまうという事態は避けたいのだ。そこで君も戦争に参加し、できる限り魔法使い達が前線から遠い場所に配置されるよう、小細工を弄して欲しい」
魔法研究の後援者であるヒレイ・マヨサにクルトがそう言われたのは、昨日のことであった。
ヒレイ・マヨサとスガル・マジクト。マジクト国の重鎮二人がどうしてクルトにそんな頼みをしてきたのかと言えば、この二人、政治上は近い立場にいたらしく、クルトが知る前から友人関係にあったそうだ。
そうして両者の共通点として、魔法使いとは縁遠い立場にいるというのがあり、両者の数少ない魔法使いのツテが偶然にもクルトで繋がったのである。
「そうだね。繋がりがあるのならそんな人間を使おうって思うよね。頼まれる側は面倒極まり無いけどさ」
魔法大学へ向かう道のり。今度は攫われずに済みそうな通学途中であるが、到底気分の良い状態とは言えなかった。
クルトは血生臭いことは嫌いである。しかし今後どの様な選択肢を選ぼうとも、大学が戦争に参加するのは決まっていることである。大学の生徒である限り、血生臭さはどうやったところで消えない。
そもそもクルトには選択肢自体が無いのだ。戦争に参加し、さらに参加しながらある意味で周囲の足を引っ張れという王族と貴族からの御達しである。断ればそれこそクルトの命は無いかもしれない。
「あああ………。そろそろ学園祭の季節になるって言うのに、僕はなんでこんなことに悩まなければいけないんだ」
季節は冬になり、大学の魔法使い達にとってもっとも重要なイベント。学園祭の準備を始めた矢先の出来事だった。
クルトは入学して一年目の学園祭は、見物しかしておらず、今度こそ自身の魔法研究を発表しようと意気込んでいたのだ。しかし、もうそんな気分では無くなる。
ヒレイ達の情報によれば、学園祭と並行して、戦争参加者の募集が始まるはずであるし、春になれば正式に魔法使い達はリブクインへと出陣する予定だそうだ。
「…………本当にヤバいな。これ程具体的な命の危険は他に無いぞ」
クルトは戦争というものを良く知らない。しかしそれが、参加者の命を容易く奪ってしまう物であることくらいは予想できた。
魔法使いだって同じだ。学生だなんだはマジクト国内部だけで通用するものであり、リブクインに赴き、異大陸からの敵と出会えば、誰だって平等に命の取り合いをしなければならない。
「命の奪い合いか………。今更怖くなってきた」
ヒレイ達の話を聞いていた段階では、どこか他人事の様な気がしていたが、どう考えてもクルトは当事者であった。なんとかしなければならない。そう強く考える様になったのである。
「戦争自体はもう起こってることだから止められない。なら魔法大学戦争に参加するのは? ああ、駄目だ。議会の決定を覆すことなんて無理も無理だよ。なら、ヒレイさん達が言っていた通り、参加しつつ、魔法使い達がどうにかして直接戦わない状況を作り出すしかないか………」
そのための支援なら幾らかしてくれるらしい。まあ、それに関しては心強くはある。後援者が力を持つ権力者だというのは中々に得難いことである。ただ、今からではいったい何を頼めば良いのかがわからない。
「とりあえず、魔法を使った戦闘訓練くらいはしておいた方が良いよね。学園祭での魔法研究は……今年もお預けかあ………」
状況が研究発表どころでは無くなった。いくら自分の将来に関わることだからと言っても、それは命あっての話だろうから。
学園祭が終わり、クルトが研究発表もせずにおかしな魔法訓練を続けていることを奇異の目で見られ始めた頃。ヒレイの予告通り、リブクインで戦争が起こっていることが国内で認知される様になり、大学内で戦争参加者の募集が始まった。
「おいおい聞いたか? 戦争参加希望者が、学内でもう10人を超えたらしいぞ?」
大学の入り口付近。掲示板が並ぶその場所で、クルトは戦争参加者募集のチラシを見るナイツの話を聞いていた。
「知ってるよ。なーんでみんなそんな危なっかしいことに参加したがるかなあ」
クルトは掲示板に張られたチラシを見る。大学外の食料品店が大安売りを始めたというチラシの横にある戦争参加者募集のチラシには、希望者は大学事務局で所定の書類を提出することと書かれていた。
まだクルトはその書類を提出していない。提出期限まではまだ期間があり、ギリギリまで参加を伸ばそうという考えだった。もしかしたら戦争自体がその間に終わるかもしれないという望み薄い希望に賭けていたのだ。
「そりゃあお前……正義感、とか?」
ナイツにも参加する者がどういう意図を持っているのかはわからない様子だった。だが、確かに正義感という理由は有り得た。
リブクインの戦争がマジクト国内でも知られる様になるのと同時に、同じ大陸の同胞を救えというスローガンがアシュルの街で流行り始めたのだ。
その流れは大学内でも同様であり、戦争参加希望者というのも、そういった物に被れた人間だろう。
(何人かは呼び水役かもしれないけどね………)
いくら正義感があったとしても、誰も参加しないものに応募しようとは思うまい。クルトがヒレイ達に呼ばれて参加を命じられたのと同様に、大学の戦争参加を画策した者に頼まれて、希望者となった人間だっているはずだ。
「まさかお前、これに参加したりはしないよな?」
「え? 僕? いや、どうしようかな」
言葉を濁すクルト。もしこのまま変化が無ければ、クルトは参加することになるだろう。しかし本音では参加なんてしたくも無いので、断言することが難しかった。
「僕のことより、そっちはどうなのさ」
このままではナイツに怪しまれるだろうから、逆に質問をしておくことで誤魔化す。
「俺か? 正直、少し迷っている」
「それってつまり、少しは戦争に参加する意思があるってこと? どうしてまた」
「リブクインはイーチ国の隣国だからな。このままずっとリブクインで戦争が続けば、戦火がイーチに飛び火するかもしれない」
ナイツはマジクト出身では無く、フォース大陸南方にあるイーチ国出身者だ。マジクト国ほどリブクインの状況を看過できないのだろう。
「良く考えた方が良いよ? そうやって心配できるのも、生きてるからこそなんだからさ」
暗にナイツの参加を止めるクルト。自分の命が無くなる次くらいには、友人が死んでしまうということを恐れていたからだ。
「………そうだな。まだ期限はある」
ナイツは募集のチラシを見ながら返答してきた。嫌な予感がするクルト。どうにも、この友人は戦争参加への意思に強く傾いている様な気がしたから。
「けど、さすがにルーナさんはあんな募集チラシに釣られたりしないよね?」
「当然ですよー。戦争なんて危ないこと、ぜーったいにいやですからねー」
覚えた不安をなんとか緩和しようとして訪れた生徒組合宿舎。戦争とは一番縁遠い場所にいるかもしれないこの先輩に会って、とりあえずまったく建設的でない安心を得ようとして、それにクルトは成功した。
「良かったよ。なんだか、周りが戦争参加を希望し始めた様な気がしてたからさ。そうやって断言してくれるとホッとする」
少なくともルーナは戦争に参加しない。そう知ったことで、どうしてだかクルトの心は落ち着いた。
「希望者が増えているのは事実ですからねー。生徒の人達って、魔法を直接使う機会があまりないじゃないですかー、それを試すと言えば良いのか、危ない魔法を使えることを期待して、戦争に参加しようと考える人もいたりしてますねー」
不謹慎な考えだろうが、即物的な考えもであるので、確かにそういう人種はいるだろう。となると、戦争への参加者はクルトの予想より多くなるかもしれない。
「ヘリスラー教室の生徒なんか、一番そういう選択を選びそうな気がするね」
魔法を戦う力に活かそうと研究する教室だ。大学内ではもっとも戦争参加に近い場所にいるだろう。
「ヘリスラー教室もそうですけどー。クルトくんはどうなんですかー?」
「ぼ、僕? いや、どうかなあ」
やはり言葉を濁すクルト。はっきりと参加すると言えない気分が続いている。
「隠したって駄目ですよー。とっくに参加を決めてるのはお見通しなんですからねー」
「本当に!?」
思わぬ一言に驚くクルト。ルーナはそんなに人を見る目があったのだろうか。
「学園祭で研究発表をしないって言い始めてから、なんだかおかしいとは感じてましたー。魔法研究でなく、別の魔法を訓練して始めたというのもありましたしー、そうこうしているうちに大学が戦争への参加者を募集すると言い始めて、ああ、こういうことかとー」
ずっと前から怪しいと思われていたらしい。確かに客観的に見れば、クルトの行動はおかしいものだっただろう。
接点が多い彼女だ。気付かない方がおかしかったのかもしれない。
「その通りだよ。僕はリブクインへ向かうことになる。危ないことは嫌なんだけどね………」
「クルトくん本人の意思じゃあないってことですねー。じゃあ、止めたって無理なわけですかー」
クルトが戦争参加を望んでいない事をすぐに察知して、その裏にある事情をなんとなくだがルーナは理解したらしい。
「うん。参加せずにいられるなら、僕本人が率先してそうしたいんだけどさ」
だがそれも無理な話だ。クルトの戦争参加は、ずっと以前に決まっていたのだと言える。今まで先回しにしていたことであるが、ルーナに指摘されて、クルトは覚悟を決めることにした。
「明日にでも、参加希望の意向を大学事務局に伝えて来るよ。多分、すぐに受理されると思う」
大学側は参加者が多い程良いだろうし、クルトの後援者達も裏で根回しをしているはずだ。
「………危険ですよー? 本当に良いんですかー?」
止めるのは無理だと分かっているだろうに、そんなことを聞いて来るルーナ。彼女なりに、クルトを心配しているのだろう。
「あはは。なんとか死なない様に頑張ってみるよ」
そんな返答しかできずにいるクルト。実際、何が起こるのかわからないのが戦争というものだろう。
「わかりましたー………。まだ、マジクト国を出発するまでに期間はあるでしょうから、わたし、クルトくんの訓練を手伝います。出来る限り死なない様に、ですよねー」
「うん。ありがとう」
ルーナは良くクルトの魔法訓練に付き合ってくれる。今回のそれも同じことだろうが、そんな気遣いがどうしてだかとても嬉しかった。
クルトが戦争参加を大学事務局へ伝えてからさらに月日が経つ。参加者が増えてからは、大学側が戦争の準備を参加者へ指示する様になった。
例えば魔法の研究時間を削り、実戦向けの魔法を訓練する時間を必ず設ける様になる。戦争に役立つ魔法というのもまだまだ手さぐりの状態であるが、火や雷を人に当てたり、周囲を大きく破壊する様な魔法ばかりを練習していた。
さらに春が近づく頃になると、王立騎士団員がその訓練に参加する様にもなった。王立騎士団員の一部も、魔法大学の生徒達がリブクインへ向かうのに合せて、アシュルからリブクインへ出兵する予定になったそうだ。
クルトは空気が変わって行くのを肌で感じていた。訓練を続ける内に、周囲の参加者は戦争について深く考えない様になっていった。訓練によって培った経験を活かす。そのために行動する何かへと変化していく。
(魔法使いから兵士になる過程みたいだよね)
出発予定日からもう数日と言った頃。他の参加者と同じく、大学の魔法訓練場にて、戦闘用の魔法訓練を続けるクルトは、ふとそんなことを思う様になった。
「今更なんだが、お前がこの訓練に参加していることが酷く驚きだ」
訓練の手を止めていたクルトに話し掛ける人間が一人いた。友人のナイツだ。結局、彼も戦争参加者となっていた。
「こっちはそれ程でも無いかな。なんだかんだで、ナイツがリブクインへ向かうつもりなんじゃあないかって思ってたよ」
「……実は今でも迷っているんだが、本当に今更だなあ」
大学内ではもう参加者は抜けることができない状態にまでなっている。リブクインで戦争に参加した場合、それぞれがどの様な役割を担うかが既に決まっているからだ。
クルトは周囲の状況を監視する斥候役を任されているし、ナイツなどはもっと直接的な戦闘をする予定だと言う
「本当に敵が目の前に現れた時、俺はどうすることができるんだろうな」
「そんなの……ここにいる魔法使い達には答えられないと思うよ」
誰だって戦争を経験したことなんてない。王立騎士団員であるならば、戦闘行動というのに慣れているのかもしれないが、彼らは魔法使いでは無く、魔法使いの悩みに答えられはしないだろう。
「こうやって何度も訓練を繰り返しているのに、まだ実感が湧かない。お前はどうだ?」
「僕もだね。知らない同級生や先輩後輩から、リブクインでは頑張ってくれなんて言われる時があるから、そういう時は出来る限り頑張るって答えているけどさ」
命を張るというのはそれだけ英雄視される行動だということか。学内の戦争参加者は、単純な憧れを向けられる対象になっていた。ただ、ちっとも嬉しくないのは、そんなことで認められたくないという本音があるからだろう。
「訓練で魔法が上手くなっても、ぜんぜん楽しくないんだよね。こんなこと初めてだ」
練習を続ければなんだって上手くなる。そして自分の成長を嬉しく思うものだが、物や命を破壊する方法が上手くなっても、自分の魔法研究とはなんの関係も無いと考えてしまう。
「もうさ、さっさとリブクインに行って、何もかもを全部早く終わらせたい気分」
戦争参加は嫌だというのに、最近はそんなことばかり考えている自分がいた。実際始めて見れば、そんな簡単なことにはならないだろうというのは分かるのであるが。
「そうだよな。もうすぐだしな」
ナイツはそんな言葉を呟く。確かにもうすぐだ。すでにリブクインへの出発準備はできている。あとは、期日がくるのを待つだけである。
船が大陸に沿いながら進む。盛大なセレモニーと共にアシュルから送り出されたクルト達魔法使いと王立騎士団員であるが、全員が一隻の船に乗り込める程度の数でしかない。
リブクインへと進む道は海路だった。マジクト国がもっとも技術と実践力を持つのが海軍であるし、大人数を動かすのはやはり船の方が優れている。
「この潮風って、なんとなく嫌な気分になるんだよなあ。船での移動って、どうしてだか嫌な思い出が多い気がする」
甲板から海を眺めながら、クルトは一人呟く。
大型の軍艦はまだ積載に余裕があり、乗り心地はそんなに悪く無い。しかしその目的地が望まぬ場所ということもあってか、良い気分とは言えない。
「そんなことを言えるくらいに、船旅には慣れているのかね?」
後ろから声を掛けられた。驚きはしない。ここ最近は、驚くよりいったい誰が話し掛けて来たのかを判断するという訓練も受けていた。
ではいったい誰だろうか。聞き覚えのある声なのですぐに気が付いた。ヘリスラー教師だ。
「どうでしょうね。数少ない経験だから、体験したできごとが偏っているのかもしれません」
クルトはヘリスラー教師へと振り返る。彼はリブクインへ向かう魔法使い達の中で唯一の教師だった。
必然的に彼を中心にして魔法使い達は行動することになるだろう。
「それはいけない。長く生き、様々な経験を積むことこそが若い者の役目だ」
「今から戦地へ向かう人間への言葉には聞こえませんが」
「必ず死ぬわけではあるまい? 上手くやれば、全員生き残る可能性だって少なくは無い」
「じゃあどうしてヘリスラー教室の生徒は参加しなかったんですか?」
参加者が多いと予想していたヘリスラー教室であるが、ヘリスラー教師以外の参加者は存在しなかった。
戦争に関わる魔法を研究しているというのに、その状況はかなりおかしい。何か裏があるのだ。そしてそれについて、クルトは大凡予想できていた。
「貴族共が画策した計画の、貧乏くじを引いてやったんだ。生徒を戦争に参加させない見返りくらいは要求したさ」
自嘲する様な顔をするヘリスラー教師。彼が話しているのは、以前に彼の教室が計画したことになっている人造馬を利用した街道活性化計画のことだろう。
街道活性化計画の裏では、ヘリスラー教室の開発した人造馬の実働実験が行われていたわけだが、その過程で人造馬が欠陥品だと認知され、ヘリスラー教室の名声はかなり落ちてしまった。
勿論、当初からそうなることは織り込み済みであろうし、その対価がヘリスラー教室の生徒を戦争に参加させないことだとすれば、十分な物だとこの教師は考えているのかもしれない。
「それを聞くと、大学長を含む貴族達が、大学の生徒をリブクインへ出兵させるっていうのは、ずっと前から決まっていたことに思えますね。生徒に戦争なんてさせないって言う考えは素晴らしい物だと思いますけど………」
クルトの評価では、ヘリスラー教師は善人である。自分の教え子を戦争に参加させないという姿勢は尊敬すらできる。恐らく生徒の中には戦争参加を希望する者がいただろうし、それを止め、代わりに自分が戦地へ赴くというのは、生半可な意思でできることではない。
しかし、クルトにとっては関係の無い話だ。自分の立場から見れば、ヘリスラー教師も、裏でマジクト国の戦争参加を企んでいた一員でしかないのだ。
「そうだな。ずっと以前から大学長が中心となって計画していた物だ。当初は戦争参加云々の話ではなく、大学が独自の戦力を持てば、それを背景に権力を拡大できるのではないかという程度の物だったがね」
魔法を使った兵器と魔法使いの兵士。名目だけの存在だとしても、そういう存在がいると知れれば、何かしらの手が王家から入るはずだ。その様な研究の廃止か、それとも王家からの監視が入るか。そういう変化の代価として、大学長はそれなりの権益を得られる。
(まあ、そういう狡い考えから始まった物なんだろうけど………リブクインで始まった戦争に対して、それがまたと無い好機になったってところか)
あくまで見せ札として作ろうとしていた魔法大学の戦力が、実際に役立つ機会がやってきた。
あの功利的な大学長のことだ。見逃すはずもない。
「大学長は賭けに出ている。何がしかの成果を我々が出せば、それを画策した大学長の評価は上がる。貴族の中での立ち位置で言えば、誰もが無視できぬ存在になるだろうな。なにせ、既に議会の半数を丸め込んで、私達をこの船に乗せているのだから」
どの様な手を使ったのか。ヒレイやスガルと言った者達の意思に反した決定をさせたのだ。確かにその手腕は驚かされる。だが彼は貴族の中ではまだ若手だろう。それだけの決定を議会にさせて、今回の出兵で何も結果を残せなければ、政治生命なんてものは小指の先程にも残らぬだろう。
「大学長の蒼白な顔なら正直見てみたいですけど、大学長がそういう表情をするのはどういう時かを想像すれば、ちょっと考え物ですね」
大学長の計画の失敗は、すなわちクルトたち魔法使いがリブクインの地で全滅することだろう。魔法使い達が生き残り、再びアシュルの街に帰りさえすれば、成果を残せたと喧伝できるのだから。
「気に入らない相手が望むことこそ、自分にとっても望ましいことっていうのが、どうにも気に食わない話です」
「まあ、世の中そんなものだとしか言えんな。しがらみと言う奴だ。抜け出す術なんて中々無い。我々にできることと言えば、あの地で死なぬ様にすることくらいだろうさ」
ヘリスラー教師は船から見える大陸を見た後、話は終わったとばかりに去って行った。
クルト達が乗船する軍艦から、目的地の港が見えていた。リブクイン国の入口に位置する港。前線となっている地からはまだ遠い場所であるが、だからと言って戦地ではないということではないだろう。
「他の魔法使いは生き残ることが第一ってのが目的か。僕もそうじゃないわけでもないんだけど………」
クルトがこの出兵に参加したのは、魔法使い達を出来る限り前線から遠ざけ、マジクト国の人死にを少なくすることだ。そんなことが可能だろうか? 今更ながら、クルトは不安を感じ始めていた。




