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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの参戦方
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魔法使いの参戦方(1)

 世の中が不公平であることをクルトは知っている。恐らく、他の誰だって知っていることだろう。生まれや立場、幸運不運に至るまで、平等なことなど一つも無い。

 だから自分の不幸を誰かのせいにするのは間違っているし、意味の無いことだ。そういう不公平な運命の元に自分が生きているのだから、仕様が無いのである。恨み節を向ける相手がいるとすれば、神様みたいにこの世界を作った者くらいだろうが、言ったところで向こうもだったらどうすれば良いんだと答えを返してくるかもしれない。

 何故なら、朝起きて大学に向かう道中で、攫われ、縛られ、どことも知れぬ部屋に監禁される不運など、神様だってどうしようも無いことだろうから。

「よう、魔法使いさん。気分はどうだい?」

 くっちゃくっちゃと何かを噛む男が、クルトに尋ねてくる。現在クルトは、窓も無く家具も無く、扉が一つだけの部屋に監禁されている。手足を縛るのは縄でなく金属の鎖だ。恐らく自分が魔法使いだからだろう。縄程度なら魔法で焼切れるのである。

 手足が縛られていると言うことは、自分で満足に立てぬということで、部屋の床に転がされている状況だ。

「この状況で気分が良いなんて言える人間がいたら、きっと特殊な趣味の持ち主なんだと思うんだ」

 転ぶクルトは、立ったままの男を見上げながら答える。

「はっはあ! 魔法使いさんは特殊な趣味の持ち主ってわけかい。さすが変人だ」

 どうやらクルトの皮肉を理解して貰えなかったらしい。魔法使いに変人が多いというのは否定しないが。

「………いったい何が目的なのさ。言っとくけど、僕はそれ程世の中にとって重要な立場の人間じゃあ無いよ」

 自分が何者か達に攫われて、その何者かの一人がこの男であることはクルトも理解している。

 ただ、どうして自分の様な人間が攫われたのかと言うことだけは未だ理解できないでいた。

「身代金を払えなんて言ったって、払って貰うアテは無いってことかい? おかしいなあ、確か魔法使いさんは貴族だろうに」

「な、なんでそれを」

 クルトは養子という形であるが、姓を持った貴族の一員である。実家と呼べるのかはわからないが、故郷に帰れば義父はそこの領主をしているし、家の跡継ぎは義理の兄であり、尚且つクルトの姉を娶っている。

「攫う相手の下調べなんて当たり前のことだろう? 普段の生活からそいつの過去に至るまで。調べ尽くすことがこの業界の常識さ」

 人攫いの業界があることが驚きである、しかし、そこの常識なんて知った事では無い。問題は相手がこちらのことを良く知っており、さらに何かを企んでいるということだ。

「けどまあ、身代金が目的じゃあないから安心しな。目的は金じゃあなく、魔法使いさん自身だ」

 まったく安心できない言葉だ。いったいクルトの何が目的なのか。魔法使いとしての力か。それともクルトが知る情報か。もしかしたら命かもしれない。だがそのどれもが社会的にそれ程価値のあるものだと思えなかった。

「一応聞いておきたんだけど、まさか僕を殺すってことは無いよね?」

「状況によるなあ。魔法使いさんが協力的にしてくれるのなら、とりあえずの命は保障するぜ? だ・け・ど」

 男は腰の後ろに下げた大型のナイフを取り出し、クルトの首元にその刃を触れさせる。

「駄々っ子が過ぎればバッサリいっちゃうかもねえ。さあ、どうする?」

「できることなら協力してあげたいって気分にはなったよ………」

 首筋の冷たさが血の熱さに変わらぬうちに、穏便な返答をするクルト。相手の目的がなんであろうと、強気に出られる状況ではない。

「うーん。素直なのは大好きだぜ。じゃあまだこのナイフはお預けってことにしてやる。さて、そろそろお楽しみ、頼みごとの時間だ」

 首筋からナイフが離れた。漸く攫われた理由がわかるらしい。

「質問が幾つかある。それに嘘を吐かず正直に答えて貰おうか」

 ふざけた雰囲気の男だったが、急に真面目な表情になった。そのせいで周囲の空気まで変わったかの様な錯覚に陥る。

「まず一つ目。お前は魔法大学についてどう思う?」

「は? どうって、いきなりそんなことを聞かれても」

 質問の意図が読めずに困惑するクルト。しかしそんなクルトの感情をまったく考慮せず、男はこちらにナイフを向けて来る。

「いいから答えろ。俺の質問に、素直な感情で答えるんだ」

 さらにクルトの顔にナイフを近づける男。質問の回答以外のことを話せば、そのままナイフがどんどん近づいて来ることになるのだろうか。

「………僕が生徒として通う場所です」

「他には?」

「魔法技能を学ぶ場所ですから、通っていて損は無いでしょうね。将来の職にも困らないし………」

「貴族なのに将来の心配をするのか?」

 意外そうな顔をする男。して悪いことでもあるまい。

「僕の立場を調べているのなら、知っているでしょう? 僕は貴族と言っても、養子です。実家には正式な後継者であるところの義兄がいますし、ずっと実家に住むわけには行かない」

 だから魔法使いになるという選択肢を選んだのだ。

「ふうん。貴族の次男坊なんかはそういうのも多いとは聞くが。お前もその類か」

「そうかもしれませんね」

「………」

 少し沈黙が続く。クルトは質問されなければ話す言葉など無いし、男は次の質問について考えている様子だった。

「次の質問だ。王家についてどう思う?」

「王家? この国を治める一族ですけど」

 大学の次には王家について聞いて来る。いったい何が目的なのだろう。

「好きか? 嫌いか?」

「好きでも嫌いでもありません。だって一族なんですから沢山いるでしょう? 個人を上げてくれるのなら好き嫌いも言えるかもしれませんけど。そもそもその個人についても良くしりません」

 別に隠す様なことでも無いので、自分の心情について正直に答える。それよりも、相手の狙いについてクルトは頭を働かせていた。

(人を攫って凶器を突き付けてきているわりには、その労力に見合わない質問ばかりするよね。まあ、苦労に見合った情報を僕が知っているのか自体も怪しいけれど)

 攫う相手を間違えているのではないかとクルトは考えるが、自分を攫う時の相手の手際は非常に良かったため、その可能性は少ないだろう。

「つまり、王家に対して特別な感情を抱いていないんだな?」

「一般国民と同じ程度ですよ」

「なら次は貴族だ。どう思う?」

 王家の次は貴族である。順当と言えば順当であるが、そもそも何の順番であるかはわからない。

「一応、僕自身もその一員です。王家と同じく、この国を治めている存在でしょうね」

「王家と貴族の立場が被っているな。それについてはどう思う」

「そうですね。マジクト国内の問題かもしれませんね。貴族はそのまま小さな王家みたいな役割になってる。貴族が力を十分に持てば、そのまま国家転覆を狙える様になるわけですから」

 一応、マジクト国の統治者は王家であるが、それは貴族の中で一番強い力を持っているという意味合いが強い。貴族はその統治領の中で絶対的な権力を持ち、王家に支配を受け付けない部分すらある。

 権力が分散して危ういのだ。王家の支配が突然終わる可能性が、他の国よりも高いと言える。

「それを安定化するとして、過程を考えなければどういう方法がある?」

 意味の分からぬ質問が続く。そしてだからこそ、クルトはだんだんと相手の意図を理解し始めていた。

(僕に質問をして何かを聞き出したいんじゃなくて、僕に質問すること自体が目的なんだ。質問に目的があるんじゃなく、僕が答えた物の傾向を探っている)

 それが意味するところは、クルトがどういう人間かどうかを相手は知ろうとしているということ。

 ならばクルトはどう行動すれば良いのか。簡単だ。相手の興味を引く答えを口にすれば良い。そうすれば、この状況で交渉の余地が生まれる。

「国の安定化のために必要なのは、王家の立ち位置を確固たるものにすること。それには貴族に与え、奪う必要があります」

「ほう。何を与えて奪うんだ?」

 相手がクルトの言葉に乗って来た。良い傾向だ。

「与えるのは領地を支配する権限です。マジクト国にとって貴族は必要な存在で、どういう風に必要かと言えば、王家の統治が行き届かない場所をマジクト国の領地として管理するために必要なんです。だからその権限を強めれば、それはマジクト国の安定化に繋がる」

「なら奪うのは何をだ」

「奪うのは領地支配以外の権限です。国の統治には支配以外に国民意思の受け入れ、商人達の管理、他国との外交などなど、様々な力が必要になります。それらをすべて王家が用いる。貴族には領地の支配だけをさせる様にする。そうすれば、互いに互いが必要になり、尚且つ王家の力が強くなる。国家としては安泰ですね」

 これはなにもクルトオリジナルの考えで無く、現在、マジクト国内に起こっている権力闘争を、クルトなりに見てからの感想だった。

 つまり、マジクト王家は先にクルトが述べた通りのことを現在進行形で行っており、自らの地位を安定、拡大化しようとしているのだ。

「………なるほど。面白い。そこそこに頭が回って、尚且つ周囲に対する見方に余計な偏りが無い。なにより大学所属の魔法使いだ。彼は確かに使える人材かもしれません!」

 突然、男が叫ぶ。部屋には男しかいないはずだ。だとすると、部屋の扉の向こう側に誰かいるのか。

 そんなクルトの予想通り部屋の扉が開き、人が二人入って来た。

「え!?」

 クルトはその人影を見て驚きの声を上げる。見知った人間だったからだ。そんな人間が、攫われた先に現れたのが驚きであるし、それ以上に関係の無い立場であると思っていた二人が、顔見知りだとでも言う様に同時に部屋に入って来たのに驚いた。

「スガル様とヒレイさん!? どうしてこんなところに! って言うか、もしかして僕を攫ったのはあなた達だったんですか!?」

 部屋に現れたのは、スガル・マジクトとヒレイ・マヨサ。王位継承権第一位の男と、マジクト国の中でも一、二を争う権力を持つ貴族。クルトが知る地位の高い人間の中で、一位と二位の人間だった。

「ま、まあそう言うことだ。いや、まさか攫ってくるとは思ってなかったんだが………」

 スガルが申し訳なさそうに話す。王族にこの様な表情をさせるというのは貴重な体験だが、どうであろうと相手はクルトを攫った張本人であるため、罪悪感も無ければ嬉しくも無い。

 次にクルトはヒレイを睨む。スガルとヒレイ。この二人が黒幕だろうから、今度はヒレイの謝罪を聞きたかった。

「うん? 私か? いや、私は謝らんぞ。いちいちこんな遠回しなことをする必要は無いと事前に話していた側だからな」

 最終的に止めなかったのなら同罪だとクルトは考える。ただ、それ以上に気になることは、どうしてこの様なことをしたのかと言う理由だ。

「なんでわざわざ僕を攫ったんですか。もしかしなくても、ここ、王城内だったりするんでしょう? いちいち人を攫って王城にまで運ぶなんて、そんなことしなくても、呼び出せば一発でしょうに」

 スガルとヒレイ両者共、人一人を街中で攫うより、命令して呼び出す方が容易く行える立場のはずだ。

「攫ったのは私の独断です。あなたの思想信条を良く知りたいというスガル様のご命令でしたので」

 答えたのは、クルトを攫った男だった。先ほどまでのふざけた態度から打って変わって、佇まいを正している。くちゃくちゃと動かしていた口も止まっていた。

「思想心情? なんでまた僕なんかの……っていうか、それを知るために誘拐するってどういうこと!?」

 街中で行われるアンケート程度のことでクルトは攫われたとでも言うのだろうか。きっとそう言うのだろう。

「スガル様はあなたの本心に近い考えを知りたい様子でした。ですので、それができる状況を作ったまでです。いかがでしたか?」

 気分は最悪であると答えたい。しかしそう言ったところで眉一つ動かすことは無い相手だろう。スガルの命令を聞いて行動したということは、王族直属の騎士か私兵だ。

「やり過ぎだとは思ったんだがなあ。しかしことがことだ。お前が万が一我々の敵だったとしたら、我々の立場が危うくなる」

 スガルは頭を掻きながら話すものの、部下である男を責めることは無かった。

「我々って、誰と誰のことですか?」

「俺と、このヒレイ老のことだよ」

 スガルは自分を指差し、次に指をヒレイに向ける。

「そもそも、なんでスガル様と一緒にヒレイさんまで。いや、もう話す気があるなら最初から話してくださいよ。状況がさっぱりです」

 ヒレイを見て頼み込むクルト。この場にいる人間の中で、一番話が通じそうな相手だからだ。

「そういう話が早い点は好ましいよ。突然、怒りを周囲に当たり散らしたっておかしくない状況だからな。ふむ。まず、この国の現状についてはどれくらい知っている?」

 ヒレイはクルトに尋ねてくる。また質問の時間だろうか。

「現状っていうのも色々あるでしょう? 領土統治についてはぼちぼち。可も無く不可も無く。ここ最近は大きな事件も無いから、民衆の支持だって盤石です。経済に関しては低迷しがちでしたけど、国内業者の踏ん張りでなんとか持ってます。外交については………」

 そこでクルトは言い淀む。外交に関しては、少し不安材料があるのを思い出したからだ。マジクト国と言うより、フォース大陸全体のことかもしれないが。

「リブクイン国で戦争が起こっている。その程度のことは知っている様だな」

 クルトが考えたことを読んだかの様にヒレイが話す。

「噂程度ですよ。噂。リブクインとの交易が上手く行ってないのと合わさって、信憑性のある噂ではありますけど」

 戦争云々の話は好きでは無い。話し相手が権力者である場合は特に。

「れっきとした事実なんだよなあ。だから困ってる」

 答えたのはスガルさった。どうして困っているという言葉の後にクルトの目を見るのだろう。それではまるで、クルトが解決者の様に見えるが。

「リブクインでは本当に戦争が起こっているんですか? いったいどこと」

 以前から予想していたことであるが、確固たる情報は無かった。だが、王家と貴族両方の権力者に言われては、信じざるを得ない。

「フォース大陸のある四つの国のうち、直接戦争をしているのはリブクインだけと言えば、どこかくらいはわかるだろう」

 謎かけの様な言葉を発するヒレイ。クルトはその謎の答えがすぐにわかった。ただ、その答えが実に嘘くさい物であったので戸惑う。

「………まさかとは思いますけど、フォース大陸以外のところから来た侵略者……なんて言いませんよね?」

「そのまさかだよ。なあ? 困った話だろう?」

 困ったという割には、スガルが笑顔でこちらを見てくる。

「大変じゃないですか。フォース大陸全体の危機ですよ」

 フォース大陸に存在する四つの国は、特別仲の良い関係では無いが、一方で致命的な程に敵対しているわけでも無い。

 長らくこの四つで安定していたためか、政治、経済での結び付きが強すぎるのだ。悪い事が重なり戦争状態になったとしても、最終的には妥協点を見つけて抑えることができる関係だろう。

 だが、もし敵が異大陸の国家だとすれば、それによって起こる戦争は侵略的側面が強い戦争だろうし、その先にあるのはどちらかの殲滅だ。

「どの国もそう考えて、リブクインに特使を送った。そして分かったのは、今回の戦争はリブクインの失態が大きな原因になっているということだった」

 真剣な顔をして話すヒレイ。まあ、この老人が話す時の大半はそんな表情である。

「失態の理由が幾つかあって説明は省く。ただ、リブクイン側に戦争を仕掛けられる隙が大きかったということであり、その隙を突いた様な戦争であるから、敵国の戦力はそれ程では無かったそうだ」

「つまり、戦争は起こったけど、他国が慌てる様な状況じゃあ無かったと?」

 助けに向かわないのかとは言わない。そんな善意の考えがまかり通る世界では無いはずだ。

「リブクイン側には勝って欲しいがね。今更フォース大陸に異民族が棲みつくなんぞ、考えたくも無いことだ。ただ、どの国の対応も共通だったよ。助けられる限界まで待って、リブクインの力を削ごうという奴だ。実に模範的だろう?」

 ヒレイにそう尋ねられるものの、いったい何を規範にした模範であるのかがわからないクルトは答えられなかった。

「余所の国が失態をすれば足を掬うというのが、俺達の間じゃあ常識なのさ。覚えておいて損は無いぞ」

 スガルの言葉には御免こうむると答えたいクルト。しかし、最近はそういう権力者を相手にすることが増えているため、確かに覚えておいて損が無いのかもしれない。

「関わり合いに成りたくない話ですけど、そういう動きがあるっていうのはわかりました。で、なんでそれが僕を攫ったことに繋がるんです?」

 余所の国で戦争が起こって、マジクト国はその状況について色々と策謀を張り巡らせている。それだけだ。なぜ魔法大学の一生徒であるクルトが関係しているのか。

「さっきも言った通り、各国の状況を見れば、今は様子見の時機だ。だというのに、現段階から積極的にリブクインの戦争へ参加しようとするやからが現れた。その内の一人に、お前の良く知っている人間がいる」

 その人間を忌々しく感じているのだろう。ヒレイは眉間に少しだけだが皺を寄せた。

「僕の? 残念ながら権力者の知り合いはそれ程多く無いんですが」

 今目の前にいる二人を除けばであるが。まさか義父のことだろうか? いや、国家の一大事に影響を与える程の力は無いとは思う。

「大学長の名前くらい知っているだろう。ファイム・プリューニ。ああいう手広く権限を持つ若手貴族達が集まって、早急な参戦を議会に提案し始めた」

 なるほど。確かにクルトが良く知っている人物だ。魔法大学生徒なら殆どが知っているとも言える。

「なんでまたうちの大学長がそんなことを………。いえ、いろいろと悪巧みをする人物であることは知ってますけど」

 以前、大学長との一件で痛い目にあったクルトは、魔法大学の生徒だと言うのに、ファイムに対して良い印象を持っていない。

「おいおい。まるで悪巧みをしない貴族がいるみたいな言い方だな。多かれ少なかれ、自分の利益のために動くのが貴族じゃないか」

 スガルが笑いながら話す。日頃から貴族に対して恨みでも持っているのだろうか。そうだとしても、隣に貴族の代表みたいな人間がいる場所で口にする発言では無い。

 すこしスガルを睨むヒレイであったが、気を取り直してクルトに説明を続ける。

「………どうせ、我が国の権力関係を崩す良い機会だと思っているのだろうさ。誰がどれだけ力を持っているかというのは、実際に力を使った方が分かりやすいからな。自身の力を証明して、参戦しなかった貴族達は腰抜けだと喧伝する予定だろうな。まったく………」

 ため息に怒りを混じらせるヒレイ。このままで居れば、腰抜けだと言われるのが自分自身であろうと予見しているのかもしれない。

「それは大変ですねえ。でもやっぱり僕には何の関係も無いですよ」

「ファイム・プリューニが魔法大学の生徒を出兵させる予定だとしてもか」

「はあ!?」

 スガルの一言に驚くクルト。まったく予想外の一言だ。何故学生が戦争に参加しなければならないのか。

「魔法は戦争においても重要な戦力に成り得る。そんな言葉をお前さんところの大学長は議会で言い放ったんだ。もっと驚きなのが、それに賛同する奴らが大勢いたことだろうな。近々、正式に議案が提出され、議決される見通しだ」

「と、止められないんですか? いやですよ僕は、戦争なんて」

「止められているのならそうしていたが、もう無理だろうな。王族としては強権を用いてでもって気分だったんだが………まだ正式に王じゃないからなあ」

 マジクト国内ではもうほぼスガルが次期王になると目されている。しかし、まだ王では無いため、その立ち位置は中途半端であった。

「スガル様の気持ちは良くわかりますな。私なんぞはファイムが参戦発言をした時点で、賛同する議員が過半数を超えていると知って、すぐに日和見を決めた立場ですから」

 つまり今後、大学の生徒が戦争に参加することを、スガルとヒレイは止める気が無いということだ。

 どれだけ強大な力を持っていても、周囲の空気というやつはもっと脅威であるのだろうか。

「そ、そうだ。僕を攫ってまで呼び出したってことは、もしかして僕を使って大学内部から戦争を止めようって考えだったりするんでしょう?」

 わずかな希望をなんとか繋ごうとするクルト。しかし、次のヒレイの言葉でその希望は砕かれた。

「逆だ。魔法大学内部でも、そろそろ戦争に参加する生徒の募集があるはずだから、君はそれに応募してくれ」

「な………」

 絶句するクルト。ヒレイの頼みは命令に近いものであり、それはクルトが必ず戦争に参加しなければならないという決定であった。


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