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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの盛り上げ方
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魔法使いの盛り上げ方(6)

 日が落ちて夜が来る頃。魔法大学生徒組合宿舎には、8人の魔法使いが集まっていた。その中心にいるのはクルトである。この人員を集める様に画策した張本人でもあった。その横には左右それぞれにルーナとナイツが立っている。残りの5人は、その周囲でクルト達3人を見ていた。

「みんな、本当にありがとう。良く集まってくれたと思う」

 クルトは口を開いてから、集まった5人を順に見る。

 心細げにあちこちを見ているのはアンナ。ルーナの妹であり、ナイツと同じヘックス教室の生徒だ。クルト、ルーナ、ナイツ3人共通で親しい間柄であるので、力を貸して欲しいという頼みをすぐに聞いてくれた。集まった中では一番の年少であるが、これでも実技の力を認められて大学に入った逸材である。

 そこから視線を移すと、3人の魔法使いがまとまって立っている。それぞれカーリー、アーシャ、リキルという名前の生徒だ。3人は以前開いた研究会のメンバーであり、その時からそれなりの友人関係を続けている。今回集まってくれたのは、クルトが何かを企んでいると聞き興味本位でという理由を大きい様だ。

 そして最後にシーリア。彼女はクルトが考える策に、もっとも必要な人材となる。

「それでさあ、結局、今度はどんなことを考えているわけ? わたし達はまだ、これからどういうことをするのか聞いてないんだけど」

 集まった魔法使い達の中では、一番気が強いだろうカーリーが手を上げて質問する。彼女が参加するからと、隣のアーシャもクルト達の勧誘に応じてくれたため、質問を無下に扱うわけにはいかない。どのみち説明するつもりでいた。

「ヘリスラー教室のアシュル街道活性化計画に関わる物だっていうのは、事前にみんな知ってくれてると思う」

「あれには参ったなあ。もうちょっと何がしか得る物があると思ったんだが、まったくの徒労さ」

 困ったと言う風に首を振るリキル。彼も計画に参加した魔法使いだ。クルトと同じく御者役をしていたらしいが、道中で人造馬があらぬ方向に進むという形で故障したため、大変な目にあったそうだ。

「その通り。噂で聞いている人もいるだろうけど、ヘリスラー教室の計画は大失敗。大学一の在籍数を誇るあの教室の評判も、今回の件でガタ落ちしただろうね」

「………大学内の力関係が変わるということでしょうか?」

 まだ大学に入って半年程のアンナは、大学内の人間関係や権力構造はあまりわからないらしい。

「そうですねー。ヘリスラー教室に所属すれば、将来の職には困らないなんて評判は無くなるかもしれないわねー」

 妹に優しく説明するルーナ。ただヘリスラー教室の立ち位置が大きく変わるのかと言えば、そうとは思えないクルト。今回の計画失敗は、ヘリスラー教室にとって痛手ではあるだろうが、失敗そのものも織り込み済みの計画だろうから、今後、教室の地位を回復させる様な企みでもある可能性が高い。

 ただしここではそれを口にせず、計画は失敗して、ヘリスラー教室の評判が落ちたという前提で話す。

「まあヘリスラー教室の評判が落ちようとなんだろうと、この中にヘリスラー教室所属の生徒がいない以上、あまり関係ない話だと言えるね。でも、問題が別にある」

「問題? それは私達に関係のあることなの?」

 カーリーのやや斜め後ろに立つアーシャが尋ねてくる。その質問をクルトは待っていた。

「多いに関係ある。そりゃあね、大学内部から見れば、今回の計画はヘリスラー教室の立てた物に見えるし、事実そうだ。だけど計画は大学外部で行う物だった。となると、どうなるだろう」

「魔法大学が大がかりなイベント行事に失敗した……そんな噂が立つかもしれないわね」

 アーシャがいち早く気が付いた様だ。話が早くて助かる。

「その通り。大学の外から見れば、どこの教室がどうとか、誰が立てた計画だとかは関係ない。魔法大学の魔法使いが、変なゴーレム、人造馬のことだけど、それを動かして大失敗した。ああ、やっぱり魔法使いは変人だ。そんな目で見られているよ。既にね」

 大学内ではヘリスラー教室の評判が落ちたのかもしれないが、大学外では魔法使い全員の評判が落ちたのである。

「だから人造馬を改良して、評判を良い方に向かわせる必要があるのね。魔法使い全員の評判に関わるのだから、確かに私達にも関係があるかも」

 納得したらしく、頷くシーリア。だがそこにカーリーが異論を挟む。

「関係あるかもいれなけどさあ。それを解決しなきゃならない責任はわたし達には無いわけじゃん? 何か見返りがあるわけでもなし。あ、コウキョーのリエキとか言うのにはあんまり意味を感じないから、わたし」

 つまりちゃんと報酬を用意しなければ手伝わないぞという意思表明である。こういう発言があるというのをクルトは予想していた。

「それ程多額は用意できないけど、金銭的な報酬なら渡せると思う。手伝ってくれたらの話だけど」

「おい、本当かよクルト。お前、そんな余裕のある暮らしをしているとは思えないんだが」

 報酬を渡すと話すクルトに、よりにもよってナイツが疑ってかかってくる。例え嘘だとしても、そこは信じて貰いたいのであるが。

「大丈夫だって。この数ならちゃんと用意できる。小遣い稼ぎには丁度良い仕事なのは保障する。まあ今すぐは無理だから、本当かどうか疑われたらちょっと困るけどさ」

 事実クルトの策が成功すれば、それなりの金銭がクルトの手元に入ってくる予定がある。というより、他の魔法使いに報酬を渡すため、その予定を組み込んだと表現する方が正しいかもしれない。

「なら、どういう風に人造馬を改良するのか説明してよ。それを聞いてから手伝うかどうか決めてあげる」

 なんとも偉そうにカーリーは話す。恐らく彼女が一番協力者という立場から遠い。逆に彼女を説得できれば、他の魔法使い達も協力に納得してくれるかもしれない。

「改良と言っても、何から何まで良くするのなんて無理だ。そんな都合の良いことができるなら、ヘリスラー教室がすでにやってるだろうからね。ただ良く点検することで、人造馬の故障する確率は少なくできる。とりあえずは真っ先にそれを行いたい」

 人造馬に故障が頻発するのは、ヘリスラー教室の細工であることがクルトにはわかっている。ヘリスラー教室以外の生徒で人造馬の点検さえできれば、故障の頻発自体は解決できるだろう。しかし問題が一つ。

「あれだけ信用度の低い人造馬が、点検程度でなんとかなる様に思えないけどね」

 クルトと同じく、人造馬の御者をしていたリキルが疑いの眼差しを向けてくる。彼は人造馬を動かせば殆ど故障することを知っている。一方でその故障がヘリスラー教室の細工であることを知らない。

 ヘリスラー教室が裏で様々な動きを見せていることは、ナイツ、ルーナ以外には知らせない様にしているため、ヘリスラー教室についての話抜きで故障へと対処方を説明しなければならないのである。

「それじゃあ聞くけど、短距離での故障は多かった?」

「いや、ある程度動いて、それからだ」

 恐らくヘリスラー教室の細工は、人造馬を動かして暫くしてから故障する様な形になるのだろう。

「動かすのはそれくらいの距離で良いんだ。具体的にはアシュルの街を一周する程度だね。ただ、それだけの間でも故障してしまったら元も子も無いから、点検は十分にして貰うことになる」

 点検さえできれば人造馬の故障率は一気に下がるはずだ。あとはそれを行わせる理由付けさえできれば良いのだ。

「点検はわかりましたけど……。その、短い距離を動かす程度で、街の人達から信用を得られるのでしょうか……?」

 当然の疑問をアンナは口にする。普通に動かした程度では、勿論無理だろう。ただ、それもやりようだ。

「パフォーマンスの方法にもよるさ。人造馬は当初、どういう目的で用意されたのか。まあ、街道を活性化させる目的なんだろうけど、それは海路を封鎖されている船の代わりってことだよね」

「人造馬って、船の代わりにできるくらい凄いゴーレムなの?」

 小首を傾げるアーシャ。計画に参加していない生徒にとっては、人造馬自体がどういうものであるかはあまり知らない様だ。

「全然凄く無い。むしろ馬並みと言うか、馬以下と言うか。だからこそ改良の必要がある。短距離でも良いから、普通の馬じゃあ無理な重量の荷物を運ばせるんだ。それを街中で見せられれば、とりあえず人造馬が凄い存在であると、街の人達から見られるかもしれない」

 本当に船と同じくらい凄い物である必要はない。あくまでそう勘違いさせられれば、人造馬の評価は上がる。

「人造馬が実は凄いゴーレムだって知られれば、魔法使いの評判も同じく上がるってわけね。あ、でも、そんな都合よく改良なんてできるもんなの?」

 カーリーも乗り気になって来た様子だ。あと一歩と言ったところだろう。

「人造馬の内部には、魔力を通すことで動くという機構があるんだけど、誰でも動かせる様にリミットが設定されているらしい。そうだよね、ナイツ」

 クルトは人造馬の修理を行っていたナイツに尋ねる。

「ああ、通る魔力が一定になる様になっている細工で、これがあるおかげで安定した人造馬の挙動を可能にしている。これは一般的なゴーレムにも共通の機構で、あえてこの細工を外すことで、出力自体を上げる方法もあったりする」

「安定化させている物を外すというのは、要するに不安定になるということだけれど、大丈夫なのかしら………」

 アーシャは口元に手を当てて呟く。不安の言葉というより、提案に近い発言だった様子。既にこの場にいる魔法使いは、人造馬の改良へ取り込むことを半ば決意していた。

「高出力の動きに耐えられる様にはなんとかしたいね。ただ、動かす際、必要になる膨大な魔力についての問題はなんとか解決……したって言って良いのかな?」

 クルトはシーリアを見た。今回の策の要である魔法使いは彼女だ。魔力放出を強力に行える彼女の協力があってこそ、クルトの策は成功する。

「そこで私が出てくるのね。わかったわ。理解できた。ええ、良いわよ。ここに来た時から、なんだって協力してあげるって約束だものね?」

 シーリアの目線はナイツに向かっている様だ。ナイツは余程上手く説得できたのだろう。

「だったら改良の際も、上手く魔力が流れる様に調整を頼むね。確か研究内容は魔力の制御だとかだっけ? 存分に活かして欲しい。君が一番重要だからね。本当に頼むよ?」

「ず、随分色々頼むのね………」

 何故か冷や汗を流し始めるシーリア。

「なんだって協力してくれるんだよね?」

 言葉には責任を取って貰うのがクルトの主義だ。口にした以上、実行して貰う。

「事前に話す内容と言えばこの程度で、次に今後の予定について話すけど、今、もう協力する気が無くなったって言う人はいる? 居たら、これ以上いても時間を無駄に使わせることになるんだけど………」

 クルトは周囲の魔法使いを見渡すものの、この場を去る人間はいなかった。どうやら全員手伝ってくれる気になったらしい。

 クルトは胸を撫で下ろしたい気分になった。自分の策の、一つ目の山場を越えたのだ。そういう気分にもなる。

 しかし、まだすべてが終わったわけではない。クルトは気を引き締め、次の段取りを開始する。

 アシュル街道活性化計画。その成功へ向けての段取りを。



 人造馬改良について、全体の指揮はナイツが行うことになった。一同の中で人造馬内部の構造について良く知っているのが、ナイツしかいないと言うのが一番の理由である。

 カーリーとアーシャ、そしてアンナには人造馬に故障する様な箇所が無いのか、パーツごとに点検をして貰っている。実際やってみてわかったことだが、どうにも内部に描かれた魔法陣に、初歩的なミスがある。忙しい中で、こういうミスが多発したのだろうと点検係の3人は話していたが、それがわざとであることをクルトは確信していた。

 リキルは一人で、他の計画参加者に改良しているところを見つからぬ様に監視することを任せている。見つかったらいらぬ問題が起こる可能性があるので、如何に怪しまれぬ様に行動するか、様子を見に来たヘリスラー教室の生徒にどれだけそつなく対応するかなど、かなり重要で気を使う立場なのだが、上手くやってくれている様だ。

 もっとも大事な役はシーリアとルーナが行っている。つまり人造馬の改良だ。点検の終わったパーツに、新たな魔法陣を引き直す。起動させるのに大量の魔力を必要とする形にし直すわけだが、それ程難しい技術は必要無いとのこと。

「古代魔法の知識がこんなところで役立つとは思いませんでしたー」

 そう話すルーナによれば、魔法陣そのものの出力を上げる場合、古代魔法が非常に参考になるらしい。古代魔法も、多大な魔力を代価に強力な魔法を発生させる。魔力の問題がシーリアによって解決する以上、あとは大雑把に魔法陣を書き換えるだけで出力向上は可能になるそうだ。

 では残ったクルトがどうしているかと言えば、一人生徒組合の宿舎にて、改良の進捗を確認していた。

「つつがなく順調っと。ヘリスラー教室の計画が続いている内に、こっちもなんとか改良は終わりそうだ。良かった」

 人造馬の改良作業は、クルトがいなくても進むように配慮してある。だからクルトは一人暇にしている。というわけでも無い。クルトはクルトで、自分にしかできない仕事と言うのを行っている。

「手紙を出す相手はこれくらいで良いかな。反応がちゃんとあれば良いんだけど………」

 クルトは生徒組合宿舎内で手紙を書いていた。手紙の数は複数ある。クルトがとりあえず必要だと思える数であり、どれも同じ文面だ。

「うーん。まったくの雑用なんだけど、こういうことができるのが僕だけなんだよなあ」

 手紙には、とある相手への交渉に関する文面が書かれている。クルトの策の、その最終仕上げの様な物だ。作業自体は簡単だったので、自分だけこの様な楽な仕事をして良いものかと罪悪感が湧く。

 かと言って、事前に決めていた役割を破るとなれば、それだけで迷惑を掛けてしまうため、今更手伝うわけにもいかない。

「まあ、ナイツ達には今回の策は安全だって言ったけど、これをする人間だけは危険かもしれないから、他の人間にさせるわけにはいかないけどね」

 もしかしたら、自分がヘリスラー教室の計画を妨害したことがバレるかもしれない。だが、それで危険を被るのは自分だけだ。なら別に構わないとクルトは覚悟していた。

「良くもまあそんなことをやる気になったよね、僕もさ」

 まさに命がけだ。しかも得る物はあまり無い。だと言うのにそれをするのは一見無謀に思える。

「だけどさ、僕ならできるって言われたら、やらないわけには行かないよね」

 親切心からでも義務感からでもない。それはむしろ、自身への挑戦だった。

「魔法使いとしても、ただ一人の人間としても、どれだけのことができるか。試してみようじゃないか」

 そのためには命だってかけてやる。クルトはそんな覚悟を決めていた。


 その日、アシュルに幾つかある運搬業を生業にしている組織『風馬』の従業員バラガンは、組織の屋舎に送られてきた手紙に書かれていた通り、アシュルの街の中心広場までやってきていた。

「ええっと。この度、魔法使い達が例のイベントで、変わった催しを始めます。それはあなた方の将来に大きく関わる物となるでしょう。私はそのことを良く知る者です……かあ。なんだろうねえ。いたずらの可能性が高いのだろうが………」

 バラガンは『風馬』の従業員の中ではかなりの年配にあたる人物だ。馬車の御者を長らく行っているが、最近は齢のせいか長時間の労働が厳しくなり、いたずらで来た手紙の確認の様な雑用ばかりを任されていた。

「さて、魔法使いの……人造馬だったか。あれに関わる物らしいが、いったい何を見れるのやら」

 手紙に書かれた通りであるならば、人造馬に関わる何かが、『風馬』や同業種において大きく影響するものであるらしい。

 人造馬自体もそうなのではないかと組織内部で話し合われたこともあるが、結果はとんだ欠陥品であり、自分達の仕事を脅かすものでは無かった。

「さて、あの重りか? あれをどうにかするのか………」

 人が集まる広場には、木箱で出来た重りの山があった。恐らくは荷物の代替品だろう。既に人造馬に荷物を運ばせようという人間はいなくなっており、パフォーマンスのための代わりとして、重りを用意したのかもしれない。

「しかし、肝心の人造馬が無い様……だ…が!?」

 当初、広場には人造馬が存在していない様に見えていた。しかし良く見てみると、重りの山に隠れて、一体の人造馬が存在していた。

「まるで人造馬が重りを引いている様じゃないか。まさか、あれだけの量を本当に引けるのか?」

 重りの量は、一頭の馬が運べる量を優に超えている。もしそれを引けると言うのなら、人造馬は普通の馬をある意味で超えた労働力となるが。

「おお! 動いたぞ!」

「すげえ、台車の方が軋んでるじゃねーか」

「わあ! ママ! 石のお豚さんがあんなにおっきいのを動かしてるー!」

 人造馬は広場に置かれた重りをそっくりそのまま動かしていた。重りの下に置かれた台車が悲鳴を上げるものの、人造馬自体はゆっくりとその両足を動かし、一歩ずつ前に進んでいく。

「おいおいおいおい。人造馬は役立たずじゃなかったのか!? あんなものが本当に実用化されれば、馬で引く馬車なんて……!!」

 バラガンは危機感を抱く。自分達は馬車の御者としての技能を売りにしている。しかし、あの様な馬より力を持った人造馬を使った同業種が参入してくれば、自分達の様な技能者はお払い箱になる可能性だってある。

「急いで『風馬』に連絡だ!」

 その場を走り去り、『風馬』屋舎へと向かうバラガン。広場で行われている光景を見れば、恐らく他の者も、あの人造馬が送られてきた手紙の通り、自分達に大きく影響を与える存在だと認識してくれるだろう。



 最終的に、改良した人造馬は、重りを載せたままでアシュルの街を一周することに成功した。

 なにもかも、シーリアが持つ膨大な魔力が可能にした快挙であるが、魔法使いで無い一般人にはそれに気が付かず、人造馬が一筋縄では行かない存在であると印象付けることができただろう。

「これで一応の成功ってことで良いのか?」

 役目を終えた人造馬を大学へと帰らせる最中。ナイツがクルトにひっそりと近づき、小声で尋ねて来た。

「まだまだ。むしろこの後、ヘリスラー教室に事情の説明や、あちこちに色々と伝わる情報を調整しなきゃいけないから、僕にとってはこれからが本番だよ」

 改良した人造馬を動かしたのは、ヘリスラー教室側の計画には無かったことである。まずその件について、クルトが釈明しなければならない。また、その後に行う行動こそ、クルトが考えた策の本質であると言える。

「確か……今回の件で恐らく慌てているだろう運搬業者に接触するんだったか?」

「うん。そうだね。人造馬が思った以上に役立つ物だと勘違いしただろう運搬業者に接触、人造馬の情報を誇張しつつ提供して、相手が人造馬への対策を立てる様に仕向けなきゃならない。大変だよ。こればっかりは他の人にも任せられない」

 自分がどれだけ上手く立ち回れるかによって成功するかどうかが決まる。

「それらが上手く行ったとして、アシュル街道活性化計画は、本当に成功するのか?」

「そのはずだよ」

 そう、クルトが狙ったのはアシュル街道活性化計画と言う、ヘリスラー教室が客寄せのために立てた看板を、本当に成功させてしまうということだった。

 ヘリスラー教室や計画そのものを画策したであろう黒幕は、そもそも街道活性化計画が成功するなどとは考えていない。それだけ杜撰な計画だからだ。

 本当の狙いが人造馬の稼働と、それを動かす側が戦時下でどう行動するのかのデータ採取にある以上、街道活性化計画の成否は画策した側にとってどうでも良いことなのだろう。

 そこをクルトは利用したのである。

「例え客寄せ用の立て看板だろうと、一度それで人を集めたからには、計画に対する責任が生まれるんだ。見るからに失敗する様な計画なら、なにもかもを放り出せば良いんだろうけど、もし、成功する兆しが生まれたら? どうせ失敗する計画なんだからなんて言葉は許されなくなる」

 本来ダミーであろうアシュル街道活性化計画を、無理矢理本命の計画という地位にする。そうすることで、裏で行われている計画を潰してしまおうと言うのがクルトの策だった。

「もし、アシュル街道の活性化ができるかもしれないという風潮が生まれれば、そこに飛びつく権力者が必ずいるはずだよね。そうして、裏で戦争に関わろうとしていた権力者とぶつかることになる。どっちの計画を本格的に推し進めるのかってさ」

 少なくとも、当初予定していた通りの展開にはなるまいとクルトは考える。アシュル街道活性化計画と言う、成功しても失敗しても構わないとされた計画であるが、その実、計画者側にとっては、成功することによってむしろ損害を出してしまい兼ねない物なのである。

「でも、そう上手く行くもんか? この人造馬を使うわけじゃあないんだよな?」

「勿論、改良した人造馬は、シーリアくらいにしか扱えない物だよ? だけど、街道を活性化させるのは僕らじゃあない。既にアシュル街道を運搬経路にしている、馬車を使った運搬業者の人達なんだ」

 本来、船を使った流通路が駄目になったのであれば、馬車を使い流通を支える側が活躍しなければならない。

 需要があるのだからそれに飛びつくのが業者と言うものだろう。しかしどうしてだかこの国の運搬業者は及び腰だった。

「長らく船による流通が主体だったから、陸路の方は商売感覚が薄くなってたんだろうな。改良した人造馬はそれを叩き起こす良い理由になるか」

 ナイツはシーリアの操る人造馬を見る。もし、陸路を使う運搬業者側が人造馬に危機感を覚えたのであれば、きっと対策を立てるはずであるし、結果的にそれは街道の活性化に繋がるだろう。

 人造馬への対策は、いかに運搬業者が行う流通が優れているかをアピールすることから始まるだろうから。

「とりあえず僕は、流通路の発展が人造馬打倒へ繋がるって言う風潮になる様に、各運搬業者に接触しつつ交渉を続けるつもり。そのための手紙も出したしね」

 事前に出しておいた手紙は、運搬業者側にある一定の信頼を生じさせる力があるはずだ。人造馬の危険性を伝え、人造馬自体の情報を渡す。その際に伝える情報へバイアスを掛けることで、相手の考え方をある程度操ろうという考えだ。

「情報を渡す過程で、対価も要求しなきゃなあ。協力してくれたみんなに報酬を渡さなきゃならないからねえ」

 クルトが協力してくれた魔法使いに渡す報酬のアテにしているのはそれだ。つまり策の成功も、計画の成功も、協力者への報酬さえも、今後の交渉に掛かっているのである。しかもそれらはクルトが個人で行わなければならない。

「大変だよ。しかも僕個人には見返りが無いし………」

 さらにクルトが動き回れば動き回る程、その行動が周囲にバレる可能性があり、クルト個人に危害が加えられる可能性もある。

「今更だけど、悪かったな。なんか無理をさせたみたいだ。本来は全部諦めるつもりだったんだろ?」

 申し訳なさそうに話すナイツ。本当に今更だ。

「まったくの迷惑だよ。だけどね、こんな状況だって言うのにさ、なんとなく面白いって感じる自分がいるんだ。不思議だよね?」

 困難に立ち向かい自分を成長させる時にこそ、自身の心は盛り上がる。今回、それを学ぶことができたのは幸運だろうとクルトは考えることにした。



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