魔法使いの盛り上げ方(3)
修理された人造馬を動かすクルト。魔力を送ることで足を動かし、手元に伸びる縄の様な物で進行方向を決める。
本当の馬車と同じ形で動かすそれであるが、クルトは不安を感じている。
「また故障する可能性が高いんだよね。馬車に乗せる荷物は少なくなってるから、重量的にはまだマシになんだろうけど………」
ほぼすべての人造馬がアシュルの街に戻ってきた結果、人造馬がどうにも信頼性の欠ける乗り物であることが周知され始めた。
そうして2度目の出発の時には、乗客予定者は既にいない状況で、まあイベントごとだからと、親切心で輸送用の荷物を幾らか頼む業者がいる程度になっている。
なのでクルトが動かす人造馬の荷車部分には、もう殆ど荷物は乗っていない。一番重い物と言えばクルト自身くらいだろう。
「そういう状況で、まだ人造馬を出発させるっていうのがまた変なんだよなあ。やっぱり実働データを取るためだとは思うけど……他にまだ何かがありそうだ」
とりあえず人造馬を数多く動かしたいというのが実状なのはわかる。それで得をするのは誰かと聞かれれば、今のところ誰もいないというのが問題なのだ。
「ヘリスラー教室なんて、これだけ魔法使いを動員しておいて欠陥品を動かしただけかって文句が出始めてるし。いくら人造馬を動かしたからって割に合わないよ」
むしろ動かせば動かす程に悪評が立つ気がする。それでも動かす理由というのがあるのだろうか。
「そもそもこの人造馬自体、まだ未完成に思うんだよね。故障が頻発するのもその証拠だ。つまり………人造馬を完成させるために計画を立てた? いったい何のために」
人造馬は荷馬車としては役に立たない。それは動かしていた良くわかっている。ではいったい何の役に立たせるために作られたのか。
「名前自体は人造馬なんだから、馬の代わりとして作られたんだと思う。一方で普通の場所じゃあ馬の方が優秀だ。魔力だって使わずに動いてくれるし。使うとしたら……普通の馬を動かすのが困難な場所?」
例えば肉食獣が多い地域。馬が怯える場所だ。馬の餌が少ない地域というのもそうだろう。馬はその大きさと力を維持するため、基本的に大食らいである。水だって沢山飲む。一方この人造馬なら、動かす側の魔法使いさえ無事であれば、とりあえずは動く。
「馬が怯える場所か餌が用意できない場所。もしくはその両方ってところかな。その両方………まさか」
嫌な予感がした。クルトは一旦人造馬を止めて、荷馬車の中の荷物を探る。密かにナイツから貸して貰った人造馬の設計図を見るためだ。
「修理が随分と早いと思ったけど……この人造馬、パーツごとに交換ができる様になってる。そりゃあ悪いところだけ交換すれば修理も早くなるし。良い案だとも思うけど……魔法使いの発想じゃあないよこれは」
人造馬の設計自体は機能的に作られている。とりあえず魔法研究を活かして何かを作ろうとする魔法使いには、機能的という発想自体がないため、設計段階で職人的技能と知識を持った者が関わっている可能性がある。
「魔法使い以外の人間も計画に関わってる。ことが魔法大学内部だけで進んでいないんだ……やっぱりそうなのか? でも、どうして急に……そんな……」
クルトの頭の中で幾つかの符号が浮かび、結びついていく。人造馬の目的、ヘリスラー教室の存在、不景気の原因、巷で流れる噂。関係の無いと思っていた物事が、まるで一本の流れを持つかのように思える。
「考えすぎかな……いや、でも……」
もう少し情報が欲しい。しかし人造馬を動かしている現在ではそれが不可能だ。早く目的地で荷物を降ろし、アシュルの街へ帰りたいと焦るクルト。
答えがどうであろうと、そこにしか無いことだけはわかっているから。
一方、魔法大学の広場にて人造馬の修理を行っていたナイツは、状況が変わり始めたことを肌で感じていた。
発端はヘリスラー教室以外の生徒が、計画に不満を漏らしたことから始まった。
「なあ、なんか俺達、ヘリスラー教室の指示で動くだけで、魔法に関わることを一切してなくないか?」
自分達は魔法大学の学生であり、この計画も自分の魔法研究に役立つと考えたからこそ参加したのだ。だけど今の状況はそうでないのではないか? そういう不満は既に多くの生徒が抱いていたことだったが、声に出したことで一気に噴出し始めた。
「そうだそうだ。そもそもこの人造馬自体、すぐ壊れる欠陥品じゃないか! これで街道活性化なんて良く言えるよな!」
また別の生徒が声を上げる。やはりヘリスラー教室以外の生徒だ。
(このままじゃあ暴動とは行かないまでも、ヘリスラー教室に全員で抗議に行こうなんて状況になるぞ?)
別にそうなったらそうなったでナイツが困ることは無いのだが、ならばヘリスラー教室の生徒はどうしているのかと気になり周囲を見渡す。すると一人の生徒が目に留まった。その生徒は現在の状況に焦る様子も無いまま、部屋全体見渡したかと思うと、紙に何かを書き込むという行動を繰り返している。
「おい、あんたいったい何をしているんだ?」
ナイツは密かに近づいて、紙を覗き込む様にしながら尋ねる。
「あ、いや、人造馬があの調子だろ? だからどうにかならないものかと考えをまとめていて」
嘘だとナイツにはわかった。相手の考えが読めるわけではない。紙を覗き込んだ際に、人造馬と関係の無い事項が書かれていたのを見たからだ。
(計画開始から数日で参加者から反発が出始める。予定より早い。人造馬の状態については規定の範囲を超えず? 何のことだ?)
どうにも現在の状況を綴っている様に思えたが、日記では無さそうである。
「そんなことをしているより、ほらみろ、みんなから不満が出始めてるぞ。早めにどうにかした方が良いんじゃないか?」
「あ、ああ、そうだな。教室に知らせて来るよ」
ヘリスラー教室の生徒は走って広場を去って行った。言われるまで行動しないというのは問題に思えるのだが。
「あ、ナイツさん。広場がなんか騒いでますけど、俺が担当している人造馬は直せそうですかね?」
どうしたものかとナイツが考えていると、御者担当をしている生徒から話しかけられた。確か今年大学に入った新人だったはずだ。彼がナイツの名前と顔を知っているのには理由がある。
ナイツは何人かの御者担当に、ヘリスラー教室にした報告と同じ内容の物を自分にも伝える様に頼んでいたのだ。
「ああ、人造馬の修理自体はすぐにできるんだよ。ヘリスラー教室側が人造馬の部品を余分に用意していたらしくてな」
「はあ、そうなんですか。となると、持ち場を離れるのは駄目なんですかねえ。あれ、なんだか信用性に欠けるんですよ」
困った様子で頭を掻く後輩。乗り手にそう思わせる乗り物というのはどうなのだろうか。
「今度はどこが壊れたんだ?」
「右後脚の付け根です。部品の合わせ方が駄目だったみたいで、動きはするんですけど、ガタガタして乗り難いんです。乗客もいたから文句も凄くて」
非常に大変だったと後輩は語る。それは確かに困った事態だろう。客商売なんて慣れてもいないだろうに。どうやって客からの不満に対応したのかが気にはなる。
「確か君は今回で2度目だろ? 3度目の出発もあるのか?」
「さあ、どうなんでしょう。1度目は左後脚が故障しましたから、3度目は多分前脚が壊れそうですよね」
「ああ、そういえば俺もその人造馬の修理には参加したよ。1度目の方は小さな部品の損耗で軽い故障だったんだが、一応、万全を期すってことで確か………おい、どういうことだ」
ナイツは後輩の話す1度目故障について思い出して、ある事実に気が付いた。
「な、なんのことです?」
「あ、いや、なんでもない。とにかく、俺もどうなってるかわからないから、次の指示はヘリスラー教室に聞いてくれないか?」
「はあ?」
困惑する後輩を置いてその場を離れるナイツ。とにかく一人になって考えたいことがあったのだ。
(1度目の故障の時、念のためだとか言ってヘリスラー教室の生徒が、後脚の部品を両方共に交換したはずだ。つまり交換したはずの、一度も故障を起こしてない右後脚が壊れたことになる)
有り得ることかそうでないかについては、1度動かしただけで壊れる人造馬であるから、有り得ることなのだろうとは思う。
しかし故障に対する交換である以上、それらの故障には気を使うはずではないだろうか。
(確か右後脚の交換については、ヘリスラー教室の生徒だけでしてたよな。まさか、故障は故意に発生している?)
何故ヘリスラー教室がそんなことをするのか。計画の失敗はヘリスラー教室の汚点となって残るだけだと言うのに。いったい何が目的で。
「ああ、くそっ! 考えがまとまらない!」
状況が込み入っていることはわかるものの、ナイツにはそれを整理して考えることができなかった。
(あいつなら、情報を集めて上手く推測することができるんだろうか)
ナイツは人造馬を動かしているであろう友人の顔を思い浮かべ、彼の早急な帰還を願っていた。
そうして漸くクルトが魔法大学へと帰ってくる。2度目の出発から既に日付が変わって、さらに夜になっていた。合間に休憩や仮眠をとっての仕事であるが、それでも魔力を使い続けたために疲労感は拭えない。
「ま、まいったな。これじゃあ頭を動かすなんてできそうもない」
悪い予感が当たらなければ良いと急ぎ帰ってきたため、休息が十分では無い。なんとか人造馬を修理している大学の広場まで馬車を持って来たが、既に限界である。しかも何故か周囲は剣呑とした雰囲気であった。
「な、何? 何が起こったの?」
既にクルトは目的地に到着した安堵で気が抜けており、判断能力に欠けている状態だった。
なので広場で生徒達が睨み合っている状況を見ても、それがどうしてだかがわからず混乱する。
良く見れば睨み合う一方は怒りの表情を、もう一方は戸惑いの表情を浮かべる者が多い。
「暴動でも起こったのかなあ」
「今から起きそうなんだよ」
人造馬を動かすこともできず広場を見つめるクルトに、話し掛ける人影が一人。ナイツであった。
「あ、ナイツ。さっそく人造馬を見て欲しいんだけど。なーんか移動速度が遅くなってる気がするんだよね」
「いや、そういう状況じゃあ無いってのは見ればわかるだろう?」
ナイツは広場を見る。一触即発と言った状況に、声も釣られて小さくなっている。
「………何があったの?」
「故障続きの人造馬に、ヘリスラー教室へ文句を言いに行った生徒がいてな」
「あー、僕も言いたいよ。おかげで帰ってくるのが遅くなった」
というより人造馬に対して不満を持っていないのは、当のヘリスラー教室だけではないだろうか。
「まあ、それだけなら口論だけで済んだんだろうが。ヘリスラー教室側が、文句を言うのは別に構わないが計画への不参加は今更できないなんて言い出したんだ」
「途中で抜けるのが無理ってこと? なんで? 僕らは親切心で手伝ってるだけだと思ってた」
「計画に参加する時、契約書みたいな物を書かなかったか? どうにも一定期間の雇用を決める事項が含まれていたらしくてな。それが全員に伝わって、これは不当な契約だって感じで今に至るわけだ」
自分達の利にならない計画に無理矢理参加させられている形になった魔法使い達は、ヘリスラー教室への苛立ちを隠そうともしなくなった。
その件に関して罪悪感があるからか、ヘリスラー教室の生徒達は大人しくしており、相手側の感情を逆撫でることは無い。だからと言って何もしないのでは状況は悪化するばかりである。
「見たところ仕事の強制自体はしてないけど、それでも計画には参加して貰うってことになってるの?」
「ああ、そうなんだ。おかしいだろう? 計画参加を強制しているのに、参加した後にちゃんと仕事をしろとは言わないんだ。他にも怪しいところが幾つかあって、お前に相談したいと思っていたんだが」
ナイツは広場を見るのを止めて、もう一度クルトへ振り向く。ある種の期待が混じった目線である。
「相談? 無理無理。駄目。頭を動かすと途端に眠くなるんだよ。考えるのは明日にしようよ」
ただでさえ寝不足だと言うのに、無理な魔力の行使で疲労感も酷い。ナイツが話し掛けて来なければ、そのまま眠っていたかもしれない。
「おい、ちょっと待て。俺はできればお前にこの状況を治める妙案が無いかと思って期待していたんだぞ?」
「はあ? いや、だからそんなの無理だって。あ、目蓋が重い。自分で開けられなくなる感覚なんて初めてだよ」
クルトの視界が徐々に狭まる。これが完全に閉まれば、眠りの国に向かうことは数秒も掛からないだろう。
「待ってって。本当に眠るつもりか? 起きたら何もかも終わってたなんて状況もあり―――」
ナイツの言葉が不意に止まる。自分の眠気のせいでそう聞こえるのかと考えたクルトだが、どうもそうでは無いらしい。
広場にいる生徒達の視線が一つの場所に集まっていた。その先には男が立っている。見知った顔だ。名前も知っている。
ファイム・プリューニ。清潔感溢れる服装にキザな顔立ち。見間違いでは無いだろう。この大学の大学長だ。
「いったい何の騒ぎだね、これは。大学長として、生徒諸君が学業以外のことでその情熱を無駄遣いするのは感心しないな」
広場で多くの生徒が集まっていることに気が付き顔を出したらしい。
「大学長まで出て来たぞ。いったいどうなるんだ」
事態が大事になってきたと焦るナイツだが、一方でクルトは冷めた様子でそれを見つめる。
「逆に場が治まると思うよ。そのために出て来たんだろうから」
案の定、大学長は睨み合いを続ける生徒達を何人か呼び出し、状況の説明をさせている。不満がある生徒は激しく、ヘリスラー教室の生徒はおどおどと話しているが、大学長はただ頷いているだけだ。
「よし、話はわかった! これは確かにヘリスラー教室側に非がある。貴重な勉学と研究時間を生徒達に消費させた結果の計画が、こうも杜撰というのはいけない。何がしかの責任を取らせることをここに確約しよう」
大学長の発言で、ヘリスラー教室に不満を持っていた生徒達の勢いは弱まる。明確に罰を与えると言われた以上、文句の言い様が無くなったのだ。
「一方で街道活性化計画だったか。それは規定の日数通りの参加はしなさい。君たちだって、自分の意思で計画に参加したんだろう。それを利にならないからと言って途中で放り出すのは駄目だ」
ヘリスラー教室への配慮も忘れずに話す。これで手打ちにしろということだろう。確かに場は治まった。
睨み合っていた生徒達も冷静になってきたのだろう。その場を離れ始めた者もいる。
「おお、本当になんとかなったよ」
胸を撫で下ろすナイツ。そうしてクルトを見て話す。
「こうなることがわかっていたのか?」
「………というより、事前の取り決め通りの展開なんだろうさ。大学長が出てくるタイミングが良すぎる。多分……全部………ヘリスラー…教室…側……の………」
頭がくらくらとした後、視界が真っ黒になる。ほんの少し頭を動かしただけだと言うのに、眠気がすべてに勝った様で、クルトは目を閉じた。
「おい! クルト! 不安な言葉を残して寝るな! せ…て……事……明………から………」
間近で話しているはずのナイツの声が、とても遠くに聞こえる。それも遂には聞こえなくなり、クルトは自分の意識を手放した。
クルトが目を覚ました時、一番目に考えたのは、ここがどこであるかという事だった。
「う……まあいいや。もう少し寝ておこう」
二番目に考えたのは、まだ眠いというものだったので一番目の考えは頭の隅に追いやるクルト。しかしそれを妨げる声が耳に響いた。
「まあいいやじゃないですよー。目が覚めたのなら、早く起きてくださーい」
聞き慣れた声。同じ教室のルーナの声だった。
「え? あれ? どうしてルーナさんが?」
重い体をなんとか起こす。ベッドでは無くソファーで寝ていたらしい。窓から差し込む日の光が眩しい。周囲の風景を良く見れば、そこは生徒組合の宿舎であった。
近くにはルーナがクルトを覗きこむ様に立っていた。
「どうしてって、俺が運び込んだんだよ。半日近くも眠ってたんだぞ」
クルトが起きたのを察知したのだろう。どこからかナイツもやってきた。
「クルトくんが倒れたって聞いてー、急いで現場に行ったら、ぐーすかと寝ていたんですよー。わたしのびっくりを返してくださーい」
怒った様子のルーナ。しかしそう言われても、ルーナにそう伝えたのはナイツであって、こちらに責任は無いと思うのだが。
「半日近くって、ヘリスラー教室の件はどうなったの?」
「どうなったも何も、昨日見てただろう。大学長が出てきて、暴動染みた騒ぎは治まり、それで今日も問題無く人造馬が動いている。いや、故障は引き続いて起こっているから問題あるのか」
どうやらクルトがアシュルの街を出る前から、状況は何一つ変わらないままらしい。一度ヘリスラー教室の生徒とその他の生徒で睨み合いが続いたが、それも解決している。
「まいったなあ。まるっきり向こうの計画通りって訳か。どうしたもんだろう」
クルトは腕を組み、頭を傾ける。まだ眠り足りないものの、思考しただけで目蓋が落ちるということは無くなっている。
「なんのことですかー? 聞いた話だと、大学長が出てきてヘリスラー教室には計画失敗の罰をーっていう話らしいですけどー」
計画に不参加のルーナは状況が良くわかっていない様子。外側から見れば皆そう思っているだろう。
計画に参加している者達も、その多くは問題が一応解決し、現在は惰性で計画を続けている状況だと思っているはずだ。
「確かそれも事前の取り決め通りとか言ってたよな。やっぱりヘリスラー教室が裏で噛んでいるのか?」
「裏側で色々しているのはヘリスラー教室だけじゃないよ。それに教室はどちらかと言えば表側」
「何のことかさっぱりですよー」
なら聞かなければ良いのにと思うクルト。実際、ルーナは関係の無い立場なのだから。
「まあね、こっちだって全部分かったわけじゃあ無いんだけども。全部推測だし、もしかしたら全部僕の考え違いの可能性だって―――」
「いや、少なくともヘリスラー教室が怪しいのは事実だろう? あいつら、人造馬に細工して、わざと故障する様に仕組んでいる様だった」
クルトが自信無さげに話すのを見て、ナイツはじれったく思ったらしい。
「へえ。じゃあやっぱり別の計画があるんだ。街道活性化以外の」
「クルトくんが言ってる計画って、街道活性化計画のことじゃあないんですかー?」
「そうだね。もっと大きな計画があって、労力を集めるために街道活性化計画なんて看板を立てたんだと思う。人造馬も撒き餌だろうね。あれに興味を持った生徒が集まる様に仕向ける」
アシュル街道活性化計画自体は、人を集める目的のためだけに立てられたのだと考える。その後の計画の成否は特に問題ではないのだろう。
「それで人を集めてどうすんだ。人造馬はご覧の通りの役立たず。ヘリスラー教室自体がそうなる様に細工までしている」
「だからそれが狙いだって。わざと人造馬を故障させて、その場の対応力を見てるんだよ。鍛えているとも言えるかな。こう、幾つもの場所で重要な道具が壊れるとするでしょ。その時、人がどう反応して、全体的にどういう風な状況になるのかっていうデータを取っているんだ」
「そんなことをして何になるんですかー? 大がかりな魔法研究にしても意図が読めませんよー」
ルーナは裏の計画が魔法研究に関わる物だと考えたらしいが、それでも納得はしていない様子。
「そりゃあそうだよ。この計画の首謀者は、魔法大学の人間じゃあ無い。だから魔法研究とも関係無い。もっと違った目的があって魔法大学の生徒を利用しているんだ」
クルトはそう考えていた。どうにも街道活性化計画という考えからして魔法使い的では無いのだ。
不景気は魔法使い達にも関わってくるかもしれないが、それでいきなり街道を活性化させようなどという意見が飛び出すはずがないとクルトは考える。もし、魔法使いがアシュルの街で景気回復を行おうとするのなら、計画を立てて多くの魔法使いと共に行うのでは無く、もっと個別毎の動きになるはずだ。
魔法使いにとっての名誉は社会に認められることであり、社会不安を自分の魔法研究によって解消することができれば、それを達成することができる。しかし他人との協力で行えば、自分一人の成果では無くなってしまう。そう考えるのが一般的な魔法使いだろう。
「じゃあいったい何が目的で何をするつもりなんですかー?」
結局はそういう疑問に辿り着く。ヘリスラー教室。いや、さらに奥に潜んでいるであろう何者かは、魔法使い達を利用して、どの様な計画を立てているのか。
「そうだね。一言で言えば勘違いしちゃうかもしれないから言い難いんだけど、言わなきゃ言わないで混乱するから言うけど」
「良いから早く話せ」
もったいぶった話し方をするクルトに、苛立っているらしいナイツ。
「わかったよ。あのね、多分だけど、今回の計画の目的は“戦争”なんだよ」
比喩でも暗喩でもなんでも無い。クルトの言葉は、人同士が争い、殺し合う。その戦争の事を意味していた。




