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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの手伝い方
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魔法使いの手伝い方(5)

 残り一人となった襲撃者を見て、クルトは上手く行ったと考える。

 ランダルが提案した、逃げるフリをして追ってきた襲撃者に奇襲を仕掛けるという策であるが、クルトはそこに少しタネを仕込むことにした。結果、それなりに成果を残したのである。

「まあ、火球を動かしただけで引っ掛かってくれるとは思わなかったけど」

 クルトが行ったのは、逃げるフリをする役を魔法に行わせることだった。

 襲撃者とクルト達が睨み合っていた時、通路は暗闇の中であった。長く窓も無い道がずっと続いているのだ。光源が無ければ何も見えなくなる。

 近くにいる相手であればなんとか判断できるものの、そうでなければ人影なんてはっきりと見えないだろう。

 だからそこを狙った。まずルーナに魔法で火球を作らせたのだ。そしてその火球を出口がある方向に進むよう調整させる。

 この火球の目的は二つ。一つはクルト達が逃げようとしている風に偽装させること。ランダルが襲撃者との距離を把握していたため、恐らくただの火球だとしても、襲撃者達を騙せる距離だとクルトは予測出来た。案の定、襲撃者達は慌てて火球を追い始めたのだ。

 そして二つ目の目的は、出現させた火球を光源とするものである。火球が暗闇に発生する以上、クルト達の視界は広がる。柱の陰から覗く程度でも襲撃者側の行動がわかる程度には役に立ったのである。

 結果、襲撃者のうち一人がその場で留まり、遠距離から弓で火球を狙っている姿が目に映った。

 危険である。ランダル一人が奇襲を行えば、弓で狙われる恐れがある。そう考えたクルトは、まず真っ先に雷光の魔法をその標的に撃ち、そしてすぐに身を隠す。

 襲撃者側から見れば、火球の他に雷光による光が見えたはずだが、同じ光源であるためか見逃してしまった様だ。残りの襲撃者は柱に隠れるクルト達すらも通り過ぎた。クルト達に背を向けたのである。

 ランダルはそれを見逃さなかった。まず一人を背後から仕留め、残り一人の前に立つ。

「大丈夫ですか?」

 もう奇襲を行える状況ではないため、ランダルは一対一の真っ向から襲撃者と対峙しなければならない。ランダルが騎士だと言ってもクルトは心配だった。

「ああ。これで残りは一人か。上手く行き過ぎて怖いが………。まあ、敵が一人だけなら、どうとでもなるさ」

 言葉だけを聞けば頼りになる。襲撃者の一人を音も無く背後から倒した手腕を見れば、腕も立つのだろうとも思う。しかし武装している相手とこれから戦うことを考えれば、クルトも援護した方が良いのではないかと思ってしまう。

「手は出さなくても良い。見ればわかる。私より格下だ」

「てめえ………」

 これはランダルの自信から来る言葉か。それとも挑発か。後者であれば成功だろう。最後の襲撃者は明らかに苛立っている。

「さあ、お前はどうする? 間抜けみたいに私達を通り過ぎたのだから、出口はお前の方が近い。つまり逃げられる可能性があるというわけだ。私に勝つよりよっぽど高い可能性がな」

 ランダルはさらに襲撃者を煽る。もうこれは見物だった。襲撃者がどうするのか。クルトはまるで他人事の様な気さえしていた。

「はっ、そうやってこっちが逃げづらくしてるんだろうがそうは行かねえ」

 襲撃者は笑い、背中を見せる。出口側へと逃げようというのだろう。逃げられまいとランダルは追う。まさか襲撃者がそのままもう一度体を捻り、襲い掛かってくるとは思いも寄らない。

「てめえを倒してから逃げることにするよ!」

 襲撃者は逃げるフリをしながら、その勢いでランダルに斬りかかったのだ。

(早い! 避けられない!)

 クルトにはそう見えた。襲撃者の動きは完全にランダルの虚を狙っており、速さも剣の振りも正確だ。当たれば確実にランダルの命を奪う。そういう一撃を、ランダルは避けた。

「ほら。なんとかなっただろう」

 ランダルの言葉は襲撃者でなく、今までの展開を見ていたクルトに向けてのことだった。襲撃者が聞き手では断じて無いだろう。何故なら襲撃者は既に地に伏して倒れていたからだ。血も随分と出ている。どうみたって手遅れだった。

「う………ちょっと余所を見ても良いですか?」

 死体が出来る瞬間を見てしまった。そのことにクルトは吐き気を覚える。自分達を守るためなのだからランダルに非はない。ただこれは生理的な問題だった。

「まあ、普通はそういう反応だろうな。私も始めてこういうことをした時はそうなったよ」

 始めてやら始めてでないやらと言える回数、人を斬って来たということか。王立騎士団員の名は見せ掛けや上辺だけのものではないのだろう。

「お、終わったみたいですねーって、きゃー!」

 柱に隠れていたルーナが近づく。そして目の前に転がる死体を見て悲鳴を上げる。一歩間違えれば自分もこうなっていたかもしれぬと思えば尚更だ。

「うむ。見事だったぞランダル。それでこそ王家の守りだ」

「はいスガル様。勿体の無いお言葉です」

 これまでは軽口を叩きあっていた風に見えるスガルとランダルだが、妙に仰々しいやりとりを交わす。この場面だけを切り取れば、まさに王と騎士という絵面だった。

「それなんですけど、さっきのは一体何だったんです? なんだかランダルさんが斬りかかられたと思ったら剣がすり抜けて、次の瞬間にはあの、そこに転がっている人が出来上がっていたというか………」

 視界には映さず、倒れているであろう襲撃者を指差すクルト。まだ直視できないのだ。

「うん? 避けて隙が出来たから斬っただけだが? まあ、動きを出来る限り抑えるとそう見える時はある。ここは暗いからなあ」

 なんだそれは。それこそまるで魔法だ。動きを抑えるというがそんな芸当があの一瞬でどうして出来るのか。

「まあ、おかげで助かったんですけどね。それにしても良く相手が逃げるフリをして襲い掛かってくるってわかりましたね。何か相手の動きに妙なところを見つけて察知するって感じなんでしょうか」

 襲撃者の騙し討ちを事前にしなければ、その後のランダルの動きは不可能だろうとクルトは考えた。

「え? いや、あれには驚いた。なんだ逃げるのかと思ったらいきなりだからなあ。ちょっと動くのが遅かったら危なかった」

「………」

 敵の目論見にまんまと引っ掛かったが、それでも対処できたというのか。どんな化け物だ。

「騎士団員の人ってみんなこんな感じなんですかねー」

 ルーナも呆れた様子である。ただ確かにクルトが知っている別の騎士団員もこんな感じだ。

「うむ。そうでなければ騎士を名乗れん。それとついでにあっちに倒れている奴らのうち、息がある奴がいれば一人連れて来てくれんか」

 話をまとめたつもりか、スガルがランダルに次の命令を与える。

「連れてくるのですか? どこまで?」

「勿論、出口まで。出口に着けば、次は応援を呼べるところまでだな。なにせ馬車の御者までやられたわけだし」

「人は重いですが」

「そりゃあ軽い奴が人様を襲いはせんさ」

「誰が持つのです」

「お前だお前」

 漫才の様なやり取りをするスガルとランダル。

「っていうか、襲撃者なんて持ち帰ってどうするんですか?」

 荷物になるだけだろうと思うクルト。

「尋問だよ。尋問。俺を襲った奴らをそのままにしておけば、王家自体の沽券に関わって来る。これは俺だけの問題ではないのだ」

 そう言えばスガルは王族で、さらにかなり偉い立場の人間だった。そんな人間を暗殺しようとして、さらに無事で帰らせたとなれば国家の安定が揺らぐであろう。

「一人捕まえて置けば、他に襲撃に加わった人間も芋づる式で捕えることができるってことですね」

「それは勿論そうだが、暗殺を企んだ黒幕がいるはずだ。企みが失敗した以上、そいつには隙ができるわけだから、そこを政治的にどうにかするのが俺の様な男の仕事でな」

 近いうちにどこぞの貴族か王族が失脚するかもしれないとスガルは話す。

「もうそういう話に関しては無関係でいたいですね。キナ臭い話は嫌ですよ、嫌」

 そもそもこんな襲撃事件に遭遇してしまうという時点で最悪である。魔法研究のために来ただけであるのに。

「そうさなあ。それが良いな。一応こちらとしても、今回の件は内密に頼む。口止め料というか迷惑料というか、そういったものを後日送るから、普段住んでいる場所を教えてくれんか」

 口外するなというお達しが来た。従うのが吉であろう。これは脅しではない。口外さえしなければ絶対に手出しはしないという親切心なのだ。

「良いですけどー。それよりランダルさん、大丈夫でしょうかー」

 ルーナはランダルがいる方を振り向く。そこには禿頭の男を背負うランダルが、よろよろとした足取りで歩いている姿があった。


 脱出通路は遺跡周囲の森を抜けた先にある洞窟へと繋がっていた。偽装されていたと言うべきか。外から見ればどう見ても人工物に見えない場所だった。

 幸運にも近くの町までそれ程遠い距離では無かった。その点についてはランダルが一番ほっとしていただろう。

 そしてその町でクルトとルーナはスガル達と別れた。同行する理由が無かったというのもあるが、町に着いた途端、連絡もしていないと言うのに応援に駆け付けたらしい兵士達や貴族などがやってきたのである。

 スガルの立場を再認識できる場面であった。彼が命令しなくても、その意思を汲む部下が幾らでもいるというわけだ。王家との繋がりや褒章目当ての者が大半だろうけれど。

 最終的に、遺跡は王族襲撃事件のせいで騎士や兵士達の調査対象となり、クルト達には入り込めぬ場所になったし、スガル達にもう一度会うというのも難しくなったので、分かれの言葉も無くクルトは大学へと帰ることになった。

 そうして大学に帰ってから数日経ったある日のことである。遺跡での出来事も、そう思い出すことがなくなったその日、大学から呼び出しを受けたクルトとルーナは、大学の事務窓口までやってきていた。

 普段は学生向けに仕事を紹介している場所であるが、呼び出された理由もわからず、クルトとルーナは混乱していた。

「なんだろうね、いったい。こういう場所なわけだから、そう大変なことでも無いんだろうけど」

 重要事や懲罰の対象になった場合などは、事務窓口などに呼び出さず、ただ大学内の空いた個室に呼び出してぐちぐちと愚にもつかない話をする。なので、そういう用でないことだけはクルトにもわかった。

「うーん。なんだか荷物が届いたって話ですけどー」

 ルーナと話しているうちに事務員がやってきた。

「荷物を在学生のルーナ氏とクルト氏宛にということでお預かりしています。サインを」

 眼鏡を掛けたキツい風貌の女性が書類を渡してきた。クルト達はそれを受け取り、自分達の名前を書いてから返す。

「あの、その肝心の荷物が見当たらないんですが………」

「荷物ならそちらに」

 女性は事務窓口がある一室の片隅を指差し。すぐ後にその場を去る。

 女性の指の先にはかなり大きな木箱があった。物が大きすぎてクルト達はそれが荷物だとは気が付かなかったのだ。

「な、なんなんでしょうねー、これー」

 木箱を開けもせずに怯えるルーナ。クルトから見ても怪しい物なので仕方がないか。

「とりあえず開けてみよう。大学の事務が危険な物を放置するはずが無いし」

 持ち帰るにしてもかなりの大きさなので、その場で中身を確認してみることにする。事務側もクルト達の行動を見越したからこそ、木箱を事務窓口の隅に置いたのだろう。

「よっと。固いな………。うん? これは」

 木箱の蓋を開けたクルトの目に映ったのは、装丁された本の束だった。何冊もある本が木箱の中に詰まっていたのである。

「わー、凄いですよこれー。全部、魔法研究に関わって来る資料ですよー。それもみんな高価! ほら、これ、大学の図書館にだって無いんじゃないですかー!」

 嬉しい悲鳴とやらを上げるルーナ。確かに木箱の中には、クルトの様な学生には手に入れることができない貴重な教本や、多くの魔法研究内容をまとめた資料などが入っていた。

「なんでこんなものが僕ら宛に? あれ、手紙がある」

 本に目を取られて気が付かなかったが、本の束の上には手紙の様な物が存在していた。

「ええっとー。遺跡の件でのお礼って書いてありますねー」

 ルーナが手紙の内容を話す。

「遺跡でのお礼……。ああ、なるほど、これが例の口止め料か」

 漸くクルトは、この木箱の本がスガルから送られてきた物だと言うことに気が付いた。

 スガルは遺跡での一件についてクルト達が黙っている様に願い、その代わりに口止め料か迷惑料を送ると話していた。

「魔法使いへのお礼は魔法に関わる物をーって感じなんでしょうねー。欲しいものがあったらもらっちゃいましょー」

 本の束を見て喜ぶルーナ。クルトもこういった贈り物は嬉しい。多くの情報が入ってくるのは大歓迎である。

「とりあえず生徒組合辺りにでも運ぼうよ。いらない物があれば組合の蔵書にでもすれば良い」

 一度に運べる量では無いため何度も往復することになるだろう。結構な労働量だが、人間一人を町まで運んだあの時のランダル程ではないのだ。そう思って納得することにした。


 生徒組合宿舎にて、クルト達は本の仕分けを行っていた。役に立つものと役に立たないものが混ざっており、それを判断するためには中身を読まなければならないのだ。

「あー、ちゃんとわたしの話も覚えててくれたんですねー」

 本の仕分け作業をしていると、ルーナが突然そんなことを言い出した。

「うん? 何かあったの?」

「これですよー、これー」

 ルーナは現在確認作業をしている本を指差す。題名は『神への信仰』。どうやら宗教について書かれた物らしいが。

「それが何か?」

「これ、古代にあった自然信仰について各地を回って調べられた本なんですけどー。この前の遺跡でわたし、古代にあった自然を崇める宗教について知りたいって話したじゃないですかー」

「ああ、そう言えばそんなことを」

 その話はスガルが良く知らないということと、すぐ後に襲撃者に襲われた件ですっかり忘れていた。ルーナは古代の宗教について興味を持っていたはずだ。

「この本、魔法研究とは直接関わりが無い様に見えて、わたしが研究題材にしようとしていたものにぴったりの資料なんですよー。わー」

 本当に嬉しそうだ。彼女がこういう風に喜ぶことを予測して本を送って来たのだとしたら、スガルの王としての才能は十分にあるということだろう。人の上に立つ者の条件の一つは、どれだけ人を喜ばせられるかを知ることにあるのだから。

「でも、古代の宗教なんて調べてどうするの? 遺跡にあった石画を見てからそんなことを言い出したけど」

「わたし、ラミ教という宗教が流行したから魔法技術の断絶が起こり、古代魔法が失われたと思ったんですけどー」

「ラミ教はむしろマジクト国の文化に受け継がれていて、技術進歩はラミ教が流行ってからの方が進んだって話じゃなかったっけ?」

 宗教により当時を生きる人々に意識改革が起こり、魔法技術が失われたというのは考えられる話だが、実際に技術が無くなったわけではない。むしろ今の方が発展しているのだ。

「そうなんですよー。そこが引っ掛かってー。技術云々が失われていないのだとしたら、いったい何が古代魔法をそう足らしめていたのかー………」

「それがわかれば苦労はないよね」

 その謎を解くために多くの魔法使いが研究を続けているのだ。

「わたし、それは多分、魔法の教え方によるものなんじゃあないかって思ったんですよー」

「教え方? 古代魔法は技術そのものじゃなく、魔法の使い方をどう教わっていたかに関係するってことなのかな?」

「はい。そうなんですよー。そこで出てくるのが古代の信仰なんですよねー」

 クルトにはさっぱりわからなかった。ルーナはいったいどういう考えを思い付いたのか。

「ラミ教が流行ったから古代魔法が失われたというのは正しい気がするんですよねー」

「でもラミ教は技術の発展をむしろ促進したそうだけれど」

「となるとですねー、技術や発見を重視するラミ教の教えより、神秘主義的な教えの中に、古代魔法の元が潜んでいるんじゃないかと考えられますよねー」

「へえ、それで?」

「魔法は昔から奇跡だったり神秘なんかと結び付けられてきましたけどー、ラミ教が流行したせいでその風潮は少なくなるわけですよー。それと同時に古代魔法が失われたということはー」

「ことは?」

「迷信と思われていた様な考えの中に、偶然、魔法を上手く使える修練方法が存在していたんじゃないかとー………。なんだかさっきから人の話を聞いてない様な気がするんですけどー」

 話を途中で止めるルーナ。そして今度はクルトの態度に文句を言い始めた。

「失礼だなあ。ちゃんと聞いてたよ? 古代魔法と……神秘的なそれがあれで」

「全然聞いてないじゃないですかー! もう! 今の話が一番重要なんですよー?」

「ふうん」

 とりあえずルーナの話を真剣に聞く気は無いのであるが、聞いているフリだけはしようとクルトは考えた。

 魔法研究をして来なかった彼女が、漸く興味の対象を見つけたのだ。その勢いを削ぐ様なことはするまい。そんな優しさこそが魔法使いとしての手伝い方であった。



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