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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの手伝い方
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魔法使いの手伝い方(3)

 光が弱くなりクルトに視界が戻って来る。まるで突然太陽が遺跡内部に現れた様な輝きだったというのに、今では嘘の様に光は失われていた。いや、まだ残っている。

「壁の線が光ってる……。防衛魔法が発動したのか?」

 漸く物を見られる様になったクルトの目に映るのは、遺跡の壁すべてに彫られた線だった。壁の様式としか思えなかったそれだが、どうしたことか、今ではそのすべてが光を放っていた。遺跡が過去の遺物から、魔法施設へと息を吹き返したかの様だ。

「ふぅ。突然の光で目が潰れるかと思ったぞ。ランダル。外のやつらはどうだ」

 クルトと同様に光によって視界を奪われていたらしいスガルは、真っ先に身の安全に関わる事項について確認する。

「外というか、扉が開かなくなりましたな。扉を破ろうとする勢いは無くなったみたいですが」

 ランダルはもう既に扉を押さえつけていない。動かす腕さえあれば扉を開けることができるという状況で何も起こらないのは、防衛魔法が発動した証明だろう。

「扉も魔法陣の一部と言えますから、防衛魔法が発動すれば開かなくなるギミックがあるんでしょー。あとたぶん、遺跡の外側は魔法による防壁が出来てると思いますから、暫くは遺跡に近づくこともできないんじゃないでしょうかー」

 ルーナは自分が発動させた魔法陣を見て話す。外の様子がわからないせいで状況がいまいち掴めないが、恐らくはルーナの予想は当たっているのだろう。

「暫くと言うが、具体的にはどれくらいの時間を稼いだと思うね? 一旦身の安全が保障されると、次への不安が湧いてくるのだが」

 飄々とした様子のスガルであるが、内心は襲われた場合の心配で恐怖していたのかもしれない。

「さあ……。結構な魔力が放出されましたから、暫くは大丈夫だとしか言えませんねー。あ、これお返ししまーす」

 ルーナは手に持っていたスガルの外套を返す。肩の飾りにあった宝石の殆どは無くなっていた。すべて魔力へと変換されたのだろう。

「まさに時間を稼いだだけということか。この後どうするか。それが肝心だな……………。ランダル。何か良い案はあるか?」

 考え込むスガルであったが、自分では何も思い浮かばなかったらしく、他人に助けを求めることにした様だ。

「槍と弓と頑丈な防壁。あと数人の兵士を用意できれば敵を撃退できるかと」

「駄目だ。まったく役に立たん」

 真面目な顔をして答えるランダルを見て、話を聞く相手を間違えたと判断するスガル。

「……この遺跡は籠城に向きませんよね」

 一方、クルトは周囲の人間がこういう状況で助かる方法を思い付けるとは思っていなかった。なのでなんとか自分で状況を打開する方法を考える。

「ああ、籠城に必要なのは何より飯と飲み物だ。この遺跡はそれを用意できない。食堂ならあったが、あそこにある食材置場程度じゃあ何日も引き籠るなんて無理だろうなあ。そもそも今じゃあ食料自体がない」

 そういう知識はあるらしいランダル。正しく兵士なのだろう。立ち振る舞いからしてまるで騎士だ。

「籠城云々以前に、防衛魔法の時間が切れる方を心配した方が良いんじゃないですかー?」

 魔力は無限ではなく何時かは無くなるもの。そうなれば、もう一度魔法陣を起動させることはできない。用意できる宝石がもう無いのだ。

「今の話じゃなくて昔の話だよ。籠城に向かないのに、防衛魔法が存在するのはどうしてだろうって考えてさ。逃げるまでの時間稼ぎのために存在するんじゃないかな」

 防衛魔法は長期間遺跡内部で引き籠るためのものでなく、敵の侵攻を留めて置いて、その隙に遺跡から逃げ出すためのものではないかとクルトは考えた。

「しかし入口は一つだろうに……。いや、それもおかしいか。これだけの規模の建築物に、出入り口が一つだけというのはどうにも」

 スガルも気が付いたのだろう。まだ存在するのだ。この遺跡への出入り口が。

「今まで行われた調査で見落とされた何かがあるんですよ。きっと。探してみましょうよ。今はそれ以外方法がない」

 何もせずにいれば防衛魔法が切れて、外にいる何者かの襲撃を受ける。そうなればクルト達に未来は無い。

「しかし探すと言ってもどこを………」

 扉を押さえつける必要が無くなったので、体では無く頭を働かせているランダルであるが、その効果は薄い。

「地下じゃあないですかー。非常用の脱出経路をつくるなら、だいたいは地下とかに作るのが浪漫ですよー」

 笑顔で話すルーナ。しかし浪漫とは。

「まあ、魔法使いのための施設ってことは、建築にも魔法使いが関わってるはずだろうね。なら、浪漫やらなんやらを反映していてもおかしくはないか………」

 ルーナの言葉を否定できないのがクルトの辛いところだ。なんとなくだがクルトも地下の脱出路というのに夢を感じてしまうのである。

「それでは地下を調べてみよう。長話をしている内に魔法が切れるというのは、なんとも間抜けだろうしな」

 何時の間にかスガルが中心となって動くこととなった。何故だろうか? こういう姿が酷く似合っている様にクルトは感じてしまった。


 地下に降りてみると、遺跡にあるであろうもう一つの出入り口をすぐに見つけた。クルト達の調査能力が先の調査団より優れていたわけではない。その出入り口は防衛魔法が発動すると姿を現す様に作られていたからだ。

「防衛魔法を発動させる魔力の一部が、この地下に流れる様な形になってるんでしょうね。まさか転移用の魔法陣まで存在するなんて………」

 クルトは光り輝く魔法陣を見て呟く。

 遺跡の地下部分は実験室か物置に使われていたと推測していた。しかしその物置部分の地面には見えない形で魔法陣が敷かれていた様である。そうして今は遺跡の壁と同様に流された魔力によって輝き、そこに魔法陣があるとクルト達にも一目で分かる様になった。

「考えてみれば、緊急用の脱出通路が緊急時に見つかり難くなっているわけないな。それで、これは間違いなく転移用の魔法陣なのだな?」

 スガルは恐る恐ると言った様子で魔法陣を指さす。あまり見たことが無いのだろう。人を転移させる魔法陣はそれほど一般化されていない。

 二点の位置を繋ぐ魔法陣を作らなければならないし、陣そのものを書く場合は職人じみた技術が必要である。

 そうまでしても転移を行うには魔力が必要であり、魔法使い以外が気軽に転移するのは難しい。尚且つ転移距離も長距離は不可能である。転移魔法自体は存在するが、まだ実用段階ではないというのが、現代に生きる魔法使い達の認識だ。

「転移魔法のための魔法陣は見たことがありますけど、それに似てますね。こう防衛魔法によって囲まれた遺跡から、内部にいる人間が脱出しようとする場合は、確かに転移魔法が最適かもしれない。施設を使う人間なんて魔法使いだけだろうし」

 ただしこの魔法陣がどこへ繋がっているかわからない以上、迂闊に使うべきではないとクルトは考えていた。

「この遺跡が残っている以上、脱出先の魔法陣も残っている可能性はあるんじゃないでしょうかー」

 一方でルーナはこの魔法陣を使って転移する気でいる。まあ、このまま待っていたところジリ貧だ。ならば転移魔法に賭けてみるのも手か。

 クルトがそう考えなおしたころ、ランダルが手を上げて質問をしてきた。

「もし転移先とやらが既に無かったり、魔法陣に不備があったりすると、我々はどうなる?」

 まあ当たり前の質問だ。知らなければ誰だって心配する。

「魔法陣自体に不備があれば、そもそも魔法陣は起動しません。今はこういう風に魔法陣が動いているってことは、この魔法陣は正しく機能してるってことです」

 なので魔法陣の不備を疑うことはできない。今クルト達がこの魔法陣に触れれば、必ずどこかへと転送させてくれるだろう。

「では転移先とやらに魔法陣が無ければ? 確か魔法陣で二点を結ぶことによって転移魔法は完成すると言う話だったが」

 まだ質問を止めないランダル。彼も転移魔法には及び腰なのかもしれない。

「ええっとー。それはちょっとわかりませんねー」

 答えたのはルーナだった。内容もクルトが返そうとしていた言葉と同じだったので文句は無い。あったのはスガルだ。

「わからないとはどういうことだ。お前たちは魔法使いだろうに」

「だって仕様が無いんですよー。2点を結ばずに単体で転移魔法を使った人達の中でー、戻ってきた人が残念ながらいないんですもん」

 魔法陣一つだけで転移魔法を使った場合、転移はするが転移先が無いためにどこへも辿り着かない。転移をしているのだからどこかに移動していると思われるのだが、そのどこかへがどこなのか。現代でもわからないため、消えてしまった人間は一応死亡したことになる。

 これは一般的に転移魔法が使われていない大きな理由の一つだったりする。要するに事故が起こった場合は高確率で死んでしまうのである。

「………なあ、本当にこれを使って脱出しなければならんのか?」

 怖気づいたらしいスガル。その気持ちは分からなくもない。何百年かもっと前の魔法陣に命を託すというのは、あまりにも心許ない行為である。

「けど、やらなきゃどうせ襲われるんです。そうだ、転移に無事成功したら教えてくださいね。あなた方がどういう人間で、どうして襲われてるのか」

 そう言ってクルトは魔法陣に手を触れた。こうしなければ、他の者が魔法陣に触れることは無いだろうと考えた。

 視界が揺らぎ、クルトは再び光の中へと放り出される。


 地に足がついたとクルトが感じた時、既に光ではなく別の物が目に映っていた。壁である。それもただの壁でない。様々な絵が描かれた石画だった。

「凄い。随分と昔の物なんだろうけど、まだ染料が残っているし、ちゃんとどういうものかも一目でわかる」

 石画にはストーリー性があり、尚且つ知識が無くとも感覚でどういう物語なのかが分かる様になっていた。芸術以上に技巧が凝らされているのだ。

「こういうのがあるってことは、ここは天国。ってわけでもないよね。となると遺跡からの脱出路なのかなここは」

 転移魔法による脱出先にこの様な物を作るというのはどういう趣向だろうか。クルトは首を傾げながら石画を見る。

「ええっと、まず最初に神様みたいなのが世界を二つに分けると。そして僕らが住んでいるのは片側の世界で、もう一方に神様が住んでいる。神様は時々もう一方の世界から僕らの世界に奇跡を起こす。その奇跡を真っ先に享受するのは王様? 司祭? まあそういう人種である。みたいな感じだね」

 かつて遺跡を作った文明の権力者。その正当性を証明するための石画なのかもしれない。

「わっ」

 石画を見るクルトの背中から声が聞こえてきた。ルーナ達がクルトを追って転移してきたのだ。

「なんだ。ちょっと遅かったね」

 クルトは転移をしてからルーナ達が現れるまで石画をじっくり見ていた。つまりそれだけの時間、ルーナ達は転移魔法を使うことを躊躇っていたということだ。

「あたたたー。だってー、クルトくんがすぐに帰ってこないせいでー、やっぱり事故があったんじゃないかって空気になってたんですよー」

 転移の際に尻餅を突いたらしいルーナが、腰を擦りながら話す。

「そう言えば安全だと確認できたら、一度遺跡に戻れば良かったんだね。そうすれば危険な賭けをするのは一人だけで済む」

 ただクルトは転移先で石画に目を奪われていたため、そこまで知恵が回らなかった。結局、全員で転移みることになったらしい。

「まったくだ。文句の一つでも言いたいが、とりあえずは命の危険が無くなったのだから言わないでおこう」

 尊大にスガルが話す。偉そうなのであるが、どうしてだか苛立ちを感じない。

「だって転移先にあったのがこういう石画ですよ? そっちに興味が移るのが自然じゃありません?」

「石画? ほう、この絵のことか」

 スガルは石画を見上げる。ルーナとランダルも同様だ。

「なんというか、神秘性を感じますねー」

「神秘性というより宗教じみているな。この司教らしき人間に神の奇跡が独占されている様にも見える」

 ルーナの素朴な感想に文句をつけるランダル。斜に構えた発言であった。

「まあ、そういうもんだろうさ。俺達一族だって、国を治める正当性は我にありなどと宣言しているわけだし……あ」

 失言をした。そう気づいたスガルは口を手で塞ぐ動作をする。しかしもう遅い。

「やっぱり王族の人だったんですね。スカイっていう姓が偽姓だとすると、本名はスガル・マジクト……って、第一後継者じゃないですか!」

 自分で言ってから驚くクルト。

 現在マジクト国を治める王ガーナン・マジクトは、既にかなりの老齢であり、次期後継者である自らの息子にその権威と権力を譲っていると伝聞されている。その息子の名前こそスガル・マジクト。実質、マジクト国を支配している存在だった。

「ううむ。まあ、そういうことだ。すまんなランダル。バレてしまった」

「時間の問題だとは思いましたがね。あなたは少し喋り過ぎる」

「喋らん王に何の価値がある。喋るからこその威厳や威光だろうに」

 話すスガルとランダルに、何も言えないクルト。格上という言葉ですら過小な評価になる相手であることが今さらわかり、腰が引けていた。

「もしかしてクルトくん、緊張してたりするんですかー? 王族だっていうのは、薄々勘付いていたんですよねー?」

 クルトの様子を察してか、それでも空気を読まずにルーナは話し掛けてきた。

「王族って言ってもたくさんいるじゃないか。この人は王様の次に偉い人なんだよ?」

 というか順当に行けば王になる立場の人間だ。

「その点が疑問なんだが、王族であるというのはどうして気付いた? まあスガル様の言動に問題があったのはわかるが、確信できる程のものでもないだろう」

 ランダルは自分の護衛する対象、その立場がすぐ判別できるとなれば問題だと思っているのだろう。

「豪華な馬車だったりスガル様自身の言動だとか、嫌でも分かる部分はたくさんありましたよ? 確信できる程じゃあないなんて良く言えますよね。ただ、一番そうだと思えたのは、あなた自身を見てからなんですけど」

 クルトはスガルでなくランダルに向かって話す。スガルが王族であるという証明に、もっとも貢献したのはランダル自身だった。

「なに? 私は極力そういう言動は控えていたと思うが」

「いや、僕、あなたをどこかで見たことがあるなって思ってたんですけど、すぐに気が付きました。王立騎士団の庁舎で見たんですよ。あなたの顔を」

「お前は騎士団庁舎内に入ったことがあるのか!?」

 思いも寄らないところから身分がバレたと知って驚くランダル。

「一度だけですけどね。騎士団庁舎にいた人間が、別の場所で明らかに身分の高そうな人の護衛をしてるんですよ? 護衛の騎士と王族のだれかなんだってすぐに気付きました。ランダルさんも、どうせ何時もはウォーカー何々だって名乗ってるんじゃないですか?」

「……ウォーカー82だ」

 ウォーカーとは確か騎士団内で下っ端を意味する言葉だったとクルトは記憶している。王族の護衛なども仕事の内だったはずだ。

 その王族の誰かがスガル・マジクトだとは今さっきまで気が付かなかった。名前だけで判断すれば普通に辿り着ける答えだったのに。

 もう少し頭を迅速に動かす必要があると考えるクルト。

「それはバレても仕方あるまい。俺のせいではないな」

 責任追及を逃れようとするスガル。しかしそもそもクルトが王族ではないかと疑ったきっかけは、彼の風貌や所作のせいである。

「そもそも、なんであなたみたいな人がこんな場所に」

 一応遺跡は王族管理の場所なのであるが、だからと言って国家の最高権力者が来る場所でもあるまい。

「なんと説明すれば良いか………。単純に言えば権力闘争の一端と言ったところか」

「単純に言い過ぎな気もします」

 言われたところでクルトには何が何なのかさっぱりわからない。

「遺跡のあった場所が、都市開発の候補地になっているのは知っているな?」

「ええまあ。というかそれに関わる監査の名目で、僕らは立ち入りを許可されたんですから」

 だがその計画が本格的に動き出すのは、もっと先の話であるというのも知っている。

「候補地ということは、別案が幾つかあるということだ。ここよりもっと開発に適した土地もある」

「ならそれこそ遺跡に来る意味が無いじゃないですか。適した土地とやらに出向けば良い」

「それはもう他の貴族や王族がやっているんだよ。忌々しい話でな」

「はあ?」

 ならばそもそもスガルが動かなければ良いと思うのだが、そうでもないらしい。

「王家というのは国家に関わる仕事というものに可否をつけなければならん。下から上がってきた書類に最終的に判を押すのは我々だし、都市開発計画なんてものがあれば、それに対してなんらかの査察をする。しないでいれば問答無用で無能のレッテルを貼られる」

 うんざりした顔でスガルが話す。どうにも愚痴に聞こえてきたので、クルトはどうしたものかとランダルの方を向くが、彼は首を振るだけだった。黙って聞いておけということらしい。

「そういう場合、もっとも良いのは、良い結果を残す仕事に許可を与えることだ。最終責任が我々にある以上、その功績も我々が享受できるからな。今回の件で言えば、もっとも立地条件が良い候補地に対して計画進行の許可を与えることが一番の勝ちだと言える」

「でも遺跡周辺は森ですしー、遺跡自体も石造りですからわざわざ撤去するにも労力が必要ですよー。とても良い候補地とは言えませんけどー」

 ルーナがクルトの言いたかったことを代弁する。計画に適さず、立地条件も悪い。そんな場所にどうして王族が来るのか。

「だから俺は負けた側なんだよ。迅速に動き、真っ先に良い条件の土地を査察し、ここの条件が良いと断言できれば良かったんだが、先を越されたんだ。別の王族や貴族が他の候補地に対して既に評価をしている。ここは他の者も調べる必要はないと切って捨てられた場所ということだな」

「価値が低いとわかっているなら、そもそも見に来なければ良いじゃないですか」

「さっきも言っただろう。何もしないでいれば無能だの次期後継者に相応しくないだの言われるんだ。無駄足になるのがわかっているのに、それでもここに来る必要があったんだよ」

 仕事をしない奴と見られるより、仕事をしたけど役に立たなかったと言われる方が幾分かマシということか。権力者というのも中々に大変だ。

「俺が正式な王であるなら足を運ぶ必要も無いんだろうが、あくまで俺は後継者の一人でしかない。王で無い以上、文句を付けられる隙があるのさ。その隙を作らぬためにここに来たと言った方がわかりやすいか?」

 わかりやすくは無いが、相手が理解し難い立場にいるということだけはわかった。王族やら貴族やらと言った人種は遠い存在だとクルトは感じる。自分も姓を持つ立場であることを棚に上げて。

「それじゃあですねえ、あの遺跡で襲ってきた誰かって、もしやその都市開発計画に関係することで襲ってきたんですかねー」

 相手の立場とここに居る理由がわかった以上、次に気になるのはどうしてクルト達は襲われたのかと言う疑問だった。ルーナも同様に考えていたのだろう。スガルが話した都市開発計画に関わるいざこざと、襲撃された理由を結び付けようとした。

「いや、計画自体はまだ先の長い物だ。それに俺は計画に関しては後手に回っているから、敵意を持たれるということもあるまい」

「じゃあどうしてー」

「さあなあ。俺が死ねば違う者が王になれる可能性がなんて考える奴はいくらでもいるだろうし、最近じゃあ議会で紛糾している―――」

「スガル様」

 スガルの言葉をランダルが遮る。またスガルは何らかの失言をしかけたのだろうか。

「なにか秘密にしなければならないことが関わってるってことですか?」

 ここまでの話を聞けばそういうことなる。

「かもしれないという可能性だけだな。スガル様はこれでも次期王位継承者だ。暗殺される理由なんて数えきれんほどある」

「そう言われると何か俺がすごく悪い立場に聞こえるのだが………うん!?」

 不満気なスガルの顔が、突然クルトの視界から消える。いや、スガルの顔だけで無い。周囲も暗闇に包まれた。

「な、何があった!?」

 真っ先に混乱した声を上げたのはスガルだった。視界から消えたが、その場からいなくなったわけじゃあないらしい。

「多分、光源だった魔法陣の光が消えたんですよ。待ってください。今明かりを付けます」

 クルトは愛用の杖に魔力を送り、その先端に付いている緑光石を輝かせる。

「おお、驚いた。いきなり真っ暗になるから何事かと思った」

「多分、向こうの遺跡で起動していた魔法陣の効果が切れたんじゃないですか? だからこっちの魔法陣の輝きも消えた」

 思った以上より早いと感じるクルト。そう何時までも遺跡の防衛魔法は長続きしなかったということだ。

「まだわたし達って、襲撃者から逃げている途中ですよねー。とりあえず話は中断して、この場から移動しませんかー?」

「そうだったそうだった。まだ逃げ切れたとはわからんからな。クルトとか言ったか、先導を頼むぞ」

 スガルはクルトを指差す。その失礼な動作にクルトが不快感を覚えなかったのは、相手が正真正銘目上の者だからだろう。



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