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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの手伝い方
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魔法使いの手伝い方(2)

 一旦遺跡の外に出たクルトとルーナ。その目に映った光景に一瞬目を奪われた。非常に豪奢な馬車が遺跡の前に止まっていたのだ。すべてが金属か貴金属か、それか宝石で出来ている。馬だって3頭引きだ。その場所の周囲には、馬に乗り剣を携えた兵士らしき人間もいる。馬もセットで3人も。

 そしてそのうちの一人がクルト達へ近づいてきた。

「おい貴様等。こんなところで何をしている。ここは一般人立ち入り禁止の場所だぞ」

 馬の上から威圧的に注意された。あなたはどうなんですかとは聞かない。明らかに相手は一般人ではないからだ。

「あ、あの。僕達はこの遺跡の調査に来た魔法使いで」

 こちらを怪しむ兵士への状況説明はクルトがすることになった。ルーナの方はどうにも萎縮してしまっているらしく、頼りにできない。

「調査? 既に王家が行うこの遺跡の調査任務は終わっているはずだが」

「はい。そうなんですけど、ここに監査員認定証があって、それで調査の許可を」

 クルトは荷物から開発計画監査員認定証を取り出す。

「監査員の認定証? それは都市開発のための物だろう。魔法使いがどうして………」

 あからさまにこちらを疑ってかかっている。どうすれば良いものか。

「おいおい。待て待て。怪しむ前に認定証を良くみてみろ。本物なら嘘じゃあないんだろうさ」

 と、突然馬車の中から声がした。声と同時に馬車の扉も開く。馬車に似合わぬ金属の擦れるギギギという音が鳴り、馬車の中から現れる一人の男。

 服装からして只者ではない。すべてが絹糸で出来ているのではないかと思える光沢を放ち、金色の刺繍がそれを尚際立たせる。本人の体格もあるのだろうが、肩幅の広い外套は肩の飾りつけと合わせて圧倒される雰囲気を放っていた。

 恐らくは生半可な立場の人間ではあるまい。顔つきは中年オヤジと言った風なのに。

「は、はい。わかりました。少年、少し貸して貰うぞ」

「ど、どうぞ」

 兵士とクルト二人して、現れた男に驚いている様子。クルトならともかく、どうして男の護衛らしき兵士が驚くのだろうか。

「確かに印も様式も偽物には思えん。しかし、この様な子どもの魔法使いがどうして………」

 子どもは余計だとクルトは思う。それにもう子どもに見られる様な年齢でもあるまい。見た目はともかくとして。

「認定証が本物なら嘘じゃあないと言っただろうに。良くあるんだよ。当初の目的から外れた方法で、貴族が子飼いの部下に利益になりそうな許可を与えることが」

 男は自らの予想を話す。まったくの正解であった。

 クルトは貴族から開発計画監査員などという充職を貰い、古代魔法が関わる遺跡調査という、その本来の用途から離れた使い方をしていた。

「それはそれで宜しいのですか?」

「ああ、良い良い。貴族との揉め事なんて少ない方が助かる」

 鬱陶しそうに男は話す。貴族との揉め事と言うが、男自身も見るからに貴族である。

「あ、あのう。それで、そちらはどの様な用件でこちらにー? もし邪魔にならないのであれば、わたし達は遺跡調査を再開したいんですけれどー」

 漸く話す余裕が出てきたのかルーナは喋りだす。先ほど遺跡調査へのモチベーションが上がってきていたからか、調査の再開を希望している。

「こう言っていますが、どうしましょうか?」

 ルーナの話を兵士は男へと伝達する。直接聞こえぬ距離でもあるまいに。

「良いんじゃないか? 別に邪魔にはならんだろう。どうにもアテが外れた場所だしなあ」

 男は遺跡周囲を見渡して答える。あまりこの場所に良い感情を抱いていない様子。

「それではすぐに次のご予定を―――」

「あーそうだな。それも癪に障るし………。そうだお二方。これから時間に余裕はあるかね?」

 クルトとルーナを見る男。名案が浮かんだ。そんな顔をしていた。

「まあ、この認定証が有る限り、調査は何時でもできますから………」

 認定証は1ヶ月という期限付きのものなのだが、遺跡の場所がアシュル近くというのもあり、何時でも来られる場所だった。

「いや、調査を邪魔するつもりはないが、それに俺が付き合いたいと思ってな。ああ、そうなると邪魔になるかもしれん。どうしよう」

 自分で言って自分で悩みだした。こちらがどうしようと言いたい。

「解説しながらの調査とかなら良いですよー。そっちの方がわたし達も考えがまとまりますしー」

 男の話に乗ったのはルーナだ。説明しながらの調査がはかどるということは無いのだが、こうでもしないと遺跡調査を再開できないと考えたのだろう。

「うん? 良いのかね? おいランダル。ちょっと俺はこの魔法使い達の調査とやらに付き合って見る。今後の予定とやらはそのさらに後だ」

「またですか? 一応、護衛として私が付きそうのであれば宜しいですが」

 慣れた様子でランダルと呼ばれた護衛の兵士が答える。クルトよりは年上だろうが、まだ若い青年だ。はて、この青年の顔。クルトはどこかで見た気がするのだが気のせいだろうか。

「と、いうことなんだが、良いか?」

「ええ、一人が二人に増えたところでどうということは」

 今度はクルトが答える。どうにもややこしそうな立場の相手だ。状況をさらに複雑にしかねない返事はしたくなかった。ただし一つ聞いておきたいことがある。

「一応、失礼が無ければ教えて欲しいのですが、あなたはどういう立場の方なんでしょうか?」

「俺か? いやあ、何。スガル・スカイという。小さな領地で領主をしている貴族だよ」

 ほらみろ、ややこしい相手だ。小さな領地の領主だから問題なのではない。恐らくそれが嘘だからややこしいのだ。

(小さな領地しか持たない貴族が、こんな豪華な馬車と護衛の兵士を引き連れてるわけないじゃないか)

 身分を隠さなければならない立場。スガル・スカイという男はそういう相手であることが伺い知れた。


「こういう3点に魔法陣が付いている部分は、それぞれが押す、引く、傾けるという機能があるんですよー。多分ポットか何かを置いて、位置を調整しながらお茶でも入れてたんでしょうねー」

 ルーナはスガルという男に遺跡内部の説明をしている。場所は食堂であり、遺跡としての価値がある魔法研究施設とは違う場所だ。

「ほう、それはまた横着な奴らがいたものだ。俺だって茶くらいは自分で………いや、人が入れてくれる方が多いかもしれんな」

 スガルは感慨深げに頷く。飲み物を人に入れて貰うことの方が多いとは、いったいどういう身分なのか。クルトはスガルの言葉からどうにかしてそれを知ろうとしていた。

「というより、こんな魔法陣を三つ用意してすることはお茶を入れるだけって、僕らでもしませんよ。それに今ならこれらの動作を一つの魔法陣だけで行えますし」

 クルトは魔法陣を睨みながら話す。やはりここでも古代魔法の不思議が見えてくる。技術的には現代より劣っているのに、魔法陣を複数用意してそれらを同時に発動させる。古代人自身の魔力が、現代人より優れていたとでも言うのだろうか。

「なるほどなあ。技術は日々進歩するということか。はて? そうなると、どうして魔法使いの君らはこんなところの調査を」

「ええっと、それはですね―――」

「あ、クルトくーん。見てくださいこれ」

 また古代魔法の謎について話をしなければならないのかと、クルトはうんざりした時、ルーナが何かを発見した様だ。

「壁の線がどうかしたの? 多分、そういう様式の壁なんだと思うけど」

 ルーナが指差すのは壁に彫られた線だった。一直線に伸びるそれは食堂中の壁に彫られており、普通に考えれば殺風景な部屋を良くする飾りだと思うのだが。

「わたしもそう思ってたんですけどー。実験室や図書室みたいな場所までこういうのが存在するんですよー? 何か不思議だと思いません?」

 建物の様式なんて統一のものだと思うのだが、ルーナはそう考えていないらしい。いったい何に引っ掛かっているのやら。

「貰った資料にはその壁の彫り物については何も書かれてないけどなあ」

「その資料を作ったのはどうせ王国が専門に雇っている者達だろう。高い給金を貰っているくせに、決まりきった調査しかせん奴らだ。細かい見逃しがあってもおかしくはあるまい」

 スガルは王家の内情を分かった風に話す。いや、これは確かに知識や経験で理解しているからこその言葉だ。となるとスガルは王家の関係者か。

「スガル様。あまりそういった言葉は使わぬ方が………」

 ずっと部屋の端の方で黙っていた護衛の兵士ランダルが言葉を発した。スガルを注意する内容の様だが、今の言葉に何か話してはいけない内容があっただろうか。

「うん? 別にあいつらの文句なんぞ……ああ、そういうことか。すまん自粛する」

 何かに気付いた様子のスガルはランダルの注意を受け入れる。何を自粛するというのだ。やはり王家について詳しく知っているという点を注意したのか。

「あのう。話を戻しても良いですかー?」

 じと目でクルト達を見るルーナ。せっかく新しい発見があったというのに、それを詳しく聞こうともしない連中に不満がある様だ。

「えっと、壁に彫られた線が怪しいんだっけ?」

 魔法に関わる話であれば相手ができるのはクルトだけである。従って、クルトが話し相手になる必要があった。

「そうなんですよー。遺跡の見取り図ってありませんでしたっけー?」

「うん。それは資料として貰ってるけど」

 手荷物から紙束を取り出し、その中から遺跡内部の地図が書かれた紙を探す。

「あ、これですこれですー。ここに書かれた遺跡の壁全部に線が彫られているとしますよねー。となると外側の線は全体的にこう、歪ながら円を書く形になるわけです」

 遺跡の見取り図を指でなぞるルーナ。確かに遺跡の外郭部分だけを見れば円に見えなくも無い。

「そして内部の線をなぞって行くと、気が付きませんかー?」

「………大きな魔法陣みたいだ。形が歪過ぎてどういう機能を有しているかわからないけど、これ、魔法陣だよ!」

 もし真実なら大発見なのでクルトは興奮した。遺跡全体が魔法陣になっているなど、王城で貰った資料には書かれていないのだ。

「うん? そうなのか? 魔法陣ならほれ、そこら中にあるじゃないか。デカくなっただけで、そう変わらんのじゃないか?」

 あまり状況がわかっていないらしいスガルは、クルト達の驚きを理解できずにいた。

「大規模っていうのが問題なんですよ。それだけの規模の魔法陣が作られた背景には必ず何かある。つまり古代人がどういう意図や技術を持ってこの魔法陣を作ったのかが伺い知れる可能性があります。そうすれば、古代魔法の謎についての手がかりになったりも―――」

「あ、この魔法陣がなんであるかわかりましたー。ちょっと期待外れでしたけどー………」

 盛り上がるクルトに反してルーナが暗い声で話す。どうやらクルトが期待する大発見では無かった様子。

「な、何がわかったの?」

 勢いを削がれた気分になったクルトは、振り上げた手で頭を掻きながら尋ねた。

「こういう魔法研究所みたいな施設なら、防衛用の魔法があるんじゃないかって話してたじゃないですかー。これ、多分それ用の魔法陣ですよー」

 ルーナは再び遺跡見取り図に書かれている壁を指でなぞっていく。

「それは……確かにそうであれば、遺跡全体で魔法陣が刻まれているのはわかるけど、そうでない可能性も少しは……」

 遺跡を防衛するための魔法陣であれば、遺跡全体に魔法を行き渡らせる必要があり、この大規模な魔法陣が用意された理由もわかる。ただ、もしその予想が正解だったとすれば大発見でもなんでもなくなってしまう。

「魔法陣の形ですけど、見た覚えがあるんですよねー。周囲に魔力の障壁を作る魔法陣ですよこれはー。つまり遺跡全体にバリアを張る魔法なんですよー」

 正真正銘、防衛用の魔法陣ということだ。非常に残念である。やっていることの規模は大きいが現代の技術でもできることであるし、わかったところで得る物は少ない。

「うーん。そうなると、せっかくこの遺跡に来たのに魔法研究に役立ちそうな情報な何も無かったことに………」

「えー、でも、わたし、少しは古代魔法に興味が湧いてきましたよー。研究題材もこういうのにしておこうかなーって」

 まるで励ます様にルーナは話す。実際クルトに気を使っているのだろう。

「ううん? 結局、面白い発見は無かったということか。なんだつまらん」

 他人事だからだろうが、スガルは本当につまらなさそうだった。わざわざ人の調査に付いて来ておいてその台詞はないだろうに。

「つまらないのでしたら、調査の見学はそれくらいにしておけば宜しいのでは?」

 スガルの言葉を聞き逃さずランダルが話す。彼としては、このスガルという男の暇つぶしに付き合うつもりは無かったらしい。

「おお、俺の一言がそういうことになるのか。ううむ。確かにもう本当にここで何もすることは無くなる。となると、もう帰らない理由も無くなるか」

 スガルは漸く遺跡から去るつもりになったらしい。正直、邪魔以外の何者でも無かったのでそれはそれで助かる。

「入口までの通路は覚えてます? なんだったら外まで送りましょうか?」

 遺跡はそこそこの広さがあり、壁に彫られた線が魔法陣の一部になっているためか少し道が分かり難い。見取り図を持っているクルト達なら良いが、さっき遺跡に来たばかりのスガルやランダルでは迷うかもしれない。

「頼めるか? 正直、魔法使いの遺跡というのはどうにも苦手意識がある」

 答えたのはランダルだった。魔法使いの遺跡に苦手意識があるというのはどういうことだろう。

「良いですよー。付いて来てくださいねー」

 見取り図を持たずに答えるルーナ。もう遺跡内部の構造を把握しているのだろう。クルトも現在地から入口までなら案内できる。

「しかしなあ。魔法というやつはもっと神秘的なものかと思ったが、なんというかこの遺跡のは生活臭がしてくるな」

 入口に向かう途中でもスガルは興味と文句の言葉を続ける。話し続けることが得意なのだろうか。

「片手間程度で魔法陣を動かせるってのがもう僕らと感覚が違うんですけどねえ」

 一応スガルと話はするもののクルトは投げやりだった。これ以上、この遺跡で新発見は無さそうなのだ。興味があればやる気がでる魔法使いであるが、興味が湧かない以上、クルト達もそうそうにこの遺跡を去ることになりそうだった。

「もう玄関近くですね。僕らはどうしようかな」

 もう暫くは遺跡の調査をしておくべきだろうか。万が一にでも防衛用の魔法陣の様な、クルト達にしかわからない発見があるかもしれない。

 そう考えながら遺跡の扉を開けたクルト。その目に映った光景にクルトは一瞬、思考を止めてしまった。

「………なんだそれ」

 漸くそんな言葉が出てくる。クルトの目に映った物。それは人が地面に倒れている姿だった。数の3体。2体はスガルの護衛をしていたはずの兵士。もう一人は馬車の御者だ。

 外で待っていたはずの人間すべてが地面に倒れている。ついでに馬も。倒れている先の地面は赤い。なんだあれは。血なのか? あの量を流したということは、とてもではないが生きて行けないはずでは。

「………ひ、人が死んでる」

 やっとそのことを理解した。人が3人も死んでいた。何故? 事故か? それとも殺された?

「危ない!」

 クルトは突然、横に飛ばされた。その衝撃にクルトはさらに混乱するが、なんとかクルトを飛ばした人間がランダルであることがわかった。

「い、いったいな……に…を」

 クルトは今まで自分がいた場所を見る。そこには一本の矢が転がっている。石造りの床に跳ね飛ばされたらしいそれであるが、床は矢の勢いのよって削れた後が残っており、もしクルトがそのまま立って入れば、それがそのままクルトの肉体に突き立てられていたことだろう。

「くっ! 襲撃か!」

 ランダルは素早く遺跡の扉を閉めて、自分の体で扉を開かぬ様に固定する。

「襲撃!? な、なにがどうなってるんですかー!」

 ルーナは唐突な状況の変化に混乱する。遺跡の外から明らかにこちらを害する目的で矢が飛んできたのだ。そういう反応にもなる。

「おい、お前! この遺跡に、この扉以外の出入り口はあるか!」

「え? いや、見取り図にある入口はここだけですけど……。だからいったい何が起こってるんです!?」

 ランダルに怒鳴られて咄嗟にクルトは答えるが、今はそんな話より現在の状況が知りたかった。

「だから襲撃だよ。俺達は何者かに襲われたんだ。入口がここだけってことは、とりあえず扉さえ塞いでいれば身は守れるか………」

 何故か一人冷静なスガルが説明する。だから何で襲撃されているのかを聞きたいのだが。

「いえ、それも時間の問題でしょう。それも早急にどうにかしなければ、大変なことに……うぐ!」

 扉を押さえているランダルが呻き声を上げる。遺跡の外側にいるであろう何者かが、無理矢理に扉を開けようとしているらしい。今はランダルの力と拮抗している様だが、様子を見るに何時かは破られるだろうということはクルトにも知れた。

「おい、鍵やつっかえ棒みたいなもんはここに無いのか」

「そんなものがあっても、他に調査に来た人間がどこかへやってますよ! もう既に何度も調査された場所なんですよ!」

 扉の外にいるかもしれない相手は明らかに危険だろう。一瞬見た外の風景が正確ならば、人を殺すことに躊躇をしない人種である。

「くそ。そうなると俺達はこの遺跡の中ですぐにでも殺されることになるな。恐らく相手は一人二人と言った人数ではあるまい」

「……同僚二人が抵抗できなかった様子を見るに、二桁は固いかと」

「そうかあ。俺達も抵抗するのは難しそうだな」

「何を暢気にそんなことをー!」

 さすがにルーナもこの展開には怒っている様子。命が掛かっているのだ。

「事情の説明なら時間がある時にできなくもないが、今は肝心のそれがない。おっと! 今度はかなり強いな、複数人で体当たりをしてきたみたいだ」

 一瞬、苦痛の表情を浮かべるランダル。暢気に見えて、かなり必死に扉を押さえているのだろう。

「扉を開かない様にする何かでも良い。そうすれば時間だけは稼げる」

「だからそんな都合の良いものありませんよ」

 慌てた様子のないスガルであるが、それでもクルトに状況をどうにかする方法を聞いてくる。ただクルトだってそれが知りたい。

「……待ってくださーい。もしですよ? この遺跡の防衛魔法を起動することができたら、とりあえずの安全は保障できるんじゃないでしょうかー」

 名案だとばかりに話すルーナであるが、それができれば苦労はない。

「古代魔法だよ? 魔力ばっかり必要で少しも効率化できてない大魔法陣を、僕らでどう動かすの!?」

 古代魔法を使うというのは結構容易い。何故なら現代の魔法ほど複雑ではなく、必要な技術水準も低いからだ。一方その対価として圧倒的な魔力が必要だった。それを用意できる状況ではないはずだが。

「非常用の魔力が貯蔵されてれば良いんですけどねー。まあ、そんな技術があれば現代でも重宝されてるはずですけどー」

 魔力は常に流れる物であり、どこかへ留めて置くということは難しい性質を持つ。現代の技術でも少量の魔力を留めて置くことしかできない。それも短期間で拡散してしまう。もし大量の魔力を保存できる技術が確立されれば、それだけで魔法世界に革命が起こることだろう。

「ほ、本当に方法は……くそっ、何も無いのか!」

 ランダルが押さえつけている遺跡の扉が何度も揺れる。かなりの衝撃なのだろう。ランダル自身もかなり苦しそうであった。クルト達も扉を押さえるのを手伝った方が良いのではないだろうか。

「魔力の代替になるものなら存在しますけどー。宝石とかそういう貴重なものですから実用的でないしー、そもそもこんなところにありませんよー」

 ルーナの言う通り、魔力を代替する鉱石というのは存在している。クルトが所有し、この遺跡にも存在する緑光石もその一つである。ただ緑光石を魔力の代替にしたところで遺跡の魔法陣を動かすには不足している。光源にするのはなかなかに便利なのだが。

「宝石? どいうものだ」

 スガルが顎に手を当てて聞いて来る。

「純度の高くて大きな宝石の多くは、しかるべき方法で魔力へと変換できるって習ったことはありますけど、実際できるかどうかは………」

「そうなのか………。宝石ならあるが、やり方がわからんならどうしようもあるまい」

「宝石があるんですかー!? もしかしたらなんとかできるかもしれませんよー! 出してみてください」

 ルーナは驚きスガルに尋ねる。彼女は魔法使いとしての経験はクルトより上だ。宝石を魔力に変換する方法を知っているのかもしれない。

「ほれ、俺の肩に付いてるだろう。これ全部ルビーやらサファイヤやらの宝石だよ」

 スガルは着ていた外套を脱ぎ、その肩部分に付いている光物を差し出してくる。

「全部宝石!? それだけびっしり付いてるのに!? てっきりガラス細工だとばかり………」

「おかげで重くて仕方ないがな。しかも悪趣味だ。どうだ、できそうか?」

 外套を脱いでも広い肩幅は、その無駄に高価な物に鍛えられたせいかと考えるクルト。

「それだけあれば、どれかは魔力へ変換できるかもー……。そうですねー。やってみます」

 ルーナは自分の荷物から白い石を取り出した。石灰石だ。これがあればどこでも魔法陣が書けるため、持ち歩いている魔法使いも多い。

 彼女はそれを使って壁に魔法陣らしきものを書いていく。

「それが宝石を魔力へ変換させるための準備?」

 知らない魔法陣であったためクルトは尋ねる。

「記憶があやふやなんですけどー、多分これでいけると思います。その外套を貸してくださーい」

 ルーナがスガルへ手を伸ばす。スガルはその手に外套を与える。

「わっ、とと。本当に重いですねー。これでなんとかー」

 外套の重さに体を傾けながらも、ルーナは外套の宝石がある部分を、書いた魔法陣の中心に押し付ける。

「お、おい! まだか! これは……さすがに!」

 ランダルが叫ぶ。既に自分の背中を使って扉を押さえつけているものの、扉には隙間が開き始めている。その隙間には、なにか木片らしきものが差しこまれようとしていた。

「大変だ! このままじゃ扉が破られる」

 外にいるであろう人間に心当たりのないクルトであるが、穏便な人間でないことは確かだと思われる。

「もう少しです。えーい!」

 魔法陣に起動用の魔力を込めるルーナ。ルーナの魔力に反応して、魔法陣は外側の円から輝き、そこから中心部分へと輝きが向かう。

 輝きが外套に付いた宝石に触れた瞬間。宝石も輝きだす。

「みなさーん。まぶしくなると思いますから、目を閉じててくださーい」

 ルーナの言葉は少し遅かった。既に宝石の輝きは周囲の空間を埋め尽くし、クルトの視界をすべて奪う。

 その光の中で唯一わかったことと言えば、光が魔力光であるということだけだった。


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