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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの手伝い方
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魔法使いの手伝い方(1)

 魔法使いの朝は不規則だ。魔法研究や授業に訓練。それらが予定通りに終わるということは少ない。一方で頭脳を使う作業が殆どであるため、睡眠時間を削るわけには行かない。いつだって頭をフル回転できる状況を作っておく必要があるのだ。

 よって起床時間が朝であったり昼であったり、はたまた夜になる時もあった。

 今日、クルトが普段泊まっている宿で起きたのは太陽が空の頂点に差し掛かる頃。先日、クルトの魔法研究に役立つ資料が多く手に入ったので、その検証やあらたな考察を続けていた結果、昨日はずいぶんと夜更かしをすることになった。

「ああー、まだ眠いよ。睡眠時間自体は何時もと変わらないのに、どうして遅く寝ると睡眠不足気味になるんだろう……」

 借りた部屋の中であくびをしながら大学へ向かう準備をする。この部屋にも随分と慣れた。目をつぶっていたとしても、どこに何があるのかが分かるくらいだ。

 持ち込ませて貰った事務机には研究資料や実験器具が乗っており、近くには身長に合わせた小さ目のベッド。それだけで部屋の大半が埋まり、申し訳程度に存在するクロゼットの中は、服が洗濯済みのものとそうでないもの両方詰め込まれていた。

「んー、このまま大学に向かうのも良いけど、眠気覚ましに街の散策でもしようかな」

 こういう時に限っては不定期に講義をする自身の師に感謝する。本日も大学外に出掛けているため、大学に行く行かないに自由があるのだ。とういうより自習だけであればこの部屋の中でもできる。

「坊やー! 起きたのかい! だったらちょっと下に来て欲しいんだけど!」

 どこからか声がする。宿の主人であるリネの声だ。豪快を絵に描いた女傑であり、張り上げる声は一階の酒場から二階にあるクルトの部屋にまで聞こえてくる。床と壁が薄いという理由もあるが。

「わかりましたー! すぐに降ります!」

 返事をしてから急いで身支度をする。こうやってクルトが呼ばれることは珍しい。リネはクルトの一日が不規則であることを知っているため、そのことについて深くは干渉してこないのだ。

 クルトが起きたことを察知して呼び出すということはあまりしない。

「なんだろう。何かあったのかな」

 寝巻用の皺だらけな服から外出用の皺だらけな服に着替え、クルトは酒場のある一階へ降りる。

 酒場『親方商売』のカウンターで、リネは何時も通り立っていた。

「ごめんね坊や。急かしたみたいでさ。けど、どうしても早く渡して欲しいって配達屋が言うもんだから」

 リネは右手に手紙らしきものをペラペラと揺らしていた。封は開けていない。封筒にはクルト・カーナ様あてと書かれていた。

「僕あての手紙ですか?」

「ああ。どこかの貴族様からの手紙らしくって、運ぶ方は随分と緊張してたねえ。ここらの配達屋は庶民同士の手紙配達ばっかりしてるから」

 一方でリネは雑に扱っている様に思う。あて先がクルトだからだろうか。

「しかし貴族か……。心当たりは、あるかもなあ」

「なになに? 魔法使いの坊やは貴族様とも繋がりがあるのかい?」

「もっぱら使われる側としてですけどねえ」

 封を借りたナイフで切って中身を確かめる。あて名はヒレイ・マヨサ。やはりそうかと思う。こういう手紙をクルトに送ってくる貴族なんてその人物しか知らない。

「マヨサ家……どっかで聞いたことあるねえ」

「ちょっと、覗かないでくださいよ」

 クルトの注意も聞いてない様子でリネは考え込んでいる。マヨサ家はマジクト国でも有数の権力を持つ大貴族なのだが、考え込んで思い出さなければならないくらいリネにとっては縁遠いのだろう。

「まあいいや。それよりその貴族さんがどうして坊やに手紙なんか」

 どうやら思い出すことを止めたらしい。まあ、貴族との縁が無くても生きて行ける人物ではあるのでそれで良いのだろう。

「この人から魔法研究の後援をして貰ってるんです。この前は研究費の増額を頼む手紙を出したんで、その返事なんでしょうね、これは」

 クルトは手に持った手紙を読む。内容は時候の挨拶から始まり、クルトからの手紙の内容がそこそこに面白かったこと。だから支援費の増額は考えても良いという旨が書かれている。

「よし! これで生活に余裕ができる」

「なんだかねえ。貴族様にお金の催促ができるくらいに坊やは偉いの?」

 いざとなれば頭を地面に擦り付けてでも支援費の増額を頼もうと考えていることが、偉いと表現できるのならそうだろう。

「うん? まだ続きがある」

 支援費の増額は検討するものの、そう大それた額を特別な理由もなく渡す自由はない。そう続きに書かれていた。

「なんだそれ。結局どうなるんだよ………」

 結局、自分をしっかりと後援してくれるのか否かが書かれていない。この文面だけを見れば、将来的には研究費用の足しにはなると思えるが、相手はやり手の貴族である。もう少し、まだ少しと支援費の増額を先延ばしにされるかもしれない。

「坊や。手紙の後ろに何か挟まっているけど、それはなんなんだい?」

 リネがクルトの持つ手紙を指差す。封の中には手紙の文面が書かれた物以外に、何か格式ばった型紙が入っていた。

「いったいなんでしょうね」

 とりあえずは型紙の方も取り出してみる。紙は金縁らしき様式がされており、真ん中には達筆な文面が少しと紅い印。

「似た様なものを見たことがあるよ」

「なんです?」

「この店のある土地の使用許可書」

 リネは型紙を指差して答える。アシュルの街は王領であるため所有権はマジクト王家にある。

 だからと言って王家が土地を自由に扱ったところで、使いこなせる量ではない。なので、ほぼ土地の購入と同じ理屈でしかるべき手続きと資金を払うことによって、土地の使用許可書が王城の行政機関から配布される。

 つまり今回クルトが受け取った型紙は、マジクト国の公文書と同じ見た目だということだ。

「ええっと、開発計画監査員認定証? なにやら物々しい名前ですけど………」

「手紙に何か書いてないのかい?」

「そうですね。続きはあります」

 内容としてはこうだ。人口の増加により懸念されるアシュルの治安悪化。その対策として、アシュル周辺の土地に新たな住民居住地の設置とそれに伴う店舗や商人の誘致計画が王家から議会出された。

 それ自体は国家の運営方針なのでクルトとは何の関係も無い話であり、計画自体も十数年を掛けて行う物で、今から何かをしたところで影響も殆ど無い。

 ただ計画を実行する候補地は幾つか決定しており、その中に普段一般人が立ち入りを禁止されている場所があるとのこと。

「つまりこの認定証があれば監査員という立場を名乗れて、普段僕みたいな魔法使いでも入れない場所に入れるってことです」

「へえ。それがまたなんで坊やなんかに」

「その立ち入り禁止の場所なんですけどね、古代の魔法についての資料が多く残された遺跡がある場所なんだそうですよ」

 すぐに増額できない支援費の代わりとして、もしかしたら魔法研究の役に立つものを。そういう理屈で送られてきた物らしい。


 古代の魔法と言っても何か特別な技術が使われている訳ではない。むしろ技術は現代まで連綿と受け継がれており、現代の方が圧倒的に勝っている。

 しかしどうしてか古代魔法と聞けば、現代の魔法より勝った何かと見られる傾向にあった。

「何故かと言えば、技術が現代より劣っているっていうのに、現代よりも高効率と言うか、もっと大きな結果を残せる魔法を使っていたという資料が残っているからだね。魔法陣が残っていても、僕らじゃ十分に起動できないものばかり。それは古代の魔法使い達が、僕らの知らない何かを知っていたからだなんて説もある」

「あのうー」

 未整備の森林地帯の中にある整備された道。そんな道をクルトともう一人の人影が歩いていた。

「古代って言うのも不思議な話だよね。一応、マジクト国ができるずっと前に存在していた国家らしい。それもフォース大陸全土を支配する大国家だったらしいんだけど、今じゃあ跡形もない。ま、フォース大陸を今支配している4国家すべての支配層が、昔の大国家の正当な後継者を名乗ってるらしいけど」

「いえ、そういう説明をされてもー」

 クルトが話をする中、もう一人がいちいち茶々を入れてくる。話は最後まで聞いたらどうなのだろう。

「古代の大国家は古代魔法によって支えられていた。そう考えられている。古代では古代魔法なんて呼んでなくて、それがまさしく魔法だったんだけど、いったいどうして魔法の力が失われて、国家が滅んだのか。気になるって言えば気になるんだよ。歴史学に近い話なのに、魔法研究の題材にしている魔法使いもたくさんいて―――」

「だからー! どうしてそんなことをいちいちわたしに話すんですかー!」

 人影はクルトに顔を近づけて話すので、否応に関わらずクルトにその顔が良く見えてしまう。

 人影の正体はルーナ。クルトの先輩にあたる魔法使いで、いろいろと大学内でも接点が多い女性だ。最近はクルトと同じ教室に属することになり、今回はそれに関わることでこの道を進んでいた。

「古代魔法の資料が残る遺跡。そこへの立ち入りが許可されたんだけど、ついでにもう一人くらいなら連れてきても大丈夫って話だから、丁度良い人を選んで連れて来たんだけど、駄目だった?」

「いえ、それは事前に説明されてて、了承したから問題ないんですけどー。じゃあなんでその道中で魔法使いなら誰でも知ってる古代魔法の話を聞かせるんですかー」

 クルトの長話はルーナに向けての話だった。そしてその内容は、魔法大学で一般的に教わる話である。

 古代魔法というものがあり、それは現代の魔法より強力だったという資料が残っており、それがどうしてかという情報が現在残されていない。そんな話だ。

「あのさルーナさん。僕は知ってるよ? この前の研究会でも魔法研究の題材を見つけられなかったって。魔法使いとしてどうなの? それは」

 魔法使いは魔法研究を必ずしている。というより魔法研究をしない魔法使いは魔法使いと呼ばれない。

 しかしこのルーナという女生徒は魔法大学に入学したというのに、今まで一度も魔法研究というものをしたことがないのである。

「ううう。だってだってー。研究会でこちらが積極的に話しても、どうしてだか相手に用事ができてしまうんですよねー。結局、魔法研究について話し合うこともなく、何時の間にか研究会自体が終わっていてー」

 先日はクルトと友人で魔法研究会というものを開き、そこでルーナも自分の魔法研究を見つけるという目的で参加した。しかしながらまったく成功しなかった様で、彼女はまだ魔法研究の題材が見つかっていない。

 見る人が見れば、彼女は魔法を使えるが魔法使いではないと断言されるだろう。

「だから今回、普段立ち入りが禁止されている場所に入り、そこにある古代魔法について調べながら、それをルーナさんの魔法研究にできないかなと僕は考えたんだよ。僕だけじゃあ、古代魔法が関わる遺跡に出向いても、魔法研究に活かせるかどうか怪しいし」

 知り合いの貴族から貰った許可証だが、残念ながらクルトの魔法研究は古代魔法との関わりが薄い。興味自体はあるのであるが、だからと言ってわざわざ他の用事を潰してまで出向くのはどうだろうと思えた。

 なので同じ教室に在籍するルーナも連れてきて、遺跡に出向く意義というものを無理矢理作り出したのだった。

 行かないと言う選択肢はない。相手の貴族の方がクルトより立場が圧倒的に上なため、空回りと言えども好意を無下にするのは得策ではないのである。

「それはだから前に聞きましたよー。問題はどうしてその道中でわたしに古代魔法の基礎知識を聞かせるかってことでー」

「そうでもしないと、ルーナさんは自分の魔法研究を見つけられないでしょ? 今まで見つけられなかったのは、結局ルーナさん自身があれこれと理由をつけて題材を見つけることを拒んでるからだと思うんだよ。もうこの際、無理矢理にでも押し付ける形で魔法研究を始めて貰うしかないと考えたのさ」

 ルーナ自身は魔法研究の題材を何にするかと話しているが、彼女はクルトよりも何年か先に大学に入学したわけで、見つけようとしていればとっくの昔に見つかっているはずなのだ。そうではないということは、これはもう本人の意欲の問題だと言うしかない。

「別に拒んでいるわけじゃあないですけどー。ピンとくるものがまったくないのが原因というかー」

「そんな運命的な出会いなんてなかなか無いんだよ。先生から勧められたり、未来の利益を考えて魔法研究をしている人が殆ど。だからルーナさんも我が侭を言わずに、この際、古代魔法についての魔法研究に題材を絞ってみたらどうなの」

 これはクルトの純粋な親切心である。唯一同じ教室の生徒であるルーナが、未だに魔法研究をしていない魔法使いであるというのは、どうにも歯痒いとクルトは感じていた。

「まあクルトくんがそう言うなら、やってみても良いかなーと考えますけどー。なんだか先生みたいですよねークルトくん。案外向いているんじゃないですかー?」

「魔法大学を卒業した後の将来設計の一つに、そういう案も無いわけじゃあないよ」

 ただ、生徒の頃から教師の気苦労など背負いたくないと声を大にして言いたかった。


 アシュル近郊の森の中。その遺跡は存在していた。都市の近くに遺跡があるというのは不思議な光景であるが、都市とは住みよい土地に出来る物なので、古代の人間も同じ土地に建築物を建てていてもおかしくはない。

「遺跡の有る無しっていうのは、現代人がそれを残すかどうかってことなんだろうね。この遺跡だって、開発地として正式に選ばれれば取り壊されて無くなるんだ」

 クルトは辿り着いた遺跡を見る。白い石で組まれた大型の屋敷という風に見えるが、事前に説明された話によると、古代の魔法使いが建てた研究場所だったらしい。

 大層立派な施設だったのだろう。かなりの大きさである。森の中にあるせいで随分と苔むしているが。

「わたし達にとっては役立つ情報と、手に入れられる立場があるのなら向かうだけですけどねー。目ぼしい資料を集められれば、取り壊されようとなんだろうと関係ないですしー」

「世知辛い世の中だなあ。昔の人々の生きた痕跡くらい残そうって思わないんだろうか」

「そういうのはそういうことで喜ぶ人がするべきであって、他人に押し付けるものじゃあないですよー。それよりわたしとしては、古代と言えども魔法使いの考え方なんて変わらないっていうほうが感慨深いですねー」

 ルーナが言っているのは遺跡が森の中にあるという点だ。

 魔法使いはその魔法研究をする時、できるだけ外界と隔絶された場所に研究所を建てる。魔法研究をする場合は、実験で故意に起こす状況以外の要素を排除するのが常であり、さらに実験によって思わぬ損害が出て周囲に被害が出る可能性があるので、こういった森の中や地下室などで魔法研究を行う。

 現代の常識なのであるが、研究所の遺跡が森の中にあるということは、古代でも同じ常識があったのだろう。

「ええっと。資料によると、当時の支配階級に雇われていた魔法使い達が建てたものだそうで、様々な魔法実験が行われた場所らしい。今では大半が調査されて、僕らみたいな人間でも許可証があれば立ち入られるけど、一昔前は国家機密相当の建築物だったそうだね」

 開発計画監査員認定証を持って王城の窓口にこの場所の立ち入り許可を申請した時、この遺跡に関する多くの資料を渡されていた。一応、監査員という立場になるわけで、開発計画に関わる資料だから必ず読んでから立ち入って欲しいとのことであった。

「なんか凄いですねー。古代魔法を研究している魔法使いでしたら、喉から手が出る程欲しがる許可なんじゃないでしょうかー」

「ならルーナさんも古代魔法を研究すれば良いじゃん。幸先良いよ。こういう遺跡の調査から研究を始められるっていうのは」

 そう言って遺跡内部に足を運ぶ。地図も当然作成されており、2階建ての屋敷で地下室もある様だ。

「中はそう変わった感じじゃありませんねー。むしろ本当に魔法使いの研究所だったのかが疑わしくなるというか………」

「でも、ほら見て。魔法陣があちこちに書かれていたり、照明用の緑光石なんかもある」

 玄関付近の壁に存在しているそれらは、来客用に用意されたギミックか何かなのかもしれない。

「保存状態もとても良いみたいです。こういう場所ってー、遺跡荒らしなんかが入ってそうなんですけどー、マジクト国がずっと管理していたからでしょうかー」

「だいたいはそうらしいけど、もっと古い時代だと遺跡のギミックがまだ動いていた形跡があるらしい。泥棒向けの防犯魔法みたいなものもあったんじゃないかな」

 今ではそれも発動していない。起動に過大な魔力を必要とする古代魔法を、動かせる魔法使いがいないのだ。

「なーにか不安なんですよねー。こう、その防犯魔法が突然わたし達を泥棒だー! って感じで発動したりしないんでしょうかー」

「だったら王家が派遣した調査隊が真っ先に被害に遭ってるよ。そういうのも無かったから、僕らがここに入る許可が下りたんだ」

 話しながら遺跡内部を探っていく。実験室。休憩所。資料室。食堂らしき場所もあった。そのどれもに魔法陣らしきものが大小描かれており、クルトにもある程度はそれがどういう機能を有しているのかがわかる。

「なんというか、古代人って面倒くさがりだったのかなあ。小物を動かしたり、飲み物を入れたりっていう動作まで魔法陣からの魔法でやってたみたいだし」

「疑問はそこじゃあありませんよー。魔法陣のどれもがわたし達が使っている物よりも技術的に拙いって点が不思議なんです。つまり、技術が優れていたから凄い魔法が使えたのでなく、使い手側の能力が問題だったということでー」

 ルーナが自分の考えを話しだす。なんだ、少しは古代魔法について興味があるのではないか。

「古代人が優れた能力を持っていて、僕らはそれを失ってしまったということ? なんだろうね、種族としての退化、いや、もしかしたら古代人と僕らはまったく違う種族だとか!」

「いえ、血統的にはフォース大陸に生きていた古代人の末裔は、間違いなく大陸に今も住むわたしたちのはずですよー。王族や貴族の人達はきちんとした家系図も持ってますしー、ここみたいな遺跡にずっと住んでるって人も少ないながらいたりしますからねー」

 だとするとどういうことだろうか。やはり、何かしらの能力減退が大陸中の人間に起こったということか。

「あとー、種族的な変化が唐突に起これば、絶対にそういう事件が歴史として残っているはずです。ですけれどー、実際にはゆるやかに古代魔法は失われたとしか資料が残っていません」

「本格的に謎なんだね。ルーナさん的にはどういう理屈が一番正しいと思ってるの?」

 古代魔法の消失は魔法研究で多くが検証され続けている題材だ。その明確な答えがまだ見つかっていないということもあり、今でも多くの魔法使いがその謎に挑んでいる。

「そうですねー。ウィブ・ローエンさんっていう高名な魔法使いがいるんですけどー、その人が書いた『歴史と魔法』っていう論文が面白いなーって思いましたよー」

「というと?」

「まあ長い話なんで古代魔法に関わる部分だけ話しますけどー、古代魔法が隆盛を極めた当時、ラミ教という宗教が流行り始めたそうです。最終的には当時大陸を統治していた国家の国教にまでなったとかー」

 現在、マジクト国には明確な国教というものが存在していないため、そういう国教がかつてあったという情報に新鮮さを感じるクルト。フォース大陸の西に位置するリブクインという国があり、そこは宗教国家であるらしいが。

「古代魔法が隆盛を極めたってことは、そこが頂点であとは衰退が待ってるってことだよね。つまり、ラミ教が流行ったせいで古代魔法が衰退したってことか」

「そういう論調でしたねー。宗教は神秘性を求めるのに対して、魔法は実験と研究を繰り返すことで発展します。宗教と相性が悪く、当時、古代魔法を強力たらしめていた知識が失われたから、現代の魔法は古代程強力じゃないと考察されていましたー」

 理屈は通っている様な気もする。昔は強力で今はそうでもない何かがあるのであれば、それは有ったはずの何かが失われたとする解釈が正しいのだろう。

「けど、さっき技術や知識は古代の方が拙いって話したばかりだと思うけど。この遺跡の魔法陣にしたって、僕らが使ってる物より数段劣る」

 クルトは遺跡中を見渡し、そこにある種々の魔法陣や魔法が関わっているであろう施設を見渡す。そのどれもが、特別な知識が使われている様には見えなかった。

 ある解釈が正しく思えても事実がそれに沿う物でなければ、その解釈は間違いなのではないだろうか。

「そうなんですよー。さっきわたしが話したウィブさんの説は、そういう反論があって、残念ながら主流の学説から離れているんでよねー」

「でもルーナさんはそれが正しいと思うわけだ」

 でなければ、例えとして話すわけがない。

「ううーん。まるっきり正しいとは思ってませんけどー、もしかしたら惜しいところを突いているのかもー………今、何か聞こえませんでしかー?」

 ルーナは話を途中で止め、遺跡の入口付近を見る。そこから何か音が聞こえてきたらしい。

「そう? 話していて気が付かなかった………あ、確かに聞こえる」

 音は少しずつ大きくなっている様だった。聞き覚えのある音。具体的にはそれを人の声と馬の足音だとクルトにも分かった。



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