表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの研究方
59/94

魔法使いの研究方(5)

ゴーレムとは、石や金属の塊を人形や動物の形で動かした存在である。故にゴーレムにとってもっとも重要な事は、どうやって動かすかという機構の問題だった。

 現在マジクト国の魔法技術では、ゴーレムを動かす方法として2種類の物がある。

 まず一つ目は直接動かす方法。物を動かすという魔法がある以上、それを複雑化すれば、人形使いが糸で人形を動かす様に、魔法によって無機物の塊を動かすことができる。もっとも手っ取り早く、そして習得も容易い。小さな人形であれば魔法を習い始めて1,2年程の魔法使いでも動かすことができる。

 ただ大きな問題が一つ。魔法使いが常に側で操作しなければならないのである。直接魔法で動かしているのだから当たり前だが、そのせいでゴーレムという存在の意義が薄くなるのだ。

 大きなゴーレムを動かせれば、それだけで頼もしいと思うかもしれないが、そんなゴーレムを動かせる魔力があるのなら、別の魔法を使って作業なりなんなりした方が効率的だ。 

 ゴーレムを動かす魔法を使っている間は、動かす魔法使いは操作に集中しなければならないので、ゴーレムとしての労力が生まれる代わりに、魔法使い一人分の労力が無くなるのだ。直接的なゴーレム操作は、魔法としての有用性に欠けるというのが目下の問題なのである。

「それに関しては複数のゴーレムを同時に動かせれば、魔法使い一人の労力よりゴーレムを動かした方の効率が良くなるんじゃないかと研究されているな」

 森で白骨死体を目の前にしながら、クルトはナイツの講義を聞いていた。取引きによって彼の魔法研究についての情報を聞き出そうとしたのだが、何故か基礎的な授業内容を彼は話し出す。この講義はナイツの魔法研究を理解するのに必要不可欠だからだそうだ。

「まあ、まだまだ無理な話だね。動かす質量と、変換しなきゃならない魔力の複雑さが段違いだ。あと1,2世代程の研究過程があって、やっと実践ができる程度じゃないの?」

 物を動かす魔法というのは一方向ならまだ難しくないが、多方向になると途端に難易度が増す。複数の魔法を同時に行使する必要があるからだ。

「やっぱり無理に思えるだろ? 俺もそう考えた。だからもう一つの方法でゴーレムを動かす事を研究題材とした。なんだかわかるか?」

「魔法で直接動かすのが駄目なら、間接的に動かす方法があるね。前に見たことがあるよ。直接動かす魔法使い無しに、事前に与えられた目的で動くゴーレム」

 そのゴーレムは内部に魔力を貯蔵するという方法を取っていた。そして内部や外部に仕込んだ魔法陣によって、直接的な魔法を行使せずに特定の行動を起こさせるのだ。

「行動の前提を幾つか用意することで、いざ動かす時に直接魔力を送ったりしなくても良いのが利点だな。現在されているゴーレム研究の殆どは、このタイプのゴーレムをいかに効率的に、いかに柔軟な動きが出来る様にするかっていうのが主題になっている」

 そしてナイツもそういった研究を行っているということだ。だから話がここまで進んだ。

「操り人形から糸を取っ払うっていうのは、確かに魔法的ではあるね」

「だろ? さらに俺は、そこから一歩進んだことを考えているんだ」

 なんとなくだが、それがどういうものかがクルトにはわかった。魂の有無についてナイツは興味がある様だそれは即ち……。

「人形に自意識でも芽生えさえるつもりだとか?」

「まあ、そんなところだ。発想としては、俺が研究を始めるずっと前からゴーレム研究のテーマとして存在してはいたんだ。行動を多様化した自律型のゴーレムは、魂が宿ったと言えるか? ってな感じでな」

 魔法で無く哲学に思えてくる。しかしもし無機物に魂を宿らせることができるのなら、生きたゴーレムを従えることになり、その有用性は増す。

「これは先生から教えられた内密の話なんだがな、自分の魂をゴーレムに移そうとした魔法使いがいたらしい」

「本当に? そりゃあ………まあ、変な魔法使いだったんだろうね」

 わざわざ無機物の塊を自分の体にしようなんて、頭がおかしいか馬鹿かの二種類だ。

「本人については良くしらないけどな、本当にやったらしくて、魔法大学内で一時騒ぎになったそうだ」

「もしかして、その魔法使いは魔法大学所属だったの!?」

 驚きはしたが、やっても可笑しくは無い風潮というものが大学には存在する。

「ああ、そうだ。先生がまだ生徒だった頃の話で、現場を見て随分と驚いたそうだ」

 彼の言う先生とはヘックス教師だ。鉄面皮を絵に描いた様な人物であり、そんな人物が驚くとは相当なことである。

「何かあったんだね?」

「まったく動かない魔法使いの体と、まったく動かないゴーレムが一つずつ。魔法使いの方は一応生きていたそうだが、植物人間って状態で、2,3日後に死んじまったらしい」

 魂が無くなった。そんな状態だったそうだ。

「じゃあ、ゴーレムの方は?」

「さあなあ。そのまま大学の備品としてどこかへ引き取られたらしい。どこかの研究材料になってたりしてな」

 笑うナイツだが苦笑に近い表情だ。冗談とは思えぬ話だからだろう。

「その話から、ゴーレムに魂を宿らせようなんて考えたわけ?」

「それだけじゃあない。ほら、コーストライクを覚えているか?」

 コーストライク。マジクト国の昔話にて登場する化け物だ。まるで自分達が探しているソウルイーターの様な存在だが、クルト達はその昔話の原型となったであろう相手に遭遇したことがある。

 それは体を金属に変換された人間だった。既に人間としての意識は無かったが。

「忘れようったって忘れられないよ。そっちだってそうだろう?」

「まあな。あれを見て思ったんだよ。肉体が無機物だが、人間の魂はそこにあるのかなってさ」

「ゴーレムに魂が宿れば、それが証明される?」

 あの時、ナイツは自身の魔法でコーストライクを燃やした。コーストライクに人間の魂が宿っていたのなら、それは人間を殺したことになるのではと、こいつは悩んでいるのだろう。

「それがわかったって、どうしようもないと思うけどね」

 人一人を殺した重みなんて、背負いきれるものじゃあない。どこかで折り合いをつけるしかない。

「そうなんだけどな。そこは魔法使い。気になったら、とりあえず調べてみるって性質なのさ」

 再び笑うナイツ。今度はちゃんとした笑みであり、あくまで楽しんで取り掛かっている研究であることが知れた。

「さて、俺の研究内容は話したぞ。これ以上は専門的な物になってくる。聞いても分からないだろう?」

「うん。いいよ。これで取引き成立だ。今度は僕の魔法研究について話す番だ」

 ナイツの話には真摯さがあった。本当に公平な取引きをしようとクルトに話をしたのだ。それに答えなければ人として失格である。

「それじゃあまず、ゴーストという存在について話をしようか」

 近くの白骨死体があるというのに、それを忘れかけながらお互いの話に集中する。魔法使いという存在は、つくづく変わり者が多い。


 クルトは話す。人が精神のみで生きる状態であるゴーストのことを。そして生来、精神寄りの活動をする精神生物についても。

「人、動物。もしかしたら無機物にもかもしれないけど、精神という物は確かに存在するんだ。それがこの世界のルールってことさ。精神は物理の頸木から解き放たれて、僕らの想像を超える生存方法を確立させる。それが精神生物だ。人間の場合はゴーストと呼んでいる」

 クルトは自分の魔法研究の核心について話す。先ほどナイツが話してくれた魔法研究の対価である。

「つまりアーシャの屋敷に現れた幽霊は、人間が精神生物になった姿。ゴーストって考えているんだな?」

「最初はそう考えてた。でも実際に見て、どうにも違う」

「違う?」

「ゴーストだって意思はちゃんとある。不安定だから放って置けば無くなる可能性が大なんだけどね。ただ、あの屋敷のゴーストは意思そのものがないんだ。まだ形自体は残っているのに」

 輪郭がはっきりとせず魔力光も弱かったが、まだゴーストとして肉眼で見えるのだ。まったく反応を示さないのはおかしい。

「だから、意思が無くなったから、あやふやな形になったんじゃないのか?」

「意思はあるんだよ。というより、意思こそが精神なんだ。目で見えてるんだから意思がないのはおかしい」

 この矛盾をどう考えるのか。クルトは悩み、ソウルイーターという存在を知った時、思い浮かぶ物があった。

「もし、アレがゴーストなんかじゃなく、何かの食べ残しとかだったらどう? 残りカスに意識は無い。ただ、そこには食べられる前の名残りがあったりする」

「魂を食べる………。ソウルイーターの喰い残しだって言うのか? ソウルイーターは何百年も前の存在だぞ?」

 まるでつい最近に起こった出来事の様に話すクルトを見て、ナイツは戸惑う。

「アカウト・ニケンの資料を調べる中で、僕は村の死亡記録が気になった。村では森で行方不明になり、その後死体で見つかるという事件が何度も起こっている。遡れば、ソウルイーターが森で討たれた時期から始まっていることがわかった」

「森は危険な場所だ。その近くで住む村人が、なんらかの被害に遭うのは当たり前だろう」

 クルトの仮説を否定するナイツだが、それは否定というより信じたくないという感情が混ざっている様に見える。

「見つかる死体の損傷が極端に少なかったとしても? 獣に襲われたり、森での遭難なら、傷だらけになってないとおかしい」

 まるで死体になる前に、魂を抜かれた様と表現された死者もいた。

「例え妙な符合だったとしても、ソウルイーターの死体は討伐された時に見つかっている。ソウルイーターの仕業ってのは………」

「確かゴーレム研究をしていた魔法使いの一人が、ゴーレムに魂を移す実験をしたことがあるんじゃなかったっけ?」

「あくまで実験者の意識が無くなったってことしかわかってない」

「失敗した可能性が高いってこと? なら、生態がそれに向いている生物なら成功するかもしれないわけだ」

 クルトは今まで自分の内に留めておいた考えを、すべてぶちまけるつもりだった。隠していた話というのは一度話し始めると止まらなくなる。

「化け物の死体は見つかったそうだけど、その魂はどこへ向かったんだろう。死後の世界? 天国? 地獄? それとも、まだこの場所で、化け物として存在している?」

 精神生物は既存の生物とは全く違う世界に生きている。というより、肉体に縛られない。もし肉体が駄目になれば、別の体を。そんな生き方をしていてもおかしくはない。

「それがどういうことかわかって言ってるのか? ここに白骨死体があって、それがソウルイーターに魂を喰われた人間だって言うのなら、この近くに………」

 昔話の化け物がいる。そう口にしようとするナイツ。言葉にしなかたのは、それが現実になりそうだからか。

「もしかしなくてもそうなんだと思うよ。この場所はかつてアカウト・ニケンとソウルイーターの死体が見つかったと思われる候補地の一つだ」

 クルトは周囲を見渡す。このどこかに、人の死体を作り出した化け物が存在する。先ほどまではお互いの魔法研究話に集中していたというのに、今では危機感でいっぱいだ。視界の端で何かが動いている様にさえ―――

「誰だ!」

 クルトは叫ぶ。何かが動いた。クルトとナイツとそれ以外の何かが。

「ひっ」

 木陰から人が現れた。見知った顔である。というより、今朝まで顔を合わせていた相手。アーシャだった。

「な、なんでこんなところに」

 彼女は自身の実家で、特に用も無く寛いでいるはずである。森の中で木の影に隠れているというのはどうにもおかしい。

「もしかして……つけてきたんじゃないか? 俺かお前を」

 ナイツは自分とクルトを指差す。それが意味することは………。

「やっぱりゴーストに興味を持ってたんじゃないか! だから隠れて自分も調査しようとしてたんじゃないの!?」

 昨夜、アーシャはゴーストについて、面白そうだが自分の魔法研究とは関係ないので調べはしないと言っていた。しかし本音は違っていたということである。

「だって……仕様が無いじゃない! 面白そうで、自分の家の近くにそれに関わる何かがあるかもしれないのよ!」

 昨日までゴーストを怖がっていた者の言葉とは思えない。しかも逆切れされた。

「人の手柄を掻っ攫おうとしてる時点で、何言っても言いわけにならないだろうに………。しっかし、思いのほか行動的だなあ」

 ナイツは呆れた様子でアーシャを見ている。クルトもアーシャのことは大人しい人物という印象を持っていたが、今回のことで認識を改める必要がある。彼女は腹が黒い。

「もしかして、僕らの話も盗み聞きしてた?」

 だとしたら危機である。なにせナイツとクルトはお互いの魔法研究の、さらに詳しい内容を話し合っていたのだから。

「何か魔法研究の話だったかしら? 距離が離れていて断片的にしか……」

 良かった。どうやらすべてを聞かれてはいないらしい。断片的には聞こえたという点が少々不安であるが。

「まあとにかく、そうやって隠れながら聞かれたら僕らの損になるので、ちゃんと目の前に立って調べてくれると嬉しいよ」

「見つかっちゃった以上はそうするつもり」

 こちらに近づくアーシャ。これで対等に話し合える。とりあえずは相手がどの程度状況を把握しているのかを確認するつもりで、クルトの方もアーシャへと歩き出す。

 と、その手をナイツに引かれた。

「うん? 何かあった?」

 どうして自分を引き留めるのかとナイツの方を向く。確かに何かあった様だ。ナイツはクルトの手を見ていた。その両手は空のままで。

 クルトの手を引いていたのは、木の細い枝だ。

「あれ、何時の間に引っ掛かったんだろう……」

 森の中だ。そういうこともあるだろうと、枝を外そうとする。もう一方の手も動かない。枝が絡んでいる。

「な、なんだこれ」

 戸惑うクルト。両足を見る。地面からせり上がった細い木の根が足に絡んでいく。まるで意思を持ったかのように。

「木が、動いている?」

 ナイツの言葉だ。クルトの腕に枝が巻きつくのを見ていたらしいナイツは、驚きの目でクルトに絡みつく木の枝を見ていた。

「って、早く助けないと!」

 まっさきに動いたのはアーシャだった。彼女は手のひらの魔法の火を発生させると、クルトの右腕に絡む木の枝を焼切る。

「そうだ。これはやばい」

 自分が一番危機的状況にあると感じ取ったクルトは、自由になった右腕で愛用の杖を取り出し、先端にアーシャと同様の魔法で火を起こす。

「くっそ。どんどん巻き付いて来る!」

 杖の火で左腕と左足に巻きつく枝と根を焼切るうちに、今度は右腕に枝が絡まり、右足に巻きつく木の根がさらに重なり、強く自由を奪っていく。

「クルト! ちょっとじっとしてろ!」

 最後にナイツが動いた。彼はじっとクルトを見て手を向ける。その手からは、クルトでも感じ取ることができる程の魔力が放出されていた。

「ちょ、ちょっと待っ―――」

 ナイツの手から炎が出現する。その炎はクルトを包める程に大きく。その熱量が自身を襲うと恐れたクルトは、ただ目を閉じた。

 しかし熱は何時まで経っても感じない。開けた目に映ったのは焼切れた木の枝と、焦げた地面だけだった。

「すごい。火の輪っか」

 驚いた様子でアーシャは焦げた地面とナイツとを見比べている。どうやらナイツは輪の形をした火で、クルトに当たらない形で両腕に絡む枝を焼き、地面の根を焼いたらしい。それも一度に。

「よし、動けるな。お前ら逃げるぞ!」

 この場所にいるのは危険だと判断したのだろう。ナイツはクルトとアーシャへ、共に逃げる様に促す。

「ちょっと、無理みたいだね………」

 ナイツと同様に逃げようとしたクルトだが、周囲を見て考えを改める。周囲の木々が逃げ場を塞ぐ様に傾いている。それらから延びる枝と根はまるでバリケードだ。

「また燃やすか?」

「脱出する前に、私達が燃えちゃいそう………」

 バリケードは話している間も折り重なり、その厚さを増していく。それを火で燃やして道を作ろうとすれば、相当な火力が必要である。それだけの火を用意できるのかがまず怪しく、できたとしても火が周囲に燃え移り、クルト達にも被害が及ぶだろう。

「くそ! いったいなんなんだ。森の精でも怒らせたのか?」

 悪態を吐くナイツ。気持ちはわからなくも無い。

「だからソウルイーターなんだよ。何百年か前に獣の肉体を失って、今は周囲の木々を体にしている」

 自分の目で見れば間違いなかった。これだけのことをしでかせる存在を、クルトは精神生物以外知らない。この場に由来のある精神生物と言えば、かつてこの場所で討たれたソウルイーターに違いない。

「ど、どうしてご先祖様が討伐した化け物がこんなところで……」

 怯えるアーシャ。木々で作られたバリケードが今度はこちらに迫って来たのだ。クルトだって怖い。

「倒せて無かったってことだろうね。もしくは肉体を倒しても、その心までは倒せなかったってことか……。とになく今度は木の化け物になって、近くを通る旅人や村人を餌食にしていた。動く獣じゃないから、被害はかつてより少なくなった様だけど」

 そして今度はクルト達に狙いを定めた。餌は三体だ。これだけの獲物、逃がさない様に相手も必死だ。

「こういう生き物を研究しているんだろ? 何とかする方法を知っていたりは?」

 期待が籠った眼差しをこちらに向けるナイツ。過剰な期待は重圧にしかならないというのに。

「精神生物は魔力に弱い……と思う」

「自信無さげだな」

「生身の精神は魔力に弱いって言った方が良いかな。ソウルイーターは木の肉体を持っているから、まずそれをなんとかしないと、魔力だけじゃあちょっとね」

 恐らく通常の生物よりは魔力には弱いはずである。だから魔力をぶつけることは選択肢としては正しい。

「つまり魔力がダダ漏れた威力のある魔法を、木にぶつければ良いんだな」

 普通の魔法は、使う腕が良い程魔力から魔法への変換効率が良い。なので魔力に弱い精神生物にはむしろ効果が薄い。だからあえて効率の悪い魔法を発生させる必要がある。

「でも、さっきから私達が魔法の火で木の根や枝を焼いているけど、なんともないみたい……」

 アーシャは周囲を見渡して答える。木々はむしろ勢いよくクルト達を追い詰めている様に見える。バリケードはその範囲を狭め、クルト達を取り囲み続けていた。

「……見て、あの木の枝。無理矢理動いているからだろうけど、ところどころ折れてる」

 バリケードを作る木の枝は、本来の可動域を越えて動かされたためか、折れ曲がって、樹皮の中身が見えていた。

「だからどうしたんだ。木の枝で障害物を作ろうとすれば、そうもなるだろう」

「自分の肉体をそんな雑に扱うと思う? 多分、本体は別にいるんだ。動く木々はその末端ってところじゃないかな」

 だからその末端を攻撃したところで効果が無いのである。なんとかこの場をしのぐには、本体に魔力を叩き込まねばならない。

「本体はどこにいるの!?」

 叫ぶアーシャ。ついにバリケードから何本かの枝がこちらに伸びてきたのだ。

「わかるわけないだろ! さっき急に襲われたばかりだぞ!」

 ナイツは伸びる枝を火の魔法で焼き払おうとする。一定の効果はあるものの、状況の打開には至らない。一進一退と言った様子。

 それならまだ良いが、木の根はクルト達が足場としている地面にも存在するはずだ。もしそれまでもが襲って来れば………。

 考えたくもないことだった。

「いや、もしかしたらわかるかもしれない」

 人間の生存欲求とは凄いもので、クルトはこういう状況だというのに、不思議と周囲の情報を冷静に見つめる様になっていた。普段以上に、思考が良く回る様な。

「本当か!? だったら……」

「手助けが欲しい。みんな、協力してくれる?」

「断る理由なんてないと思うけど………」

 アーシャが頷く。ナイツは木の枝を燃やすのに必死だが、同意はしてくれるだろう。

「さっそく説明する。ナイツ。手は止めずに、なんとか概要だけでも理解してよ」

「わ、わかった」

 ナイツの魔法による足止めも時間の問題だろう。クルトは早急な状況の打開を考えなければならなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ