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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの研究方
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魔法使いの研究方(4)

「おお。本当に幽霊が消えた」

 ニケン宅片隅の物置きで、再び現れたゴーストを、クルトは魔力光を当てて消滅させる。

 全員の協力で探し当てた幽霊なので、家中の人間が集まっての作業だ。家主のマノリネク氏などは、幽霊が消滅する瞬間を見て感嘆の声をあげる。

「これで、少なくともこのゴーストは二度と現れません。ただ、幽霊がどうして現れたのかが分からない以上、また別のゴーストが現れる可能性はゼロじゃないっていうのがどうにも……」

 一応の仕事を終えたクルトだが、まだ釈然としないものが残っている。

「いやあ。夏場の蚊を全滅させる方法なんてない様に、不安をすべて潰すなんて無理さ。悩まされていた幽霊を退治してくれただけで十分だ。君たちには礼を言うよ」

 笑うマノリネク氏。しかしクルトは彼ほど喜ばしい気分にはなれなかった。

(まだ、調べなきゃならないことが残っていたんだけど)

 クルトはゴーストの正体について知りたい。それが彼の魔法研究だからだ。しかし、他の魔法使いたちにそれを説明すれば、自分の魔法研究を明かすことになる。自分の研究は大学に帰属するものであるが、他の生徒に何もかもを話して、研究の一部が知られるのはデメリットが大きい。魔法研究は魔法使いにとっての生命線みたいなものなのだ。

「しっかし、ああいう幽霊みたいなものも、魔法と関わりがあるなんて不思議よねえ」

「魔力で消えるということは、魔法との関わりが否定できなくなったなあ」

「もしかしたら、魔法生物に一種だったのかもしれないわ」

 ほらみろ。興味を持った魔法使いたちは、クルトと似た様な好奇心を抱く。これで魔法研究まで似通ってしまえば、クルトが魔法研究をする意義が薄くなってしまう。誰も探求しなかったものを研究するからこそ、魔法研究には価値があるのだ。

「そ、そういえば、屋敷の幽霊がいなくなった以上、僕達がここにいる意味が無くなったね。みんなはどうする?」

 話を露骨に変えるクルト。怪しく思われるだろうか。

「そう言えばそうねえ。アシュル行きの馬車って、ここじゃあどういう頻度で通るのかしら」

 ホーリーが、特にひっかかりもなく帰りの心配をし始めたので、胸を撫で下ろすクルト。他の人間にゴースト研究をされるなんて、やめて欲しい話だ。

「ここからだと朝方の一つだけよ。みんなに幽霊退治についてお礼がしたいから、今日も泊まっていったらどうかな?」

 アーシャも安心したのか、笑顔が目立つ様になっている。

「なるほど。明日の朝でしか帰れないのなら、甘えさせて貰おうか。みんなもそうするだろ?」

 ナイツが魔法使い達を見ると、クルト以外が頷いた。

「うん? クルト、お前はどうするんだ?」

「僕? あーそうだね………。村に宿とかってあったりしますか?」

 クルトはマノリネク氏の方を振り向き尋ねる。まだ暫く、この村で調べたいことがあった。

「宿? まあ、小さいが一応は。まだこの土地に留まるつもりかね?」

「ええ。せっかく大学外に出たんですから、ちょっと観光でもしてみようかなと」

 理由としてはこれで良いか。宿があるのなら、マノリネク家に迷惑を掛けることもあるまい。

「なんだ。だったらうちに泊まれば良いのに」

「いえ、そこまでして貰うわけには。なにせ自分の趣味が目的になるわけですから」

 宿代が掛からないという魅力的な提案であるのだが気が引けた。これからするのは、クルト個人の魔法研究に関わるものだから。

「そうか……。まあ、今日くらいは我が家に泊まって行ってくれたまえ。晴れて幽霊も出無くなったわけだからな」

 そこは甘えておくことにする。まだ屋敷に存在しているアカウト・ニケンについての資料を、今のうちに調べて置く必要があるから。


 夜も更けたニケン宅。クルトは一人起きて、再び借りたままの資料を読み続ける。朝には他の魔法使い達は大学へ帰り、クルトは他の宿へと泊まるため、資料を調べるなら今しかない。

(ふうん。やっぱりだ。これはあのゴースト、何かあるぞ………)

 少し視点を変えながらアカウト・ニケンの英雄譚と、その周辺資料を読み解いていく。鍵は魂を喰らうと言われる謎の獣。

(次に調べるとしたら、この家の近くにある森かな―――)

 クルトは資料を読む顔を上げる。資料が置かれた部屋。その扉が開く音がしたのだ。誰だろうか。

「あ、やっぱりまだ起きてたんだ」

 入って来たのはアーシャだった。誰もいないはずの部屋から音がしたので、様子を見に来たらしい。

「あはは。気になったことがあったら、調べてみないと気が済まない性質でさ」

 ゴースト関連については隠しておきたいので、適当に言葉を濁しておく。

「わかる。私もそうよ。だから魔法大学に入ったんだと思う」

「魔法使いなんて、だいたいはそうだよね」

 自分の興味や好奇心が抑えられないのであれば、その人物は魔法使いに向いている。それも一種の才能だと認識して貰えるから。

「やっぱり、幽霊について色々と魔法研究をしているみたいだね」

「な、なんのことだかさっぱり」

 いきなり確信を突かれて戸惑うクルト。何か下手でも打っただろうか。

「態度を見ればバレバレだよ。みんなが幽霊って呼ぶのに、あなただけゴーストって呼んだりしてたし」

「………そうだね。隠すつもりなら一番気を付けなきゃいけないことだった」

 いくら頭を働かせたところで、こういう失敗をしてしまうのだ。つくづく自分は未熟だと思うクルト。

「というより、必死さが隠せてないのが問題なんじゃないかな。私の家に無理矢理向かおうとしたり、幽霊調査を積極的に進めようとしたり、強引な姿を見せられたら、どうしてだろうって思うものよ?」

 自分の言動を考え直さないといけない意見だ。これからは意識して行動しよう。

「どうにも隠せてない状況だったから言うけど、この屋敷に現れる幽霊みたいなものを、魔法研究の題材にしてるんだよね。だから、もう少しあの幽霊について調べたかったんだ」

 だが、既にその幽霊はクルトの手によって消滅している。

「今はご先祖様の資料を調べている様だけど、それは関係あるの?」

「多分ね。ご先祖様というか、ご先祖様が倒した化け物についてだけど……」

 ソウルイーターだったか。そういう名前しか付いていないのなら、そう呼ぶしかない。

「大きい狼だったんだよね?」

「うーん。あくまで日記が資料だからねえ。詳しい姿はわからないんじゃないかな。狼みたいな姿だけど、狼じゃあないかもしれない。それに………」

「それに?」

「獲物を食べないっていうのは、生き物としておかしい」

 こういうおかしな生き物をクルトは知っている。精神生物だ。精神生物は肉体の枷からある種解き放たれた存在だ。何も食べずに生きて行ける生物でもある。

 精神生物とゴースト。何かしらの関係があるとクルトは考えていた。

「へえ。確かに面白そう」

「あんまり興味を持って貰ってもなあ。ほら、同じ魔法研究になると、色々と競合しちゃうじゃん」

「あはは。私だって自分の魔法研究があるから、興味を持ったとして、おいそれと手を出したりしないから安心して」

 本当にそうだろうか。興味を持って手を出さないというのは、魔法使いとして有り得ることか。

「疑ったって仕方ないか………。そうだ、明日はこの家の裏にある森に入るつもりなんだけど、誰かの許可だったり、立ち入り禁止だったりしない?」

「特にそういうことはないけれど……。危ないかもしれないよ?」

「大丈夫。そういう危ないことには、不本意だけど慣れているんだ」

 本当に不本意だった。どうして自分の興味は、そういう場所に向かうのだろうか。


 日が昇り、魔法使い達がニケン宅から出る段階で、突然友人のナイツがこんなことを言い出した。

「俺もここらの観光でもしてから帰るよ。クルト、村の宿についてはもう教えて貰ったんだろ? 俺もそこに向かう」

「へ? いや、なんでまた」

 他の魔法使い達が馬車に荷物を運んでいる中、何も用意せずにそんなことを言うものだから、クルトは戸惑ってしまう。

「だから観光だ。観光。お前と“同じ目的”だよ」

 同じ目的という部分にアクセントを置くナイツ。嫌な予感がする。

「ねー。もう馬車出発するけど、他は乗らないのー」

 カーリーが馬車の中から、クルトとナイツに向けて尋ねる。

「ああ、良いぞ! アーシャも確か久しぶりの実家で、暫く滞在するそうだからな!」

 この村に残るのは、クルト、ナイツ、アーシャの3人だけとなる。

 そうして他3人の魔法使いは、馬車に乗り、アシュルの魔法大学へと帰って行った。

「いったいどういうつもりだよ。そっちに残る用なんてないだろう?」

 他の魔法使い達を見送る傍ら、ナイツを横目で睨むクルト。

「だから、お前と同じ目的だって」

 自分と同じ目的。つまりは魔法研究目当てか。

「一応聞いておくけど、ナイツの魔法研究ってゴーレムに関することだよね。何か関係のあるものがあるのかな?」

 アカウト・ニケンに関する事項で、ゴーレムの魔法研究に役立つ情報なんて無かったはずだが。

「ソウルイーターだっけか。魂を食べるんだよな。それって、魂が存在する証拠みたいなものなのかもな」

 突然、そんなことを話すナイツ。魂とゴーレム。まさか。

「石に意思でも誕生させるつもりだったりして?」

「さあて。でも、変わったことをしてこその魔法研究だろ」

 まいった。クルトの予想が当たっているのなら、ナイツは自分の魔法研究で、ゴーレムに魂みたいなものを宿らせたいと考えている様だ。

 勿論、そんな無生物を生物に変える様なのは魔法でも不可能だ。だが、不可能であるというのは誰も挑戦していないからなのかもしれない。少なくとも前任の研究者がいない研究であり、何かの成果があれば、その成果の見返りはナイツへと向かう。

(別にそれは構わないんだけど、僕の魔法研究と被る部分が多いってことだ)

 思わぬところでライバルが誕生した。クルトがゴーストの謎を解明するのが先か、ナイツがゴーレムに意思を宿らせるのが先か。気の長い話かもしれないが、少し焦るクルト。

「あの、二人とも? みんなはもう出発したけど、何時までここにいるの?」

 馬車が去った道を見ながら、お互いの真意を探り合うクルト達を見て、恐る恐る話し掛けるのはアーシャだった。他の魔法使い達を見送りに来た彼女は、クルト達と共に一旦ニケン宅に帰る予定なのだが、肝心のクルトとナイツが動かないので困っている様子。

「あっと、ごめん。僕達も荷物を宿へ運ばないと」

 今日からはニケン宅でなく、村の宿へと泊まり込むことになる。そこを拠点に調査をするつもりなのであるが。

「そう言えば、ナイツは昔現れた化け物について調べるつもりみたいだけど、この後どうするの?」

 ニケン宅へ向かいながら、引き続き探りを入れるクルト。

「ああ、化け物が逃げたっていう森があるだろ? 何百年も前のことだから、形跡なんてないだろうが、そこをとりあえずは」

「へえ……」

「そっちはどうなんだ」

「僕? 僕も一緒だよ」

 やはりこうやって研究自体が被り始めた。溜息を吐きたい気分であるが、それをすると負けた様な気がするので、クルトは飲み込んでおくことにした。


 村の宿は本当に小さな宿だった。クルトとナイツ。一人一つの部屋を借りれば、それだけで部屋の3分の2が埋まる。要するに3部屋しかないのだ。しかも一つ一つが個人用の部屋であり、尚且つ狭い。

「まあ、こういう狭い部屋の方が落ち着くっちゃあ落ち着くんだけども」

 森への調査に向かう荷物をまとめながら、クルトは呟く。早めに用意しなければならない。物事の調査は、足の速い方が有利なのだ。ナイツに先を越されるわけにはいかない。

「よし、こんなものかな」

 小さ目のリュックに食糧と方位磁石。簡易テント(といっても地面に布を敷く程度のものだが)を詰めて、さっそく出かける。

 部屋の扉を開けると、隣の部屋から顔を出す人物が一人。ナイツだ。

「あ、もしかして、これから?」

 クルトはナイツを見て尋ねる。

「そっちもか? いや、偶然だな」

 嫌な愛想笑いをお互い浮かべた。考えていることは同じか。

「今から行くのは、ちょっと時間的にどうなの?」

「いや、まだ昼時にもなってないから、遅いってことはないだろう。そっちこそ、その程度の準備で森を探索するつもりか?」

 ナイツの荷物は、クルトの倍はある量だ。森の中で野宿をする準備でもしているのかもしれない。

「いやいや、ああいう複雑な地形を歩くとなれば、必要な物以外は持ち歩くべきじゃあないって。木の枝やら草の蔓やらに引っ掛かって、邪魔になると思うよ? もう一度荷物の整理をすることをお勧めするね」

 牽制を続ける二人だが、それこそ時間の無駄だと感じて、一旦休戦することにした。

「とりあえず、二人で森を調べてみようか」

「そうだな。何もないかもしれないし、何かあったらその時話し合えば良い」

 調査の段階では協力し合う方が効率的だ。二人共そう判断して、宿から出て森へと向かった。

「開拓が進んでいるみたいだから、そんなに大きい森じゃないみたいだね」

 宿の主人から借りた村周辺の地図と、目の前にある森を見比べる。

「だなあ。400年前だろ? 化け物と、討伐に向かった兵士の死体が見つかった場所って、村の近くになってるんじゃないか?」

「もしくは、既に開拓されて跡形もないとかね。うーん。詳しい位置情報がわかれば良かったんだけど」

 なにぶん一次情報が村人の日記しかなかったので、それがわからない。

「候補とかもないのか?」

「とりあえず、調べた資料と現代の地図を照合して、幾つかは」

「じゃあ、手分けしてそれらを虱潰しで探してみるか」

 そうするしかあるまい。ただ、心配なことが一つ。

「何か見つけた時、自分だけの資料にしようとか思わないでね」

「馬鹿言うなって。そんなことしないさ」

 クルトはするつもりである。そして、きっとナイツもそう思っているだろう。


 クルトは森の中で探索を続ける。幾つか候補地を決めていたとは言え、その範囲の調査だけでも一苦労だ。しかも、すべて調べたところで、何も見つからないかもしれないのである。

「二人で調査を協力するっていうのは、正解かもしれないね。一人だけじゃあ、何日かかるか分かったもんじゃあない」

 ナイツに手伝って貰ったのは良かった。

「いや、でも、向こうで何か面白いものが見つかって、それを独占される可能性もあるしなあ」

 結局、自分の目ですべて見ないことには安心できそうにない。ならば協力の意味とはなんだろうか。

「ふむ。やっぱり相手の足を引っ張りつつ、出し抜く方法を考えるべきか……ん? あれは」

 森の色とは葉や草の緑と木の幹や土の茶色の二色。そこに空の色も混ざる。ただ、その中で白い何かを見つけたクルト。

「キノコかな? なんだか丸い……」

 かなり遠く、木々に阻まれてはっきり見えない。白い丸と、そこから線の様に白い色が伸びている。

「何だろう……」

 恐る恐るその白い何かに近づいていく。そして後悔した。不吉なものだったからだ。

「げ、なんで人骨が!?」

 それは人間の骨だった。時間を遡れば肉のついた死体だっただろうから、そっちを発見しなかっただけで幸いと思うべきか。

「遭難者? いや、遭難するほど深い地点じゃないし………」

 骨になっているということは、死んでから暫く経っているということだ。村人の誰かが居なくなれば、当然捜索されるだろうし、探せばすぐ見つかる場所にある。ということは旅人の類か。

「旅人が森に入り、中で方向感覚を失って、まだ浅い場所で迷ってしまった。そう考えるのが自然なんだろうけど……」

 何かがひっかかる。そう、クルトがアカウト・ニケンについて調べた結果見つけた、とある符合に関わる様な。

「うん?」

 視界の端に何かが映った気がしたクルトは、そちらに向かう。何も無い。何か木の枝の様な物が映った気がしたが、気のせいだったか。

「……なんだろう。不気味というか、嫌な予感というか」

 この場所に来てから、そんな形容し難い感覚にあった。死体があるのだから当たり前だが。

「そうだ。一応、ナイツにも知らせておくか。とりあえずは発見できたことだし」

 死体が見つかった。そう伝えたナイツはどう反応するだろうか。とりあえずは、村へ知らせに行くことになるだろうけれど。


「遺体が骨になっている以上、死体ができてからそれなりの時間は経っている。一方で骨は比較的新しいから、死んでから2、3年ってところじゃないか?」

 さっそくナイツを呼んできたクルト。彼は死体を見るなり、そんなことを口にした。

「別に聞いてないけど、商屋の次男っていうのは、そんなことまでわかるもんなの?」

 もう少し、驚くなりなんなりしたらどうなのだろうか。人間の死体が見つかったんだぞ?

「うちは冠婚葬祭の仕切りまで商売にしてたからなあ。葬式の時に死体を良く見せる方法とかも―――」 

「ああ、いい。聞きたくない」

 まあ自分よりは死体を見慣れているのだろう。となると、彼の予測通り、死んでからある程度時間は経っているが、一方で何百年も前の死体では無いのだろう。

「アカウト・ニケンの伝承とは関係無さそうだな。迷った旅人か何かの成れの果てじゃないか? 村に知らせて、無縁墓地あたりに弔ってやったらどうだ?」

 クルトと同じ発想である。やはり死体は旅人で、クルト達の調査とは特に関係の無い存在なのか。

「………アカウト・ニケンとは関係ないけど、ソウルイーターとかいう化け物とならどう?」

 クルトは死体を見つけてからずっと考えていた疑問をナイツに投げ掛ける。

「おい、どういうことだ。何か知っているのか?」

 そう返してくることはわかっていた。この目の前にある死体と、昔話に登場するソウルイーターという化け物について、普通なら関係性が見えてこないからだ。

「例えばさ、この死体が、ソウルイーターの被害者である可能性は、まったく無いって言いきれる?」

「おい。肝心な事を説明せずに、状況を理解して貰おうなんて思うなよ。お前は俺の知らない何を知っているんだ。それとも、何かに気が付いたのか?」

「………」

 さて、そのことを話すべきかどうか。クルトは悩む。なにせ自分の魔法研究について、詳しく話さなければ理解できないであろう内容なのだ。

 それを説明することは、クルトにとって大きなデメリットとなる。

「取引き」

「あ?」

 手の甲を下に向けて、ナイツに右手を差し出す。物を欲しがっているというジェスチャーだ。

「だから取引きだよ。そっちが自分の研究内容について、ある程度情報を開示してくれたのなら、説明しても良い」

「おい。自分が何を言っているのかわかっているのか?」

 クルトが研究内容を明かすことに抵抗を感じる様に、ナイツだって自分の魔法研究を明かすことは嫌だろう。そんなことはわかっている。

 しかし、この状況を上手く説明し、尚且つクルト自身が納得するためには、互いの情報を明かすという形式が必要だった。

「今から、ソウルイーターについての仮説を僕は話す。けど、僕にとってそれは、僕自身の魔法研究を殆ど話すみたいなものなんだ。それでもきみの意見を聞きたいと僕は思っている。僕だけの意見じゃあ、仮説の域を出ないからね。けど、やっぱり何にも無しに魔法研究を明かすのは、どうにも納得できない」

 ナイツの魔法研究はゴーレムに関わる研究だったはずだ。その情報が開示されたとして、クルトの魔法研究に役立つ可能性は低いだろう。

 だからあくまでこれは儀式の様な物だ。クルトの胸糞を納得させ、状況を進める唯一の妥協点。

「………わかった。最初に言っておくが、他の誰かに話すんじゃないぞ」

 ナイツはクルトの意思を汲み取った様子。ライバルではあるが、友人でもある。クルトとナイツはそういう関係だった。

「うん。十分理解しているよ。僕がバラしたと思ったのなら、僕の魔法研究について周りに話せば良い」

 契約は成立である。クルト達は、今、この場で、共同の魔法研究を開始することになったのだ。


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